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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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8.

 ヴァイシャリーを歩くのは久しぶりだ。懐かしさに胸をときめかせつつ、東雲秋日子(しののめ・あきひこ)は隣を歩く要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)を見た。
「アルビノは日光、つまり紫外線に弱いんです」
 と、助言する要だが、その彼もまた肌が白く、髪も白い。目の色も、赤い。
「だから日陰にいるはずです。木の陰とか」
 先ほど聞いた八森博士の説明を思い返すと、何だかとっても……似ている。しかし彼は純情なので、それとはまた別だろうか。
「日陰だって、キルティ」
 と、秋日子は後ろにいるはずの人物へ声をかけたが、そこには誰もいなかった。
「あれ、キルティ?」
 要も後ろを振り返って、首を傾げる。
「……はぐれたんでしょうか」
「まさか。そんなに迷うような道歩いてないはずだけど」
 あーあ、と空を仰ぐ。キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)は男なのか女なのか、まるで分からない不思議な奴だ。女装すると明朗快活なのに、男装すると無口になる。
「やっと分かると思ったのに」
 と、秋日子は小さく舌打ちをした。

 くしゅん、と小さくくしゃみをして、キルティスは首を振る。
 子ギツネに見つかってはまずいのだ。自分の性別がばれてしまう。気を引き締め、周囲の気配に集中しながら歩く。できたらどこかに隠れて時間を稼ぎたいのだが……。
 ふと向こう岸で地面に横たわる人影を見つけた。男性と、もう一人は子どもだろうか。
 意図して近づくわけではないが、人気のない場所となるとそちらしか道がない。キルティスは歩き続けて、はっとした。
「おにーちゃん、またね」
 と、立ち上がった幼女の尻にはキツネと思しきしっぽが付いているではないか!
 慌ててキルティスは走り出した。

「パラミタアカギツネって、風の魔法を使うみたいですねぇ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は人から聞いた話を話題にあげた。
「だからあちこちで悲鳴が聞こえるんだね」
 と、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)も言う。未だに子ギツネと出逢えていないので、その威力がどれほどのものか、彼女たちは知らない。
「まぁ、気長に探しましょう」
 のんびりとフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が言って、メイベルたちはまたそれぞれに周りの景色へ目を凝らす。
「うーん、いませんねぇ」
「三匹だけだしなぁ」
「キツネさーん、どこにいますのー?」
 別々の方角へ呼び掛けた時、背後から風が吹いた。下から上へとスカートがめくられ、三人が悲鳴を上げる。
「きゃあ!」
 子ギツネが現れたのかと思いきや、そこにはしっぽをぱたぱたさせる香苗と、満足げな顔のどりーむ。
「逃げろー」
 怖い顔になる三人を見て、どりーむが我先にと走り出す。その後をキツネになりきっているのか、四本足で駆けていく香苗。
 セシリアの手に鈍器が握られていたのは、言うまでもない……。

 ルミ・クッカ(るみ・くっか)に制服の下にジャージを履くよう言われ、エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)はその通りにした。そのおかげか、気にせずに動き回ることができる。
「きっと、お母さんとお父さんが心配してますよね。ちゃんと見つけ出さなきゃ」
 と、子ギツネには到底入れないような、小さな隙間を覗き込む。
「あの、エルシー様……いくら何でも、そのような場所に子ギツネはいないかと思われます」
 ルミがそう言うと、エルシーは言った。
「でも子ギツネって小さいんでしょう? もしかすると、隙間に挟まって動けなくなっているかもしれません」
「子ギツネって、そんなに小さいの?」
 と、ラビ・ラビ(らび・らび)が尋ねれば、エルシーはどこか威張ったように言う。
「ええ、赤ん坊ですからとても小さくて、これくらいだと聞きました」
 身振りから両手に乗るサイズであることを教えるエルシー。一体どこで聞いたのか、それは生まれたばかりのサイズだと思うルミ。街に迷い込んで逃げ回っているのだから、もう少し大きくなっているはずだ。
「ちっちゃいね。ラビの方がお姉ちゃんだぁ」
 と、ラビは無邪気に笑う。――運よく子ギツネに遭遇出来たら、きちんとエルシー様に教えてあげましょう。
 そう心の中で誓うルミだった。

 百合園の教室で地図を広げた和泉真奈(いずみ・まな)は、耳に当てた携帯電話へ言う。
「それなら、もう少し先の方へ行ってみてください。路地裏から表へ出た可能性もあります」
 チェックを付けた個所は子ギツネが目撃された場所だ。通話の相手がいる場所の近くには五か所ほどチェックがついていた。
 しかし返答には実りがなく、子ギツネがすでに移動した可能性を思わせた。
「それなら……そこから東へ行ってください。たぶんそちらにはいると思います」
 ぱちんと通話が切れ、携帯電話を机へ置く真奈。子ギツネは三匹いるので、どのキツネがどこで目撃されたかという確かな情報はほとんどない。それでも闇雲に探すよりはましなはずだ。

 携帯電話をポケットへしまったミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、自転車のペダルへ足をかけた。
 真奈から指示されたとおり、東へ向かって漕ぎ始める。
 子ギツネを探し始めてもう一時間が経過している。授業時間内に出会うことができるだろうか。出来たとしても、その子ギツネはその後、どうなってしまうのだろう?
 ぼんやりとそんなことを考えていると、突然強い風が吹いた。はっとしたミルディアは崩れかかったバランスを取り戻し、通り過ぎた物体に目を向ける。白くてふわふわした小さな動物。
「子ギツネ!」
 ミルディアは全速で駆け出そうとして自転車の方向をぐるりと変える。そして足をかけた時、子ギツネの姿は消えていた。すぐに携帯電話を取り出し、真奈へと繋ぐ。