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【学校紹介】イコンシミュレーター2

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【学校紹介】イコンシミュレーター2

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【SpecialBattle・3 勝負の世界は厳しくも楽しい】

「みんなまとめてこんがり焼いてやるですぅ――――っ!」
 怒りのままに暴れまわり、すっかり手がつけられなくなったエリザベートは、
 髪を逆立たせ恐ろしい形相で火術を放ち、わずかに残っていた味方のサイコゆるスターまでも巻き込みながら、イルミンスールの森を焼き尽くしていく。まるで怪獣だった。
「悪い予感が的中したか。とはいえ、どうしたものか。今のままじゃシミュレーターを止めても、彼女はおさまりそうにないし」
 むしろ仮想空間にとどめられている今のうちに、なんとか倒すべきとも言えた。
 だがイコンも巨大化生徒達も次々倒れていき、焦るアリサは、
「やっぱり隙を狙って一撃必殺しかないか。でも、私ひとりでできるかどうか……せめて翔がいてくれたら」
 爪を軽く噛みながら考えに没頭していく。
 そんな彼女の肩に、ぽんとヤジロ アイリ(やじろ・あいり)ユピーナ・エフランナ(ゆぴーな・えふらんな)が手をのせた。
「ひとりで挑んでも、たぶん勝てないよ」「さすがに戦力差がありすぎるであろう」
 イーグリットに乗った状態の藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)も近づいてきて、
「そうだな、相手は魔法学園校長だ。油断できない」
 と、そこで手を挙げる高峰 結和(たかみね・ゆうわ)。傍らにはパートナーのエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)もいる。
「なら私に作戦がありますー。あのですね、まず……に……気づかれないように…………して、最後は…………っていう」
 結和は一息に作戦説明を済ませ、
「よし、わかった。是非について詳しく吟味してる時間もない。一か八か、それでいこう」
 最後はアリサの号令の後、皆それぞれ己の行動を開始した。
 今まで残りのサイコゆるスターと戦っていたコンスタンシア・ファルネーゼ(こんすたんしあ・ふぁるねーぜ)も、とうとう敵が彼女ひとりだけになったのを知り、
「がんばりましょう、みなさん!」
 イーグリットを急発進させてエリザベートに突撃し、ビームサーベルで斬りつけようとした。
 だが。近づく敵を確認したエリザベートはすかさず火術から一転、地面に氷術を展開させてイーグリットの足を大地に縫い止める。
「っ! 怒った感じでも、意外とこっちの攻撃へ上手く対処してる!?」
 もがくコンスタンシア機に、とどめをさそうとワンドをかざすエリザベート。
「そうはさせないよ!」
 と、そこへ陰から大きく跳躍してきた夕条 媛花(せきじょう・ひめか)夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)のイーグリットが現れた。
 媛花はエリザベートの後ろへ回ると、おもむろにくすぐりはじめた。
「こちょこちょこちょ……って、あれ。指がうまく動かない……」
 というよりも、くすぐろうとした、が正しかった。
 操作して指にくすぐりの動きをさせようとしているのだが、やはりそんな器用な動きは叶わず軽くさするぐらいのことしかできていない。
「お姉ちゃん、それじゃダメですってば。ここはこうして、こうですよ」
 アイオンのサポートを受け、
 イーグリットは今度はビームサーベルの先端でくすぐり攻撃を開始する。
 今度は辛うじていやがらせ程度にはなっているものの、
「さっきから、わずらわしいですぅ!」
「「「きゃあああっ!!」」」
 当然エリザベートが黙って放置しているわけもなかった。
 コンスタンシアと、媛花たちの機体は真上から降り注いだ特大雷術を喰らわせられた。
 多少電気が地面に逃げたため機能停止とまではいかないものの、威力に心のほうが折れかけそうになる一同。
「い、今のエリザベート校長の魔術は厄介すぎね。ただ単純に威力がケタ違いに強いし……あれ?」
 ブスブスと煙をあげる機体の中、コンスタンシアは当の校長が若干息切れしていると気がついた。
「そうか! いくら身体が大きくなっていると言っても、べつに彼女の魔力の総量が上がったわけじゃないもの」
「むしろここまであれだけ際限なしに攻撃を続けたんです。相当疲弊してるでしょうね」
 媛花とアイオンの言葉から、今度は裄人とサイファスのイーグリットとユピーナが休む隙を与えないように特攻をしかけていく。
「だからあの。訓練とは言え、よその学校の校長先生様に対して攻撃はいけないと思うんですよー」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、校長を止めないと事態は悪化するばかりだ」
 サイファスをたしなめつつ、裄人は精神感応でエリザベートの思考を探ってみるが。
 靄がかかったような曖昧な反応しか返ってこない。
「……やっぱり、ダメか」
「ええ。パートナー同士か、せめて仲間うちでないと無理みたいです」
 そうした彼らの行動を見据えながら、エリザベートは火術で礫をつくり、放り投げる戦法に切り替えてきた。
 やはり激昂していても、効率的かつ長く戦うやりかたを考えているらしい。
 サイファスの操縦でイーグリットは回避を続け、攻撃は裄人がライフルで行なうものの当たってもさほど効果はみられない。
「これだけのスピードで、どのくらい小回りが効くものでしょうかね」
 このままだとジリ貧になりかねないと踏んだサイファスは、急激に旋回して森の木々を利用して隠れた、かと思うと今度は急上昇して相手を撹乱していく。
 時折急降下して迫れないかとも試してみるものの、エリザベートは接近されそうになるたび雷術で放電して威嚇を続けるため、ことごとく近づくことはできずに終わった。
 そうしてかなり警戒心が出始めたエリザベートに、六連のミサイルが放たれた。
「こっちなのだよ!」
 エリザベートは着弾前に放電で撃ち落としながら、振り向くと。
 ミサイルポッドを構えるユピーナの姿があった。
「いいかげん、みんなおとなしくなるですぅ!」
 今度は氷術で槍を形作り、投擲していくエリザベート。
 だがユピーナは先の先と加速ブースターを使っての機動力でそれを避け、攻撃でできた隙を狙ってカウンターの轟雷閃を放った。
「我が渾身の力を喰らえっ!」
 その攻撃に対し一瞬躊躇いの表情を見せたエリザベートは、魔力節約のため、ぐるっと身体を回して、蹴りの体勢に入った。
 が、元来彼女は格闘などのセンスはまるでナイ。
 おまけに身体が大きくなっている影響で、満足に脚を動かしきれず。膝小僧の辺りで轟雷閃を受け止める羽目になってしまった。
「いったぁああああ! しかもビリッてきたですぅ!!!」
 どうにかユピーナを弾き飛ばすことには成功したものの、相当痛かったらしく涙目になって膝をよしよしと撫でていた。
「あぁもぅ! やっぱり慣れないことはするもんじゃないですぅ……ん?」
 そのとき、周囲にアシッドミストが立ち込めているのに気づくエリザベート。
 見ればユピーナのパートナーであるヤジロが、空飛ぶ箒で素早く動きながら時折SPリチャージで回復をしつつ、全力のアシッドミストを周囲に発生させ続けていた。
「なんのつもりですぅ? この程度の攻撃じゃ、私は止められないですぅ!」
「ふふ、それはどうかな?」
 鼻で笑うエリザベートに、ヤジロもまた不敵に笑った。
「……いいから、かかってきなよ」
 木の枝の間に隠れていたエメリヤンもそう告げ、トミーガンを手にシャープシューターとスプレーショットで彼女を狙っていく。
 そろそろ自分も限界が近いと自覚し始めたエリザベートは、一気に片をつけるべく彼らの隠れる森めがけて跳躍した。
 だが。着地後すぐに足元が妙にぬかるんでいることに気づかされた。
「いまだよーっ!」
 聞こえたのは結和の声。
 どこにいるのかと周囲を見渡そうとして、後ろからエメリヤンが突進してきているのが見えた。しかも超感覚で山羊(もふもふカシミヤ)に変身した姿で。
 そのまま腰を勢い良く押されたエリザベートは、どちゃりという嫌な水しぶきをたてて『沼』に落とされた。
(なんで、こんなところにこんなものが……まさか!?)
 結和の作戦。それはアシッドミストを地面に放って溶かしていき、足をとられる様な沼を作ることだったのだ。
「ナイス、エメリヤン! さぁ、これで仕上げだあっ!」
 木陰から飛び出してきた結和は残ったSPをすべて出し尽くす勢いで氷術を繰り出し、エリザベートの足元を凍りつかせていく。
「くぅっ、こんなの私の火術で……」
 が、エリザベートから魔法は放たれなかった。
 理由は簡単、ついに魔力もSPもエンプティだからだった。
 徐々に顔が青くなっていくのは、寒さのせいではない。
「よし、これで後は一気に畳み掛けるよ!」
「ま、待って! ちょっと待つですぅ! もう頭も冷えましたからぁ! 降参! 降参ですぅ!」
 わたわたと慌て調子で手を振り回すエリザベートを確認して、
 上空からアリサのイーグリットが降下してくる。
「ふむ。この先の詰めに控えていたんだが、どうやら必要なくなったようだな」
 アリサは周りの生徒達を制し、判定を叫ぶ。
「校長のギブアップにより特別訓練は終了! 生徒達みんなの勝利だ!」
 場は一気に沸きあがった。