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【2019修学旅行】やっぱ枕投げしなくちゃね!

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【2019修学旅行】やっぱ枕投げしなくちゃね!

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 橘 恭司(たちばな・きょうじ)もまた、始まった枕投げには参加せず、消灯までの時間を読書タイムにあてていた。
 部屋に用意されていたポットで湯を沸かし、人数分ある粉末茶を1つ茶器に開けて、湯を注ぐ。
 そうして用意した茶を啜りながら、本のページを捲っていたところに、枕が1つ飛んできた。直接当たったわけではなく、恭司のすぐ横に落ちてきたのだ。
 恭司は一瞬だけ枕に視線を落としただけで、また手にした本に視線を戻す。
 けれど、数分と経たないうちに、次は頭部に思い切り、枕が直撃してきた。
(ひとまず鎮圧してみようか?)
 本のページに栞を挟み、零れてしまわないよう茶を飲み干してから、飛んできた枕を手に立ち上がる。
 適当に切り上げるつもりが激化し、本気になってしまうことを知らずに、恭司はいざ、枕投げへと参戦した。

 日ごろ、とてもでないけれど敵いそうにない騎士や魔法使いの生徒たち相手に、今日は勝てるのではないかと影野 陽太(かげの・ようた)は、全力で枕投げに挑んだ。
 まずはかけ布団で簡易的なトーチカを築き、火力である枕もかき集める。そうしているうちに枕が飛び交うようになり、陽太が用意した布団トーチカにも枕が当たり始めた。
 集めた枕を誰かに集中砲火させようと見回せば、騎士らしく小細工なしで挑もうとする轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)の姿が目に入る。彼は飛んでくる枕を避けるでもなく、受け止め、そして投げ返していた。
「行きますよ!」
 雷蔵の様子を見て、彼を標的に決めた陽太は、枕を一斉に投げ始めた。
「お、今度は一気に来るのか!」
 1つ目を受け止めた雷蔵は、2つ目をその枕で叩き落とし、一緒に足元に落とす。3つ目、4つ目はまた受け止めて、素早く落とすと5つ目を受け止めた。
「今度は俺の番だな!」
 もう飛んでこないことを確認すると、反撃と言わんばかりに、陽太のトーチカを崩そうと枕を投げてきた。
「そう簡単には崩れませんよ!」
 言いながらも陽太は飛んでくる枕をまたかき集める。
 そうして、暫し2人の攻防が続いた。

 志位 大地(しい・だいち)は早々に寝るつもりであった。
 部屋の片隅の布団を陣取ると、それに潜り込む。
(安らかに寝たい。静かにしてもらえませんか……)
 枕投げが始まった室内は、騒々しくなかなか寝付けなくて、布団の中、寝返りを打っていると、誰かが交わした枕が大地の顔面へとぶつかってきた。
 その拍子に、かけたままのメガネが吹っ飛ぶ。
「俺の安眠を邪魔するとはいい度胸じゃないですか」
 言いながら、大地はかけ布団を捲った。
 飛んできた枕と自分が使っていた枕を掴むと、近くの生徒が「やっべ」と焦り、逃げようとする。
「そうですか、あなたから消し炭になりたいのですね?」
 くすと笑うと、大地は手にした枕をその生徒たちに投げつけるのであった。

(こんなにもくだらないことなのに、どうしてこんなにも楽しいのだろうか?)
 枕投げに率先して混ざっているウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)の思考にふと、そんな言葉が過ぎった。
 その瞬間、枕を投げつけられ、柔らかな枕が頭部に当たる。
「難しいことを考える必要はないな」
 ぽつと呟いて、思いを断ち切り、頭部に当たってきた枕を投げた生徒へと投げ返す。
 そこに枕がある限り、ウェイルは枕を投げ続けるのだ。

「布団の上では絶・対・無・敵! アーイム夜鷹仮面!! 寝ない子、誰だ」
 鷹がデザインされたアイマスクに、シーツのマントを羽織った正義のヒーロー『夜鷹仮面』こと駿河 北斗(するが・ほくと)は、そう言いながら枕投げに参加していた。
 アイマスクとマントは、蒼空学園の生徒でないことがバレないための彼なりの変装だ。
「秘技、布団返し!」
 アイマスクをしている分、視界はかなり狭まったものであるが、周りの生徒たちの気配に飛んでくる枕は、布団を盾のようにして、落とす。
「必殺、十六夜撃ち!」
 落とした枕が溜まってくると、16連撃の技を披露してみせた。
 ただ、こちらも視界が不十分なために、初撃が当たったと思って同じところに投げつけていることになる。当てられた生徒は途中で回避し始め、同じところに飛んでくる枕は、虚しく誰もいないところに投げ落とされているのであった。

 女子と見間違うような外見を持つ神和 綺人(かんなぎ・あやと)は、浴場から帰って来て男子部屋へと入る際、通りがかりの女将に呼び止められそうになった。けれど、男子部屋から出てきた生徒により、男子であると証明されて、漸く部屋へと入ることが出来たのだ。
 既に敷かれている布団の中から隅の方のものを確保すると、昼の疲れからか、先ほど疑われたことによる疲れからか、ドッと疲れた気がして、枕へと顔を埋める。
「……みんな、元気だね」
 就寝準備を終えるだけで眠くなる己と違って、枕投げをする他の生徒たちを見て、綺人はぽつと呟いた。
 隅の方を選んだ効果もあったか、流れ弾が飛んでくる様子は今のところない。
「……みんな、がんばれー。でも、片づける体力は残しておこうねー」
 間延びした声で、そう声援を送りながら綺人は観戦するのであった。

(どうしてこうなったんだ?)
 気付けば枕投げの真っ只中に居るレオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)は、飛んでくる枕を手にした枕で弾き返しながら、ふとそんなことを思った。
 レオナーズは、移動中に読んでいた本の続きでも読んで、消灯時間までやり過ごそうとしていた。
 けれど、1つの枕がそれを邪魔したのだ。
 飛んできた枕は、直撃ではなく、彼の隣に落ちた。けれど、それを取りに来た生徒がレオナーズの手を引き、枕投げへと参加させたのだ。
 仕方なく、少しばかり相手をしてまた読書に戻ろうと、レオナーズを参加させた生徒を中心にその周りの者たちと共に枕投げをし始め、今に至る。
「俺を巻き込んだこと、後悔するんだな!」
 腹を括り直したレオナーズは、そう言って、目の前の生徒へと枕を勢い良く投げつけた。

「何やら足元がスースーするぞ」
 パートナーと共に、蒼空学園に通う弟のところにやって来たエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、潜り込むために着替えた備え付けの浴衣の足元を見て、そう呟いた。浴衣は初体験のため、その着心地を不思議に思う。
「弟は何処か、なっ!?」
 男子部屋へと辿り着き、部屋に入って中を見回した。部屋は縦に長く顔が分かる範囲に居ないことから奥だろうかと入り込んで、その弟のところに辿り着く前に、枕をぶつけられた。
 やられたらやり返さねばという思いがエースを動かし、その枕を掴むと、投げてきた相手を瞬時に探す。
 窓際の男子生徒が笑んで、エースに向かって挑発しかけていた。
「む」
 その様子に彼が投げたものだと悟ったエースは、彼に向かって枕を投げ返す。
「エースがんばれー」
 パートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、エースの影に隠れるようにしながら、そう声援を投げかけた。
 挑発してきた生徒は、仲間たちと手を組んでエースを狙ってくる。エースもそれに負けじと投げ返すけれど、多対1では敵わず、途中でヒールをかけてでも対抗するのであった。