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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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第二十五章:うん、本気出したらこんなもんだな

 一日目はさまざまなことがあったが、無事に夜が明けた。
 防災訓練も二日目だ。
 ドタバタしながらも、教師と生徒が力を合わせて訓練が再開される。
 一日目はバケツリレーを延々と続けたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)のグループは、今日は何かの山を延々と元に戻す作業に取り組むようだ。
 生徒たちは死んだふりをしているか逃げ出していたが、そんなものはトマスには通用しない。連れ戻されるか地面にめりこまされるかのどちらかだ。例の幼女は、一日見ない間にボディービルダーのムキムキお姉さんに変貌を遂げていた。雇われて代わりにやってきたらしい。突っ込むのも面倒なのでそのまま参加してもらう。いずれにしろ過酷な作業がまた始まる。
 決闘委員会を引き継いだ御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、分校内が落ち着くまで活動することにした。委員会の内情とシステムもおおむね把握できており、いつでも何かの事態が起こっても対応できる態勢にはなっている。
 桃子は、あれからしばらく遊んでいたが結局徹夜での麻雀はやらず、規則正しく消灯前に自室に引き上げて行った。久々の勝負で気合が乗ってきた、とか言っていたがどんなものだろう。体調も回復の予兆が見られており、目が覚めたら復活するそうなのでしばらく放っておこう。
 それぞれが、二日目の訓練も順調にこなしていく。





 さて、農場での決闘も、当然ながら二日目に突入していた。
 本来なら収穫まで長い時間がかかるはずで、たっぷりと期間が取られていたのだが、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちを含む強力な契約者たちの力添えもあって、荒野は一面の穀物畑に変貌を遂げていた。
「みんなお疲れ様ー。今日も頑張ろうね」
 黄金ボディにマント姿のイコングラディウス を操る小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は早くも刈り取り作業を終えていた。
「もう頑張るところないですから。これ、決着ついてますよね」
 成果を見ながら小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は率直に感想を述べた。昨日日が沈むまで全力で作業したため、もうやることが残っていなかったのだ。
 促成栽培の特殊野菜のため成長は異常に早い。
「一日でできるなんで農業革命だね」
 今、伝説の農業を目の当たりにしているのではないか、とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は思った。
 あの痩せこけて何も見るべきところのない荒野が、一面畑になっているとは。
「これ、すごいな。全国へ出荷できるくらいの量だよ」
 出来上がった穀物が山積みになっているのを眺めながら、笠置 生駒(かさぎ・いこま)は、感動すら覚えていた。やはり、結果がすぐにわかる方が嬉しいしやりがいもある。
「枝豆うまー! ビールが進む進む」
 シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)は、もはや働いてすらいなかった。もはや決闘の結果は決まりつつある。一足先に祝杯を挙げても誰も文句は言わなかった。
「特命教師たち、違法農薬まで使って頑張ってたが、結局俺たちに追いつけなかったな」
 夏侯 淵(かこう・えん)は、今や対抗意識も薄れ優しい気持ちで、離れた耕地を眺めていた。
 写楽斎たちの一団も、全員団結して懸命に農作業を続けていたが、ようやく育ち始めた苗木に花が咲き実がつこうかという進み具合だった。
 淵たちは、もう収穫を終えて、モヒカンたちが遥か彼方に開墾して第二第三の畑を作り始めようかというところだ。
 このままでは差が開く一方だ。向こう側も決定的な打開策もなくこのまま勝負を続けていても不毛なだけだった。いや、荒野が畑になるのは大きな成果だが、決闘が目的なのでオーバーキルしても意味がない。
「ありがとうね。助かりまくりだわ」
 真理子は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とパンと手を叩きあった。
「お安い御用よ。収穫した穀物類は、もちろん捨てずにみんなで食べてそれでも余ったら配りましょ」
 モヒカンたちも、もう種もみを争ってヒャッハー! する必要もなくなるだろう。荒野に平和が訪れそうだった。
「では、勝負はここまでということで、いいだろうか」
 結局最後まで一人の欠員もなく付き合ってくれていた決闘委員会のお面モヒカンたちも、成果に驚きながら称えてくれているようだった。
「あんたたちもお疲れ様。私のわがままに付き合ってくれてありがとうね」
 真理子は素直にお面モヒカンに礼を言った。
「うむ、では真理子殿のチームの勝ちということで判定させてもらおう」
 お面モヒカンが判定を下そうとした時だった。
「いや、まだじゃよ。逆転の可能性が残されておる」
 野菜の積み上げられた山の裏から、見覚えのあるサルが顔を出した。
 生駒たちが苦労して収穫した穀物と野菜類を目いっぱい、拾った袋に詰め両手に抱え、口にほおばっている。
 生駒のパートナージョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は、もぐもぐと生野菜をおいしそうに頬張りながら言った。姿は猿だが、彼は太古の類人猿の英霊で人間語を喋れるのだ。
「わしがここの収穫物を全て食べれば、向こうの勝ちじゃ。ちょっと待っておれ、片づけてやるからのう。……もぐもぐ」
「……」
 生駒は半眼でその光景を見ていた。しばらく姿を見なかったと思ったら、野生化してこんなところにいたとは。
「生きてたんだ、猿」
「でも見てみ、あっさりと捕まってるで」
 シーニーの言う通り、ジョージはあっという間に決闘委員会のお面モヒカンに両脇を抱えられ、どこかへと運ばれていこうとしていた。もちろん、盗んでいた収穫物は全て没収だ。
「うわ待てなにをすr」
「ヒャッハー! 喋る猿だぜ。おもしれー」
 そこへ、手伝っていたモヒカンたちが群がってきて散々いじり始めた。
「オラオラ、野菜好きなんだろ。きゅうりやニンジンをケツにでも差し込んでやるぜ。たっぷり味わえや。ヒャッハー!」
「キキキキィィィ〜〜! ウキキーーーーッッ!」
 後ろの貞操の危機にジョージは真剣に生駒たちに助けを求めた。彼の【殺気看破】のスキルが最大限に危機を伝えている。
「ああっ!?」
 生駒は思わず顔を両手で隠した。指の隙間からちょっと見ていると、今まさに極太ニンジンがエライことに突き立ったところだった。
「アッーーーーーーーーーー!」
「ヒャッハー! いい声で鳴きやがるぜ!」
「キキキーーーーッッ!」
 太古の類人猿はこうして、人類最初の経験をしたようだった。盗みの代償としてはあまりにも大きな試練。彼はこれからも成長していくだろう。 
 成長しても猿だけど。
「あれ、助けんでええんか?」
 つまみを食べながら、シーニーは他人事のように言う。こういう事件が起こるところがパラ実の恐ろしいところだ。
「ここは見て見ぬふりをすべきだね」
 生駒はいい顔で言った。色々と知り合いだと思われたくなかった。
 無茶しやがって、と彼方の空へ向かって敬礼しておく。
「ウキキウキキキキィィ」
 やがて、ジョージはモヒカンたちに連れられてどこかへ行ってしまった。
 次に会った時にはモヒカン猿になっていることだろう。逞しく生きてほしいと思う……。
「え〜、では改めて」
 お面モヒカンは何事もなかったようにスルーしていた。
「真理子殿チームの勝ちということで勝負は決着とさせてもらう」 
 勝負は思っていた以上にあっけなくつき、他のお面モヒカンが写楽斎の側にも結果を伝えに行った。
「もうやめましょ。これ以上は無意味よ」
 真理子は勝ち誇った顔で写楽斎に告げた。
「……」
 彼らは、抵抗してくるかと思ったが、意外と素直に結果を受け入れ、全員ががっくりとうなだれた。かなり疲れていてやめたかったようだった。
「約束よね。三か月くらい地下教室で勉強して大人しくしていなさい」
「……」
 写楽斎は、無言でメンバーの解散を支持するとゆっくりと歩き始めた。それに決闘員会のお面モヒカンたちがついていく形で連行ということになった。
「くくく……」
 農場を離れながら、彼は真理子たちに気づかれずに薄い笑みを浮かべていた。負け惜しみではなかった。確かに、敗れたのは腹立たしいが、彼は別の場所で成果を上げていたのだ。すぐに何があったのかわかることになるだろう。
 写楽斎は決闘に敗れて去って行った。
「ねえ、ルカルカ。お礼にいいもの見せてあげるわ」
 写楽斎を見送った真理子は、振り返ってにんまりと笑った。
 少し離れた所に置いてあった箱から、小さな植木鉢に植えられた小さな苗木を取り出して見せる。
「これが、例の『知能を持った樹木』の苗なのね」
 見たこともない植物だった。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は興味を持つだろう。
 だが、ダリルは今その場にいなかった。ゲルバッキーと一緒にまた散歩していたのだ。
「だが、ただの散歩じゃないだな。息子よわかるか?」
 離れた所で地面の匂いを嗅ぎながら何かを探していたゲルバッキーは、ダリルに言った。
「ああ、これが真理子が言っていた魔法の土壌か。ここに例の樹木を植えると大きく育って世界の知能を全て吸収する」
 ダリルは土を手で触っていたが、あまり興味はなさそうだった。知的好奇心以前に、その俗っぽい欲望について。
 特命教師たちは、樹木と土壌を手に入れることにより世界中の知識を独占しようとしていたのだ。だが、二人にとってはどうでもよかった。
「わからないこともあるから世界は面白い。そうだろ、父よ」
「全くだ、息子よ。全知全能なんてつまらないと思うぞ」
 ダリルとゲルバッキーは顔を見合わせてひとしきり笑った後、土壌を埋め直しその存在を忘れることにした。
「こちらも、まだ苗で可哀想だけど処分するわね」
 真理子は、『知能を持った樹木』の鉢を地面に叩きつけ粉砕していた。ルカルカも特に何ら感銘を抱くことはなかった。
 陳腐な野望が一つ消えただけのことだ。
「さあ、みんな。腹いっぱい食べたら帰るわよ!」
「ヒャッハー!」
 ルカルカの掛け声にモヒカンたちも、歓声を上げる。
 この後は、みんなでお祭りだ。
 そう、決闘は終わったのだった。

 かくして、真の秘密はほとんどの人に知られることのないまま、農場での勝負は幕を下ろすことになる。
「ウキキキー! ヒャッハー!」
 謎のモヒカン猿の雄叫びを遠くに聞きながら……。