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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【エピローグ――昇る陽、沈む影】


「じゃあ、何か?さっきの嬢ちゃんが一人で全部やらかしたってのか」

 思わず武尊が眉を寄せたが、そこまでは知らん、と回るカメラの前でヴァジラは鼻を鳴らした。主犯と見られる少女は取り逃がしたものの、救出に成功したヴァジラに事情を尋ねていたのたが、彼にしてみても移送中からこの部屋に拘束されるまでの間以外のことは判らないようだった。少なくとも少女と同等かそれ以上の立場にあると思しき存在は、見ていないとのことだ。
「移送隊を襲った者達は黒いローブを着ていたのでな、何者かは判らんが人数は四人。手練れだ。移送担当官どもが反応する間もなかったからな」
「彼等はヴァジラの配下だと名乗ったようですが」
 鉄心が問うと、馬鹿にしたようにヴァジラは口元を歪ませて笑う。
「余は一人だ。仲間だの何だの、存在するはずが無かろうが」
「ぶぁーか!」
「そんなことありませんっ」
 途端、アキラとティーが声を上げ、ヴァジラが軽く目を瞬かせた所で「違うだろう?」と優が笑いかけた。
「確かに配下は居ないのかもしれないが、仲間なら……友なら、ここにいるだろう?」
 ヴァジラがは黙っていたが、構わずに零が微笑みかけた。
「今はもう、一人なんかじゃ無いですよ」
「……フン」
 投げかけられる言葉にヴァジラは忌々しげに顔を顰めたが、反論してこないところを見ると、解りづらいが満更でもないと言うことなのだろう。
「ツンデレだよねえ」
 美羽がぼそりと呟いた瞬間のヴァジラの表情たるや、苦虫を噛み潰して更に飲み込んだような酷い顔だったので、その様子に表情を緩めながら、これ以上機嫌損ねる前に、と刀真は「それなら」と一旦話を戻した。
「何か、何でもいい。この事件を起こした相手に、心当たりは無いか?」
 その問いに、ヴァジラは僅かに眉を寄せると「貴様等も察しはついているだろう」と吐き出した。
「あの女は、余と同類だ。あの薬はブリアレオスと同期できる細胞以外には反応しないのでな……だが」
 ふとその目を鋭くさせて、ヴァジラは続ける。
「ウゲンは言った。実験は白紙に戻すと。アールキングは言った。生き残っていたのは余だけだと。奴らがそう言ったからには、あれは余の前に生まれ損なって廃棄された屍に相違あるまい」
 その言葉に何人かが複雑な顔をする中、ヴァジラはくく、と喉を震わせ「面白いな」と笑う。
「奴らの目的は知らん。あの女に力を貸している輩は、帝国とシャンバラに戦争でもさせたいようなそぶりだったが、それはただの手段でしかないだろう。少なくとも、あの女の中には憎悪しかなかった」
「憎悪……?」
 首を傾げる一同の気配に、ヴァジラは頷いた。
「覚えのある感覚だ。無駄に生まれ無駄に死ぬ――そんな理不尽さへの憎悪。恐らく目的など何も無いのだろうよ。ただ憎悪を吐き出せれば良い……そのために手を組んだのか、利用されたかまでは知らんがな」
 言いながら、僅かに苦くなる表情にティーが心配げに眉を寄せる。少女の境遇はヴァジラと同じだ。恐らくその憎悪も、そして絶望もヴァジラには理解できるのだろう。
 そんな重くなった空気を破るように「とにかく」とセルウスが口を開いた。
「ヴァジラが犯人じゃない、ってことは判ったし、そっから先はこれから調べることだよね」
「貴様、わざわざそんなことを確認しに来たのか? 暇なことだ」
 その言葉にヴァジラが鼻を鳴らすのに、セルウスはむすりと口を尖らせた。
「馬鹿言うなよ。確認するまでもなく、おまえが犯人じゃないことぐらいわかってたさ」
「じゃあ何だ、そこの者共のように「助けに来た」とでも言うつもりか、気色の悪い」
 ヴァジラが心底嫌そうな顔をしたのに、セルウスはふん、と鼻を鳴らす。
「そんなわけないだろ。誰がお前なんか助けに来るもんか。オレは、皇帝の役目としてきたんだよ」
「え」
「あれ?」
 アキラ達が意外そうな声を上げる中「ほう」とヴァジラの顔は皮肉気に歪んだ。
「扱いに難儀する大罪人が都合良くしでかしたと、処分しに来たか」
 馬鹿にしたような物言いだが、相変わらずどこか投げやりなのに、あのなぁとアキラが言い掛けるのを遮って、セルウスは頷いた。
「そうだよ。オレはお前に処分を下しに来たんだ」
 セルウスらしくない言葉に、一同は僅かに顔色を変えた。
 そう、姿や態度こそ大して変わって見えなくとも、この少年は最早大国を背負う皇帝なのだ。キリアナが僅かに姿勢を正して騎士らしく半歩後ろに添う中、面白がるような、そのくせ諦めきったような顔で沙汰を待つヴァジラに、各々は複雑な表情を浮かべ声を飲んだ。言いたいことはある。けれどここはエリュシオンであり、ヴァジラの問題はこの国の問題だ。冷たい室内の温度を更に下げてたセルウスは意外なほど威厳を宿した声で「荒野の王、ヴァジラに、皇帝セルウスが命ずる」と口を開いた。
「アールキングに荷担し、選帝の儀を汚して世界樹ユグドラシルに甚大なる被害を与えたことは、赦されざる大罪である」
 思いのほか冷たい声に、さっとティーが顔色を変える中で、セルウスは続ける。
「……だが、先代崩御の前後、帝国への貢献と功績のあるのも事実である。また、帝国内にも根強い人気を有し、友好国シャンバラにも、処刑へ反対する声があることから、世論的に双方の関係悪化を防ぐためにも、極刑の適用には及ばないとの意見も多い。一方で、保守派や過激派を、反セルウス派閥として結託させる旗頭になりかねず、監獄に移送中すらこのような事件を生むようでは、最早国内に置くは危険であると判断せざるを得ない」
「……?」
 つらつらと語られていく言葉が次第に妙な流れになるのに、ヴァジラが眉を寄せ、察した者達の口元が奇妙に歪む。果たして、先程までの真剣な様子はどこへやら、セルウスは悪戯小僧のようににんまりと笑った。
「そこで我がエリュシオン帝国は、シャンバラとの新たな絆の礎として務める事で彼の汚名返上、並びに大罪の相殺を図らんとするものである」
 そこで漸くヴァジラが気付いて「おい、待て」と咎めるように眉を寄せたが、もう遅い。
「よって、皇帝セルウスの名において、荒野の王ヴァジラを、シャンバラへの特別留学を命ずる。 ただし、その自由と権利はシャンバラに預けるものであり、キリアナ・マクシモーヴァをその監視と護衛につけるものとする」
「貴様……っ!!」
 ヴァジラが噛みつくように吼えたが、無駄だ。キリアナも既に承知していたのかしれっとしており、にまにまと笑うセルウスに、かつては教師役でもあった祥子は感心したように目を瞬かせ、内緒話のように声を潜めた。
「随分、皇帝らしい物言いが出来るようになったじゃない」
 その言葉に、セルウスはへへ、と嬉しげにしたが、佳奈子はじいっとその顔を見て、祥子と同じようにこそっと口を開いた。
「本当に、自分で考えたの?さっきの」
「うん、もちろん…………まぁ台詞を考えたのは、ドミトリエなんだけどね」
「やっぱり」
 佳奈子が笑うのに「ともかく」とセルウスは誤魔化すように咳き込んでからヴァジラに向き直ると、僅かにだけ目を眇めると、ごく小さい声が「オレはお前を許したわけじゃないけど、憎んでるわけじゃない」と言った。
「ヴァジラはさ、オレが本当にお願いしたいこと、わかってるハズだよな」
「……」
 ヴァジラは答えないが、セルウスは構わず続ける。
「オレは帝国を出るわけにはいかない。だから……頼んだからな」
「…………チッ」
 ヴァジラは盛大に舌打ちしたが、それ以上は何も言わず、ティーや美羽が顔を見合わせて笑うと、アキラが歓迎の合図とばかりにその肩を叩いたのだった。


「なるほどね、ティアラの言ってたことはこういうことか?」
 そんな彼らを遠巻きにしながら、武尊が呟いた。
 どこまでがセルウスが考えたものだかは判らないが、これでセルウスのジェルジンスク監獄来訪は、ヴァジラの沙汰を告げるための公式訪問という結果になる。キリアナも伴っている上、契約者たちの存在は、その引渡しのための人員という言い訳にも使えるだろう。勿論、少女を取り逃がしたこと以外が成功に終わっているからこそ成り立つ結果ではあるが。
 息をつきながらも、ランドゥスが貴賓室の機能を変更し、通信が可能となった室内から、テレパシーで武尊がティアラへ報告を送っていたのと同じく、漸く動くようになった各通信手段で、白竜が各地の仲間と情報交換を行っている中、室内をふと見回し、羅儀は首を傾げた。
「……あれ、大尉は?」
「先程、出て行かはりました。何や随分急いではったみたいやけど」
 キリアナが言うのに、何か事態が動いたのだろうかと、白竜は眉を寄せたが、直ぐに事後処理のどたばたに飲まれて行ったのだった。




 それは、事件終了後から十数時間経過後のことだった。


「よりによってと言うか、やっぱりと言うか……」
 呟く氏無の苦い顔に、アーグラもその表情を曇らせながら「ここで間違いはないのか」と話題を逸らした。
「うん、風森くんがイルミンスールへ帰らせた機晶妖精の記録と、壱姫からの通信が途絶えたのもこのへんだ」
 氏無は頷いて地図にぐるりと円を書き加えると、はぁと大袈裟に溜め息を吐き出した。
「しかしまぁ、何だってキミが来るんだい」
 二人がいたのは、世界樹ユグドラシルの足元、帝都の入り口付近にある小さな小屋だ。一種の隠れ家のようなものだが、本来は彼らの部下達が使っている建物であり、特に第三龍騎士団長などという立場の人物が来るような場所ではない。従騎士で十分なのに、と口を尖らせる氏無に「お前には言われたくないな」とアーグラは鼻を鳴らした。
「お前が出てくる以上、こちら側も私が出て来ざるを得ない」
「ボクは大尉だもん。パシりだもん。現場にいるのが相応だもん。キミとは大違いなんだよ。確かに会っておきたがってる契約者がいるとは言ったけど、だからってほいほい出てくるんじゃないよ。弁えなよ、全くもう」 
 わざとらしい嫌そうな顔とその物言いにじとりとアーグラが氏無を見やって口を開きかけた、その時だ。
「私には寧ろ有りがたいですがね。こうしてお二人に揃って頂けるのは」
 笑うような声と共に、どこから入り込んだのか一人の少年が入り口に立っていた。アーグラが眉を寄せる中、氏無の周りがぴり、と空気を変える。
 ルースの撮った映像に映っていた、イルミンスールを襲った死霊使いの少年ピュグマリオン。氏無は卓上の地図をとっさに燃やして、数名へ向けてテレパシーを飛ばしながら、ぞろりと少年の後ろから入ってくる黒いローブの一団に唇を引き上げた。どうやら小屋に仕掛けてあった罠の類は解除されてしまっている。それはつまり、今は逆に自分たちが檻の中にいると言うことだ。不利をひしと感じながらも、氏無の口元は笑みを崩さない。
「残念だけど、その姿がキミだってことはもう分かって……」
「でしょうね。では、これは?」
 氏無が言いかけた言葉を遮り、少年が首をかしげたのと、同時。控えていたアンデッド達が前へ出ながら一斉にローブを脱ぎ捨てた。が、それが翻り終えるか否かと言う間に、距離を詰めた氏無の刀がその胴へ容赦なく突き込まれていた。手応えはあった。破魔の力を付した刀は、例え元となった屍が誰であろうと――ルース達の映像でそれが誰かは氏無には判っていたが――確実に消し炭にするはずだった。だが。
「ハルオミ!」
 アーグラの叫びが響く。部屋の奥にいた別のアンデッドの槍が、ローブを脱いだ女性の背後から、その体ごと氏無を貫いたのだ。咄嗟に身体をひねったものの、胴を抉られて氏無が傾ぐ中、しぐれの声は「相変わらずですね隊長」と笑った。
「親愛する相手が傀儡となっている可能性を知りながらの一刀両断とは――判っていたんでしょう? 彼らがあなたの、そして私のかつての仲間だと」
 氏無は答えないが、返答など無くても判っていると言いたげに少年の声は楽しげに続ける。
「自分が最も嫌う事を仕掛けてくるだろう。あなたがそう想定して対応することは予測の範囲内でした。冷静で冷徹であろうとするほど、必ず一瞬、思考を感情が阻害する……あなたのその用心深さと容赦のなさこそが、あなたを追い詰める」
 低く愉悦の混ざる声がし、ガシャガシャと鉄の擦れる音がする。どろりと赤い血の匂いが刺激する苦い記憶が、アーグラへ苦い顔をさせているのが判って、氏無はその視線がこちらを向いた瞬間に、唇だけで言葉を刻み、薄く口角を引き上げた。

 それに気付いているのかいないのか、龍騎士たちの槍を、倒れた氏無の身体突きつけながら、に少年は大袈裟に両手を開いて見せた。

「さぁ、お二人をご案内しますよ。古き悪遺の身許へね」



第二回へ続く


担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加された皆さま、大変お疲れ様でした
第一回ということで、多彩なアクションが出揃いまして盛りだくさんな結果となりました
既になんだか複雑になってきておりますが、あれこれと散乱する情報に惑わされずに
真っ直ぐ挑んでいただけたら、それが正解ではないかと思います
(とは言え、こういう色々な個性的なアクションを拝見させていただくのも
 マスターとしましては楽しみの一つではあるのですが)

さて、今回の結果についてですが下記の通りとなっており、次回へと影響していきます
各結果の理由詳細、情報などはマスターページで説明予定です

■エリュシオン帝国
・ブリアレオス停止(ほぼ全壊)
・監獄内制圧成功
・ヴァジラ開放成功
・少女確保失敗
・他の誘拐事件の発覚(未公表)

■イルミンスール
・ナナシの保護成功
・敵捕獲・討伐無し
・ディミトリアス残留(事後処理と隠ぺい工作)
・クローディス誘拐
・以下:今回誘拐された方となります(敬称略)
※8/4追記
リリ・スノーウォーカー
早川 呼雪
ヘル・ラージャ
遠野 歌菜
ジェニファ・モルガン
マーク・モルガン
グラキエス・エンドロア
ベルク・ウェルナート
ジブリール・ティラ
風森 望


※注意事項

▽誘拐された方
今回誘拐された方は、次回は誘拐された時点からの開始となります
(こちらでMC、LCが分かれた方に限り、次回2パートでのアクションが可能です)
尚、テレパシーや通信機といった類は無効となる場所のため
イルミンスールからの転移後の情報は他への開示は不可能です



ところで、今回の判定について、普段は個別にて対応させていただいております件について
この度はやや目立ったように思いましたため、あらためてご案内させていただきます
(下記以外の判定については、お手数ですがリアクション中にてご確認ください)

1:ダブルアクション
今回一番多く見られたのがダブルアクションです
逆凪のシナリオでは基本的に目的・場所をまたぐアクション、MC、LCの別行動は、ガイド中可能とされていない場合ダブルアクションとなります
禁止しているわけではありませんが、推奨されておらず、最悪の場合不採用になる危険性もございます
目的と行動の継続性がないものは特に厳しく判定させていただいておりますので、次回以降ご注意いただけたらと思います
※特にパート間の移動については、ガイドでも記載しておりますとおり、不採用率が非常に高くなっており、アクションによっては移動しましたの一言で終わる可能性があります
※今回誘拐されたことでMCとLCが別れている方については次回条件付でダブルアクションが可能となります

2:ガイド外アクション
今までの逆凪のシナリオ同様、選択できるパートに【その他】を設けさせていただいておりますが、ガイド中にも明記しております通り、難易度の問題ではなく、シナリオ上関係があるかないかというポイントでの判定のため、失敗となる可能性の非常に高いパートとなっておりました
また、ガイドで登場していないNPCへのアクションについては、公平性をきすため、アクションの善し悪しに関係なく、通常のシナリオと同じように不採用対象させていただいております
また、ガイドに公開されている以前の状況をアクションに描かれている場合、シナリオ上、問題でない場合は採用させていただきますが、場合によっては不採用となりますのでご注意ください



色々と細かく注意させていただくようで申し訳有りませんが
正直、アクションそのものは面白く、よく考えられているなあと思うものが多くて、勿体無いです
できる限り、本来のアクション判定以外の部分で不採用となる事態は、回避していただきたく思います
皆様のご協力をよろしくお願いいたします

それでは次回、よろしくお付き合いいただければ幸いでございます