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リアクション
【Battle・8 勝っても負けても笑ってね】
『次でとうとう一段落ですぅ。今のところ戦績は4VS3なわけだけどぉ……もしここでイコンチームが勝ったらどうするんですぅ?』
『そのときは8試合の総合評価で勝敗を判定するつもりだ。勿論ひいきするつもりはないから安心していい』
そうしたふたりの言葉の後、ついに最後の訓練が始まる。
○イコンチーム
天司 御空(あまつかさ・みそら)と白滝 奏音(しらたき・かのん)のコームラント、
エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)とリーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)のイーグリット、
天御柱生徒のイーグリット一機、コームラント二機。
○巨大化チーム
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)、
風森 巽(かぜもり・たつみ)、
五月葉 終夏(さつきば・おりが)、
シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)、
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)。
開始の合図はかけられたが、まだ両チームはぶつかっていない。
煙幕ファンデーションによって視界がほぼ零にさせられた状態で、嵐の前の静けさが訪れ続けていた。
御空と奏音のコームラントは、世界樹の高所に身を隠して狙撃体勢に入っている。
「誰かが情報撹乱を使ってるみたいだね、他の皆と連絡がとれないよ」
「そうなると後は私たちの機体性能と、自身の感覚が頼りですね」
そのとき御空達のコームラントの足部分が、小枝をガズリと踏み削った。
「さあ、行くよ! 世界樹を守るためにも私は戦うっ!」
直後、叫びと共に樹の下よりファイアストームをイコンの足元めがけて放ってきたのは終夏だった。
御空はすかさず大型ビームキャノンを発射し、攻撃を相殺させる。
「あぶないな。そっちのほうが世界樹を壊しそうじゃないか」
「だいじょうぶ、そんなヘタな攻撃はしないから」
上と下で、にらみ合う両者。
その近くの上空でエルフリーデとリーリヤのイーグリットは、戦闘に気づいた。
「来ましたか。よし、こちらも援護に回りましょう」
「待て! 下に別の敵だ!」
旋回させようとした機体の目の前を、遠当てがかすめた。
「ごめんなさい、不意打ちで。あなたの相手はこっちですよ」
危うくかわして見下ろせば、風圧で少し晴れた霧の中にシャーロットの姿があった。
「いいでしょう……機械と生身の差を見せてあげます」
「こっちは一応二人だからな。負けるわけにはいかないぜ」
「あちらでは戦いが始まったようでございます」「じゃ、こっちもやろうか」「そうね。そうなのね」
残る天御柱トリオは、しばらく情報撹乱と煙幕の二重苦で途方にくれていたものの。
つい先程ふたりの人物と邂逅を果たしていた。そのふたりとは、
外見を改造したパワードスーツを身に纏った牙竜。
「天下無敵のヒーロー、パワード・ケンリュウガー。ここに見参!」
そしてマスクとマフラーを身につけている巽。
「蒼い空からやって来て、森の静寂護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
なんだか日曜朝にやってるアニメのテーマソングが聞こえてきそうな状況で。
ふたりはそこからなんやかんやポーズをとったりした後、最後はビシッと三機のイコンを指差していた。
「「おまえたちは、この【ダブルヒーロー】が相手だ!!」」
「おぉ、カッコよろしでございます!」「え、お前あんなのがいいの!?」「ヒーローね。ヒーローみたいなのね」
巨大化したヒーローと巨大ロボット。
宿命、かどうかは不明だが、ともあれ両陣営は対決することとなった。
「いくぞ! ケンリュウガーのパワーを、とくと見ろ!」
牙竜……ではなくケンリュウガーは、サイコキネシスで近くの瓦礫を持ち上げると、次々イコンめがけて次々投げつけていく。
「って、そのへんのもの投げるだけかよ!」
とはいえ。実際無数の瓦礫を受け止めたりするのは厄介だと判断したのか、
イーグリットは大木の影に隠れ、残るコームラント達は上空へと飛びあがった。
ケンリュウガーはすぐさま上のコームラントめがけ、バーストダッシュを行使しての跳躍を披露し、間合いを詰める。
「えっ!? そんな、でございます」
至近距離まで詰め寄られ隙が出来たコームラントめがけて、
「必殺! アカシック・ドライブ!」
ケンリュウガー必殺の、則天去私による拳が叩き込まれ。コームラントは再び森の中へと墜落させられた。
「たいへんね。たいへんなのね」
もう一機のコームラントは二の舞にならないよう注意しながら、大型ビームキャノンを構える。狙うのは巽……もとい仮面ツァンダーソークー1。
彼は、超感覚と軽身功を使い森の中を駆け、とにかく動き回っている。
「距離をとれば、こっちが有利。有利よ」
仮面ツァンダーソークー1は飛行する相手に攻めあぐねているのか、砲撃から逃げ回るばかりで。
コームラント機のほうは攻撃を計算し、徐々に追い詰めていき。
やがて仮面ツァンダーソークー1は一本の大木に預ける格好になる。
「袋の鼠。もしくは四面楚歌なのね」
天御柱生は、確実に仕留めるべく高度を下げ、ビームキャノンを発射させた。
が、マスクの下で仮面ツァンダーソークー1は笑っていた。
「追込まれたのはどちらか……その身で確かめろっ!」
迫り来る砲撃に合わせる形で、後の先を使った遠当てでのカウンター攻撃。
直線的な攻撃を誘導させた側と、誘導させられてかカウンターを受けた側。どちらの攻撃が当たったかは明白で。
バランスを崩したコームラントをすかさず、轟雷閃を追加させた鎖十手で機体を絡め取っていく。
「電磁マイクロチェーンっ!」
そして最後は一気に、起き上がろうとしていた地上のコームラントめがけ、勢いよく引き摺りおろした。
「きゃあ!」「きゃんっ!」
両機がぶつかり合うけたたましい轟音に紛れて、可愛らしい悲鳴が漏れたものの。
ダブルヒーローは油断することなく互いに目配せしあい、
「今だ、ケンリュウガー! この隙に!」
「ああ! ここで、ダブルヒーローの見せ場だ、行くぜ。仮面ツァンダーソークー1!」
地を駆け、跳んだ。
彼らによる必殺の蹴りは二機のコームラントにクリーンヒットし、
数度地面を転がった後に岩に激突して機能を停止させた。
「よし! やったな、ケンリュウガー!」
「仮面ツァンダーソークー1もな!」
ふたりは拳をつきあわせ、残る一機を探すべく足を踏み出そうと――
したが。揃ってガクリと膝をついてしまう。
「ん? 足が、動かない……」
「くっ。やばい、くじいたか」
「いやいや。イコンの装甲相手に、真正面からあんな蹴り放ったらフツーそうなるだろ」
イーグリット乗りの天御柱生徒は、半ば呆れ半ば感心しつつ森の中より姿を現す。
ダブルヒーローは焦りを感じながらも、足のほうは痛みがひどくうまく動かないままで。
「なんにせよ、これは勝負だからな悪く思わないでくれよ」
向けられたビームライフルを、ただ見つめることしかできなかった。
そのとき。
イーグリットの背の装甲が斬りつけられるような金属音を奏でた。
「!? なんだ、誰だっ!」
操縦者の彼は叫びながら、戦闘の余波で晴れてきていた筈の煙が、再び周囲に立ち込めているのに今更のように気づいた。
(さて。今度は隠密、暗殺のエキスパートの力を見せつけてあげましょうか)
実はその煙は、戦闘開始後から情報攪乱と煙幕ファンデーションによる妨害をしていた人物が再度放ったもの。
その人物とは、隠形の術で身を潜めるウィングであった。
ウィングはそのままこちらの動きを読まれないうちに、栄光の刀でブラインドナイブスによる攻撃を重ねていく。しかも爆炎波とアルティマ・トゥーレを交互に使いながら。
(これで極度の温度差が生じて、金属疲労を起こすはず……!)
というウィングの読み通り。イーグリットは背中の装甲がわずかに破損し始めていた。
パイロットである天御柱生徒もセンサーを使い、隠れるウィングを狙いビームライフルを乱射させてはいるものの。
イコンごしでももろに感じる殺気をウィングは殺気看破を利用して巧みに避け、自分は回避の合間に攻撃を加えていく。完全に戦いを支配していた。
「くっそ、このままじゃマズイか」
ダメージ量が操縦室に赤のアラームを鳴らすほどになったことで、イーグリットは機体を上空へと飛ばした。
(逃がすわけにはいきません!)
だがウィングは態勢を整える前に光る箒で追撃をかけ、上昇する勢いを利用して刀を損傷した背中めがけてひといきに突き刺した。
苛烈な戦闘に決着がみられた頃。
「御空。下方右へ5センチ修正してください」
「了解。さぁて。隠れてれば撃てないと思った? ……残念っ!」
御空のイーグリットは世界樹の傍に寄り添いながら、下にいる終夏が登ってこられないよう狙い撃っていた。
時折上昇しては、また撃って隠れてする相手に終夏はじれてきたのか、
「あーもう、これじゃらちがあかないね。こうなったら!」
凍てつく炎を足元へ放ち、目くらましと足止めを実行する。
敵がそちらに気をとられている隙に、空飛ぶ箒で世界樹をすばやくのぼり、
「「っ!」」
ついに終夏はイーグリットの上をとり、肩車するような形で覆いかぶさった。
そしてイルミンスールの杖を取り出すと……頭部をポカポカとリズム良く叩いていた。
「カモン・音楽の神!」
しばらく叩き続けてるうちに楽しくなってノッてきたらしく、軽快なメロディを奏で始める終夏。一応イコンもダメージはあるようだが。
「……やるか」「そうですね」
当然いつまでもボケッとしてるわけもなく。
数秒後、ズゴンというやけに鈍い砲撃音と共に、彼女は下へと落ちていった。
まさにその下付近で、シャーロットは焦っていた。
(はぁ、はぁ……やっぱり、遠距離での攻撃法に乏しいと不利ですね)
エルフリーデ機のビームライフルに、遠当てで応戦していたが。
やはり当たればラッキー程度の命中率であるし、当たってもさしたるダメージにはなっていないようだった。
「どうしましょうかね…………って、わぁ!?」
そこへ終夏が落下してきたので物凄く驚くシャーロット。
幸い、途中何度か枝葉にひっかかったようで、すり傷だらけでもなんとか気絶はせず胸元をおさえて荒い息を吐いていた。
安堵しかけるシャーロットだが、上からとどめとばかりにビームキャノンによる砲撃が降り注ぎ、慌てて終夏を抱えて茂みに飛び込んで身を隠す。
「ちょっとあなた、大丈夫ですか?」
ヒールで回復するシャーロットに、終夏は小さく頷く。
「相手はどうやらモンクみたいだな。確実に仕留めるなら、近接攻撃に注意してれば大丈夫だろ」
「そうだね。時間も残り少ないし、タイムアップになる前にはやく倒そう」
上空ではリーリヤの通信に、御空が返答し。今にも攻撃を仕掛けてきそうだった。
(残りは二、三分くらいでしょうか? こっちチームで生き残ってるのが何人かわからない以上、なんとか生き残らないと)
とはいえ、負傷した終夏を連れて逃げるのは至難だとシャーロットもわかっていた。
しかし元来のやさしい性格ゆえ見捨てるわけにもいかなかった。
「見つけたっ!」
だが悩む時間さえも与えられることはなかった。
エルフリーデのイーグリットが機動力に物を言わせ、ビームライフルを斉射しながら、おまけに急速降下してビームサーベルで斬り込んできた。
太陽を背にしているため、そちらを見ようとして軽く目がくらむシャーロットだったが。
それは同時にあることを思いつかせた。
シャーロットはサーベル攻撃に轟雷閃をあわせて、こっちも軽く目くらましさせる。
勿論イコン相手にさほど効果があるとは思っておらず、攻撃のあとすぐ終夏を背負って軽身功を使い木の上へと逃げこんだ。
「このまま、なんとか時間を稼」
ごうとした所へ、御空機の大型ビームキャノンが隠れていた木そのものを粉砕させた。
声もあげられないまま終夏もろとも地面に叩きつけられるシャーロット。
「そこです!」「もらったぜ!」
体勢を立て直す暇も与えまいと迫るエルフリーデのイーグリットに、シャーロットは無理とは思いながらも、腕を顔の前で構えせめてもの防御を行なった。
勝敗は決したかに思われた。
が、どちらにとっても予想外のことが起きた。
エルフリーデはシャーロットを確実に倒そうと、機体を急速に旋回させて後頭部に回し蹴りを叩き込もうとした。しかし旋回と同時に脚部を動かしたのがマズかった。
イコンは人を模したロボットではあっても、人間のように上手く腕や脚が曲がってくれるわけではない。
そのせいで旋回する際に脚が上手く曲がりきっておらず、先に近くの大木へと激突してしまった。
もちろん木よりイコンのほうが頑丈ゆえ、難なく破砕して脚はそのまま回りきった。しかし軌道が大幅にずれ、シャーロットの頭を空振りして別の木に突き刺さる羽目になった。
「っ、不覚です、こんなミスをしてしまうなんて」「ちっ、イコンも今ぐらいの動きならついてこいよ!」
御空達が嘆くも、そのワンミスは痛恨の痛手だった。
『そこまで!』
まさに狙ったかのようなタイミングで丁度タイムアップとなった。
『これで第八の訓練も終了だ。お疲れ様』
ねぎらいの言葉をかけるアリサ。
彼女は、すぅ、と一度息を吸い込んでから、声量に差をつけて大きく叫ぶ。
『結果は、撃破数が上回った巨大化チームの勝利!! よって戦績は5VS3! 総合勝利を得たのは、巨大化チームの諸君だ!!!!』
*
「勝負はイルミンスールの勝ちですぅ、さすがは私の学校の生徒達ですぅ。そちらさまの訓練だったのに、残念でしたねぇ」
決着に控え室の歓声がやまない中、エリザベートもやはり自分の学校が勝って嬉しいのかニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
実際他の学校も混合してるのだが、彼女にとってそれは些細な問題らしい。
けれどアリサのほうも笑っていた。
「いえ。生徒達もいい訓練になりました。これをバネにもっと訓練を積んで、経験不足を補っていかないと」
「ふぅん、なるほどなるほどぉ。となると、私はちょ〜っとキツめに訓練したげたほうがいいってことですねぇ。ふふふ、腕がなるですぅ」
(……だいじょうぶかな。なんだか嫌な予感がするんだけど)
うってかわって不気味な笑みを浮かべるエリザベートに、一抹の不安をおぼえるアリサだった。
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