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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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「フリューネ?!」
 部屋を飛び出そうとするフリューネ樹月 刀真(きづき・とうま)が呼び止めた。「迎撃する」と勇ましく言った彼女に、刀真は語威を強めた。
「ちょっと待て! いきなり飛び出す奴があるか!」
 船の進路はワイバーンの群れと額をつき合わせている、このまま衝突でもされれば船への衝撃は避けられない。しかし―――
「マルドゥーク!!」
「わからん、しかしこのタイミングとなれば」
 カナンの地では、ワイバーンをはじめとしたドラゴン種を数多く観測することができる。しかしあれほどの数のワイバーンが、しかもこちらがカナンに入った途端に遭遇するなんて―――
「どっちでもいいわ! とにかく迎撃するのよ!」
「フリューネっ!」
 何を言っても止まらない。刀真は彼女に『銀の飾り鎖』を放り渡した。
「お守りだ! 肌身離さず持っておけ!」
 鎖には『禁猟区』が施してある。不意な一撃も気付けるなら彼女は対処できる。
「ありがとう」
「ボクも行きます」
 フリューネの後を九条 風天(くじょう・ふうてん)が追い駆けた。風天は以前にも彼女と共に戦った経験がある、今度もまた彼女の傍で戦い抜くと心に決めていた。
「ボクでは不安ですか?」
 通路を駆けながら風天は彼女に訊いた。「えぇ、とっても不安ね」と言われたら立ち止まってしまうかもしれないと内心揺れていたのだが、彼女の答えは、
「そんな事ない、力を借りるわ」だった。
「船の航路も変えた方が良いのでは?」
「そうね、一度操舵室に戻りましょう!」
 めいっぱいに東に向けた。陸上への最短ルート。遠く左手に見えていた陸地に向かって船は頭を大きく振った。
 フリューネは愛馬エネフ(ペガサス)に跨りて、風天は『小型飛空艇ヘリファルテ』に乗ると、勢いよく空に飛び出した。
「あたいたちも行くよ」
 『小型飛空艇ヘリファルテ』で飛び出した葉月 エリィ(はづき・えりぃ)は直線でワイバーンに向かっていった。
 先頭で熱り立つ飛竜の目の前で大きく旋回する。数頭の注意をひいたところで『黒薔薇の銃』を向けて引き金をひいた。
「ギャオァアオオォ」
 銃弾は胴部に当たったものの、雄叫びをあげるばかりで一向に肢体は制止しなかった。
「それならっ!」
 機体を上昇させて竜の頭部上空に回り込んだ。分厚い胴体の肉は貫けなくても、頭部の額、それも眼球に近い箇所に撃ち込めば。
「いっけぇっ!」
 ダンダンダンと連射で撃ち込んだ。何発目の弾が効いたのかは分からなかったが、撃ち込まれたワイバーンは頭を揺らした後に脱力して墜ちた。
「よしっ、イケるね」
「やりますわね」
 眠らされて墜落してゆくワイバーンを見つめてエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)はパートナーを褒め称えた。
「では、わたくしも」
 『空飛ぶ箒』に座りながらにエレナは『ミラージュ』を発動した。
「こちらのドラゴンにどれだけ知能があるかは知りませんが」
 エリィの人影を模した幻影が大量に空に現れた。
「視覚からなら認識もできるでしょう♪」
 エレナの狙い通り、突然現れたエリィの幻影に驚いて翼進を止めるワイバーンが多くみられた。そこにエリィが銃撃を仕掛ける。
「じゃんじゃんイクよっ!」
「えぇ、お願いしますわ」
 エレナは再びに『ミラージュ』を唱えた。その幻影に翼を止めたワイバーンを狙撃するはエリィだけでなかった。戦艦に装された機銃を手に馴染ませていたロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)が、グリップを強く握りしめた。
「やーれやれ、血の気の多い奴ばかりで困る」
 髭の生えた顎を僅かに曲げると、迷いなく機銃を撃ち放った。
「加減なく行くぜ」
 エリィの幻影ごと撃ち抜いて、ワイバーンの頭を撃ち叩いてゆく。当たり所にもよるのだろうが、5発をぶつければ竜たちの大抵は気を失って落下していった。
「こっちもそろそろ行くにょろよ」
 同じ時の頃。戦艦対面、左腹部ではゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)が機銃を砲窓から突き出していた。
 意気揚々と張り切っている彼女とは裏腹に、パートナーのザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)には一つだけ気になることがあった。それは同じ砲室にいる椿 椎名(つばき・しいな)ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)が機銃にも連装機晶キヤノン砲にも触れていない事だった。2人はゾリアザミエリアが部屋を訪れた時にはすでに室内で機銃を眺めていた。自分たち以上に銃器に興味があると思っていたのに。
「どうか、されたのですか?」
「あん? 何?」
 何か用かと言わんばかりに椎名が睨み返してきた。いや、というかどうして喧嘩腰なのだろう。
 ザミエリアは眉を寄せて続け訊いた。
「いえ、てっきりあなた方も機銃を使うものだと思ってましたので。機銃に触れようともしないのには何か理由があるのかと思いまして」
「そんなの無ぇよ」
「そうだよ〜、ボクたち、銃になんて興味ないんだよ〜」
 ピョコっと顔を出してソーマが言った。興味がない、ではなぜ機銃を眺めていたのだろう。
「うにょにょにょにょにょにょにょにょ〜」
 ゾリアが踊るように銃を撃ち舞っていた。窓外を見ればワイバーンが群れているのが見える、この様子だと船全体が囲まれてしまったのだろう。
「一緒に機銃を操って頂けると助かるのですが」
「だ〜か〜ら〜、興味ないって言ってるでしょ〜」
「椎名! ソーマ!」
 椿 アイン(つばき・あいん)は駆けてきた勢いを、開き畳んであった扉を殴りつける事で殺して止まった。息を荒げたまま室内を見回すと、すぐに椎名たちの姿を見つけたようだ。
「予定変更です! 今すぐに実行します」
 アインの言葉に椎名は瞳を見開いた。
「今すぐにって……ここでか?!!」
「そうです。このタイミングしかないと言われました」
「んな事言ったって」
 ――あの方は確か……
 ザミエリアは記憶を辿った。アインの姿に見覚えがある、あれは確か……そう! 顔に包帯を巻いた男の後ろで大きな木箱を押していた女性、この砲室に向かう際にすれ違った女性に違いない。
「時間がありません、いきますよ」
「ちょっと待―――」
 椎名の制止も聞かず、アインは部屋隅の木箱に向き直ると、『禍心のカーマイン』の銃口を向けた。
 ――あの箱は、あの時の……
「テメェ等も逃げろっ!!」
「えっ?」
 放たれた『クロスファイア』が木箱に直撃した、その瞬間―――。
 爆発音が船内に響き渡った。