天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

リアクション公開中!

伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

リアクション

 さて、その少し前のこと。
 第三試合に出場するシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はパートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は、会場と近辺を一通り回り終えて控え室へと戻ってきていた。
 イコンシュヴェルト13で出場するからには、勝つのはもちろんのことなのだが、十分な警戒も必要だと思っていたからだ。なんとなく胡散臭い感じもするし、こそこそと動いている奴がいそうな気がする。罠など無いかと確認していたところだった。
 イコンの最終チェックをしようと整備室に入った時だった。
「!?」
 シュヴェルト13のボディに取り付き、なにやらガサガサしているサルが居るのを見つけた。いや、本当。外見はサルだったのだ。
「なんだ、こいつ? おい、何をしている。離れろ。それはオレのイコンだ」
「おっと、すまぬすまぬ。わしぁ、これでも大会運営から依頼を受けた整備士でな。突然で失礼かと思ったが、こちらでイコンのチェックをさせてもらっておるぞ」
 そのサルは、人語を喋ったどころか、整備用具一式も持っていた。つなぎ服に帽子をかぶっており、格好だけは整備士なのだが、サルだった。いや、本当に。まあ、人(?)は外見で判断してはいけない。
「勝手にいじられるのはいい気分がしないな。報告が必要なら、こちらでチェックして報告するから、それには及ばないんだぜ」
「判定用の信号機器を取り付けたいのじゃよ。なに、ほんの数分の作業じゃ」
 サルの整備士ははっきりとした口調で言って、道具箱から小さな電子基盤を取り出してみせる。確かに、それは一見普通の測定器のようだった。
「天学の古い機体だし、扱いづらいところもある。オレが取り付けよう」
「まあ……、そこまで言うなら、任せるぞ」
 サルの整備士は、イコンから降りてきた。測定器をシリウスに手渡すと、そそくさと道具をまとめ帰る準備をし始める。
「いや、これどこに取り付けるんだ?」
「まあ、イコンの胸の辺りにでも」
「随分と大雑把なんだな」
「すまぬが、わしも忙しいのじゃよ。他のイコンも見て回らねばならぬからな」
 サルの整備士は、そう言って部屋から出て行こうとする。
「ちょっと待ってよ。なんだい、これ?」
 サビクがサルの整備士を呼び止めた。サルは、ビクリと立ち止まる。
 彼女は彼女で、シリウスが話している間に、部屋のロッカーががたがた鳴っていたので不審に思って開けて見たのだが。
「ロッカーに見知らぬ女の子が縛られて猿轡されて閉じ込められているんだけど」
 どう見てもただ事ではなかった。サルは挙動不審になる。
「う、うきっ!? そ、それは、何かの事件かも知れぬな。じゃが、わしには無関係じゃよ。大会運営にでも相談してくれ。……では」
 サビクが女の子の猿轡を取ってやると、彼女は言った。
「す、すいません。部屋の前で掃除をしていたら、突然あのサルに襲われて閉じ込められてしまって……」
「……と言っているが?」
「う、ウキキキッ!?」
 サルは相当焦ったのか、すでにサル語になっていた。後ずさりしながら、何やら主張している。
「うきうきっ、ききき〜〜っ! うほうほほほっっ」
 やれやれ、とシリウスはこめかみを押さえた。なんだか怪しいと思っていたけど、本当に怪しい人物(?)だったとは。
 取り付けようとしていた測定器のような部品は、電磁波を発信しておりセンサーを狂わせる働きがあるのが分かった。
「さて、何か言うことあるか?」
 シリウスは、指をポキポキ鳴らしながら、サルにニッコリと微笑んだ。
「う、うきき、うきききき〜〜〜〜っ! うきっ。うきうきいっ」
 このサルは、人語を話せるが、整備士でもなんでもなく作業着を勝手に持ち出して成りすましていたのだ。事前の破壊工作にやってきたのだが、シリウスたちの部屋の前を掃除していた女の子に見つかって、縛って閉じ込めてあったのだ。
「うきっ、うきききっ。うきいいっっ。うっほうっほ」
 失敗を悟ったサルは、最後の手段として可愛く媚を売った。愛らしいペットのサルとして芸を披露する。
「0点」
 シリウスは無慈悲に無表情に点付けした。
「運営に連絡して連れて行ってもらえ。全く油断も隙もないな」
 すぐさま檻が用意され、怪しいサルは連れて行かれた。
 おっと、紹介を忘れていた。
 あのサルは、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)。太古の猿人の英霊にして、人への進化の道を切り開いた、当時の大賢者らしい。 
 だが、もうどうでもよかった。
「ありがとうございました。ご迷惑おかけしてすいません」
 助け出された女の子は、一緒に入れられていた竹ほうきを手に、安堵の表情でぺこりとお辞儀をした。
 パラ実の女子制服の上にエプロンをつけて三角巾をしている。髪を肩辺りできれいに切り揃えた真面目で大人しそうな印象の娘だ。
「ところで、あんたは?」
 こちらはこちらで胡散臭い。シリウスが尋ねると、少女は答えた。
赤木桃子(あかぎももこ)と言います。会場内を掃除しています。この部屋もその対象でしたので」
「ん?」
 シリウスは、別の意味で引っかかった。メタな話、単なる掃除のモブキャラに描写と太字表記で名前がついている?
「掃除ねぇ……。メイドか何かなのか?」
「そういうわけじゃありませんけど。私、下っ端ですから」
「?」
「私、白ワッペン保有者なんです。この分校の決闘ヒエラルキーでは一番下ですから、大会運営のお手伝いをしている上位ワッペンの人に言いつけられて掃除をしています。ご奉仕しておかないと」
 赤木桃子は白いワッペンを見せてくれた。
「確かに、そんな決闘システムがあると聞いているが」
 シリウスは違和感を覚えた。
 決闘システム云々以前に。この赤木桃子という女子生徒、卑屈なことを言っている割には、なんだかこう……、分校内では高い地位にあるのではないかという気がした。直感的に。まるで、自分の正体を隠している生徒会長みたいな雰囲気。地味に作って目立たないよう、敢えて特徴を消しているような……。
「……」
 じっと見つめていると、桃子は視線を気にしながらもう一度お辞儀をして去って行った。
 まあいい。シリウスは微笑みながら見送る。
 きっとまたどこかで会えるだろう。そんな気がした。

 さて、第三試合が始まる。




「うひゃひゃひゃひゃ。あのサル捕まったみたいやん。アホやな〜。ほやから言わんこっちゃないって」
 第三試合の舞台に上がったジェファルコン特務仕様のサブパイロット席で、シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)は大笑いした。
 パートナーのジョージが悪さして捕まったらしい。ちょっとお仕置きを食らった後、運営に引き渡されたのだが、ただのサルと思われたのか動物用の檻に入れられ運ばれていった。
 近くの動物園の飼育員が引き取りに来ていた。保護された後、飼育されることになるらしい。
「ウキキィィィキキィッッ!」
 連れて行かれるジョージの断末魔が聞こえた。わしは人間じゃ! と言っているようだが、興奮しすぎて人の言葉になっていなかった。
 何事だったんだ? と皆が呆れて見つめる中、ジョージの姿は見えなくなった。
「使えないサルめ。……まあ、後で迎えに行くとするか」
 ジョージのマスターの笠置 生駒(かさぎ・いこま)は、イコンのパイロットシートから空の彼方を眺めながら言った。ちょっと可哀想なことをしたかもしれないが、まあ戦に陰謀はつき物ということで。
「戦いって非情なんだね」
「あんたさ、いい加減にしなよ。同じジェファルコン使いとして恥ずかしいぜ」
 細工されたイコンを整備し直したシリウスが、シュヴェルト13でリングに現れる。
 あのサル整備士ジョージは他にも小型の起爆装置を取り付けていた。粗工作だったため事なきを得たが、気づかなければ途中で破損していたかもしれない。工作員を堂々と送り込んでくるとは大したタマだ。
 まあ、それほど怒っているわけじゃないけどな、とシリウス。こんなこともあるだろうと思っていたところだった。
「上手くすれば、怪しい運営の仕業にできたかも知れへんのに、惜しかったな〜。ぐびぐび。ぷは〜っ、うめぇ」
 シーニーは、コックピットで【超有名銘柄の日本酒】一升瓶を傾けながら上機嫌でよからぬ事を口走る。
 酒好きで、いつも酔っ払っているヴァルキリーのシーニーは、早くも出来上がっていた。つまみをポリポリ食べながら、アルコールで淀んだ目つきでシリウスたちを見る。
「ほな、始めよか。昨夜から飲みすぎで頭痛いねん」
「シリウス、言わなくても分かってると思うけど。彼女らの外見や言動に惑わされちゃダメだよ。こちらの油断を誘っているのかもしれないし」
 シュヴェルト13のサブコックピットからサビクが言う。
「ああ、もちろんだ。勝つために全ての手段を駆使するのに躊躇いはない。彼女らは真剣だ。もちろん、オレたちもな」
 シリウスは頷いた。そうとも。ここはパラ実で何でもありの大会だ。ずるい卑怯は敗者のたわごと。勝てば官軍負ければ賊軍。それがルールだと承知している。
 退屈な戦いにならずにすみそうだ。
「では、一回戦第三試合を開始するか。双方とも準備はいいな?」
 審判の桂輔は、宣言する。余計なやりとりは無用だった。
 パラ実のいかにもなやられ役ではない、他校生の強力なイコン同士の戦い。観客たちも待ち望んでいたところだ。
「レディー、ゴー!」
 彼が両腕を交差させると、戦いの火蓋が切って落とされた。 
「いっけえぇぇぇぇぇっっ!!」
 開始の合図と同時に、生駒は【試作型カットアウトグレネード】をぶっ放した。声が掛かる前にトリガーに手をかけていたのだ。小細工に失敗したからには、真っ向勝負だ。
 ジェファルコン特務仕様は、【シールド】を装備して展開しているシュヴェルト13に、【バスターレールガン】、【多弾頭ミサイルランチャー】を続けざまに食らわせる。
「くっ!」
 シリウスはサビクとの連携でシュヴェルト13に全力の回避機動と防御行動を取らせた。レーダーと脚周りをカスタムして不意打ちに備えていなかったら、ここで終わっていたところだ。
 レールガンがギリギリをかすり、ミライルランチャーの砲弾が雨あられと命中する。多弾頭の強烈な威力が装甲を抉り取ったのがわかった。激しい振動に翻弄されないよう、サビクはシュヴェルト13のバランスを必死で立て直す。
 ドドドドドーーーーン! 衝撃と轟音が鳴り響き、爆風が観客席をあおった。
 悲鳴と怒号が沸き起こる。レールガンが、後方の施設を丸ごと貫き破壊しつくしていた。のんびり見物していた観客たちは死屍累々だ。
「こいつは、ひでぇ」
 場外へと退避していた桂輔は、生駒たちの躊躇いのなさに唖然とした。
 先ほどまでの試合とは打って変わって、一瞬で緊迫感が張り詰めた。それでも審判役は放棄しない。イコン戦でどれだけ役に立つか分からないが、【防衛計画】スキルを発動させ、身を守りながら試合を見つめる。
「さらにもう一丁! 当たるまで撃つよっ!」
 生駒は、間髪いれずにもう一度、【バスターレールガン】を発射した。扱いの難しい武器だが、威力は抜群。命中すれば勝負はほぼ決まる。
「!!」
 戦闘行動を全て任されていたサビクは、【ウィッチクラフトライフル】での反撃を断念し、シュヴェルト13の非常停止ボタンをカバーごと叩き押していた。オート回線を遮断して、システムを即座に予備電源と完全マニュアルモードに切り変える。
 ジェファルコン特務仕様の【試作型カットアウトグレネード】の効果が、一時的に機晶石を動力としたエネルギーに干渉していた。エンジンとレーダーが一部機能不全になっている。戦闘終了になってもおかしくない場面だ。
 そこへ、正面からレールガンが飛んでくる。レーダー無し、目測で確認したサビクは、手動での複雑な操作をコンマ何秒かで終わらせていた。シュヴェルト13をぎりぎりで移動させレールガンの軌道から外れていた。火事場のクソ力的な超人技だ。
 目標を捕らえそこなったレールガンは、再び観客席を粉砕する。それに構っている余裕はなかった。
「このイコン、旧型で助かった! 最新鋭機だったら死んでたよ!」
「旧型って言うな。これでも一応第二世代機なんだからさ!」
 サビクの台詞にシリウスが突っ込む。正規システムを切ってマニュアル起動とか、正気の沙汰じゃない。まさか、初戦からこんな事態に陥るとは思っても見なかった。
 だが、そこはそれ。整備性や補給効率は最悪だが、“ありえない”生き残り方が出来ることもある。
「なんや、あれ? レールガンかわすか普通。あんなん頭おかしいやろ」
 シーニーはジェファルコン特務仕様のコックピットで文句をたれる。酒だけでなく、【自称小麦粉】をスーハーやっていて、目つきがえらいことになっていた。
「ヒャッハーーー! 南港に沈めたれやぁ! あの女どもに太っといのぶち込んで、ヒィヒィ言わしたらんかい!」
「もちろんだよ。太くて大きいの、行くよーーーーー!」 
 生駒は、さらに【バスターレールガン】を惜しげもなく撃った。
「さすが、ジェファルコン使い。相手にとって不足はない!」
 シリウスは楽しそうに微笑んだ。
 生駒たちは、本当に本気で勝ちに来ている。事前の破壊工作といい、フライング気味の不意打ち全力攻撃といい、場を考えない容赦のなさといい、勝利への貪欲さがひしひしと伝わってきた。彼女らの言動などもはや関係ない。油断ならぬ強敵だ。シリウスは、その意気に応えるつもりだった。
「真っ直ぐ、行く!」
 その短い会話の間にも、エネルギー残量が凄い勢いで減っていく。予備電源は、本当にただの予備だ。万一の場合、脱出する時間が稼げるくらい。後30秒持つかどうか……。それまでにシステムが回復してくれるといいが、それに賭けるか。それとも、短期決戦で突撃するか……。
「レールガンかわしていて勝てるかぁ!」
 シリウスの意を汲んだサビクは、シュヴェルト13に正面からの突撃行動を取らせた。ホバリングしていたブースターを全開にしての【破岩突】だ。使いたくなかったが仕方が無い。勝負を一気に決めに行く。
 バギバギバギ……!
 「っ!」
 防御していなかったシュヴェルト13は、【バスターレールガン】のダメージをくらった。装甲が大きく破損し、どこかがみしみしと軋む音が聞こえる。後方へ弾き飛ばされそうな程の衝撃の中、サビクは機体のバランスを立て直す。全身ががくがく揺れるほどの振動がコックピットを襲った。それでも……。
「罠なんか、ない!」
 足元を警戒していたサビクはそう断言する。あったとしても、もう関係なかった。そのまま渾身の体当りを敢行する。
 ドゴオオォォォン!
 ジェファルコン特務仕様は、レールガン発射後の予備動作のため防御姿勢を取れていない。正面から突撃してきたシュヴェルト13の【破岩突】をまともに受けた。
「そんな無茶なぁぁぁぁ!」
 生駒は体勢を立て直しきれず、ジェファルコン特務仕様は衝撃で吹っ飛び派手に転倒した。イコンのボディは相当なダメージを受けている。だが、すぐさま起き上がらせることに成功した。
「【デュランダル】!」
 生駒は、必殺の聖剣を発動させた。覚醒時の使用を前提として作られた超高出力ビームサーベル。今の攻撃で一気に目が覚めたのだ。全ての力をこの一撃に注ぎ込む。
「これで、終わりだぁぁぁ!」
「こちらも、システム回復。予備電源ギリギリ間に合った!」
 今のわずかな時間で【試作型カットアウトグレネード】の効果が終わり、動きを制限されていたシュヴェルト13は復活していた。
 サビクは躊躇うことなくシュヴェルト13を覚醒させ全エネルギーを開放する。ここまできたら出し惜しみ無しだ。
「【デュランダル】!」
 シュヴェルト13もまた聖剣を発動させた。
 ジェファルコン対ジェファルコン。ともに『トリニティ・システム』のアビリティを持つ両機体は同じウェポンで激突した。
 聖剣の閃光が同時に走る! 衝撃波が観客席にまでビリビリと伝わってきた。
「……」
「……」
 不気味なほどの無音。攻撃を繰り出した二機のイコンは動きを止めた。
 ややあって、生駒がふふっと笑みを漏らす。
「勝負、あったみたいだな」
「キミたちと戦えてよかった。久しぶりに燃えたよ」
 サビクも満足げに頷き返した。
 どうなったんだ? しぶとく残っていた観客たちは固唾を呑んで勝敗の行方を見つめる。
「ここまでだよ、審判。ワタシたちはもう戦えない」
 生駒が桂輔に降参を宣言した。
 コックピットでは、サブパイロットのシーニーが気絶している。戦いながらも【超有名銘柄の日本酒】と【自称小麦粉】を堪能していた彼女は、打撃のショックで操作機器に頭をぶつけたのだ。その表情は満ち足りていたが。
 ジェファルコン特務仕様は、生駒一人では動かせない。これ以上の勝負は続行不可能なのだった。
「了解した。ジェファルコン特務仕様は戦闘不能とみなして、試合をここで終了する」
 桂輔はそうジャッジを下した。
 場外かダウン後10カウントでの決着と聞いていたが、自ら降参を告げた場合も当然に認めていいだろう。
「というわけで、勝負あり! 勝者はシュヴェルト13!」
 桂輔によって第三試合の決着を宣言された。
 わあああああっっ! とこれまでにない歓声が沸き起こる。対戦時間は短かったが、両者ともに全力を尽くした熱戦だった。
「しんどかった。一回戦からこれはキツイぜ」
 勝ち名乗りを受けたシリウスは、今だ続く喝采コールの中シュヴェルト13を退場させる。
 何とか乗り切ったが、試合開始早々からの連続攻撃とレールガンの威力で全身ボロボロだ。この機体ももはや重装甲とはいいがたいが、それを差し引いてもかなりの補修整備が必要だった。
「サビクもお疲れ様。途中で諦めずに最後まで戦ってくれてありがとうな」
「シリウスが変な装備をてんこ盛りにつけてくれたおかげだよ。どうするんだよ、これ? 整備大変だよ。第二試合までに間に合うのか?」
「変な装備って言うな」
 そんなことを言いながらシュヴェルト13が引き上げていく。
「……」
 リングの上で見送っていた生駒は、去っていくシリウスらにペコリと一礼した。目一杯戦った。悔いはない。
「うあっ!? チュパカブラがっ!! いっぱいおるやん! って、……あれ?」
 シーニーはやっと目を覚ました。リングの上で周りを見渡して目を丸くした。
「なんやねん。もう終わってるやん。ワタシまだ飲み足りへんで」
「もういいんだ。さあ、ワタシたちも退散しよう」
 生駒は静かな口調で言うと、大会の舞台を後にする。全力で戦った彼女らにも惜しげない拍手が送られていた。
「後は、一観客として残りの試合を気楽に見るか。文化祭も回っていいしな」
 そういえば……、生駒は思った。何か忘れているような気がするが……。
 まあいいか。と頷き、生駒とシーニーは仲良く去っていく。
どこかで、キキ〜! とサルの鳴き声が聞こえた気がした。