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血闘! 瞑須暴瑠!(べいすぼうる)

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血闘! 瞑須暴瑠!(べいすぼうる)

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「そもそも野球の起源は古代エジプトの宗教儀式『ビスバール(Bysbar、“青い芦原に向かい駆ける魂”の意)』に求めることができる。各チームはエジプト九柱神を模した9人の神官から成り立っており、それぞれのチームは生者と死者を表していた。現在でも野球チームのメンバーを『ナイン』と呼ぶが、これはエジプトの聖なる川ナイルのなまりであって、英語の9を指す語だというのは俗説である(波羅蜜多ビジネス新書『できるエジプト人は残業しない』より抜粋)」

序章 決着!
 まだ夜明け前のシャンバラ大荒野、南 鮪(みなみ・まぐろ)がどうと地に伏した。シャンバラ野球軍ピッチャーの火炎魔球をまともに顔面に受けたのだ。だが同時に力尽きたピッチャーも倒れた。まさしく死屍累々たる有様。
「ふはは、貴様で最後だ、鮪! これでタイタンズの命脈は絶たれたな!!」
 勝ち誇る監督番長。だが鮪はニヤリとして答えた。
「そいつはどうかな……そのメンバー表をよく見てみろ」
 メンバー表には今までにない文字が浮かび上がっているではないか! 火炎魔球の熱であぶりだしの文字が出てきたのだ。
「何……いまのは二軍相手の練習試合だとっ!!!」
「相手を間違えた様だなァーヒャッハァ〜(ばたり)」
 こうしてシャンバラ野球軍9人が二軍相手に倒れたのであった。

第1章 熱闘開幕
 荒涼たるシャンバラ大荒野に蛮族たちが続々と集結してくる。なにもなかった荒野に大小のテントが立てられ、野獣の骨を焼いて作った白い粉で線が引かれていく。1時間ほど過ぎて、そこには野球場があった。波羅蜜多実業高等高校名物、『瞑須暴瑠』が行われようとしているのだ。
「全シャンバラ中の野球ファンのみんなぁ〜、いよいよパラ実名物『瞑須暴瑠』の開幕だよぉ〜。実況は私巫丞 伊月(ふじょう・いつき)ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)ナナ・ノルデン(なな・のるでん)、解説はエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)でお伝えしますわよぉ〜〜」
 パラ実生たちがテントのひとつを占領して、勝手に実況を始めている。実況といっても野球のルールがわかっていない蛮族を相手にいい加減な説明をしているだけだが、それでも娯楽に乏しい遊牧民たちにとっては得難い機会だった。生き神ドージェがやってきた地上からもたらされるものは、何であれ畏敬の対象なのだ。
 会場の設営が終わり、波羅蜜多タイタンズとシャンバラ野球軍が相対した。タイタンズはメンバーの不足を補うべく、他校からも選手を募ったために、半数近くが他校からの応援という有様だ。タイタンズのチーム名簿は以下の通り。

1番 王 大鋸(わん・だーじゅ)
2番 蒼 穹(そう・きゅう)
3番 国頭 武尊(くにがみ・たける)
4番 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)
5番 ガイツ・レダスタ(がいつ・れだすた)
6番 鎌田 浩文(かまた・ひろふみ)
7番 山田 悪義(やまだ・わるよし)
8番 アシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)
9番 桜町 未央(さくらまち・みお)
10番 ハマティー・ユトリ(はまてぃー・ゆとり)
11番 狭山 珠樹(さやま・たまき)
12番 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)
13番 八神 夕(やがみ・ゆう)
14番 姫宮 和希(ひめみや・かずき)
15番 遠野 御龍(とおの・みりゅう)
16番 マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)

 16名! だがこれがパラ実の野球なのだ!! 解説者のマナに聞いてみよう。
「パラ実式野球では選手の人数は4人以上いればいいんだよ! 全員倒れたらそのチームの負けなんだって」
 パラ実では4以上の数字はどれも大して違いを持たないのだから必然だ。監督は切縞 怜史(きりしま・れいし)、助監督はルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)、コーチはパラ実式ルールに詳しいカオルコ・タナカ(かおるこ・たなか)だ。
 翻ってシャンバラ野球軍だが、総勢91名という大所帯。男は全員ふんどし姿。インタビュアーの日比野 武人(ひびの・たけひと)に話を聞こう。
「メイドのリンダ・ウッズ(りんだ・うっず)が野球軍のユニフォームをすべて洗濯して、乾燥させるのを忘れたらしい。野球軍のなかには『メイドはむしろドジでいい』とか言ってる連中もいるようだが、まあ当人たちはふんどしでも別にいいみたいだ」
 そういえば監督番長の姿も見あたらない。日比野のパートナー、東雲 鶯宿(しののめ・おうしゅく)によるレポート。
「どうやら試合前に乱闘があったみたいです。イルミンスールの茅野 菫(ちの・すみれ)がパートナーのパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)と共謀して、なんらかの理由で弱っていた監督番長を励ますふりをして近づき、その後倒してしまったようです。仕方がないので今のところ野球軍の監督は茅野 菫ということになっているみたいです」
 弱者では四天王の座に留まるのも難しいということだ。タイタンズの選手からはブーイングが漏れる。試合で四天王を倒したかった選手が不満に思っているのだろう。だが監督番長はもはや過去の人。
 続いて審判。主審はマギステル・アンジェリカ(まぎすてる・あんじぇりか)、一塁審は緋桜 ケイ(ひおう・けい)、三塁審は黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)
 さて早々に漂う険悪なムードだが、主審のアンジェリカが両チームの選手を整列させる。
「なにが起きているのかはよくわからんが、ともかく鎮まらんか! プレイボール! なのじゃ」
 さっそく試合開始。先攻タイタンズ。
「1番、王大鋸、王大鋸〜」
 ウグイス嬢はナナ・ノルデン。ところで王選手が4番打者にこだわらず、1番とは意外に思えるかもしれない。
「日比野だ。王のパートナー、シー・イー(しー・いー)シー・イーに聞いてみたぞ」
「ダージュは1番に拘る奴でナ……4番目では納得いかないらしいゾ……」
 打者が9人以上いるので4番打者に拘る必要は薄いかもしれない。王選手、チェーンソーを持って打席に入る。一本足打法の構え。応援団の荒巻 さけ(あらまき・さけ)が審判に何事か抗議する。
「チェーンソーは野球の道具ではありませんわ! 持ち込みを不許可としてくださいませ!」
 審判のあいだでも意見が分かれるが、全員パラ実の生徒ではないため、このあたりのルールはよくわからない模様。王選手は納得がいかない様子。ルールに詳しいコーチに聞いてみた。
「手でもって振り回せるものであればバットの代用とすることができるそうですよ」
 練習の光景でも『釘バットや角材を振り回して打撃練習をしている』のを思い出して頂きたい。チェーンソーで無問題。対する野球軍ピッチャーは通称ストレート番長、しかし今までとは顔つきが違う。何か秘策があるのだ。
「くくく、俺の新しい力を見るがいい!」
 ストレート番長強気だ。手にしたボールは……光条兵器『硬(光)球』!! パートナー契約を交わして自信と魔球を手に入れたのだ。さあピッチャー第一球投げた、投げたが明らかにビーンボール狙い! 王選手わかっていたのかチェン―ソーで光球を両断しようと構え直す! 激突、目の眩む閃光と耳をつんざく轟音!
「で、デッドボールなのじゃ!」
 王選手力及ばず、光条兵器の直撃を受けてノックダウン。モヒカンがなければ頭を粉砕されて即死していた! 許し難い暴行に、10番ハマティーがバットを手に抗議。ストレート番長はこれに挑発、乱闘が起こった! ベア・ヘルロットとマナ・ファクトリは実況テントを飛び出して救護に走って行く。