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空のみやこに火花咲く

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空のみやこに火花咲く

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第6章 結末の意味


 ナイトセレーネ・ラノス(せれーね・らのす)は、ゆるパーク内の巡回を続けていた。
 可愛いゆる族を守りたい、という思いでセレーネはパークを見回る。
 挙動不審な者はいないか、特にゆる族のチャックをじっと見ている者はいないか。バッグなどの荷物を持ったまま無駄に周囲を見回している者はいないか。
 そして、誰の物か分からない怪しい荷物が置かれていないかを見て回る。
 セレーネは角を曲がるなり、不自然に廊下の真ん中に置かれたバッグに気づく。よくありそうな黒い布製のスポーツバッグだ。彼女は近くにいた親子連れに聞いた。
「すみません。あのバッグはお客様のバッグですか?」
「え? 知らないわよ。……変ね。あんな物、いつ置かれたのかしら?」
 客の言葉にセレーネは異変を感じ取る。
「あなたはずっとここにいたんですか? バッグがあったのには、今まで気づかなかったんですね?」
「ええ。二十分くらい前に、私がここに来た時はあんなバッグは無かったハズよ。ウチの子供たちが騒いでうるさかったけど、いくらなんでも前を人が通ったら気づくはずよね。なんだか気持ち悪いわ」
 客は不安そうにバッグを見て言った。
 セレーネはその親子連れに避難を促すと、バッグに慎重に近づいた。かすかにカチカチと、何かが時を刻む音がする。
 彼女は携帯電話で、他の警備者たちに状況を伝えた。
 すぐさま非常線が張られ、ゆるパーク内にいる観光客の避難誘導が始められる。
 ナイト天王寺涼(てんのうじ・りょう)は非常口の前に立って扉を押さえ、人々に呼びかける。
「あわてず、押し合わずに避難してください。外に出たら、なるべくこの建物から離れ、従業員の指示に従ってください」
 涼は、銀狼ゆる族ルーファと一緒にやはり観光客に避難誘導をしているルークに目を止め、言う。
「君も早く逃げなさい」
「ボ、ボクも残って皆を守るよ! ルーファがいるから大丈夫」
 少年の目に決意の色を感じ取り、涼は言った。
「そうですか……。では、くれぐれもパートナーのそばを離れないように」


「時限爆弾らしい物はどこだって?」
 鈴木周が、バッグの発見された通路にやってくる。
 不審物を見張っていたセレーネが答える。
「あれです。爆発物処理班の要請をしましたが、到着までまだかかるそうです」
「それまでに爆発したらどうすんだ……。いや、本当に時限爆弾か、あれは?」
 黒いバッグの中身は分からない。
 周はパートナーに言った。
「レミ、光条兵器を頼むぜ」
 レミは驚いて止める。
「ええ?! 爆弾を刺激したら爆発しちゃうかもしれないよ?!」
「大丈夫だ。カバンの中身を調べるだけだ」
 いつになく真剣な周の調子に、レミはみずからの体の中から光条兵器を取り出す。
 淡い輝きに包まれた兵器が、その胸から現れる光景は、彼女が人間でなく剣の花嫁という異なる存在なのだと示している。
 周は光条兵器を受け取り、カバンに向かった。
「皆、最低限の奴を残して下がってろ。失敗したらドカンといくぜ」
「あ、あたしはここにいるんだから!」
 レミが宣言する。
 周は光条兵器の輝きに集中する。
「……まずはバッグだ」
 光条兵器がバッグに向けて水平に振られる。見守る者の中から、息を呑む声がする。
 周はバッグに手を伸ばすと、そうっと持ち上げる。バッグの上部だけが、ゆっくり持ち上がっていく。
 周が切ったのは、バッグだけだった。光条兵器の特性を生かし、内側にある何かには傷をつけていない。
 バッグの上部が持ち上げられる。
「……なんだ、これ」
 周がバッグの中に入っていた物を見て、思わず口にする。それを聞いて、レミも彼の背中ごしにのぞきこむ。
 バッグの中に入っていたのは、魚肉ソーセージ数本と目覚まし時計を延長コードでグルグル巻きにした物体だった。シルエットだけなら爆弾風である。時を刻む音は、時計の秒針の音だった。
「なんだよ、偽物かー!」
 周は声をあげ、一気に気が抜けた様子で、その場にひっくり返る。他の生徒たちも、がっくりした様子で集まってきた。
「まったく誰が、こんな事をしたのかしら」
 レミもいきどおりを覚えた様子で言う。
 するとセイバー春日井茜(かすがい・あかね)も言った。
「まったくだ。なぜ、こんなテロまがいのイタズラをしようとしたのか。
 聞かせてもらおうじゃないか、ラ衛門君」
 茜の言葉に、周囲の視線がゆる族のラ衛門に集まる。彼はあわてた様子で言った。
「な、何を言ってるんだよ、キミは?! ここで働いてるボクが、なんでこんな事をするのさ?」
 茜は残念そうに息を吐いた。
「だからだよ。君はここでずっと働いてるのに、ずいぶんと仕事をサボッてる。だから、きっと何か施設に不満でもあるんじゃないかと思ってね。
 それで君に話を聞こうと思って、君の後を追ったんだ。そしたら大きなバッグを抱えた君がいたから声をかけようとしたら、その姿が急に消えてね。
 驚いて、辺りを探しているうちに、爆弾が発見されたって騒ぎになったのさ」
 集まってきた生徒の中で、緋桜ケイが言う。
「そういや、ゆる族は光学迷彩ってスキルを持っていたな。
 特殊なフィルターを貼った布で自身の姿を見えなくするんだ」
 セレーネが納得した様子で言う。
「そのスキルなら人の目に映ることなく、バッグを置くことができますね」
 周が茜に聞いた。
「そのバッグって、これか?」
「ああ。そうだと思うよ」
 ラ衛門はそうっと後ずさっていく。
 その肩をガッキと捕まえる者がいる。
「どこ行こうってんだ、おまえ?
 ちょーっと裏で話を聞かせてもらおうじゃないか」
 姫宮和希だ。ゆる族相手に油断した先程とは打って変わって、熱血喧嘩馬鹿のおっかない雰囲気に満ち満ちている。
 裏で話す、と言いつつ、拳をボキボキ鳴らしている和希に、ラ衛門は恐怖した。
「そ、そんなぁ、いたいけなゆる族に暴力はいけないよっ」
 ラ衛門は言ったが、イラッとする外見の彼が言っても説得力はない。
 セイバー松平岩造(まつだいら・がんぞう)と彼のパートナー、剣の花嫁フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が左右からラ衛門をはさむように立つ。
「観念なさい。抵抗すると言うのなら、私たちも容赦はしませんよ」
 岩造が脅すように宣言する。フェイトはラ衛門の一挙手一投足を見過ごさないように、注意を払っている。
「う。ううぅ〜」
 ラ衛門の姿が急に消える。
「皆の前で光学迷彩をして何になると言うのです?」
 岩造が言う。と、すぐ脇の窓が、ガラリと開けられた。
 窓を開ける動作の間だけでも、フェイトの目を外れようとしたのだ。
「パクコプター!」
 ラ衛門は姿を現して、腹のポケットから何かを取り出す仕草をしながら、脇の窓から飛び出した。
 なお彼のポケットは、ポケットの絵が腹に描いてあるだけなので、何かを出すどころか、何も入れることはできない。ポケットから何かを取り出すのは、あくまでもフリである。
 ラ衛門は三階の窓から、まっさかさまに落下した。
 一瞬、彼が大空高く飛んでいくのを警戒した生徒たちは、虚をつかれる。
 墜落したラ衛門は、しかし驚くほど元気な様子ではね起き、走っていく。
 なにしろ、ゆる族の着ぐるみはジャッパンクリフから数千メートル下の洋上に落ちても死なない程に丈夫なのだ。
 そのためチャックを開けられて爆発しても、こげるくらいで無事なのである。
 そして、その時を待っていた男がいた。
 パラ実のソルジャー秋岩典央(しゅうがん・のりお)だ。彼はバイクを使って、ゆるパークの周辺警備を行なっていたはずだ。しかし。
「こっちだ!」
 バイクで素早くラ衛門に近づき、強引に抱えて走り去ろうとする。
「待て!」
 ラ衛門を追ってきた生徒たちが、バイクを追いかける。
 典央は小さな包みを空中に投げ散らすと、それに向かって射撃した。いちいち打ち抜かず、とにかくスプレーショットで袋を破壊する。
 とたんに袋から散った粉が煙幕となって辺りをおおう。
 それでもバイクの疾走していく音をたよりに、追撃は続く。
 だがその時、典央はまったく違う方向をラ衛門を引きずるように走っていた。
 バイクはうるさい音を立てながらまっすぐ走るように細工して囮にしたのだ。そして視界が悪いうちに、バーストダッシュで建物の陰に飛びこんでいた。
 作戦はうまく行った。
 警備として入り込んだため、典央には他の警備者がいつどこでどのように警備を行なうかの情報も入っていたからだ。
 唯一の懸念は、魔法の箒で上空から警備していた御剣カズマの存在だったが、
「迷子がいるみたいだから、見てやってくれ」
 と偽情報で離れた場所に誘いだすことに成功していた。
 これで犯人強奪は成功する、かに思えた時、
「そうは行かないぜ!」
 上空から降ってきた九条院晶が、典央からラ衛門を蹴り離す。
「何者だ?!」
 典央は予想外の妨害者に、思わず問う。
 晶は不敵に笑った。
「フッ、あやうくこのまま出番が無いかと思ったぜ。
 あんたの行動、ゆるパークの看板の上から、しっかりと見させてもらったぜ!
 観客避難もせずに不審な動きをしてるから、おかしいと思ったんだ!」
 晶は誰にも告げることなく、単独行動でゆるパークの屋根に設置された看板に身を隠して、そこから怪しい動きを見せる者がいないか様子をうかがっていたのである。
 晶は典央とラ衛門を見すえて言う。
「俺が大好きなシャンバラを、恐怖に陥れる鏖殺寺院の存在など許しはしない!」
 そこに箒で舞い戻ってきたカズマも現れ、宣言する。
「子供の夢は未来の現実! それを笑う奴は人間じゃねぇ! ブッ飛ばす!」
 それを聞いたラ衛門が、情けない声を出す。
「えええぇ〜?! 待ってよ。ボクはテロリストなんかじゃないよ〜。
 空京でお祭りだとか皆が浮かれてるから、ちょっとイタズラしただけじゃないか。そんなに殺気だたないでよ〜」
 典央がラ衛門をつかみ、うなるような低い声で言った。
「クッ……この正義の味方かぶれども……犯人はくれてやるぜ!!」
 典央は、怒りを込めてラ衛門を晶とカズマに投げつけた。
 二人が、もがくラ衛門を捕縛している間に、とっととその場を逃走する。
 典央は、シャンバラ王国を滅ぼした鏖殺寺院の力を得ようと、まずは協力して仲間となるために、ゆるパーク脅迫犯を助けようとしたのである。
(それが鏖殺寺院とは関係ないイタズラだと……! とんだ無駄足だ!)


 ラ衛門は生徒たちによって、ボコボコにされたあげく、グルグルにしばられた。そして、ゆるパークの事務所に連れてこられる。
 ゆるパーク園長も困惑した様子た。
「なぜバイトのラ衛門君が……。そんなに自給が不満だったのですか?!」
 教導団のナイトクレハ・アルトレシア(くれは・あるとれしあ)が火のついていないタバコをくわえたまま、ラ衛門を涼しい瞳で見下ろして言う。
「まったく馬鹿な事をしでかしたな。警告、または目立ちたいが為の犯行か?」
 ラ衛門は半べそで答える。
「だって、中国で仕事がなくなって故郷のゆるヶ縁村に帰ってきたら、なんか『空京』とか名前が変わってるわ、開発で人はたくさんいるわ、建物だらけだわ……。
 空京に反対した家族は行方不明になってるわ……うわーーーん!! あのヘンピで、ペンペン草も生えないような、ゆるヶ縁村を返せよーう! ええーん!」
 ラ衛門は大声で泣きだした。
 クレハは園長に聞いた。
「ゆるヶ縁村を空京にするのに、反対運動があったのか?」
「は、はい。もともとゆるヶ縁村に住んでいたゆる族の中には、空京開発に反対する者もいたのですが……。結局、開発が押し切られる形で進んだのです」
 クレハは肩をすくめる。
「動機はそんなところか。
 しかし街全体でテロが警戒されている時期に脅迫メールを出し、実際に爆発物まがいの物を設置したあげく、警備者がその対応に追われているのを従業員の立場で盗み見て笑っていたとなると……やはり悪質だな。
 警察に引き渡す事を勧めるが。園長?」
 クレハに聞かれ、園長は困った様子だ。
「うーん、それはちょっとかわいそうな。
 しかし生徒さんがたに、これだけ迷惑をかけたんでは、無罪放免というワケにはいかないですよねえ」
 ベソをかいているラ衛門に、セイバーシゼル・アスラン(しぜる・あすらん)がつっこんだ。
「もう! いい加減にしなさいよねっ! 皆に迷惑をかけて、本当の悪い人までゆるパークに呼びこんじゃって、反省しなさい!」
 普段はぽやんとしたシゼルも、これだけの騒ぎになって怒りを抑えられないようだ。シゼルはラ衛門にお説教を始めた。
「箒ライダーさんたちがパクちゃんを捕まえてくれたから良かったようなものの、あのままだったら、怖い人に『口封じだ』って殺されてたかもしれないのよ?
 これに懲りて、テロ組織の鏖殺寺院の仲間だと思われるような危険な事はもう二度としちゃダメだからね!」
 結局、ラ衛門は警察に引き渡されることになった。



 空京に夜が訪れる。十周年記念祭も終わりが近い。
 今日一日、空京の各地で警備活動をしていた各学校生徒たちも、仕事を終えて夕食をとる時間だ。
 ジークリンデが空京食事券を、皆に配ってまわる。
「鉄道会社、開拓大路商店会、ゆるパークから、お礼の空京食事券をいただいてます。皆、一人一枚づつ持っていってくださいね」
 空京食事券は空京市内の加盟飲食店で、食事ができる券だ。だが空京でしか使えないうえに、使用期限もある。
 ほとんどの生徒は、その日の打ち上げ兼夕飯に食事券を使った。
 なお別行動だった者には、代表者などにまとめて渡されていた。

 空京各地でいくつか事件は起きていたが、リコたち一行の警備活動については、おおむね成功と言ってよかった。
 リコは友人たちに言ってまわる。
「みんな、お疲れ様〜! あーあ、あたしも犯人を捕まえるとかしてみたかったなー」



 夜を迎えたゆるパークは、観光客や従業員もとうに帰り、人の気配がなかった。
 パークの門が閉められて、内部は無人だ。
 そこに人影が現れた。電子錠で施錠されているハズの門が開き、人影はパーク内に入る。
 月明かりを頼りに、人影は鎮魂岩まで歩いていった。
「……?」
 以前と様子の違う鎮魂岩に、人影は足を止める。
「お掃除戦隊ゆるくり〜ん」の活躍で、落書だらけだった岩は綺麗になっていた。
 人影は小さく微笑むが、すぐにそれを消す。
 岩に歩み寄り、右手を当てて言った。
「遅くなりました。お約束通り、開放させていただきます」
 答える者はいない。だが人影には、その声は聞こえているようだ。言われた事を反芻する様子で言う。
「……つまり、身を清めていただいた礼を、私があなたの代わりに? 代表者一名程度なら可能ですが。
 ……百合園女学院生徒で、名前か苗字が津波。外見は?
 ……はい、捜索してみましょう。ただ、今現在帯びている任務を終えてからとなりそうですが」
 それで話は一区切りつく。人影は岩に言った。
「では……そろそろ、よろしいでしょうか? はい」
 人影は集中するように目を閉じた。しかし急によろめいて、ヒザをついてしまう。
「……し、失礼いたしました。このところの激務がたたりました」
 人影が額を押さえながら立ち上がり、改めて岩に手を当てて集中する。
 巨大な鎮魂岩が、音も無く空気に溶けこむように消えた。
 人影は大きくため息をつき、その場に座りこみ、そのまま後ろに倒れて地面に仰向けになる。
「これで一月後には空京に『門』が現れる、か……」


 翌日、ゆるパークでは綺麗になったばかりの鎮魂岩が消滅したと、ちょっとした騒ぎになった。


担当マスターより

▼担当マスター

砂原かける

▼マスターコメント

 空京の対テロ警備は、一応のところ成功したようです。
 開拓大路のパレードも大盛況でした。
 空京お食事券は、当日に使ってしまった、もしくはもらえなかったという扱いになりますので、アイテム化はされません。
 ラストで謎の人影が何か言っていますが、百合園女学院には何も起こらないので皆様、ご安心ください。
 なお今回、アクションのメインで鎮魂岩に関わった方には「お掃除戦隊ゆるくり〜ん」の称号をお付けしています。メイン以外の行動のマルチアクションで関わった方にはお付けしておりませんので、ご了承くださいませ。
 他に、登場シーンが複数回あるPCもいますので、御自分のPC名で検索されることをお勧めいたします。
 なお複数登場の場合も、初めから駅まで、パレード、ゆるパークの3つのうちの1つのシーン内でとなります。