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【学校紹介】イコンシミュレーター

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【学校紹介】イコンシミュレーター
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第五試合

十七夜 リオ(かなき・りお)
フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)
和泉 直哉(いずみ・なおや)
和泉 結奈(いずみ・ゆいな)
星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)
時禰 凜(ときね・りん)
+α



リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)
神崎 優(かんざき・ゆう)
水無月 零(みなずき・れい)
神代 聖夜(かみしろ・せいや)
陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)

 ◇

「よしっと、これで2機終了……」
 開始前。チーム機にシミュレータ上で迷彩塗装を施しているのは十七夜 リオ(かなき・りお)。手伝っているのはフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)だ。塗っているのは青灰色系統。陸上より、空中で効果を発揮するカラーリングである。現在は、自分たちのイーグリットと、和泉 直哉(いずみ・なおや)和泉 結奈(いずみ・ゆいな)が乗るイーグリットの塗装が終わったところだ。残るは星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)の機体。これもイーグリットだ。
「じゃ、星渡くんのもやっとこうか」
「いや、俺は迷彩無しでいきます」
「あ、そう?」
「逆にみんなの気配をごまかせますしね」
「おお……男らしいな」
「まあ、俺の場合、すぐ見つかる可能性高い、というのもあります」
 リオが笑う。後ろでフェルクレールトが凄い形相になっている。そこへ直哉の声。
「みんな、ちょっと結奈の話聞いてくれ!」
「なになに?」
 集まってくる4人。
 結奈が口を開く。
「あのね……試合が始まったら、瓦礫を作って足場を悪くしたり、目潰しみたいなものをすればいいと思うの。イコンは飛べるし、レーダーもあるから、あまり関係ないけど……人間には厳しいと思って」
 星渡が頷く。
「なるほど」
 リオも同意する。
「悪くないと思うな」
「じゃあ、まず俺がいろいろ試してみるぜ。よろしく!」
 直哉が嬉しそうに答えた。

 ◇

「天御柱側に連絡。参加機体数を5機とするため、この試合にはコームラント2機を投入する。前回に引き続き、名もなきパイロット達だが、よろしく頼む」
「名もなきとは失礼な!」
「そうですわ! 『渚のコームラント姉妹』と言えば学院でも名の知れた……」
「では、試合開始」

 ◇

 凜が、不思議そうに尋ねる。
「智宏さん、腕のパーツを調べているんですか?」
「ああ……こいつがライフルなのは知ってるんだが、2つ同時に使えないか、と思って」
「なるほど! ライフル2丁、持てるといいですね」
「いや、無理そうだ。イーグリットはサーベル一本、ライフル一本という装備が、システムの根本的なところで決まってるらしい。それを崩すと、動かなくなることさえあるようだ」
「へぇ……。改めて思いますけど、イコンって、何なんでしょうね」

 ――始まると同時に前線へ走る3つの影。リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)神崎 優(かんざき・ゆう)、それに神代 聖夜(かみしろ・せいや)である。
 早くも前線のイーグリットと接触するか、と思えるような地点までやってくると、前方のビルがもうもうと砂煙を上げて崩れていくのが見えた。
「!?」

「おらおらおらーっ!」
 現場の中心では、直哉と結奈のイーグリットが、大量破壊兵器と化していた。
「次来い! でやぁ! 次! そいやぁ!」
「に、兄さん……」
 17歳にして突然訪れた、兄の破壊衝動の発露に動揺を禁じ得ない結奈。
 半径数百メートルに渡って、埃で視界はまったく効かない状況である。
 足下も(見えないが)それ相応の状況に違いない。
「はぁはぁ……これだけやれば十分だろう……」

 リュースが唖然とする。
「……どうやら、煙幕は必要ないようですね」
 優が答える。
「なるほど、モニタに頼らずともいける、というわけか」
「ではまず、オレが仕掛けてみます」
 リュースは隠形の術とブラックコートで姿を隠し、砂煙の中へ静かに潜行した。

 リオの声が無線を跳ねる。
「来たぜ……コームラント姉妹、サーモグラフィの座標を送信する。目標熱源、1つ」
「了解!」
「ですわ!」
 射線が十字になるように配置された2人のビームキャノンが、砂埃を切り裂いて飛ぶ。
 感覚の外側から高速で来るビームには、さすがのリュースも反応することはできない。
「……! マ、マグロが」
 辛うじて離脱は免れたものの、リュースは行動不能寸前のダメージを負って倒れた。

「結奈の作戦、うまくいったな!」
「……ええと、想像してたのと、ちょっと違うんだけど……」
「ようし、次行くぞ!」
 和泉兄妹は空中に飛び立ち、優と聖夜のいるあたりのビル目がけてライフルを撃つ。
 たちまち倒壊していくビル。
「あのイーグリットが元凶だな。ビルが残っている内に落とすぞ、聖夜」
「ああ!」
 聖夜は近くにある高いビルに上る。優がその後ろから勢いをつけて聖夜へ向けて飛ぶ。
 優の足を掴んだ聖夜は、そのまま思い切り和泉機へ向って投げ飛ばす。
「と、飛んで来た!?」
 驚く和泉の肩越しに裏へ回り、背後から轟雷閃を放つ優。
「うわああっ!」
「きゃぁ!」
 真っ逆さまに落ちるイーグリット。雷によるダメージはないが、装甲の無い背中への一撃はほとんど致命傷だった。
 下では聖夜が、優の攻撃前からイーグリットを待ち構えている。連携の練度は凄まじい。
「聖夜! そいつは背中にダメージを受けている! とどめだ!」
「了解だぜ!」
 そのとき、聖夜の構えたショットガンが、ビームライフルの光で弾き飛ばされる。
 離れた上空に星渡のイーグリットが現れる。
「智宏さん、命中です!」
「危ないところでした。すみません」
 再びビルの屋上に降り立った優と、星渡が相対する。蒼い空にイコンの白が映えた。
 と、真横からリオ機が大きく弧を描いて接近してくる。
 こちらは空戦用の迷彩イコンだ。反応が遅れる優。
「……喰らえ!」
 フェルクレールトが呟く。 
 接近時にライフル2連射。
「ちっ、速いな」
 ビルから飛んでかわす優。
 そのまま最高速で旋回を続け、ブーメランのように戻ってくるリオ機。衝撃波でビルのガラスが砕け散る。
 イーグリットが高速機動から一撃離脱に徹底した場合、破るのは相当に難しい。
 迷彩が施してあるなら尚更である。
「……では、これでどうでしょう」
 蒼空チームの後衛、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)の目がきらりと光る。
 数秒の後、リオ機の機動上に酸の霧――アシッドミストが出現した。
(うわっ!)
(……ち)
 酸によるダメージはないが、一時的に視界を奪われ、速度を落とさざるを得ないイーグリット。
「まずい!」
 星渡のライフルが後衛に狙いを定めて3連射。視界外にいるはずの前衛の注意を自陣にそらす。
 その隙にリオ機は体勢を立て直す、という目論見だったが、もうひとりの後衛、水無月 零(みなずき・れい)が、アシッドミストが晴れる直前にバニッシュを放った。
「智宏さん!」
「……くそっ、スコープ越しにやられた。しばらくライフルは撃てない」
「その隙は俺が埋めるぜ!」
 リオ機が攪乱している間、墜落した和泉兄妹が戦線に復帰していた。
 とはいえ、損傷率は60%を超えている。特に背中は、触られただけで落ちる状況。
「関係ない! 敵に後ろを見せる気はないぜ!」
「いや、向こうが見にきちゃうんだけどね……」
 そう言いながら、和泉機は、リオに気を取られている優へ向けて低空ブーストで接近する。
 星渡が違和感に気付いたのはその直後。
「待って、罠です!」
「遅いぜ!」
 触れられただけで落ちる背中に、聖夜のブラインドナイブスが突き刺さる。
 聖夜は隠れ身から一瞬姿を現すと、再びビル街に溶けていく。

 ◆

「和泉 直哉、結奈、離脱」
「ちくしょー、もっと! もっと壊したかった!」
「……兄さん、そっち?」

 ◆

 バニッシュを撃った直後。
 優から何か指示を受けた零は、戦場を迂回するように移動している。
 砂煙が晴れ、瓦礫の山があらわとなった最初の戦場。
「ううう、マグロ……遠洋、漁業……」
 魂を失っても食欲は残る、と言わんばかりのリュースの元へ駆け寄る。
「リュースさん、しっかり!」
 そのまま、ヒールの体勢に入る。
「おおおお! ありがたい!」
 みなぎっていくリュース。と同時に、零がはるばるここまで来た意図に気付く。

 ◇

 目くらましからなんとか脱したイコン陣は、背後にいるはずのコームラント姉妹からの通信が途絶えたことを知った。
「つながらない?」
「レーダーにも反応がないぜ」
 その意味にいち早く気付いたのは星渡だった。
「挟み撃ちか……! 最初に倒した相手、離脱を確認してませんでしたよね」
 リオが答える。
「ああ、視認はできなかったからな」
「――間に合うかどうか分かりませんが、俺は裏に回ります」

 星渡は、なぜもっと早く気付かなかったかと後悔していた。
 零が、リオ機に向けて繰り出したバニッシュさえも、存在を強調するフェイクに過ぎなかったのだ。
 コームラント姉妹は後ろからの不意打ちで、あっさり倒されてしまったことだろう――。

「……星渡くん、すまん。やられちまった」
 パラシュートからとおぼしき、リオからの通信が入る。
 周囲を4人に囲まれた星渡は、そこで降伏を選択。残り時間2分を残して、蒼空学園の勝利である。


 ◇

 シミュレータから降りた星渡と凜は、優のところへ赴いた。
 さっきまでのサイズで覚えているので、実際の姿は妙な違和感があっておかしい。
「イーグリットの星渡です。こっちは凜。有意義な訓練でした」
「こちらこそ」優が答える。「リュースが瀕死でなかったら、どうなっていたか」
「――、いえ、たまたま、というものはありません」
 それは、優の信条とも一致していることだった。思わず笑みがこぼれる。
 噂の本人は、マグロの妄想と共に、とりあえずエレベータ掃除がなくなったことに安堵したりしているようだったが。
「ありがとう。じゃあ、またどこかで」
 握手して別れる星渡。穏やかな物腰には、静かな闘志が眠っている。