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【十二の星の華】エメネアと五獣の女王器

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【十二の星の華】エメネアと五獣の女王器

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第3章 手ごわい遺跡

 地下1階。
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が用意した光精の指輪による人工精霊の作り出す光に照らし出されたのは、階上とは違う造りの通路であった。
 リアトリスの言葉に素直に頷いたエメネアは、護衛の学生たちと共に、待っている。

 星槍の一件で少しでも反省しているのだとしたら有り得ない彼女の暢気さ、花柄という見るからに怪しい手紙、そして突拍子もなく出てきた『鏖殺寺院』という言葉。
 その3点から志方 綾乃(しかた・あやの)が考えたのは彼女――エメネアは鏖殺寺院との内通者なのではないか、という答えであった。遺跡に入る前の他の学生とのやり取りは、自分たちを騙すためのものでは、と。
(エルお兄ちゃんは殺させないんだから!!)
 手紙を自作し、女王器があることをエサに学生たち――特に、綾乃が兄と慕うエル・ウィンド(える・うぃんど)をおびき寄せ、倒してしまうのではないか、と考えた。
 募集に応じたエルがエメネアの護衛として傍に居るため、更にその傍に控えて、少しでも怪しい動きをしないかと監視してきた。
 けれど、ここまで怪しい動きなどなかった。
 それでも怪しいのだと一度疑った思いが晴れることなどない。更に先で何か起きるのかもしれないと監視を続ける。
「今回キスのご褒美とかやんないの?」
 不意に桐生 円(きりゅう・まどか)が訊ねた。
「あ、あれは、もうしないんです!! 皆さんに簡単にキスなどしてはいけないって、言われましたし、お祭りのときはつい口が滑っただけですし……」
 しないのだと否定を表すように手を左右にぱたぱたと振りながら、エメネアは答える。
「そうなの」
 一生懸命なエメネアの否定に、苦笑を漏らしながら、円は納得したようだ。
「待機がてら休憩にしようよ!」
 ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が菓子を広げ始める。エメネアと仲良くなるために、百合園学院から持って来たのだ。もちろん、仲良くなるためだけでなく、慣れぬ遺跡の中、不安に思っているだろうエメネアの気持ちを思ってのことでもある。
「美味しそうなお菓子ですねー!」
 広げられた菓子の数々に、エメネアは微笑む。
「どれからでも食べて! 美味しいから!」
 珍しい菓子には説明を添えて、ミネッティはエメネアへと菓子を勧めていく。
「温かいお茶をお持ちしてますよ。エメネア様、寒かったでしょう?」
 絹屋 シロ(きぬや・しろ)も荷物の中から水筒を取り出した。紙カップも取り出して、それに注いでいく。
「手伝うわ」
 言って、リリ・マクレラン(りり・まくれらん)が広げた菓子や水筒の中の茶を注いだカップがエメネアへと渡るよう、手伝いをした。
 あっという間に階段の前で、茶会が始まる。
 エメネアの周りへ新参者であるリリが近付くことで良い顔をしていない者が居ないか、リリのパートナーであるルーク・ナイトメア(るーく・ないとめあ)は、そっと周りの者の様子を窺う。怪しそうな者は居ない。
 皆、周りへの警戒を行いながら、突然始まった茶会を楽しんだ。
「この先、更に地下に潜るのですよね。きっとお寒いでしょうから、マフラーお貸ししましょう」
 シロは持参したマフラーを取り出すと、ふわりとエメネアの首元に回した。
「ありがとうございます、シロさん。ふふ、あったかいですよー」
 そのマフラーに触れて、微笑みながらエメネアは答える。
 皆で食べれば、菓子も飲み物もあっという間になくなって、また静かにリアトリスが戻ってくるのを待った。

「安全な通路は見つけました。けれど、通路の先には階段はありませんでしたので、また何処かの部屋にあるのでしょう」
 戻ってきたリアトリスが言う。
「では、皆さんで手分けして部屋を探索しましょう! リアトリスさんばかりに任せるのも悪いですしね」
 エメネアが言うと、待機していた護衛の学生たちも動き出す。移動を始めると共に、円とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はエメネアへディテクトエビルを使用した。
 これでエメネアへと邪念を抱いている存在があれば、気付くことが出来るであろう。
「エメネア……こういう場所には罠が多いので……」
「それでは早速、出発ですよーー!!!」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)がかけた声を遮るように、エメネアが歩き出した。
(言ってる側から突っ込むな!)
 思わず心の中で叫んで、恭司は後を追い始める。
「エメネア、単独で向かうと危険ですよぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)も彼女のことを追いかける。
(思ったとおり。面白い子だ)
 探索自体もだが、話を持ちかけてきたエメネアのことも面白そうだと思って護衛をしに来た神凪 朔(かんなぎ・さく)も他の護衛の学生たちに混ざって、追う。
 エメネアは、近くの部屋の前で止まっていた。
「この部屋に入るの? 私に任せて!」
「はい、お願いします」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が扉に罠がかかっていないか、調べ始めた。彼女のパートナーである藍玉 美海(あいだま・みうみ)も魔法的な罠がかかっていないか、調べる。
「ノブが回されることで、ここがこうなって……」
 扉が開くことにより作動する物理的な罠が張られているようだ。沙幸はそれを見つけると、解除し始めた。
「これで良しっ! 開いて大丈夫よ、エメネア」
 罠を解除した沙幸は立ち上がって、エメネアの方を振り向くとそう告げた。
「では、早速」
 扉を少しだけ開けると、壁際に仕掛けを解かれて不発になってしまったボウガンのようなものがある。
 更に開けると、扉の影で息を潜めていたのであろう、ゴブリンたちがエメネアへと襲い掛かってきた。
「危ないっ!!」
 狩野 神威(かのう・かむい)が声を上げる。
 咄嗟に抜いたブロードソードででゴブリンの棍棒を止めた。
 恭司がエメネアの手を引く。
「気を抜いてはいけませんわ」
「ゴールに着くまで油断は出来ないものよ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が機関銃を、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)がウォーハンマーを構えた。
「エメネア、下がっているんだ」
 ノイン・シュレーカー(のいん・しゅれーかー)もカルスノウトを構えながら、パートナーの恭司が引き寄せたエメネアを背に庇うように前へと立つ。
 沙幸はゴブリンの死角に回り込んで、雅刀を振るった。見えないところからの攻撃に、ゴブリンは避けることが出来ず、大きな痛みを受ける。
 続く美海は炎の嵐を呼び起こし、ゴブリン全体を包み込んだ。痛みを受けていた1体はそれにより、倒れる。
 フィリッパが続けざまに撃ち出す弾に、同時に2体のゴブリンが地に伏した。
 メイベルも火を呼び出すとゴブリンに向けて放つ。神威が剣圧を纏った一撃を放ち、そのゴブリンは倒れた。
 それでもまだ残っているゴブリンは、学生たちへと棍棒を振るってくる。
 回避し切れず受けた傷を朔が癒した。
 残るゴブリンも皆で協力し合い倒しきると、それまで皆の後ろに下がっていたエメネアは改めて、部屋を見回した。
 階段はない。
 壁際に棚があり、所狭しと怪しげな色の液体が入った瓶が置かれているけれど、女王器らしきものもない。
「次行きましょうか」
 恭司がぽつりと呟くように訊ねるとエメネアはこくりと頷いた。

 それから、いくつかの部屋を回った。
 ゴブリンの住処になってしまっているのか、というくらい、エメネアや学生たちはゴブリンに遭遇する。
 彼らも少しは知恵が回るのか、扉に鍵がかかっていたり罠が張られていたり、と開けるまでに時間をかけていると、その扉の影に隠れて待っている。
 奇襲されても学生たちはエメネアを護り抜いた。
 そうこうしているうちに遺跡探索班のメンバーが下り階段を見つけたと、報告してくる。