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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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 森林浴を楽しめる避暑地の別荘……とは大きく異なっていた。
 森の中にあるという点では同じなのだが……やはり建物だろうか。こ綺麗なコテージではなく、『石造りのロッジ』が枯れかけの森中に建っていた。
「はい、どうぞ〜」
 カウンターに腰掛ける兵士に霧島 春美(きりしま・はるみ)がグラスを出した。ニコリと笑みを見せてから別の兵士にもグラスをそっと差し出した。
 兵士たちの好みだろうか。室内にはバーのようなカウンターがあり、ホールには小ぶりなテーブルが数台、そしてビリヤード台まで置いてあった。
「リクエストがあったら言ってよ、歌も楽器も出来るから」
 春美のパートナーであるディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が室内奥にあるステージでスタンバイしていた。
 ステージの趣が「安っぽいパブ」を想起させてしまい、室内の雰囲気を台無しにしているようにも思えたが、彼らの趣味をどうこうは言うまい。春美同様、彼女も潜入捜査をしていた。
「いやぁ、本当に助かりましたよ」
 グラスを片手に清泉 北都(いずみ・ほくと)がカウンターについた。彼と彼のパートナーたちも春美と共に視察部隊として行動していた。視察中、森中のロッジに出会し、室内に兵士の姿を見つけたので探りを入れている所だった。
「気付いたらカナンの国にまで来ていたなんて。どうにも笑えませんよぅ」
 北都は肩をすくめて苦笑いを見せた。森中をさ迷い歩き、危うく遭難しかけたという設定で近づいた。リアリティを出すためにわざと服を汚すという工作まで行った。おかげで少し埃っぽい。
「たしかこの国は領主が変わったと聞いたことがあるけど……その龍隣がマークか何かなのかな?」
 北都は兵士の腕を指して言った。腕当てに龍隣の一部と思われるものが施されている。室内にいる他の兵士たちを見れば、鎧の胴部や肩当てに施されている者もいる。兵士は笑みを浮かべて答えた。
「防具のどこかに龍隣を付けるのがネルガル様に仕える兵の証だ。左胸以外の場所に付けるのが決まりだ」
「左胸以外?」
「そうだ。イナンナが治めていた時は左胸に付けるのが決まりだった、『大切な命を守るために』とか言ってな。だがネルガル様は違う、『龍にその身を守らせるのは良い、だが命の根幹を委ねるほどの価値はない』と言われ、左胸以外に施すよう命じられたのだ」
 龍隣に目を向ける兵士の顔は誇らしげにも見えた。『イナンナ』と呼び捨てたことからもネルガルへの忠誠心が垣間見えた。
「あの方は何をされているのでしょう」
 部屋の隅で、外を見つめている兵士が一人。彼に目を向けてクナイ・アヤシ(くない・あやし)は訊いた。
「何かを見張っているようにも見えますが」
「ご名答、鋭いな」
 共に酒を交わしたからだろうか、兵士はあっさりと答えた。……もちろん北都たちが飲むはジュースの類だったが。
「岩壁に大きな穴があるだろう。 闇瞑の洞窟と呼ばれる洞窟だ」
「闇瞑の洞窟……」
「ある男が潜伏している、と言われている」
「言われている?」
 その男を含めても、洞窟に出入りする者はいないという。男が洞窟内で今も健在かどうかさえ定かではないが、危険人物故に監視を命じられているのだという。
「一体何者なんです? その男とは」
「知りたいか?」
 口端を歪めて兵士が笑んだ。身を乗り出して声を潜めて、男が息を吸い込んだ時だった。
 奇声が聞こえてきた。断末魔にも似た、人間ではなく巨大なモンスターの叫び声。兵士たちを先頭に北都たちも部屋を飛び出した。
 ロッジの裏手に出ると、3体のワイバーンのうち、1体が倒れ込むところだった。
「おぃ待てって!」
 白銀 昶(しろがね・あきら)天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)の腕を掴んで止めた。
「何なんだよ、おまえ。それにおまえらも」
 鬼羅は『枯れかけの森』中で出会した砦兵から逃げているうちにここに辿り着いた、と説明した。岩場を抜けた所でワイバーンに遭遇したので『狂血の黒影爪』で斬りつけたという。
「いきなり斬るなよ! 急すぎんだよ!!」
「目の前にデケェのが出たら斬るだろうが! 反射だ反射!」
 北都たちが室内で兵士たちの気を引いている間に、はロッジの内外を見て回った。そうしてロッジの裏手で3体のワイバーンを見つけた。
 無理矢理に言う事を聞かせれていると考えた彼は、ワイバーンとの会話を試みたが手応えはなかった。
 兵士やネルガルに操られているなら、と首輪を破壊した所に鬼羅たちが現れて―――この有様である。
「貴様等! そこで何をしている!!」
 兵士たちが現れた。加えて岩陰から砦兵たちも現れた。彼らもまた腕当てに龍隣が施されている。
「何だ? あいつ等は」
「はっはっは、何を隠そう、オレたちは追われているのだ」
「……使えねぇ。とことん使えねぇ」
 は大きくため息を吐いた。自分が北都たちと一緒に居たことは知られている、そして彼らのワイバーンが1体横たわっている。
「やれやれ。穏便に済ませようと思ってたんだけどねぇ」
 北都が言った。兵士は驚いて振り向いたが、そんな彼に北都は『ヒプノシス』を唱えて眠らせた。その様をクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が嬉しそうに見つめて、
「なんだぁ? やっていいのか?」
 言う終えると同時にワイバーンの頭部に飛びついた。
 スキル『魔弾の射手』で『漆黒の魔弾』を4発撃ち込んだ。
「くぅ〜、効くぅ〜」
 手を襲う衝撃も大きかったが、一度の射撃で4発もの銃弾を放てる秘技は、ワイバーンの強固な頭皮を容易に撃ち抜いた。
 ワイバーンはクド鬼羅が、そしてロッジの兵士と砦兵は『ヒプノシス』を使える北都火軻具土 命(ひのかぐつちの・みこと)を中心に眠らせたり気絶させて黙らせた。全てを鎮圧するまでに、それほどの時間はかからなかった。
 ロッジに潜入していた者たちと砦兵から逃げていた者たちは、互いに経緯と状況を説明した。西カナンの現状を視察するという目的からそれば、互いに得た情報は言うまでもなく貴重なもののようだ。彼らは一度、マルドゥークの元に戻ることにした。
「結局、何者か分かりませんでしたね」
 去る際にクド闇瞑の洞窟を見つめて言った。洞窟に潜む男とは一体何者なのだろう。
「マルドゥークなら知ってるんじゃないかな。なんたって西カナンの領主なんだから」
 北都に言われて、クドは洞窟から目を退けた。北都の言う通りだ、彼に訊けば男の正体もわかるだろう。
 捕らえた兵士たちという手みやげを持って。一行はルミナスヴァルキリーへの帰路を歩み始めた。