なし

リアクション

１２．

　集合時間の四時になり、再びはばたき広場へ集まる生徒たち。
　子ギツネは三匹とも無事に見つけることができ、八森博士は満足だった。
「あのっ、子ギツネはどうするんですか？」
　と、ミルディアが挙手しながら尋ねた。
「うん、そのことなんだけど」
　八森博士は一人の生徒を手招きした。ロザリンドだ。
「ロザリンド・セリナと申します。親キツネに会ってきました」
　と、前へ出た彼女は言う。やっぱり親が近くにいたんだ、と声が聞こえてくる。

　ヴァイシャリーの外れにいたのは、大人のキツネだった。
「あなたが白い子ギツネたちのお母さんですか？」
　尋ねると、キツネは彼女をじっと見て、人間の姿へ化けた。
「あの子たち、元気でやってるの？」
「そ、それは分かりません。でも、お母さんと一緒に帰らせたいと――」
「それは出来ないわ。あの子たちを街へ置いてきたのは私なの」
　キツネはそう言って遠い目をした。
「あの子たちが捕まっても、死んでも、人間に飼われても、それは全てあの子たち自身で決めること――」

「だから、子ギツネには選ぶ権利があるんです」
　と、ロザリンドは言った。
　ファイリアに抱かれていた子ギツネが、地面へ降りて女性の姿へ変わる。
「それは、本当なのですか？」
「はい。お母さんは、あなたたちに強く生きてほしいと言っていました」
　綾香の腕の中にいた子ギツネが降りるのと同時に少女の姿へ化ける。
「そんな、嘘だ！　じゃあ、お母さんはボクたちを捨てたっていうの？」
　歩に抱かれていた子ギツネも、抜け出して幼い少女の姿へ変わる。
「やだよ、おねぇちゃん」
　と、女性の腕を取る。しかし、女性は言った。
「そうですか。薄々、気づいてはいました。私たちはもう、一人で生きていかなければならないのですね」
　両目を閉じ、姉妹を抱き寄せる。
「……これからどうするかは、自分で決めなさい」
　一番最初に動いたのは末っ子だった。
「ルビー、みんなともっとあそびたい」
　と、子ギツネの姿へ戻り、歩たちへすり寄る。
「なら、その子は百合園で飼う、で決まりだな」
　と、シリウス。百合園生が一斉に沸いた。
「お兄ちゃん、私も飼いたい！　私、ちゃんと育てるから！」
　と、急に声を上げる美雪。そばにいた祐司は「でも、選ぶのは子ギツネだろ？」と、しぶっている。
　白狐が女性と目を合わせると、女性は子ギツネへと戻った。
「それなら、イルミンスールでみんなと一緒に飼いましょう」
　子ギツネが白狐の足元を通り、美雪へと歩み寄る。
「本当！？　やったー！」
　美雪は喜んで子ギツネを抱き上げた。
　残った少女は悩んでいた。姉妹のように人間に飼われるか、それとも野生で生きるのか。しかし、母と離れて分かったことは一つ……独りで生きるのは寂しい。
「空大でよければ、引き取ろう。あそこは土地もあるし、アルビノに関して理解ある人間も多いだろう」
　と、綾香が少女へ声をかけると、少女は子ギツネへと戻った。そしてまた綾香の胸へ抱かれる。
「……で？」
　子ギツネ三匹とも引き取り手が見つかってしまい、八森博士は首を傾げる。
「これで授業は終わり、ですよね？」
　と、リーブラ。
「えっと、うん、そうなんだけど……おかしいな」
　腑に落ちない様子の八森博士。予想していた終わりとは全くかけ離れた現実に、どうしたらいいか悩んでいる。
「えーと、とりあえず、みんな、ありがとう。これで今日の授業は終わり、です……？」
　と、八森博士は言ったが、やはり納得できないでいるのだった。