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第5章 お口直しに料理SHOW


 開始早々混迷の極みに至った美男子オーディション。警備隊が出動し、何とか沈静化をしたものの、松茸も練乳もしばらく見たくはない、というのが本音です。
 観客の皆さんが食傷ぎみであることに運営スタッフも気がついたのでしょう。
 休憩を挟んだ後、闘技場の中央には特設キッチンが設けられていました。どうやら草食系男子・お弁当男子によるパフォーマンスが始まるようです。
 中央に躍り出たのは、「食べ物に関することなら何でも得意」だと豪語する小林 翔太(こばやし・しょうた)くん。何故か手術着で登場した黒 金烏(こく・きんう)さんは鮪の解体ショーを見せてくれると言うことです。隣にはシャンバラ教導団工兵科所属の青 野武さんがアシスタントとして控えています。
 ベジタブルカービングの技を披露してくれるというのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)くんとパートナーのプリーストクナイ・アヤシ(くない・あやし)くん。
 白い学ランを身にまとった藍澤 黎(あいざわ・れい)さんは、パートナーであり今大会の参加者でもあるフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)くんのアシスタントを務めるそうです。風岡 幸也(かざおか・ゆきや)くんは身も心もとかしてくれる甘ーいスイーツ担当。
 できあがった料理は観客や審査員にも饗されるということですが…何やらイヤーな予感がします…。
「では、まずはじめに食材の調達からはじめていただきましょう!」
 司会者の号令一下、スポットライトの光を一身に集めたのは………。
「女・女・女ァーーー!!!!!!」
 野獣のような咆哮を上げ登場したのは、バイク型機晶姫ハーリー・ダビットソンの飼い主、波羅実の南 鮪(みなみ・まぐろ)くん?!
「本日の特選素材は巨大マグロ! 見事、釣り上げ、調理していただきましょうっ!」
 マグロは鮪でも、それ違うーーー!!!
 動揺する観客を尻目に、野獣・鮪くんが突進していった先は…薔薇の垣根に囲まれた女性専用席!!
「アイツ、女の子に襲いかかる気だよ!」
 鮪くんに向かって特設キッチンにあったジャガイモを次々と投げつけたのは、清泉くん。しかし、ジャガイモ爆弾如きでは、我を忘れた野獣は止まらない!
「私がしとめてみせましょう!」
 業を煮やしたクナイくんがカービングナイフを投げつけますが、フンッと全身に力を入れた鮪くんは、その鋼のような筋肉ではじき返してしまいます。
 またもや乱闘が始まった会場の片隅では、料理ショーの参加者である風間くんのパートナー、シラ・レイゼン(しら・れいぜん)くんが火術を唱えはじめました。鮪くんの足を止めようという考えでしょうが、野生の本能に支配されつくした彼には通用しません。
「そう何度も貴殿の思う通りになるとはかぎらぬぞ」
 腰間の剣を抜き放ち、鮪くんに飛びかかったのは、白い学ランが目に眩しい薔薇学生の藍澤さん。身にまとっている白い学ランは、第一回ジェイダス杯の屈辱の証。「今度こそ討ち取らねばならぬ」という意気込みが彼の背中から伝わってきます。
「何しとるんじゃっ。キミの手に負える相手じゃあらへんで!」
 パートナーのフィルラントくんが慌てて止めに入りますが、藍澤さんの目にはすでに鮪くんしか映っていないようです。
 しかし、麗しき乙女の姿しが目に入っていないのは、鮪くんも一緒!
「ウガァーー!! 女・女・女ァーーー!!!!!!」
 人語と呼ぶには本能に忠実すぎる叫びを上げて観客席に飛び込んだ鮪くん。「性帝砕音軍の称号は伊達じゃねぇ!」と言わんばかりに暴れ狂う! 目指すは女性専用席のみ!
 脅えおののく乙女の園、と思いきや。
「まさかこんな所で波羅実きっての有名人、南鮪さんを間近で見られるなんて思ってもいませんでしたわ」
 暢気な様子で笑って見せた女丈夫の名は、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)さん。トップレス美女の姫宮さんと言い、藤原さんといい…女性と言えどさすがは波羅実生。肝が据わっておいでです。
「折角だし、私も混ざらせていただこうかしら」
 スカートをたくし上げ、薔薇の垣根を越えようとする藤原さんを他の女性達が慌てて止めます。
「危ないですよ、藤原さん!」
「あら、何でですの? …こんな素晴らしい狂宴を前に我慢なんてできませんわ」
 イヤイヤイヤ! ホント、危ないですから、大人しくしてください!
 そうこうするうちに乙女達を守る薔薇の垣根に、ついに鮪くんの手が届きました。
 誰しもが「乙女の純血危うし?!」と思ったそのとき!
「ウガガガガガガッ?!!!!!!!!!」
 身体を硬直させた鮪くん。明らかに人語の域を脱した叫びを上げていますっ?!
「フビビビビビビビビ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 嵐のような狂乱は突然、終焉を迎えました。まるで電池が切れたロボットのように、前のめりに倒れていく鮪くん。一体、彼の身に何が起きたのでしょうか。
 その疑問に応えてくれたのは、青 野武さんでした。
「女性席の周りには、安全のために高圧電流を流していたのじゃよ」
 ソレ、みんな知らないし。むしろ危ないから!
 現に乱闘に参加しようとした藤原さんが、越えようとしていたくらいだし!
「美しい薔薇の花には棘があるというからのぉ」
 …まぁ、それはそうなんですけど…ね。ちょっとやり過ぎの気がしないでもない…デス。
「さてと、それではそろそろ、黒 金烏のマグロ解剖ショーを始めさせてもらおうかの」
 そう言うや否や青さんは、どこからともなく、電動骨鋸やメス、開創器、鉗子、その他外科手術器具各種を取り出しました。
 って、アンタら本当にやる気なのぉーーー!!!!!!
 マグロの解体ショーならぬ、南鮪の解剖ショー…。そんなグロテスクな代物は、さすがに勘弁してください。