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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

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「フェーイトくん」
 揺らぐ煎茶の水面に、目を落としていたリクリース・フェイト(りくりーす・ふぇいと)は、頭上から降った声に、ぱっと顔を上げた。一度目を細め、くいと、細い銀縁のメガネを持ち上げて、やっと、はっと声をかけてきた人物に気づく。
「あ、保健室の……えーと、戸隠さん」
「はい、保険医の戸隠さんですー……って言っても、今はメイドさんなんですけど」
 給仕姿の戸隠 梓(とがくし・あずさ)は、ゆるくウエイブのかかった金髪をふわりと揺らして微笑んだ。
「どうして、こんな端っこで、一人でお茶飲んでるんですか?」
 問いつつ、梓はフェイトの隣に腰を下ろした。
「いやぁ、知り合いを増やしたいと思い立って参加したんですが、会場にはお若い人ばかりでしょう? どうにも、飛び込むには場違いな気がしてしまって」
「あー、フェイトくんらしいですね。余計な遠慮しちゃって。そんなこと言ったら、私だって教員ですよ? おばさんですよ、おばさん」
「まさか。私の世話を焼いているのはもったいないくらいの美人さんじゃないですか……いたっ」
 こつん、と梓がフェイトのおでこを小突いた。常に笑っているような柔和なまなざしを、精一杯きゅっときつくして、梓はフェイトを睨む。
「あんまり自分を卑下しちゃいけませんよ、フェイトくん。周りはいい人ばかりなんですから。イルミンスールも、この会場もね。でも、フェイトくんが引け目を感じていたら、向こうだって引いちゃいます」
 どんなにきつくしても、奥に潜む優しさを隠せない梓のまなざしを、フェイトは柔らかに見返して、笑った。
「わかりました。そうですよね。どうも、出会いの場に飛び込むには、私の覚悟が足りなかったようです」
 すっと、フェイトはその長身を立ち上がらせた。
「手始めに、給仕の仕事を手伝わせていただけますか?」
 つられて立ち上がった梓に、フェイトは耳打ちする。
「苦手なお説教をさせてごめんなさい、戸隠先生。それと、ありがとう」
 梓はふっと微笑んで、よろしい、と言った。

「おいおい、おまえの戸隠さんが大人の男といい雰囲気だぞ? いいのか、キリエくん?」
 紋付袴をぴしりと着込んだ鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)が、けだるげな視線を梓とフェイトの方へ放りながら言った。
「俺の、とか言うんじゃねーよ虚雲! 給仕やってんだから、話すのは当たり前だろが!」
 同じく紋付袴で、豪快に胡坐をかいたキリエ・フェンリス(きりえ・ふぇんりす)が、小動物くらい射殺せそうな鋭い目つきで虚雲を睨んだ。
「おい、目が怖いぞキリエくん。胸の奥で燃えている嫉妬の炎が丸見えだ」
「目つきがわりーのは生まれつきだよ!」
 ばんっ、とキリエがテーブルを叩く。中学生くらいなら余裕で泣かせそうな迫力だったが、虚雲はそ知らぬ顔で受け流した。
 ちっ、と舌打ちひとつして、キリエは虚雲から視線をはずし、テーブルに頬杖をつく。
「あいつはおせっかいだからな。輪からはずれてるやつ見るとほっとけねーんだ。そりゃ、俺も気にならねぇわけじゃねぇけどさ」
 ふと、虚雲が意外そうな顔でキリエを見た。視線をそらしたまま、キリエは続ける。
「でも、俺はツラ怖えから、そういうのには邪魔になるから、だからこうして遠くで見てんだよ」
 ふっと、虚雲が短く笑った。
「んだよ! どうせストーカーぽいとか思ってんだろ!?」
「いいや」
 虚雲はかぶりを振って、少しだけ楽しげなまなざしを、キリエに向けた。
「いいパートナーだなと思っただけだ」
「……んなっ!?」
 キリエは、目を丸くして虚雲を見た。
 ふっと、虚雲がけだるげに笑い返す。
「きっ……気持ちわりいな! なんだそりゃ、新手のいじり方か!?」
「やれやれ、バレたか」
「ふざけんなてめえ―――!」

「なあ、何も食べないのか?」
 ふと、声をかけられて、綾瀬 悠里(あやせ・ゆうり)は目を落としていた文庫本から顔を上げた。
 悠里の、燃えるような赤い瞳が、首をかしげた樹月 刀真(きづき・とうま)を捉える。
「ああ、いいんです、自分は。パートナーを待っているだけなので」
「ふうん?」
 小さなフォークで芋ヨウカンをくずしながら、刀真はあいまいに頷く。
「待っている、か。そういえば俺も似たようなもんかな」
「ほう?」
 悠里は文庫を閉じて、赤い瞳を刀真に向けた。
「うちのパートナーはどうにも人付き合いが苦手でな、なかなか人とうまく話せないんだ。んなもんで、せっかくの合コンだし、友達の一人も作って来いって別行動させてんだけど」
 あ、と刀真は、バイキングスペースにいる、はかなげな雰囲気をまとった黒髪の少女を指差した。
「あいつだ。月夜っていうんだけど……あの分じゃ、まだ友達は作れてないみたいだな」
 ざっ、と悠里が突如立ち上がった。刀真が下から覗き込むと、赤かった瞳の色が紫に変色している。
「……どうした? 気分でも悪いか?」
「……いえ」
「ヨウカン食うか?」
「ちょっと失礼します!」
 吠えるなり、悠里はブーストダッシュも顔負けの速度で走り出した。

「あ、イルミンスールの方なんですか。いいなあ、魔法とか世界樹とかって、無条件に憧れちゃいます」
 深い緑の瞳をほんわかとほころばせて、葛城 さとり(かつらぎ・さとり)は上品に笑った。
「そんな。ウィザードやらプリーストやらなんて、いまどきそう珍しくもないでしょう?」
 銀糸のようなロングヘアーをさらりと流し、千歳 四季(ちとせ・しき)は薄い唇を微笑ませた。
「いえ、私の家は代々軍人家系でしょう? 魔法だなんて、習う機会もなくって……あれ? 千歳さん、あの方……?」
 さとりは、ふっと視界の端に入った、超高速でこちらへ突っ込んでくる人物を、のんびりと指し示した。
「あの方、四季さんのパートナーの方? それならぜひご挨拶しなきゃ……」
「ほほほ、ごめんなさい葛城さん! ちょっと私急用を思い出しましたわ!」
 言うなり、四季はダッシュで逃げ出した。
 その背中を、悠里がとんでもない速度で追う。
「あら、すごい速度。いいセイバーになれるわね」
 さとりが微笑んだまま、のんびりと言った。
「ねえ悠里? 合コンは楽しめたかしら?」
「ああ、樹月とかって人と少し……って違う! 合コンなんて聞いてないぞ! 自分は!」
「だって言ってないものー!」
「キミねぇっ!」
 悠里は腰の後ろに手をやって、携帯用の杖を引き抜いた、それをまっすぐ四季に向ける。
「ふざけるのもいいかげんにっ」
 杖先に赤い炎が灯って、
 すぱんっ、と黒い光が一閃した。折りたたみ式の小さな杖が、悠里の手から弾き飛ばされ、宙を舞う。
「何者っ!?」
「……ええと、月夜、です」 
 黒い刃を持つ光条兵器を、正眼に構えた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、無感情な漆色の瞳をちょこっと泳がせた。
「……魔法は、あぶないから、だめ」
 ポツリとそう言って、月夜はちらと刀真のほうを見る。
「綾瀬悠里さんとやら、早速月夜に話しかけてくれたのか……いい人だ」
 刀真は、呆然とする悠里に向かって親指を立てて見せた。