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【十二の星の華】エメネアと五獣の女王器

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【十二の星の華】エメネアと五獣の女王器

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(騎士が使えるべきは国であり民。より良い女王になれる人がいるなら、そちらに仕えるべきだもんね)
 女王器を探しながら、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は参加者たちの様子を探る。中には女王器を己のものにしようとしている人もいるのだ。その人たちがどういった人物なのか、騎士として仕えるべき相手を見定める必要がある、と彼は思っていた。
「んー、女王器じゃなくても今日のご飯代に出来そうなもの拾えないかなぁ……」
 1つの部屋に入り、部屋の大きさをメジャーで測りながら、サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)は呟いた。
「サフィ、真面目に」
「ってちゃんとやってるわよ、失礼ね。4メートルよ」
 サフィが測った数値を元に、地図を作成しているローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)は彼女の呟きに怪訝そうな顔をした。空かさず言い返して、今しがた測った数値を伝える。
「まあまあ2人とも」
 間にクライスが割り込んだ。
「この先の通路はどうなっていた?」
 他の地図を作成している学生と情報を共有すべく、ローレンスが描いた地図と他のものを見せ合ってきたのだ。
「先は通路が二手に。右は落とし穴があって、左は大丈夫みたい。更におくに続いているけれど通路の先には階段はないから、まだ未探索の部屋にまた階段はあるだろう、って」
 写してきた地図を広げてクライスが答えた。
「『見定める』方はどうだ?」
「実際、女王器が前にないと何とも言えないね。狙っていたとしてもそれを表面に出しているわけではないみたいだし」
 ローレンスの問いかけに答えるクライスに、サフィが首を傾げる。
 部屋の中の地図を完成させながら、今回のクライスの思惑を簡単に彼女へと伝えた。
「正直に言わせてもらえば……別にミルザム・ツァンダさんに絶対に即位してもらわなきゃいけないわけじゃないしね。女王は民に即位を納得させられて、かつ国を治める資質さえあれば誰でもいいんだから」
「まあ確かに今の女王候補って『へー、こんな人いたんだー』位にしかしらないけど……」
 クライスの言葉に、サフィがこくりと頷く。
「極端な話、出来るのならサフィさんが女王をやっても全然良いんだしね」
「いや、流石にあたしが女王やるのは無理だって。そんな簡単に出来るならとっくに再建されてるわよ。候補として名乗り出れるだけでもすごい大変なんだからさ。そういう意味では今回は無駄足になるかもねー……」
 一転、サフィは首を横に振った。手もそんなことできないと言わんばかりに左右に振られる。
「ま、十二星華ってのに直接会えたら違うのかもしれないけどね」
 来がけに誰の問いかけに答えたものだったのか、今回の話を持ち出してきたエメネアが十二星華の1人であると改めて名乗っていた。
 それを思い出して、ぽつりと呟く。
「それもそうだね。でも、何の罪も無い民をむやみに傷つけようとする様なのは、女王だと少なくとも僕は認めない。だからこそ、『見定める』必要はあると思うんだ」
 クライスの言葉に、ローレンスもサフィも頷いて。
 棚の中身や床や壁、天井におかしなところがないかなど探索を終えると、部屋を出た。
(……怪しすぎる)
 探索に来る前。エメネアからの話を聞いた湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)はそう思った。
 遺跡の外で集まった学生たちの顔を確認しておいた彼はパートナーのエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)を先行させ、それより後方を進んでいた。
(そろそろか?)
 エクスが未探索の部屋に入ったところで凶司は周りに人を探す。
 丁度、静麻とパートナーの魅音が通りかかった。
「エクスが女王器を見つけたといっている」
「女王器を!? 向かおう、何処だ?」
 凶司の言葉に驚きながら静麻は場所を問う。先にある部屋だと知れば、パートナーと共に駆けて行った。
 他にも通りかかる学生へと凶司は声をかけ、偽の情報を広めさせる。そして、エクスの元に集まる者たちの顔を先ほど確認しておいた集まった学生たちのものと見比べていった。
 一方、部屋に入ったエクスはというと――。
「女王器を見つけたって!?」
「何処ですか、女王器は!」
 突然やって来た静麻たちに驚くのも束の間。他の学生たちも部屋へとなだれ込んでくる。
 口々に告げられるのは『女王器』という単語。
「ボクが女王器を見つけた!? そんなの聞いてなーい!」
 けれど、そのようなもの見つけてもいないエクスは、戸惑いながら叫ぶ。
「何だ違うのか」
「嘘かよ」
 エクスの言葉に、皆肩を落として、部屋を出て行く。
 その様子もずっと見ていた凶司は、集まった学生たちでない者を発見することは出来なかった。嘘などには翻弄されないということだろうか。
「五獣の女王器つー話さえなけりゃモンスターも無駄に死なずにすんだろうに……」
 立ち寄った部屋の中にゴブリンの死骸を見つけたロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)は呟いた。ゴブリンの死骸から後で金になりそうなものを拾っておく。
 部屋を出ると、エメネアの元へと戻っていった。
「エメネア。忠告しておくぞ。送り主が元凶だがエメネアも自分が選択してこういう自体を招いたんだ。無駄に死なずにすんだかもしれない命があるってこと、覚えとけ」
 ゴブリンの死骸から取ってきた物を見せながら、ロアはエメネアに言う。
「わ、分かっています!! でも、女王器の話がなかったとしてもいつかは人の手が入ったかもしれない遺跡です」
 少し見つけ辛いような外見の遺跡であったが、そこにある以上、いつかは発見され、人の手が入り、ゴブリンや他にいるかもしれないモンスターもそのときに命を落とすことになっていただろう。
 そのときが今になったのだ。
「分かってるならいいんだけどよ」
 エメネアの答えにロアは頷いて、また他のゴブリンやモンスターの死骸に対して、彼なりの供養をすべく、彼女の傍を離れた。