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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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第十九章:この中に忍者が二人いる?


「まあ、いくつかの食い違いはあったけど、今のところ訓練は順調ね」
 粥は、訓練中の分校内を巡回しながらさらに気を引き締めていた。
 避難所では少し遊んでしまったが、あれもまた訓練なのだと彼女は自分に言い聞かせた。災害による不安と恐怖を和らげるための手法を自身で検証していただけのことである。目立つような混乱もなく彼女の手に負えない困難な事件も起こってはいない。生徒達も一般市民と力を合わせて訓練に取り組んでいる。
 素晴らしい。これこそが学校であり教育の醍醐味なのだ。総監督である粥の人格のなせる業だろうか? いや、ここで慢心してはいけないと彼女は思った。訓練はまだ終わっていない。よい事は、テロリストたちの動きがほとんど見受けられないことだ。行事の始まる前には出現が予想されていたのだが、粥の知る限りでは凶悪な事件が起こったという情報を耳にしていない。
「テロの噂もたいしたことなかったのかもね」
「こんなにいいお天気なのですもの。皆さんレジャーに出かけたのですわ」
 粥と一緒に訓練の指導をしていたエンヘドゥ・ニヌア(えんへどぅ・にぬあ)は、テロリストたちは気が変わって休暇を取ることにしたのだろうと推測して言った。
「エンヘドゥは世間知らずね。そんなことあるわけないじゃない」
 粥はきっぱりと言った。
「宝くじを買いに行ったのよ。私もこの後、訓練の時給で買いに行くわ」
「粥さんは、一等当たったらどうするおつもりなのですか?」
「休暇を取ってレジャーに出かけるに決まってるじゃない。後は貯金ね」
「ほら、そうでしょう? やはり、テロリストさんたちは宝くじに当たってレジャーに出かけたのですよ」
「なんて奴らなの!? 私だってまだ一等当たったことないのに! 夢と希望を打ち砕いてくれたのね! ……って、発表まだだし!」
 訓練中に、何の会話をしているのだろうと粥は少し首をかしげた。それくらい暇だ。最早、訓練は彼女ら無しで進行していた。
「……」
「……」
 粥とエンヘドゥは、なんとなく安堵の笑みをうかべたまま所在無さげに佇んでいた。やる事がないのも困ったものだ。
 それもこれも、粥を影から見守っている紫月 唯斗(しづき・ゆいと)と、エンヘドゥを狙うテロリストたちの動きを警戒しているリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)(当時:リネン・エルフト)の働きが大きい。
 リネンは【禁猟区】のスキルを効果時間が過ぎると何度もかけなおしていた。敵は近づく前にどこかへ消えて(?)いるので表面上は穏やかなものだ。
 ハイナの忍者を自称する唯斗も、粥をこっそりと手助けすることに全力を注いでいたのだ。テロリストたちが彼女らの前に現れないのも、訓練が順調なのも影働きに徹している唯斗の活動の賜物である。
 だが、彼は自己主張をすることはない。庇護対象が無事に仕事をこなしてくれればそれで苦労も報われる。
「忍者」
 返事は無い。しかし、そんな彼の存在を、粥はいつからか影に潜む存在を認識し受け入れて事態を委ねるようになっていたのだ。
「別に頼んでないし感謝なんかしていないんだからね! 訓練はまだ終わってないんだから、最後まで気を抜かずによくわからない仕事を続けなさいよ」
 言ってから、粥は後悔した。
 嫌な感じの言い方になってしまった。せめてねぎらいとかお礼とかいえなかったのだろうか。忍者がこっそりと手伝ってくれているのはわかっていたのに。
「……違うんだから」
 感覚を研ぎ澄まして探ってみると、唯斗の気配は無くなっていた。怒って去っていってしまったのだろうか。粥は少し不安になる。
 




(少し離れますけど、すぐに戻ってきますからね)
 唯斗はその時粥の傍にはいなかった。離れたところで、テロリストたちを迎え撃っていたのだ。彼女らや多くの生徒達の目には触れなかっただけで、実はわらわらと登場していたのだ。
「ヒャッハー!」
 叫び声こそはモヒカンたちと同じだったが、使用している武装が違った。闇の武器屋『バビロン』がデモストレーション代わりに卸した新製品や試作機が主だ。小型で高性能な銃火器や特殊な形状の爆発物の威力は危険極まりない。大量破壊兵器を持ってきていないだけマシだが、生徒達や一般市民を殺傷するのには有り余るほどの武器類を持ったならず者たちが一同に結集していた。
『バビロン』は、今回の訓練における暴漢たちの襲撃を、武器販売促進のアピールの場だと考えていて、参加者には手厚い保険金まで用意されていた。悪の顧客達に破壊力や殺傷力を見てもらい、今後の購入プランの参考にして欲しいという熱意あふれる営業姿勢だ。武器使用モニターとなってくれる人たちに対しては、安心して負傷できるよう親身になった粋な取り計らい(?)がなされていた。懸賞金や参加賞を求めて、職業テロリスト以外の不良たちも“気軽にお誘い合わせの上”のようなノリで襲撃を目論んでいる。提供された武器を手にあちらこちらで散発的に出現するのだ。
(あまり遠くまで追っていくと粥の周辺の護衛が手薄になりますし、逃がすと他に被害が拡大しますし、面倒くさい相手です)
 そんな敵を闇から闇へと葬るために、人知れず忍者として活動しているのは唯斗だけではなかった。
「結局、敵は悪の武器商人ってことですよねぇ。タチ悪すぎでしょ」
 今は忍者ではないが、忍者も同然な(?)レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、危険分子の排除のために分校でこっそりと仕事をこなしていた。
 彼女が友人でありライバルでもあると認めている馬場 正子(ばんば・しょうこ)に頼まれては仕方がない。地味に活動するのは得意だった。
 襲撃者の殺気を感知するなり、【闇洞術『玄武』】のスキルで闇の中へ閉じ込めてしまう。そこいらの雑魚程度なら一撃ニ撃で十分仕留められるが、強めの敵は弱らせておいてから【真空斬り】で始末する。外見上は何事もなく静かに敵を葬り去る手馴れた戦い方だ。数が多いので時間がかかる。
「あちらこちらからカメラのレンズがこの光景を見ているのが趣味悪いわよね。これ、『バビロン』から武器購入を検討している悪党たちが、どこかの秘密基地からニヤニヤ見物しているのかしら?」
 パートナーのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は、テロリスト達の犯行により傷ついた人たちの治癒を続けながら、監視の目を気にするように辺りを見回した。固定型から移動型まで、様々なタイプのカメラが現場に投入され彼らの一挙手一投足を撮影しているのがわかった。攻撃能力はなく、撮影するだけのタイプだ。
 こまめに潰していってもいつの間にかどこからともなく沸いてくる。隠し撮りされているのはいい気分ではない。
「女の子のチラリシーンを盗み撮りしたりする目的ではないですねぇ。遠くの誰かさんに映像を送信していますよ」
 レティシアは、自動で撮影をする移動式の小型カメラを捕まえると詳細を確認してみた。案の定、アンテナが内蔵されており映像や写真は無線で発信されている。地下基地のサーバーを介して『バビロン』が契約している悪の組織へ映像データが転送されているのではないか、と想像できた。デザインがちょっと可愛いので、彼女はいくつか持って帰ることにした。後ほど分解して解析すれば色々とわかることもあるだろう。
「正子ちゃんは、テロリスト達の背後にいる悪党共も片付けて来いって、言外にほのめかせているんでしょうねぇ」
 大小合わせると国内外に一体いくつの悪の組織があるのだろうか。キリがないのでこの場ではカネで雇われて暴動を起こそうとしている連中を静かに淡々と〆るだけだ。
「映像をご覧のみなさま〜、『バビロン』製の武器は役に立ちませんよぅ。購入を見合わせましょうね〜」
 暴徒たちを片付けたレティシアは、没収した武器をひとまとめにしてスキル攻撃でスクラップにした。見られっぱなしなのも腹が立つので悪の視聴者の皆さんにアンチCMを流しておく。
「こういう場合、定石ではカメラの向こうの人物に見えるように、ケツでも映してやるものですねぇ」
「いやねぇ、今日のレティは下品だわ」
 ミスティアはたしなめた。万一にもついうっかり暴漢たちの見るに耐えない露出シーンをカメラに映し出してしまわないとも限らない。敵に対する嫌がらせなら間違っていないのだが、女の子としては行動を謹んでおくべきだ。
 ミスティは、被害に巻き込まれた住人達だけではなく、瀕死の暴漢たちまで最低限の治療をしてやることにした。彼らはおカネで雇われただけで根は悪い人達じゃないのだ。……などとは思わなかったので、痛くてよく沁みる薬を使っておいた。人生を反省してくれるといいと思う。
「ゴミは処分しておきましょう」
 後処理のためケータイを検索しているとポリスのデリバリが見つかった。頼むと、10分以内くらいで引き取りに来てくれるらしいので注文してみた。
「パラ実に警官いたんですねぇ」
「モヒカンみたいだけどね」
 ヒャッハー! とお馴染みの叫び声と荒々しいエンジンのの音。砂埃を上げて現れたのは白黒ツートンカラーのモヒカンたちだ。バイクだけではなく、改造車両に乗っているモヒカンもいる。本人達は警官のつもりらしいが、見慣れたパラ実山賊だった。
「ヒャッハー! まいど! K殺(ケーサツ)だぜ。容疑者じゃなくても連行してやるぜ!」
 白黒に塗装された大型トラックからモヒカンたちがぞろぞろと降りてきた。彼らは事情を聞きだすつもりもなく事件を解決する気も全く無い。
「ヒャッハー! こいつら、いい物持ってるじゃねえか。全部いただいていこうぜ!」
 テロリストたちの持ち物を物色し身包みを剥ぎ始めた彼らは、どう見ても追いはぎだ。
「この人数じゃあ、残念だけどちり紙これだけしかあげられねぇぜ。もっと気張って集めやがれ!」
 倒れているテロリストたちを調べていたツートンモヒカンたちは、レティシアにトイレットペーパーを手渡した。改造車両の荷台にテロリストたちをゴミのようにぽいぽいっと投げ込むと忙しそうに車に乗り込む。
「ぐへへへ。ちり紙だけで安く買い叩いて、人買いに売り飛ばせばボロ儲けだぜ。また呼んでくれよな、ねえちゃんたち」
 ツートンモヒカンたちは爆音とともに去っていった。
「警官かと思ったら、チリ紙交換の人たちだったようですぅ」
 引っかかるところがあったが、レティシアは気にしないことにした。武器を持って暴れていたならず者共を引き取ってくれたので文句はない。交換してもらったティッシュペーパーは、避難している人たちの非常物資として寄付しておいた。
「最近の山賊は、サイトまで作って獲物を待ち構えているのね。もう何がなんだか分からないわよ」
 ミスティが率直な感想を述べた。
「あのテロリストたちは、人体解剖の闇研究所に引き取られるか監獄でマッチョな囚人達にホられるといいですねぇ」
「だから、どうして今日のレティは下品なのよ!」
 ミスティが眉をひそめるが、郷に入れば郷に従えでなんとなくパラ実風に合わせてみただけだ。
「何人くらい暴漢がいるのかわかりませんけど、根元を断たないとキリがないですよぅ」
 彼女は、ちょっとばかり敵を深追いしてみることにした。人知れずに危険な芽を摘んでおこうと思ったのだ。
「お夕飯までに帰ってきてね」
 ミスティは、その場に残って負傷者の治癒や他の契約者たちの回復に務めるのでレティシアとは行動をともにしない。信じて見送ってくれる。
「ひっそりと敵を倒すつもりですので、丁度いいですよぅ」
「同感です。二人で極秘ミッションと行きますか」
 雑魚を片付けていた唯斗がついて来た。二人は合流して作戦を実行することにした。
「おや、にんじゃさんは粥ちゃんの護衛をしていたんじゃないんですかぁ。放っておくと寂しがりますよ」
「彼女は強い子です。俺がいなくてもすくすく育ちますよ」
 それよりまず、騒動の種を切り取ること。本拠地にいる敵の大物ボスを叩くことは時間的にも手間隙的にも難しいとしても、下っ端を指揮している現地リーダーくらいなら潰しておける。暴漢たちが武器を受け取ったところ、支給されている集合地点に行けば現場を取り仕切る人物がいるはずだ。
 倒した暴漢を締め上げて場所を聞き出していたので目的地の目安はついていた。唯斗とレティシアは音もなく敵の陣地付近まで迫ると身を潜めて辺りの様子を伺った。
「……」
 二人は何となく目配せすると、機を見計らって秘密作戦の遂行に取り掛かる。
 誰にも語られることのない戦いが、この後繰り広げられていくのである。