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ジャック・オ・ランタン襲撃!

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ジャック・オ・ランタン襲撃!

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 第一章 ジャック襲来!

「トリック・オア・トリート!」
 子供たちの楽しそうな声が町中に響き渡る。そう、今日は年に一度のハロウィン。思い思いの衣装に身を包み、家庭を訪問するだけでお菓子がもらえるという、子供たちにとっては夢のような日だ。
「パパ、行ってくるね!」
 かわいらしい魔女の格好をしたウィティートも、待ちきれないといった様子で家を飛び出し、早速子供たちの列に加わる。
「ああ、行ってらっしゃい。気をつけてな」
 ウィティートを笑顔で送り出すリサド。しかし、扉が閉まると彼の表情にはかげりが見え始めた。
「あなた、ウィティートは大丈夫かしら?」
 そんなリサドに、妻が心配そうな顔で話しかける。
「ジャック・オ・ランタンたちの狙いはあくまでお菓子だ。まずは子供たちより家庭を狙ってくるだろう」
「それは分かっているわ。ウィティートも、私たちが恐い顔をして着いていったのでは楽しめないでしょうし……でもやっぱり心配なの」
「心配なのは俺も同じさ。だが子供たちのためにも、家を空けるわけにはいかない。今回は学生たちがジャック・オ・ランタン退治に名乗りを上げてくれたことだし、ウィティートは大丈夫だよ。俺たちはなんとしてもハロウィンを成功させよう」
「そうね……」
 そのとき、家の扉が勢いよく開いたかと思うと、一人の若い男が慌てて駆け込んできた。
「リ、リサドさん! 来ました! やつらです!」
「……ついに来たか。今年こそは思いどおりにさせんぞ!」
 リサドは武器になりそうなものを片っ端から手に取り、立ち上がった。

「いよいよのようだ」
 慌ただしく動き出す大人たち見て、町に出ていたアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が呟く。アルツールは、昔日本で見かけた漫画に登場する『世紀末救世主』の仮装をしていた。
「現代人は面白い習慣をもっているのだな」
 そう言うシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の仮装は『世紀末覇者』。これなら鎧を着ていても違和感がない。巨体のシグルズには実によく似合っていた。
 やがてアルツールが、上空にの群れを発見する。
「む、あれがジャックであろう。シグルズ、早速退治するぞ」
「作戦は?」
「以前校長が、炎を集中させて剣を作り出したと聞いている。俺はそれを真似て氷術で盾を作るつもりだ。盾で攻撃を防ぎながら箒で体当たりを食らわせれば、周囲に被害を出さずダメージを与えられるであろう」
「僕は叩き落とされた敵にとどめを刺せばいいんだな」
「そういうことだ。頼んだぞ」
 アルツールはそう言い残すと、空飛ぶ箒でジャックたちの下に向かう。しかし、ジャックたちはお菓子以外に興味がないのか、アルツールには見向きもしない。
「俺のことなど眼中にないようだな。だが、ここを通すわけにはいかないのだよ」
 アルツールはジャックたちの前に回り込む。すると、ジャックたちはいきなりアルツールに襲いかかってきた。
「ケケケッ」
「ヒャハハハハ」
 ジャックたちがアルツールに向かって一斉に火術を放つ。アルツールは氷術の盾でこれを受け止め、体当たりを繰り出そうとする。が、そこでシグルズが叫び声を上げた。
「アルツール、盾が溶けている!」
 アルツールが手元を見ると、大量の火術に晒されて盾はほとんど溶けきっていた。その隙をついてジャックたちが更に火術を放つ。
「くっ」
 アルツールは咄嗟に身を翻したものの、いくつかの火術を浴びて墜落するように地面に降り立つ。慌てて火を消すと、衣装が焼け焦げていた。
「大丈夫か、アルツール」
「ああ。やつら、見た目に反してかなり手強いようだ」
 アルツールを撃墜したジャックたちは、再び移動を開始する。
「ちい」
 シグルズがマントの下からブロードソードを取り出す。周りにあまり被害を出さぬよう、小さめの武器をもってきたのだが、敵がリーチ外にいるのでは意味がない。彼はブロードソードを握りしめると、宙に向かって思い切り投げつけた。
「グゲッ」
 油断していた一匹のジャックがブロードソードに貫かれ、地面に叩きつけられる。アルツールはすぐに駆け寄り、まだ動いているジャックを調べ始めた。
「ジャック・オ・ランタンとは魔法生物なのか妖精なのか。それとも……」
「そんなことをしていていいのか? あいつら行ってしまうぞ」
 シグルズの視線の先で、ジャックたちは各家庭へと散らばっていった。

 この小さなカボチャのお化けに、学生たちは思わぬ苦戦を強いられることになる。 
 
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は西部劇のガンマン風の格好をして、ある民家の部屋に待機していた。そこにお菓子を探して一体のジャックがやってくる。クレアは落ち着いてこう言った。
「どうだ、正々堂々早撃ち勝負といかないか。今から私がお菓子を投げる。それが皿に落ちるのを合図にしよう」
 しかし、ジャックはクレアの言うことなどおかまいなしに、部屋をきょろきょろと見回している。
「……聞いているのか? まあいい、私は私のやり方でやらせてもらう。いくぞ」
 クレアがお菓子を一つ取り出す。と、突然ジャックが彼女に向かって突進してきた。
「わっ」
 不意を突かれてクレアがバランスを崩す。ジャックはクレアの手からお菓子を奪い去ると、部屋の出口へと向かった。
「待てっ!」
 ハンドガンを構えるクレア。だが彼女の優しさが、引き金を引くのを一瞬ためらわせた。
「全く……私はつくづく争いごとには向かないな」
 クレアは、次なる獲物を求めてさまようジャックを追った。

月見里 渚(やまなし・なぎさ)は空き家の広い一室で待機している。黒いワンピースに三角帽子で魔女の仮装をしているが、手にした武器は機関銃だ。
 渚は持参したカボチャのクッキーとニンジン入りのマフィンを囮として玄関から部屋の中まで配置し、ジャックの誘導を試みる。本当は野菜嫌いのパートナー、セイリオス・リート(せいりおす・りーと)にもこのお菓子を食べさせるつもりだったのだが、気付かれてしまった。ちなみに、セイリオスは仮装なんて恥ずかしいので、守護天使の翼に白いコートで天使の仮装ということにしている。
 セイリオスは部屋の入り口を確認でき、かつ囮のお菓子から死角になる位置で物陰に潜む。しばらく息を殺していると、宙に浮いたオレンジ色の物体がふらふらと部屋に入っていくのが見えた。
「なぎ、後は任せたぜ!」
 セイリオスが勢いよく部屋のドアを閉め、ジャックを閉じ込める。
「はい!」
 ドアの方を振り返ったジャックの後頭部に、渚の先制の一撃がヒットする。ジャックの頭に穴が開いた。渚は続けざまに銃弾を撃ち込む。
 しかし、ジャックは顔を穴だらけにしながらも活動を停止しない。ジャックの放つ火術が部屋に火をつけると、渚は突然頭を抱えて座り込んだ。
「ああ……い、嫌……」
「なぎ! くそっ」
 セイリオスが咄嗟の判断で部屋のドアを開けると、ジャックは残りのお菓子を回収して部屋を出ていく。セイリオスはマントで火を消し、渚の下に駆け寄った。
「なぎ、大丈夫だ。もう火は消した」
 渚はまだ震えている。過去のトラウマで、渚は燃えている家を極度に嫌がるのだ。
「ごめんなさい、私……」
「気にするな。もってきたお菓子をくれてやっただけだ。それにしても、一体あいつはどうやって倒せばいいんだ?」
 渚を抱きかかえながら、セイリオスは悔しそうに唇をかんだ。

「森次ちゃんなんなのそれ。全然かわいくないよ」
 セーラー服を着たウェンディ・ノワック(うぇんでぃ・のわっく)、通称『風子さん』がつまらなそうに言う。
「だって、そんな格好恥ずかしくてできないもん……」
 そう答えたのは一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)。彼は顔に『へのへのもへじ』と書いた紙を貼り付けているだけだ。森次も風子さんにセーラー服を着るよう言われたのだが、さすがにお断りした。
 他の多くの生徒たちと同じように、二人も用意してもらった部屋でジャックを待ち構える。ジャックの誘導には風子さんが持っていた飴を使用していた。
「それにしても、あんまりだよ風子さん。せっかくボクが作ってきたお菓子を捨てちゃうなんて」
「だって、森次ちゃんの料理って兵器になるほどひどいんだもん」
「そこまで言わなくても……いてっ。わわ、何? 風子さん。そんなに近づい
て……ん? 風子さんの顔ってこんなに堅かったっけ」
「森次ちゃん、それジャック! 早くその紙取って! 前が見えないでしょ」
 風子の声に、森次は顔に貼り付けた紙を引っぺがすと同時にエペで前方を突
く。攻撃を受けたジャックは、森次の方を向き攻撃態勢に入った。
「正義の味方登場だぞ☆」
 風子さんはジャックの背後から火術を浴びせ、まだ十分に戦闘態勢がとれて
いない森次を援護する。
「それそれ直火焼きだー。カボチャなんだから、きっと焼いてもおいしいよね」
 しかし、ジャックは大人しくなるどころか一層活発に動き始める。
「風子さん、効いてないよ!」
「そんなこと言ってないで、森次ちゃんがどうにかしてよ!」
 炎を受けて力を増したジャックは、一際大きな火術を次々と放つ。
「わあ、だめだ! 一時退散しよ!」
「ま、待ってよ風子さん。このままじゃ家が燃えちゃうよ」
「敵はお菓子が目当てなんだから、すぐにどっかいくはずでしょ。そうしたら戻ってきて消火すればいいわ。ますは逃げるの優先!」
 森次たちは一目散に逃げ出した。

「ヒーホー、お前子供達のお菓子を取ってく悪いヤツなんだってな? ジャックブラザーズは正義の悪魔だ、お前をお仕置きするぜ、ヒーホー!」
 黒い帽子に黒いコートを着てジャック・ザ・リッパーの仮装をした十六夜 泡(いざよい・うたかた)が、担当の家でジャックに相対する。
 泡の胸ポケットには、青い帽子の雪だるま、ジャック・オ・フロストの姿をしたパートナーのリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が入っている。彼女もジャックの気を引こうとして言った。
「ヒーホー、ランタンさん、どうして子供達の為のお菓子を持って行っちゃうんですか?」
 ジャックは二人の言葉を完全に無視。お菓子集めに精を出している。そこで、リィムがジャックにちょっかいを出した。
「ヒーホー、ランタンさん、私があなたに『トリクオアトリート!』です」
 リィムはギャザリングヘクスで魔法攻撃力を高め、火術を放つ。ジャックはこれにビクともせず、火術を撃ち返してきた。
「おっと、させないよ」
 泡はこれを氷術で相殺。更に鎖十手を投げてジャックに絡ませ、鎖を伝うように雷術を流す。
「どんなもんだい!」
 完璧な攻撃だった。相手がジャックでさえなければ。そう、ジャックには痺れるだとかそういった感覚がないのだ。ジャックは鎖を邪魔そうにしているだけで、ダメージを受けている様子はない。
 作戦がうまくいっただけに、泡はこの結果にショックを受けた。しかし、ここで冷静に頭を切り換える。こちらから攻撃をしなければジャックはお菓子をもっていくだけで攻撃はしてこない。泡はそれを確認すると、ジャックから鎖十手をはずしてリィムに言った。
「リィム、作戦変更よ」
「どうするんですか?」
「魔女に会いに行くの。どうも何かあるような気がして。こっちがうまくいかない今、それが得策な気がするわ」
 泡は外に出ると、道行く子供たちに声をかける。
「ねえ、あなたたち、魔女さんの家にお菓子をもらいに行かない? きっと一人ぼっちで寂しいと思うんだ」
 それを聞いて子供たちは目を輝かせた。
「えー、魔女さん?」
「行く行くー!」
「どこにいるのー」
「えーと、それは……」
 ここにきて、泡は魔女の居場所を知らないことに気がつく。こうして、泡とリィムの、子供たちを率いた魔女探しが始まった。

 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はジャック退治にやる気満々だった。仮装は神父の格好をしたエクソシスト。お化け退治をするのにこれ以上相応しい格好はないだろう。そして今、彼の目の前ではお菓子に夢中のジャックが背を向けている。
「真正面から相手する気はねえが、一応お約束だから聞いておくぜ。トリック・オア・トリート?」
 トライブはそう言い終わらないうちに綾刀を振り下ろし、ジャックをぶった斬った。勿論、例のごとくこれではジャックを倒せない。しかし、トライブもこれで怖じ気づくような男ではない。
「ほう、顔面ぶった斬られても平気か。なかなか根性あるじゃねえの。おもしれえ」
 トライブに火術を放つジャック。トライブは手近にあったフライパンで、咄嗟にこれを防いだ。
「おい朱鷺、あんたも手伝えよ」
「嫌です」
 トライブのパートナー、千石 朱鷺(せんごく・とき)は当然のように答える。
「やる気あんのかよ!」
「ないに決まっているではありませんか。これでも、せっかくのハロウィンですから精一杯お付き合いしているんですよ。ほら、ワーキャット」
 朱鷺は頭につけた猫耳を指さす。
「これで語尾に『にゃ〜』とでもつければ、完璧ではないですかにゃ〜」
 ジャックと戦闘を繰り広げるトライブは恨めしそうな目で朱鷺を見る。
「なんですか、その目は。分かりましたよ、わたくしは子供たちを守りましょう。カボチャ退治はトライブに任せます。さあみんな、あのお兄ちゃんの見せ物を楽しみましょうにゃ〜」
 朱鷺はそう言って子供たちにお菓子を渡す。子供たちは本当にハロウィンの出し物だと思っているようで、大喜びだ。
「ち、ちくしょー!」
 トライブの孤軍奮闘は続く。