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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
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「ここだ、女史!」
 ちょっと大きめのカマクラの前で手を振り、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)に場所を知らせているのは林田 樹(はやしだ・いつき)だ。
 樹に気づき、祥子とイオテスが駆け寄る。
「久しぶりだな、元気だったか?」
「久しぶりね! 元気だったわ、樹こそ元気だったかしら?」
「勿論だ! さ、立ち話もなんだし、入ってくれ。ジーナが鍋を用意してま――」
 樹が祥子達をカマクラの中へと案内しようとした瞬間、後ろから押し退けられてしまった。
「きゃわ〜! 宇都宮様、お会いしたかったです〜! 魔法少女としての活躍は、お噂でいろいろと伺っております〜」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は祥子の手を取るとぶんぶんと振り、握手なのかなんなのかよくわからない行動をとった。
「ありがとう」
「お会いしたら、是非是非聞いてみたかったことがあるんですぅ!! 『魔法少女の心得』教えて下さいましっ!」
 目をキラキラと輝かせて、ジーナは祥子を放さない。
「魔法少女の心得? ……そうね、敢えて言うなら『自分に恥じないこと』かしら。魔法少女は生き方や魂の在り方だから、自分に恥じ入るようなことはしちゃダメよ」
 なるほどー、と相槌を打ち、どこから取り出したのか、紙にメモしていた。
「さ、早く中へ入って下さい〜! お鍋が冷めちゃいますよ!」
 祥子の手を握ったまま、ジーナがカマクラの中へと案内していった。
 中に入ると美味しそうな海鮮鍋の匂いが立ち込め、外とは比較にならないほど暖かい。
「かまくら……見るのも入るのも始めてですわね」
「私の生まれた国の風習の1つよ」
「祥子さんの……そうなんですか。こういうのを風情というのでしょうか?」
 イオテスはコタツに入ってもキョロキョロと辺りを見回している。
「と、そういえば、見かけないパートナーだな。初顔合わせか?」
 マフラーを取り、コタツに入った樹が祥子とイオテスに話しかける。
「ええ、そうなの。イオテス」
「精霊のイオテス・サイフォードと申します。宜しくお願いします」
 祥子が促すと、イオテスは自ら自己紹介をした。
「銀の精霊、ウチの面々共々よろしく頼むぞ」
 樹がイオテスに握手を求め、イオテスはそれに応じた。
「え? 精霊? ……僕は、初めて見たよ。あ、僕は緒方 章宜しく」
 話してきたのは、祥子の隣にちゃっかり座っている緒方 章(おがた・あきら)だ。
「えっと、どこの精霊?」
「サイフォードに住む、光輝の精霊ですわ。イルミンスールの方では精霊は珍しくないでしょうけど、空京やヒラニプラでは殆ど見かけませんでしたし珍しいのでしょうか? 髪や肌の色は人種的な意味では決まってませんし……地球の人と契約した経緯はそれぞれですわね」
「宇都宮ちゃんと知り合ったきっかけは? 僕は初めてあったときに一目惚……がふっ!」
「む! 餅は要らんなれそめ説明するななのです!」
 章が出会いを語ろうとしたが、それをジーナの肘鉄で止められてしまった。
 章の目からはキラリと光る真珠の涙。
「わたくしと祥子さんの場合はー……イルミンスールで行われたお祭りの時、わたくしのホスト役が祥子さんで、その縁ですわね。お酒を奨められて酔い潰されてベッドに連れ込まれたんですよ……」
「きゃ〜♪」
 ジーナが食いついたようだ。
「か、介抱したのよ!」
 祥子が慌てて誤解を招きそうな説明に注釈を加えた。
「そうだったんですかぁ〜。さ、今日は海鮮鍋、ご用意いたしました! たくさんお召し上がり下さい! はい、こたちゃんも、鍋ですよー」
「こた、にゃべたべう!」
 ジーナが樹の背後に話しかけると、肩から顔を出したのは林田 コタロー(はやしだ・こたろう)だ。
「……う? ねーたん、こっちのおねーたんたち、だあれ?」
 コタローは首を傾げて、祥子とイオテスを見る。
「あら? 見ない顔ね」
「ああ、あの実験作戦にはつれていかなかったからな、林田コタローと言う。コタロー、挨拶だ」
 祥子の言葉を受け、樹が説明し、コタローを胸に抱いた。
「はじめまいて、はやしらこたにょれす」
 ぺこりと頭を下げる仕草がなんとも愛らしい。
(こっちは……)
 そして、小声でコタローに祥子達のフルネームを耳打ちする。
「しょーこしゃん、いーてすしゃん、よおしくおねまいしますれす」
「こちらこそ、宜しくね」
「可愛らしいゆる族さん、よろしくお願いしますわ」
 コタローに祥子とイオテスが挨拶をする。
「……ねーたん、こた、にゃべたべたいおー」
 胸の中で樹を見上げ、懇願する。
「おお、そうだった、そうだった。まあ、いっぱいやってくれ。鍋も丁度食べ頃だぞ」
 樹が促し、宴会が始まったのだった。
「そういえば、学長がイコン導入による今後10年の兵器についての論文を募集してたわね、あれってどうなったのかしら?」
「ああ、あれな……それが、面白い話しなんだが――」
 祥子と樹は教導団の話しに華が咲いている。
「わぁ〜、サイフィード様の御髪、綺麗……」
「ありがとうございます」
 ジーナはイオテスの髪をうっとりと撫でている。
「シャンプー何使ってるんですか!?」
「ええっと……確か、祥子さんおススメの……『さらば、愛しの教導団』とかいう戦艦が描かれたシャンプーですわ。ちなみにコンディショナーには戦車が描かれてますわ」
「へ、へぇ〜……なんか、もう少し綺麗だったり可愛かったりするパッケージのやつを使ってるかと思ってました〜」
 ジーナはそんなシャンプーがあるのかと、びっくりしながらも、楽しく会話していく。
「あちゅいおー」
 章によそってもらった海老にかぶりつこうとしたのだが、コタローはあまりに熱くて飛び跳ねそうになっていた。
「ああ、ほら。ふー……ふー……これで食べられるよ」
「あき、ありがとれす」
「いいえ。落ち着いて食べないと火傷するからね」
 必然的に章がコタローの世話をしている。
「あはは、そういえば最近面白い携帯を――」
「樹様、宇都宮様! ささ、お二人ともこちらの熱燗をどうぞ」
 話しが一区切りついたジーナが気を利かせて、祥子と樹に熱燗を差し出す。
「すまない」
「ありがとう」
 2人はお猪口を出し、注いでもらう。
「ジーナもどう?」
「えっ!? ワタシもですか?」
 祥子に徳利を差し出され、戸惑う。
「良いじゃないか、呑めないわけでもあるまいし」
「ワタシはちょっと……でも、少しだけなら……」
 樹の言葉が止めになったようで、結局、祥子に注いでもらっている。
 しばらくすると――。
「餅ぃ〜、おかわりもってこーいっ!」
 ジーナは章に熱燗のおかわりをせっついていた。
「ジーナは呑める口なのね」
「はい〜、宇都宮様と樹様と一緒に呑めるから、余計にお酒が進みます〜」
 祥子も上機嫌だ。
 お腹がいっぱいになったコタローは、樹のマフラーの中にうずくまり、もう寝息を立てている。
「アキラ、熱燗まだかー?」
 樹は熱燗を作っている章の背後に回り、肩に腕をかけ、せっつく。
「いますぐに!」
「そうか! 早くしろよー」
 樹は満足そうに章から離れると、祥子とイオテス、ジーナの輪の中に戻って行った。
(樹ちゃんとひっつけたー!)
 章は内心とても喜んでいたようだ。
 また、しばらく時間が経つと――。
「ちょっと餅ー! あんたホントにヘタレー!! きゃははは〜」
「あらあら、ヘタレなのね」
 酔いが回り、ジーナが言ったヘタレ発言を祥子が真に受けた。
「うふふ、今でいう、草食男子というやつでしょうか〜?」
 覚えたばかりの言葉をイオテスは使いたかったようだ。
(……えっと、どうしてこうなった? 多分、絵ヅラは良いんだろうな『女の子侍らせて鍋』って。でも、実際は絡まれまくりってどうよ?)
 章はこの惨状に1人、素面で立ち向かわねばならなかった。
「アキラー! 熱燗2つー!」
「あーはいはい分かりました、熱燗2丁ですね」
「樹ー」
「なんだー?」
 章が熱燗を作りに行こうと、後ろを向こうとした瞬間、凄いものを目撃してしまった。
 祥子がいきなり、樹に迫り……押し倒し口にキスをしたのだ。
 章は空いた口がふさがらない。
 その様子を押し倒されたまま見た樹が立ち上がり、章の方へと歩いて行く。
「え! わっ、ちょっ!!」
 目が酔って座っているが、それがまた色っぽく映る。
「僕は攻めるのは大好きだけど、押し倒されは……わーっ!」
 章はなすがまま……簡単に樹に押し倒され、唇が触れる寸前――樹はぐらりと章の上に倒れ、眠ってしまった。
 いつの間にか祥子やジーナ、イオテスも団子状態で眠りについている。
 祥子は丸まったコタローをその胸に抱きしめ、満足そうだ。
 章は顔を赤くしながら、なんとか樹の下から這い出て、樹をコタツの中に入れ、1人、湯を沸かし始めた。
「……勿体なかったような……これで良かったような……寂しいような……はぁ……あ、お湯沸いた」
 章は1人、落ち着こうとお茶を淹れ、カマクラの外に出ると星空の下でお茶をすすったのだった。
「はぁ……やっぱり勿体なかったよな……」
 溜息が1つこぼれた。