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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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第二十二章:ならず者せん滅作戦


 一方で。
「すげー悪そうな連中がいっぱい倒れてるな。気をつけろ。死んだフリをしている奴も居るはずだぞ」
 荒野に横たわるならず者たちの残骸を見つけたのは、分校の中でも比較的真面目に訓練に取り組んでいた生徒たちだった。
 訓練生の彼らは、標準的な学生よりは態度は悪いがモヒカンやギャングほどではない。有る程度のまともな常識を持ち合わせており底辺ながらも平穏で楽しい生活を送りたいと望んでいた。そんな彼らを陰から助けるべく、外部からの契約者たちが大勢協力していた。
 派遣されてきていた外部生たちは、ヒャッハー! しようとしていたモヒカンたちを人知れず退治し、その結果、訓練は妨害されることなく今のところまずまず順調に進んでいる。企業から武器を提供された悪の戦士たちすら無残に敗北を喫して後は荒野で朽ち果てるのを待つのみだ。自業自得とはいえ、悪党どもの末路は哀れなものだ。
 だが、油断してはならない。一部のモヒカンたちは死んだフリをして獲物をおびき寄せることがあるのだ。死体漁り(?)の追いはぎを狙って待ち伏せし、逆に追いはぎの身包みをはいでしまうという、どっちもどっちの山賊団が横行しており、混沌をしていた。また、ごくまれにだが、倒れているモヒカンたちを助けてくれようとする能天気な世間知らずが現れたりする。そんな優しい人たちの好意を踏みにじりヒャッハー! と攻撃してやると普段よりも簡単に襲撃が成功する。荒野で情けをかけるほうが悪い。それがパラ実でのルールなのだ。
「倒れているモヒカンたちにトドメを刺しておく。待ち伏せの可能性も少なくない。全員で一人ずつ確実に息の根を止めていくぞ。手伝ってくれ」
 パラ実生の生態をよく知っている分校の見回り警備班たちは油断が無かった。 
「この辺りは、決闘委員会もほとんど現れない場所だからな。俺たちだけでトドメを刺しまくりだぜ!」
 訓練生の班員たちは、荒野に倒れるモヒカンたちに集団で攻撃を仕掛けた。弱い者や動けない相手には強いのが彼らの特色だ。その本性は変わっておらず、勢いで掃討作戦は成功するかに見えた。
「ん? ……うわああっっ!?」
 一人が悲鳴を上げた。と思ったら、彼の身体は鋭く斬り裂かれていた。倒れていたならず者の一人が近寄ってきた訓練生に反撃してきたのだ。ならず者は死んではいなかった。訓練生たちが予想したとおり死んだフリをしていたのだ。
「バーカ! お前らの行動くらいお見通しなんだぜ!」
 死体のフリをしていたならず者やモヒカンたちが一斉に立ち上がり、再びヒャッハー! を試みる。彼らの中にはプロのテロリストも含まれており、『バビロン』から提供された最新鋭の武器を温存していた。その威力を見せつけるのは今だ。外部の強力な契約者たちには後れを取ったが、分校の中途半端な不良なら皆殺しに出来る。この辺りの地域には、目障りな決闘委員も出現しにくい。彼らが騒ぎに気づいて駆けつけて来たときには戦闘を終わっているだろう。
「ぐああっ!」
 訓練生たちは、ならず者たちの一斉攻撃を受けて大混乱に陥った。不意打ちを警戒していたとはいえ連携も取れておらず不用意に近寄りすぎだった。
「ヒャッハー! 殺せ殺せ!」
 瞬く間に立場は逆転し、ギャングやプロテロリストを含むならず者たちは人数の多さと武器の豊富さで優位に立った。訓練生たちは、バタバタと倒れていく。
「お待ちかね! 殺戮ショーの始まりだぁ! ついでに付近の町も火の海にしてやれ!」
 ならず者たちを指揮するのは、プロテロリスト集団スネイニー・キッズの生き残りで、元特殊部隊所属の特務曹長だ。殺しが三度のメシより好きなため民間人まで虐殺して軍を追われた経歴を持つ。卑劣さと残虐さではどのテロリストにも劣らない。
「【一刀両断】!」
【フェイタルリーバー】を極元特務曹長の必殺技が、【ナイト】として頑張っていた見回り班の女子訓練生に命中した。
「きゃー!」
 分校の中では強くても、元プロの特殊部隊には敵わない。女騎士の女子生徒は大ダメージを受けて倒れた。
「ぐへへへ! 女だ、女をかき集めて連れて来い! 特にエンヘドゥとかいう女は、報奨金がかかってるぞ!」
 山田武雷庵は、金ワッペン保有者の特権をフルに活用して、始末しておくべき重要人物に賞金をかけていた。ブルオーク元特務曹長にとって、分校の不良グループなどに義理立てする必要は無いが、カネをくれるならもらっておこうという魂胆だ。その指示に従って、すぐさま仲間たちがターゲットを探し始めた。
「騒いでいる悪い子たちだ誰ですか!?」
 そこへ、あろうことか最悪のタイミングでエンヘドゥが様子を見に来た。分校生たちの訓練を見守り協力し合うのが彼女の使命だったのだ。
「いたぞ、かかれ!」
「きゃー!」
 ならず者たちが彼女に襲い掛かる。
 まあ無力に等しい女が相手だ。自分が出るまでも無い。仲間たちが仕事をこなしてくれるだろう。
「ぐふふ……。ザコどももあらかた蹴散らしたところだし、オレは軽く夕食前の一仕事するとしようか」
 元特務曹長は、それよりも女騎士と恒例の熱い交流を望んでいた。倒した女子生徒の髪を無造作に掴みあげると乱暴に引きずり起こした。
「ぐへへ。女騎士コスプレ風俗デビューさせてやるぜ」
「くっ……! 殺せ!」
 分校に在籍しているが実は高貴な生まれで気高い女騎士(と言う脳内設定のパンピー女子生徒)は、屈辱に身を打ち振るわせた。
 特務曹長の仲間となったモヒカンたちも女騎士を取り囲み武器を向けた。全員がギラギラした目で彼女を見た。
 ああ、と女騎士は絶望の呻き声をあげた。城で待つ姫に忠誠を誓った身、その身体がこれから卑劣で醜いとモヒカンたちに汚されてしまうのだ……。
「今夜城で姫に会う約束が……。しかし、今の私にもう生きる価値はない。一思いに殺せ」
 くっ、と女騎士役の女子生徒は悔しそうに言った。あくまで女騎士キャラを貫くつもりのようだ。
「ヒャッハー! こいつテンプレどおりの台詞吐いてやがるぜ。ビッチ願望あるんじゃねえか」
「そうやって、まずは言葉で私を辱めようとしているな? 昂ぶった貴様らの玩具になるくらいなら、ここで死を選ぶぞ」
「……よく考えたらオレ熟女マニアでデブ専だった。そこだけはこだわらなくてはな」
 特務曹長は自分の性癖を思い出し女騎士に興味を失った。最近はダイエットだかなんだか知らんが、不健康なほどやせ細った若い女ばかりで悲しくなってくる。貧弱な娘のどこがいいのか。さっさと懸賞金と企業のテロ参加料をもらって帰ろう。馴染みのお店で太った熟女が待っている。
「とりあえず、服着ろ。上着貸してやるから」
 彼は、いい具合に衣装が破れている女騎士に自分の上着をかけてやった。これからあんなことやこんなことが始まるのでは、とドキドキしていた女騎士は目を丸くする。
「い、いい人だー!?」
「ん?」
 ふと、背後に異質の気配を感じて元特務曹長は、振り返りざまに飛びのき距離をとっていた。殺気を感じ取ることができたのは、彼の戦闘経験のなせる業だ。ほぼ同時に、彼のいた場所を剣撃が切裂き疾風が走り抜けていた。ほんのわずかにかわすのが遅れていれば、彼の身体は真っ二つになっていたところだった。
「このオレに挑もうとは、何者だ!?」
「モブNPC劇場もほどほどにして欲しいわね。どっちが主役か分からないじゃない」
 群がるザコモヒカンを処分し終えたリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)(当時:リネン・エルフト)が、出番を待ちわびていたように言った。彼女たちは、あの後訓練開始からずっとエンヘドゥの周辺を警護していたのだ。それにしても、前フリが長すぎると彼女はメタで溜息をつく。
 リネンたちは、訓練生たちの監督と指導のためにあちらこちらへ出歩いているエンヘドゥと共に行動しているうちに、ここへやってきたのだ。ちょうどならず者たちが訓練生たちを襲撃している現場。エンヘドゥにもモヒカンたちが向かってきたが、彼らは目的を達成することが出来ないまま、荒野の土へと還った。今度はフリではなく、本当にあの世へ旅立ったのだった。
「ルール無用はそちらだけの専売特許じゃないんだぜ。オレも得意でね」
 モヒカンたちに取り囲まれていたエンヘドゥを助け出したフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が不敵な笑みを浮かべる。
「行け。一人も残すな」
 更に抵抗を試みるならず者たちの残党に、配下の【オルトリンデ少女遊撃隊】をけしかけた。ワイルドペガサスに騎乗した天馬騎兵はモヒカンやスネイニー・キッズのテロリストたちと戦い始めた。空中からの攻撃は効果的だ。数も多く連れてきているので戦いなれているプロテロリスト集団相手にも優位に戦いを進めることができる。
「まあ、悪党の集団とはいえなかなかいい動きじゃない。ただ暴れたいだけの連中とは違うわね。誰の差し金かしら」
 リネンは尋ねながらも【ペガサス“ネーベルグランツ”】を巧みに操り、敵との距離を測っていた。無秩序に仕掛けてくるモヒカンたち相手なら【正中一閃突き】で一掃してやるところだが、この元特務曹長はプロテロリストグループのリーダー格だ。捕縛して尋問したい。
「ぐへへ。そこまでだ。動くなよ。女騎士はこんな使い方も出来るんだぜ」
 元特務曹長は、女騎士の女子生徒に再び接近すると大振りの剣を突きつけていた。『バビロン』の技術を取り入れてカスタマイズした魔法剣のようで、威力は相当だろう。やれる物ならやってみろと言いたいところだが、パラ実では本当にやってしまうからシャレにならない。エンヘドゥが助かったのだから後はどうでもいいとはいかなかった。パラ実生とはいえ、全員が悪党とは限らない。見殺しにするつもりはなかった。
「前言撤回。やっぱり悪い人だった」
 と女騎士。
「とりあえず武器を捨てろ」
 特務曹長はリネンに言った。
「くっ……! 私に構わず攻撃しろ」
 女騎士はあくまで女騎士だが、リネンは彼女のアクションについては気に留めなかった。
「あらら、困ったわね」
 リネンは全然困っていない顔で敵の指示に従ってみた。ペガサスの歩みを止めて、両手のアイオーンを足元にゆっくりと置いた。少しくらい演技につきあってやっても、もう結末は見えているのだ。
「おい、お前ら今のうちにあの女をぶっ殺してやれ!」
 元特務曹長は、リネンの手から武器が離れるのを見届けて部下たちに命じた。荒野で倒れて死んだフリをしていたモヒカンなど彼にとってはただの使い捨て要員に過ぎない。他につれていた仲間こそが本命なのだ。
「くくく……。元特殊部隊の恐怖を思い知るがいい」
 彼の部隊は容赦なく標的を皆殺しにすることが出来る。武器を持っていない相手なら仕事は簡単だ。彼は成功を確信していた。
「……」
「……ん? どうした、何があった?」
 命令に誰も姿を現さないので、元特務曹長は怪訝な表情をした。潜ませてあった配下の部隊に動きは無かった。
「何がしたかったのかよく分からないんだけど、オジサンが呼びかけたのはこのゴミたちのこと?」
 いつの間にその場にいたのか、リネンのパートナーのヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)が、可愛らしく微笑んだ。彼女の足元には、元特殊部隊の兵士たちが全員倒れている。全員、彼女が倒したものだ。
 ヘリワードは、分校内で罠を仕掛けてモヒカンたちを捕らえようとしていたのだが、引っかかるのは本当に何も知らないザコばかりなのでリネンの手伝いに来ていたのだ。ちょうどいいタイミングでヘリワードが現場に着いたとき武装した怪しい集団がいたので、とりあえず連れてきていた【『シャーウッドの森』空賊団員】で攻撃させておいたのだ。敵は元軍人だったようだが、そもそもヘリワードからしてLVが違うので倒すのは難しくない。
「ねえ、特殊部隊の恐怖はまだなの? 私たち、みんなで楽しみにして待ってるのに」
 ヘリワードは少女飛行騎兵団の奮戦を眺めながら退屈そうに言った。
「な、なんだと!?」
 元特務曹長は、驚愕した。頼りにしていた部隊がこんなに簡単にやられてしまうとは。
 だが、彼はすぐに立ち直った。もはや役に立たない女騎士など蹴り転がしておいて、いきなり【フェイタルリーバー】のスキルを放つ。【百戦錬磨】のスキルも装備されており、戦闘能力も上がっているのだ。
「食らえ! 【絶零斬】!」
 冷気攻撃が、モヒカンたちも巻き込んで襲い掛かってきた。
「少しはやるみたいね」
 リネンは、捨てた武器を拾い直すと反撃に転じていた。ワイルドペガサスで上昇すると、【新生のアイオーン】と【終焉のアイオーン】で敵を斬り裂く。
「言っておくが、オレも見てるだけじゃねえぞ。ちゃんと攻撃に参加してるっての!」
 フェイミィは、残りのモヒカンたちは少女遊撃隊に任せておいて、ブルオーク特務曹長に向かった。まあ、生きていればいいや位の勢いで攻撃を繰り出す。相手が醜いオッサンなので今ひとつテンションは上がらないが、その分ガッツリとダメージを負わせた。
「ぐはぁ! 畜生! 飛行できるなんて卑怯だぞ!」
 特務曹長は倒れないもののピンチなのは明らかだ。なんとか体勢を立て直し、【フェイタルリーバー】のスキルを全力で撃ってくる。
「人質を取っておいて卑怯とかどの口で言ってるの?」
 リネンは呆れつつ攻撃を繰り返した。特に効果の高い必殺スキルも装備しているのだが使うまでも無い。敵はもはや一人なので通常攻撃のみで倒せるのだ。戦闘能力の差は圧倒的だった。勝負はあっという間についた。
 ザコのモヒカンやならず者たちも、リネンたちが連れてきていた少女騎兵団にほぼ一掃されていた。
「もう大丈夫だからね」
 後から様子を見に来たミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は、テロリストたちにやられた訓練生たちを助け出して怪我を治している。かなり手ひどくダメージを受けている生徒が多いが命に別状は無い。少し休めば精神的にも落ち着くだろう。
「女騎士コスプレ風俗デビューしなくて良かった」
 女騎士役の女子生徒も安堵の溜息をつく。
「あまり無茶しちゃだめよ。後はわたしたちに任せておいてくれたらいいわ。悪い奴らには滅法強い仲間たちが動いているから」
 ミスティはパートナーのレティシアが去って行った方角に視線を投げかけながら言った。あちらは放っておいても解決する。こちらは、何事も無かったように訓練を続けるのだ。
「では、皆さん無事に帰りましょう」
 ミスティに連れられて見回りの訓練生たちは引き上げて行った。死屍累々のモヒカンたちを後にして。
「本当に何も無かったようにあっさりと片付いたわね」
 戦闘を終えたリネンは敵に向き直った。
「くっ……、殺せ!」
 倒れた元特務曹長は悔しげにうめいた。女騎士のように恥じらいに全身をくねらせるので、キモくてトドメ寸前まで痛めつけておいた。もう死にそうだ。
「まあ、焦らなくても最初から殺すつもりだったんだけど、ちょっとだけお話聞かせてくれるよな」
 フェイミィは笑みを浮かべて敵に迫った。息をしているのがやっとの状態なので、【プロフィラクセス】で致命傷から回復さえておいた。このオークはこの後すぐに死ぬのだから一度しか使えないスキルが無駄になるが全く惜しくない。 
「さぁて、洗いざらい吐いてもらうぜ……あぁ。簡単に死ぬことは許さねぇからな?」
 フェイミィは慎重に辺りを見回しながら言った。戦闘はほぼ終わりモヒカンたちは倒されたか逃げ足の速い奴はいなくなっていた。彼女が気にしているのはそこではない。エンヘドゥが見ていたらこれから尋問しにくい。いっぱい痛い目に遭ってもらうつもりなので、過激な現場を目撃されたくなかった。
「大丈夫よ。エンヘドゥならヘリワードが連れて行ったから」
 リネンも、ワイルドペガサスから降りて倒れたブルオークの傍までやってきた。とりあえず、まずは敵が怪我しているところをグリグリと踏みつけながら尋ねる。
「で、誰に命令されたの? 主犯は誰?」
「ボスなんていねえぜ。オレたちは勝手に暴れてるだけだ。……ぐあああっっ!?」
 元特務曹長は、答えかけて悲鳴を上げた。
 フェイミィが、おかしな答えをすると爪を剥いでいくことにしたのだ。
「心配は要らない。爪は二十本、歯もたくさんあるな。お前なら頑張れるから、雇い主への忠誠心を見せてくれ」
 ああ、動けない者を拷問にかけるのはなんと楽し……、もとい、心が痛むことだろう。フェイミィは、嬉々として敵をいたぶり始めた。
「もう一度聞くけど、誰に命令されたの?」
 リネンの問いに、元特務曹長は憎憎しげに答えた。
「誰にも命令されていないって言ってるだろ。企業から武器をもらって雇われただけだ」
「……」
 相手の様子から、どうやら本当のことを言っているらしいとリネンは判断した。もちろん、それでも傷口を更に広げてやることに変わりは無いが。
「全身切り刻んでやる頃には、ちょうどいい時間になってるかな」
 フェイミィは、魚をさばく要領で作業を続ける。ザクザクと切り裂いてやると、敵がいい声で鳴くのが気持ちいい。
 しばらくの間、他人には見せることが出来ないほどの残虐極まりない拷問が続けられた結果、それなりの信憑性のある情報を聞き出すことが出来た。
 訓練を襲撃しているテロリストたちを指揮している明確なリーダーはいなく、それぞれが単発で実行しているらしい。
 スネイニーキッズのようなグループもあるが、彼らに命令している上部の存在はない。ほとんどのならず者たちは『バビロン』から武器を提供してもらい、報奨金目当てで活動しているのだ。
『バビロン』は武器販促のために今回のテロを企画したらしい。企業は直接手を下すことは無く、そこらへんのならず者たちに売り出し中の武器を与えて実行させているのだ。破壊した規模により、懸賞金や褒賞も出しており、大勢のチンピラどもが集まってきていた。よくある話だ。
「『バビロン』って、写楽斎たちを派遣してきている企業よね?」
 リネンは、先日写楽斎と出会ったときのことを思い出していた。
 その写楽斎は、今は真理子との決闘に応じて農作業をしている。無関係とはいえないが直接指揮している気配は無い。注目すべき人物だが、彼もまた単なる使い走りに過ぎないと彼女は判断していた。
「面倒だな。本当の黒幕は『世界中の悪の組織』じゃねえか」
 フェイミィは舌打ち気味に言った。
 企業がテロの片棒を担いでいることは間違いない。だが、その企業すら手伝いに過ぎないのだ。
『バビロン』の顧客である多くの組織は、自分たちが購入したがっている武器のデモストレーションを『バビロン』に委託してやらせている。今回のテロで武器の威力と成果を見届けて、気に入ったら購入しようってことらしい。この訓練とテロは武器を売るための販促CMなのだ。
「企業に委託したのは、金融マフィアや資源を独占しようと企む財閥、陰謀を企てる各国の貴族たち、帝国軍上層部の一部腐った勢力から国政を担う高級官僚たち……などときた。私服を肥やそうとしている大金持ちたちばかりだ。絶大な権力も持っている連中が寄り集まって決めたんだよ。ついでに言うと、奴らにしてみれば、こんな騒ぎなど娯楽か余興の一つなんだろう」
 フェイミィは溜息をついた。
 寺院や過激なテロ集団ですら、彼らの金儲けのコマに過ぎない。『バビロン』が武器を提供し、武装集団が実行する。破壊活動によって、社会は不安定になり混乱する。彼女らの知る限りでは、そういった連中の儲け方はたくさんある。株の売買かもしれないし、土地の乗っ取りかもしれない。
 かつての十字軍がヴェニス商人たちに莫大な利益をもたらしたように、戦争するだけで大金が転がり込んでくる人たちがいるのだ。
 今回の真の黒幕はそういった手合いだ、とフェイミィは示唆した。
「何よそれ。キリがないじゃない」
 戻ってきたヘリワードが口を挟む。
「その通りだ。オレたちはこれまで通りの活動をするしかないのさ」
 リネンたちの義賊団はそういった腐った組織とも地道に戦っている。正義だけでは倒せない勢力もあるのだ。だからリネンはアウトローをやっている。時に法は無力だから。だが、一つ滅ぼしてもまた新しい勢力が生まれる。人間に欲望がある限り、彼女たちの戦いに終わりは無いのだ。
「まあ、それはさておき。結局のところ、私たちがやることは写楽斎を仕留めておくことなんでしょうね」
 さらりと言うリネンにフェイミィが突っ込みを入れた。
「さておいておいて、いいのかよ?」
「仕方が無いでしょ? そういう意味での世界の黒幕は、私たちが生涯をかけて戦う相手よ。でも、訓練は今だけよね。その訓練で生徒たちに被害が及ばず、無事に行事を終えることが出来れば今回は成功なの。エンヘドゥを守りきることが出来たら、その後のことは、またそのときに考えればいいわ」
「前向きすぎるだろ。……でもまあ、デモストレーションを失敗させて武器を売れなくすればいいわけか」
 フェイミィが要点をまとめた。
「実行犯のテロリストたちは、特命教師の地下施設の在り処までは知っていなかったわ。これは仕方がないと思うの。窓口で武器を受け取っただけの捨て駒なんだし。後何人か捕まえて、施設の場所を聞き出す必要があるわね」
 ヘリワードが言うと、フェイミィもニヤリと笑みを浮かべる。
「もうこれ、特命教師たちに直接尋ねたほうが早いだろう。強制的にな」
 さっきまでいた元特務曹長だったらしい物体はすでに原形をとどめていない肉片なので、放置しておくとじきにハゲタカが餌としてついばんでくれる。荒野の生態系に優しいエコ活動だ。
「特命教師たちの地下施設を潰しておけば、今回のミッションはとりあえず成功ってわけね。じゃあ、行きましょうか」
 リネンたちは、もうこの場には用は無くなり移動することになった。
 彼女らは、まだ知らなかった。
 地下施設には、あの悪名高いオリュンポスがすでに陣取っているのだ。