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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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第五章  秘密兵器

「やっとハデスのバカがいなくなったわね!出番よハーティオン!今度こそ、魔神を封印するのよ!」
「任せろ鈿女!ドラゴ・ハーティオン、出るぞ!!」

 既に龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)との合体を済ませ、ドラゴ・ハーティオンとなったコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)を乗せた、{ICN0003993#龍帝機キングドラグーン}は、フワリと浮き上がると、米海軍の基地から、勢い良く発進していく。

 
 行き先は、溶岩流のまっただ中。魔神の力の源となっている、火山があると思われる場所である。
 魔神を氷漬けにしつつある仲間達の上空を通り過ぎ、キングドラグーンは、あっという間に溶岩地帯に着く。
 そこには既に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)白姫岳の精 白姫(しろひめだけのせい・しろひめ)の乗った翔龍が待っていた。

「待たせたな。魔神封印の秘密兵器、持ってきたぞ」

 ハーティオンは、キングドラグーンの背に積まれた要石を、ポン、と叩く。
 それは、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)博士を中心に、緒方 コタロー(おがた・こたろう)忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)といった技術者達が、突貫作業で作り上げた、特殊な要石だ。

 北嶺(ほくれい)白峰(白峰)から、大沼沢地の入り口までは、既に『力の道』は完成している。
 この道は、地中の特殊な地層を利用して作られたものだが、大沼沢地は既に溶岩で覆われており、地中に『道』を開設する事は不可能だ。ならば、空中に『道』を通せば良いのではないか――。そんなアイディアから、この作戦は生まれた。

 大沼沢地に一番近いところに、特殊な加工を施した人工要石を設置する。
 この要石は、ちょうどビーム砲の様に、道から送られてきた『白峰輝姫(しらみねのてるひめ)』の氷の力を収束して放出する事が出来るよう、改造が施されている。
 いわば、大出力の冷凍ビーム砲だ。
 この要石から放出されたエネルギーを、キングドラグーンに積まれたもう一つの大出力冷凍ビーム砲で受け取り、キングドラグーンとドラゴ・ハーティオンの動力を用いて増幅すると共に方向を修正して、魔神の力の源である火山を凍りつかせようと言うのだ。
 力の供給を封じてしまえば、魔神は再生能力を失い、倒す事が可能になる。
 また、沼沢地で起こっている火山活動は、自然発生的に起こったものではなく、魔神によって引き起こされたものであるから、魔神さえ倒してしまえば、また活動を始める心配も無い、という訳だ。
 一見、机上の空論にも思える話だが、実はこの理論、火山の地祇である白姫岳の精 白姫(しろひめだけのせい・しろひめ)が、太鼓判を押している。


 話は、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が、皆にアイディアを求めた時に遡る。
 この『冷凍ビーム砲作戦』の案が出た時、問題になったのは、冷凍ビーム砲は、せいぜいもって数十分であり、長期間の使用には耐えられない事だった。
 例え一時的に火山活動を止め、魔神を倒したとしても、白峰輝姫の力の通る『道』が再生できなければ、いずれまた火山は活動を開始し、魔神も復活してしまう。
 しかし、一旦高熱にされされ、破壊された大沼沢地の地脈は、再生することは不可能である。
 そうなると要石だけでなく、地脈も、同じ組成の物質で作ったケーブルを地下に埋め込むなどして、人工的に作らなければならないが、それには数十日という時間が必要になる。

 再び、皆が頭を抱えて始めたその時、それまでひたすら退屈そうにしていた白姫が、急に話し始めたのだった。


「元々、この島には、白姫岳(しらひめだけ)金冠岳(きんかんだけ)という、2つの火山しかなかったのじゃ。今沼地にあるあの火山は、2つの火山を切り離されて力の源を失った魔神が、自分の力で掘ったモノ。じゃから魔神を倒せば、もう勝手に湧き出す事はないのじゃ」

 驚く一同を前に、得意気に話を続ける白姫。

「前に魔神を説得しに言った時、何の反応もなかったであろ?あれでわかったのじゃ。あの魔神は、地祇ではないとな。あれが地祇でないなら、そもそもここに火山は無い。そこで気付いたんじゃ。あの火山は、魔神が自分で作り出したモノじゃと」

 理路整然と語る白姫に、目を白黒させるエヴァルト。

「……白姫。お前、なんか悪いモンでも喰ったか?」
「どういう意味じゃ!!」

 このあと、お決まりのケンカ(というか白姫がエヴァルトに一方的にあしらわれているだけ)がひとしきりあったりした訳だが――。

 ともかくも白姫の発言が保証となって、『冷凍ビーム砲作戦』は実施に移されたのだった。


「火山は、この下じゃ」

 白姫が、真下を指差す。
 ハーティオンにもエヴァルトにもただの溶岩の海にしか見えないが、この下に火山があるは間違いないという。

「ここだな。分かった」

 ハーティオンが翔龍直下の溶岩に照準を定めると、キングドラグーンの背に積まれていた特殊要石が自動的に稼働し、機体の下部に移動する。
 ちょうど、キングドラグーンに吊り下げられるような形だ。
 さらに自動制御で上下に何回か旋回を繰り返す要石。
 その動きが止まると、今度はそこから細いレーザーを照射が北へ向けて照射される。 
 その方向に、もう一つの特殊要石があるのだ。
 

「こちらハーティオン。照準を固定した」
『了解。こちらの要石を起動する』

 通信の相手は、さんぜんねこスーツ水戦特化仕様に乗るクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)だ。
 もう一つの特殊要石の制御は、クリストファーが行っている。

『照準用レーザーを確認。回路を開くぞ』
「了解――回路解放!いつでもこい!」
『回路、解放』

 ハーティオンがそう返事を返した直後、照準用レーザーを上書きするように、真っ白い氷の柱が、キングドラグーン目がけてすごい早さで宙を突き進む。

 特殊要石から発射された白峰輝姫の氷の力が、大気中の水分を一瞬で凍らせているのだ。
 氷の柱は、キングドラグーンの要石に、過たずに吸い込まれる。
 直後、より一層太さをました氷の柱が、今度は溶岩の海へと吸い込まれていき――物凄い爆風と爆音、それに水蒸気が、辺りを包んだ。
 溶岩が、一気に冷やされているのだ。
 広大な溶岩の海の表面が、瞬く間に白い氷に覆われていく。

「す、スゴイ――……」

 エヴァルトは、火山が一瞬で凍り付いていく様を、驚きをもって見つめた。

「良いぞ、ハーティオン!もう少しじゃ!」
「よし、これでトドメだ!出力120%!必殺、ホワイトブライトキャノン!!」

 謎の技名と共に、より一層太くなった氷の柱が、まるでつららのように、地中へと突き刺さる。
 その途端、激しい揺れと地鳴りが辺りを襲った。

「やったか……!」
「やったぞ、ハーティオン!もう火山は根っこまで凍りついておる!これで、魔神を倒せるぞ!」
「こちらエヴァルト!冷凍ビーム作戦は成功だ!一気に、魔神にトドメをさせ!」
『了解だ。ラグナロク砲、発射!』

 既に皆の氷結攻撃により身動きの取れなくなっていた魔神は、巨大なビームに包まれ、沼地の水と共に蒸発して消えた。

 それは、無敵とまで思われた炎の魔神の、余りに呆気無い最期だった。


「プリンが……。僕のプリン発電所の夢が……」
「それを言うなら、地熱発電所では無いですか?いえ、風力発電所でしたっけ?」

 すっかり冷え固まり、分厚い火成岩の荒野と化したかつての溶岩の海の中央で、魔王 ベリアル(まおう・べりある)は一人、悔し涙を流していた。
 
「どっちでもいいよ……。もう、発電なんて出来ないんだから……」

 ベリアルは、四州島に冷製プリンを広めるため、魔神の火山を利用した発電所を建設して電力の供給を確保し、プリン作製に必須となる冷蔵庫を普及させてようと、密かに画策していたのである。
 しかし魔神が滅び、火山も完全に沈静化させられ、その夢も完全に絶たれてしまった。
 もはや、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)のツッコミも聞こえないくらい、落ち込んでしまっている。


「どうしたのじゃ?」

 白姫岳の精 白姫(しろひめだけのせい・しろひめ)が、二人に声をかけた。
 何も無い荒野のど真ん中で何をしているのか、気になって様子を観に来たらしい。
 向こうの方では、駐機した翔龍の前で、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が手持ち無沙汰に白姫を待っている。

「実は――」

 綾瀬は、ベリアルの涙の理由を話して聞かせた。

「なんじゃ。そんなコトで泣いておったのか」
「そんなコトってなんだよ!キミとってはどうでもいいコトかもしれないけど、僕にとっては大切なコトなんだよ!!」

 目に涙を一杯溜めたベリアルが、白姫に喰って掛かる。

「要するに、火山が湧けば良いのであろ?」
「え……?『火山が湧けば』って……。もしかして、出来るの……?」
「わらわを誰だと思っておる。恐れ多くも畏くも、白姫岳の地祇じゃぞ。この地の下には、まだ火山が眠っておるし、わらわがちょっと刺激を与えれば、火山の一つや二つ、すぐに湧き出すわ」
「でも白姫様?迂闊に火山を活性化させては、また魔神が復活してしまうのではないのですか?」
「もちろん、今はまだダメじゃ。じゃが、魔神を異界に追い返すなり、もう一度封印するなりしてからなら、問題ないであろ?」
「そ、それじゃあ――」
「ま、その辺りのコトはわらわは良くわからんから、五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)にでも相談するんじゃな。それが済んだら、幾らでも湧かしてやるわ」
「あ、アリガトー!!」

 両の目から涙をボロボロこぼしながら、白姫に抱きつくベリアル。

「こ、コラ!やめるのじゃ!まずは鼻水を噛め、鼻水を!!」
「フフ……。良かったですね、ベリアル」
「ちっとも良くない!」

 すっかり『良い話』な雰囲気になっている綾瀬に、文句を言う白姫。
 ともかくも、ベリアルの夢は、首の皮一枚でつながったのであった。



「樹ちゃん、やったよ!みんなが、魔神を倒したよ!!」
「何だと、章!それは本当か!?」
「本当ですか、それ!やったー!」
「マジか、章……って、ふ、フレイ!?」

 大沼沢地の北縁に作られた、難民キャンプ。
 その本部に飛び込んできた緒方 章(おがた・あきら)の言葉に、緒方 樹(おがた・いつき)は信じられないという顔をし、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に抱きついて喜び、そしてベルクは顔を真っ赤にしてドキマギした。

 魔神の復活によって、次々と溶岩の海に変えられていった大沼沢地。
 その沼地で暮らしていた人々の多くが、生活の場を追われた。
 魔神への対応に手一杯の南濘藩は難民の保護にまで手が回らず、彼等は難民となって各地を彷徨った。
 その惨状を伝え聞いた樹は、取るものも取り敢えず南濘に駆けつけ、難民キャンプを開いたのだった。
 まずは《根回し》で、米軍基地に遺棄されていた軍需物資を調達。
 当座必要な食糧や、テント・毛布・医療品などを確保すると、その管理をベルクに押し付け、自身はフレンディスと共に各地に散らばる難民を拾って回った。
 《医学》や《応急手当》の心得のある章は医者として働き、難民の診療や体調管理に尽力した。
 樹はさらに東野の御上 真之介(みかみ・しんのすけ)にも協力を要請し、早くも翌日には少ないながらも人員と物資が到着して、何とか難民全員がしばらく生活出来るだけの環境を整える事が出来た。
 その矢先の『魔神撃滅』の報である。
 樹達はもちろん、難民たちも大喜びし、その日は一日お祭り騒ぎとなった。


 夜になっても続く難民達のパーティーから、少し離れた所で、彼等を見つめている樹。
 その樹の隣には、章が座っている。

「みんな、とっても嬉しそうだね」
「ああ、そうだな」
「樹ちゃんは、みんなと踊らないの?」
「私は、踊りはいい。気分が高揚してくると、つい歌いたくなってしまうからな」

 最近ようやく、自分の歌が『兵器』であるという自覚の出てきた樹である。

「そっか……。樹ちゃんも、大変だね」

 苦笑しながら、踊りの輪を見つめる章。
 難民達に混じって、フレンディスとベルクが踊っている。
 元々踊りの心得があり、あっという間に難民達の踊りをマスターしてしまったがフレンディスに対し、ベルクはついていくのがやっとという所だが、それでもフレンディスと思う存分触れ合える状況に、ベルクも充分嬉しそうだ。

「でも偉いね、樹ちゃんは」
「偉い?私がか?」
「そうだよ。たった2日で、こんな立派なキャンプ作っちゃって。難民対策のプロだって、きっとこうは行かないよ」
「そう褒められてもな。私はただ単に、『これ以上取り残された人を見たくないという』一心でやったまでの事。自己満足の為にやっただけだからな」
「樹ちゃんは、孤児さんだったから。ほっとけないんだね、きっと」
「かも、しれないな」
「そういう、困っている人がいるとほっとけない所とか、好きなんだけどさ」

 さらり、と章の口をついて出た言葉に、樹の顔がみるみる紅くなる。

「な……!?こ、こんな非常時に何を言っているのだバカモノーー!」

 ゴフゥ!
 照れ隠しに思わず突き出した樹の右拳が、過たず章のアゴを捉える。

「い、樹ちゃん……」

 バタッ!

「ん!?お、おい!しっかりしろ章っ!だ、誰か医者を!忍び娘、黒いの!医者だ、早く医者を!!」

 いくら呼べと叫べと、このキャンプにいる医者は章ただ一人。
 取り敢えず応急手当を受けた章は、しばらく安静にしている事になった。

「スマン、章……」
「だ、大丈夫……。僕、樹ちゃんのそういう所も、キライじゃないから……」
「オマエというヤツは、怪我人の癖に一体何をーー!」

 ボグッ!

「ああ!ま、またやってしまった!誰か、誰かーーー!!」

 結局この夜、章がベッドから起き上がる事は無かった。