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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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●悪事を働く者は、魔法少女が許しません!

「うぅ〜ん……ふわぁ……よく寝ましたー……ぁああ! 寝ましたーじゃないですよ私! ガイド途中に寝ちゃうなんてー!」
 むくりと起き上がり、小さく欠伸をして伸びをしたトヨミが、はたと自らの状況に気付いて慌てた声を漏らす。
 その後、見守ってくれていた人たち一人一人に感謝の言葉を述べて、講堂の片づけをしてくれた人たちに頭を下げて、そして着替えを済ませた――といってもまたガイドさんの格好に一瞬で戻っただけだが――トヨミが、再び生徒たちを案内に入る。
 
「トヨミじょ……いや、トヨミちゃん。ウマヤド探しは順調かね?」
 講堂を出たトヨミに、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が尋ねる。
「全然ですよー。あの子は頭がいいので、隠れるのも上手いんですよー。あのー、すみませんが協力してくれますか?」
「俺もそのつもりだった。俺でよければ力を貸そう」
 言ってレオンハルトが、トヨミの後方につく。
(フッ……男児たる者、やはり宝探しは浪漫! そして目の前に宝があるのならば、狙わずして男児足り得ん!)
 レオンハルトが、今は旗に姿を変えているトヨミの杖『日本治之矛』に手を伸ばしかけた瞬間、背後から鈍器のような物の衝撃が彼を襲い、呻き声をあげてその場に倒れ伏す。
「おやおや、駄目ですよ、こんな見目麗しいお嬢さんを襲うなんて」
 シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)が笑顔のまま、振り返ったトヨミへ事情を説明する。
「私を助けてくれたんですねー。ありがとうございますー」
「いえいえ、この程度大したことではありません。このように可愛らしい貴女にガイドをしていただけたことへの感謝です。美しい貴女を見れただけで、地上へ来た甲斐がありました」
「そんなことないですよー。でも、楽しんでくれたのでしたらよかったですー」
 謙遜しつつも嬉しそうなトヨミの手を取り、シルヴァが真面目な表情を作って言う。
「トヨミさん……この出逢いを忘れない為、何か頂けないでしょうか? ……例えば、この手にしている旗など――」

「待ちなさい!」

 その声にシルヴァが振り向いた先、指差す一人の影が飛び込んでくる。

「魔法少女えむぴぃサッチー! あなたの悪事は全てお見通しです! 千里眼の持ち主たる広目天に代わって、お仕置きよ!」

 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の問いかけに、シルヴァが笑みを崩さずに答える。
「おや、一体何を見たと言うんです? 僕はただ善意で――」
「嘘よ! あなたは自らのパートナーに情報を吹き込み、トヨミちゃんを襲わせるように仕向けた。そしてさも自らが悪漢からトヨミちゃんを護ったように仕立て上げ、トヨミちゃんの油断を誘った。……違うかしら?」
 祥子……いや、『魔法少女えむぴぃサッチー』の言葉に、シルヴァから笑みが消えた。
「……やれやれ、バレてしまっては仕方がないですね。それでは、お仕置きが怖いので立ち去ることにしましょう」
「待ちなさい! 悪事を働くものは、魔法少女が許しません!」
 姿をくらましたシルヴァを、祥子が追う。
「な、何なのでしょう……? ど、どうやら悪巧みを計画している人がいるみたいですね! 皆さん、それらしい人がいましたら教えてくださいね」
 意気込むトヨミのところへ早速、「宝物が盗まれたようだ」との知らせが届く。現場に急行したトヨミが辺りを見回せば、坊主頭の椿 薫(つばき・かおる)が歩き去っていくところであった。
「こらー! 悪い子はお仕置きですよー!」
(見つかったでござるか! 流石に坊さんに成りすますのも、ここまでであったか。だが、隠れる場所ならいくらでもあるでござる、まずは身を隠し、再び坊さんに成りすまして今日をやり過ごせば――)
 そんな思いとともに、樹の陰に薫が身を隠す。勢いよく飛び過ぎるトヨミの背中を見遣って、さてとばかりに飛び出した薫の上から、声が降ってきた。

「おてんとう様が見ている影で、悪の笑いがこだまする。パラミタから地球に泣く人の、涙背負って悪事の始末。……魔法少女まじかる☆ルーチェ、お呼びとあらば即、降臨」

 樹の上から天津 甕星(あまつ・みかぼし)が、魔法少女らしく口上を述べ、手には杖ならぬハリセンを持って、ふわり、と地上に舞い降りる。
(みか、なんて棒読み……でも、それがまたいいどすなぁ)
 その様子を木陰から、橘 柚子(たちばな・ゆず)が面白がりつつ見守る。
「な、何者でござるか!? 魔法少女如きに拙者が驚くとでも――」
「…………」
 慌てふためく薫へ、甕星が無言のまま近寄り、手にしていたハリセンを振るう。秋の空に木霊するほどにとってもいい音が、周囲に響き渡った。
「くぅ〜、ハゲ頭にハリセンはきくでござる!」
「…………」
 なおも十六連発ほどハリセンを振るったところで、音を聞きつけたトヨミが現れた。
「見つけましたよー。さあ、盗った物を返してください」
 トヨミに杖を突きつけられては何もできず、薫が素直に物を差し出す。
「お仕置きの手伝いをしてくれて、ありがとうございますー」
「いいえー、私はただ、みかに魔法少女をさせたかっただけどす。みか、かわええもんなぁ」
「…………」
 柚子の称賛に、無言の甕星がそれでもちょっと嬉しそうな雰囲気を漏らす。
 そこに、一難去ってまた一難、今度は金堂で暴れている者がいるとの報告がもたらされる。向かった先では南 鮪(みなみ・まぐろ)が、僧侶の一人に難癖をつけていた。
「お前が馬矢恕(ウマヤド)だなぁ!? こんなツラして番長気取りかぁ!! 今日から俺がここの番長だ、分かったか! ……ヒャッハァー、これで幼女のぱんつは俺の物だぜぇー!」
「ぱんつなどというものはどうでもよい。……で、陛下なる者はどこぞ!? わしが天下統一した暁には、あの者の承諾が必要であるぞ」
「あぁん!? んなの知らねーよ、そこら辺にでもいるんじゃね――」
 織田 信長(おだ・のぶなが)の問いに適当に返した鮪の前に、複数の人影が降り立つ。

「白い法衣は慈愛の証! 神聖魔法少女、キュアアリス!」
「銀の剣は正義の証! 魔法少女剣士、セイバーミルフィ、ですわ!」
「青い光条は断罪の証! 魔砲少女、ブラスターノエル♪」

「私たち、聖光(フラッシュ)、ユリキュア!」

 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)ノエルリース・フィアリリィ(のえるりーす・ふぃありりぃ)の三名が、可愛く飾られた武器を掲げ、決めポーズを取る。どこからか加えられたエフェクトが、彼女たちを可憐に仕立てていた。
「あぁん!? いくら可愛くたってなぁ、少女にゃ用はねーんだよ! 幼女だ、幼女でなきゃ意味がねーんだよ!」
 魔法少女な三人へメンチを切った鮪、彼は決して言ってはならぬ単語を既に三回も呟いていたのであった。

「誰が幼女ですかーーー!!!」

 そして薫は、杖を構えたトヨミの、心からの叫びと共に放たれた魔力の奔流をまともに受けて、輝く星へとなったのであった。
「もう! 私のどこをどう見たら幼女なのか、今度三時間みっちりお説教ですね――」
 ぷんぷんと怒るトヨミへ、すっ、と手が差し出される。その持ち主は信長であった。
「ささ、陛下、これよりわしがご案内致しましょうぞ」
 そう告げる信長、本人は格好をつけているつもりなのだが、傍から見れば怪しさ満点であった。

「「「お仕置きです!!!」」」

 そして信長は、背後からの有栖、ミルフィ、ノエルリースの制裁をまともに受けて、やはり輝く星へとなったのであった。
「決まりましたわね♪」
「なかなか楽しいわ、コレ♪」
「は、恥ずかしいです……」
 もはやノリノリのミルフィとノエルリースに対し、有栖は恥ずかしさ満点といった様子である。

「はーっはっはっは! 貴様らの実力、見せてもらったわ!」

「もー、今度は何ですか!? 私そろそろ怒っちゃいますよ!」
 直後響いてきた声に、トヨミが険しい表情で振り向けば、瓦葺の屋根に仁王立ちする二つの影があった。
「貴様らがお探しのウマヤドとやら、我ら『秘密結社雷と忍ぐ』が預かった! 返してほしくば、魔法少女のぱんつを見せてもらおうか! ……おっと、名乗りが遅れたようだな。俺様の名前は『カオスメーカー』……周囲を混沌に陥れる能力があるかもしれない!」
「拙者は『仮面の忍者ケロリン』! 洗面器とは関係ないでござるよ!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が、何やらいかがわしい結社名とどこかのカメ人間なヤツらを彷彿とさせる衣装に身を包んで名乗りを上げる。それが本人の能力かはともかく、周囲は慌しい雰囲気に包まれていく。
「なんだかよく分かりませんけど、ウマヤドのことを知っているのなら教えなさい! 教えないと――」
 トヨミの構えた杖に、魔力が満たされていく。
「うわごめんなさい止めて止めて攻撃ストップ! 今降りますから撃たないで!」
 あまりの形相に身体をガクガクブルブルさせ、ウィルネストがあっさり降参する。
「おい! 俺様は自分では降りられん、なんとかしろ!」
「こんなこともあろうかと、縄梯子を用意しておいたでござる」
 ナーシュが縄梯子を下ろし、それにウィルネストが恐る恐る掴まる。
「ふっふっふ……のう、フィル。この梯子を揺らしてみたら、面白いとは思わぬか?」
「えっ? だ、ダメですよシェリスさん、そんなことしたらかわいそうですよ」
 そこに、騒ぎを聞いてやってきたシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)が、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)の制止を無視して、下げられた縄梯子をゆらゆら、と揺らす。
「ほれほれ、悪いことを企むやつにはお仕置きじゃ♪」
「や、止めろー! 世界が、世界が揺れるー!」
 揺れる梯子から、何とか落ちないように必死でウィルネストがしがみつく。
「止めるでござる! ぱんつを見るという拙者の野望、邪魔をしないでほしいでござる!」
 ナーシュが、シェリスへ向けて鹿せんべいという名の手裏剣を投げ付ける。それにシェリスが極小の火の玉で対抗し、両者は弾けてその欠片が縄梯子を焼き切る。
「…………あ」
 支えを無くした梯子は、重力に引かれて落ちる。もちろん彼、ウィルネストもであった。

「アーカイヴスさんは大丈夫みたいです。気を失っているだけのようです」
 地面に落ちて気を失ったウィルネストの看護に当たっていたフィルが、トヨミに告げる。
「迷惑をかけてしまってごめんなさいです」
「よいよい、わしもお仕置き、楽しめたしの。……やつを取り逃がしたのが残念ではあるがの」
 それでも、シェリスが満足げに微笑む。ちなみにナーシュは、どさくさに紛れて逃亡したようだ。
「こうなったら、さっさとウマヤドを探します! 皆さん、行きましょう!」
 今度こそ、とばかりに出発するトヨミ一行、しかしすぐに、また別の火種が舞い降りていた。
「ちょっと何するの!? 離しなさいよ!」
「ウマヤドを見つけるには、こうするしかないんだ! だから大人しくしてくださいよ! もう蹴られるのは勘弁なんです!」
 抵抗するリン・ラベンダ(りん・らべんだ)を、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が逃がすまいと必死に引き留めつつ説得を試みる。
「アクィラさん、多分最後のが一番本音ですよね? と、とにかく、私たちに協力してください!」
「嫌よ! どうして私がこんな状況で協力しなくちゃいけないの!?」
 クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)とアクィラがなおも二、三度会話を試みるものの、全く成立する気配がない。
「あーもー、見てらんないわ! あたしが説明するから二人とも黙ってて!」
 アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)が進み出て、リンの前に立って言い放つ。
「いい? あたしたちはウマヤドを探しているの。でもって見つからないから、トヨミを人質にしようと思いついた。けど人質にするのは難しそうだから、魔法少女っぽい雰囲気のあんたを人質にしようとした。……これでいいかしら?」
「これでいいかしらって、いいわけないでしょ!? 魔法少女っぽいってのは、ちょっと嬉しいかもだけど……あーもー、誰か助けてー!」
「これだけ広いんだ、そう簡単に助けなんて――」

「来るものなんです。だって私、魔法少女ですから!」

「理由になってないぞー! ていうか俺、こんなオチばっかりー!?」
「はわわー、アクィラさんと一緒に星になってしまうですぅ」
「……なんなのよこの展開。もしかしてここだけコメディ?」
 トヨミちゃんのぶっ放した魔力の奔流――助けたい人だけ無効化できるようになりました、教えてくれた人ありがとう! とはトヨミ談――に巻き込まれて、アクィラとクリスティーナ、アカリが昼の星と化す。
「あ、ありがとう……助けられちゃったな。……え、あの人たちのことを知ってるかって? いいえ知らない人よ、「法起寺にいる皇甫伽羅にこれ以上蹴られないためにも、協力してくれ」って言ってきて、もう一体何なのよ……」
 憤慨するリンの言葉に、法起寺という場所が出てくる。
「法起寺は、ウマヤドの遺言によって建てられたとされている寺ですねー。今まで巡った寺よりも小さなものですが、雰囲気はとてもいいんですよー。……そうですか、ウマヤドはやっぱりそこに……皆さん、行きましょう!」
 トヨミを先頭にして、一緒に魔法少女をしている者、興味本位で付いて来ている者などがゾロゾロと法起寺へ向かっていく。

「おっ、その格好ええねー、名前は何つーの? 必殺技とかあるんやったら見せてもらおうかー」

 門をくぐったところで、大仏の覆面にTシャツ、ジーンズ、リュックにはどこぞのポスターをライトサーベルの様に挿した、オタクそうなを通り越してもはやアヤシイ以外形容しようのない風貌を装った日下部 社(くさかべ・やしろ)が、事前にトヨミに渡したはずの台本通りの演技をする。

「……………………」

「……あ、あら? 何や皆さんお揃いで……あ、あはは、トヨミはん台本読んでなかったりする――」

「お仕置きです!!」×たくさん

「変身シーンは見れないんやろかー!?」
 心の叫びを遺して、社が今日何個目になるかしれないお星様になっていった――。