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賢者の贈り物

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賢者の贈り物

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Part,Christmas Party

「何これ! こんなところでパーティー開くの!」
 艇内の有様に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は激昂して叫んだ。

 先んじてオリヴィエ博士の住む飛空艇を訪れたのは、ルカルカと、パートナーの剣の花嫁、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 そして黒崎 天音(くろさき・あまね)と、そのパートナーのドラゴニュート、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)である。
 飛空艇はそれなりの大型だったので、ヨシュアは早々に諦めて、最低限の生活に使う場所しか掃除をしていなかった。
 そして、オリヴィエ博士の書斎となっている部屋も、早々に諦めた部屋の中に入っている。
 ルカルカとダリルは、それ迄も時折ハルカの元を訪れては目につくところを片付けたりしていたのだが、改めて見れば、その雑然とした様子にルカルカの戦意が刺激された。
「ルカルカは誰の挑戦も受ける!」
 どん、と、その手には箒を握り締めている。
「ルカは何と戦っているのだ?」
 ダリルが呆れて溜め息を吐いた。
「あっその前に! 先に渡しておくね生き物だから! 博士といっぴきずつね!
 ちょっと早いけど、メリークリスマス!」
 猛然と掃除を始める前に、嵐のような勢いでハルカにクリスマスプレゼントを渡す。
「生き物?」
 種明かししてるし……と走り去るルカルカを見送りつつ、ダリルは唖然とする。
 がそごそと言っている箱を開けてみると、中に入っていたのは2羽のワタゲウサギだ。
 ふわふわで、長い耳が垂れているのが可愛らしく、わあ、とハルカは驚く。
「可愛いのです」
 そして不安そうにヨシュアを見た。
「ハルカにも育てられるのです?」
「大丈夫ですよ」
「はいっそこどいて!」
 モップを手に、廊下を全力疾走するルカルカに、邪魔者扱いされる。
「……とりあえず、居間に移動しますか」
 勿論、居間代わりにしている部屋、という意味だが。
「やれやれ。俺も手伝うか。
 今年の汚れは今年の内に、というしな。ヨシュア、厨房はどこだ?」
 ダリルは、まずは持参した料理やら酒やらを置かせてもらおうと、ヨシュアに訊ねる。ケーキもあるので慎重だ。
「ハルカもお手伝いするのです」
「その前に、そのウサギ達をどうにかしてあげませんと」
 餌は何か、籠か何かあったろうかとヨシュアが思案しながら歩き出す。
「……」
 箱の中のウサギを見て、ハルカはルカルカの言葉を思い出した。
「……ヨシュアさんの分はないのです?」
 ヨシュアは苦笑する。
「博士のウサギの面倒を見るのは多分僕ですよ」


「相変わらず、この飛空艇は傾いているのだな」
 ブルーズが、周囲を見渡して溜め息を吐いた。
「不便はないのか?」
「お茶を淹れる時には量に気をつけてますね」
 ヨシュアが肩を竦めて答える。
「住み始めた頃は、寝返りをうったハルカちゃんが、勢い余ってベッドから転がり落ちたりしてたようですが、最近はそんなこともないようです」
「ところで、博士は?」
 天音が訊ねると、それが、とヨシュアは苦笑した。
「三日ほど前から工房に篭ってまして」
「工房?」
「特注品の注文が入りまして……。
 納期に余裕はあるんですけど、熱中したら止まることを知らない人なので。
 食事に呼んでも出て来ないので、ハルカちゃんも心配してるんですけど」
 特注品とは、通常の人間サイズのゴーレムではなく、守護警備等によく使われるような、大型のものだ。
 食事を工房に運んでも手をつけませんし、と言うヨシュアの言葉に、ブルーズの目が半眼になった。
「……天音」
 低い声で呟く。
「我も、掃除を手伝ってきていいか」
「いってらっしゃい」
 とりあえず、持参してきた料理やら土産やらの荷物をヨシュアに預け、ブルーズは踵を返した。


 クリスマス。
 ハルカのところに集って、パーティーを開こうと有志が訪れる。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)もまた、ラウル・オリヴィエ艇に、ヨシュアを訪ねた。
「久しぶりだねえ。元気?」
「お久しぶりです。あなたも、お元気そうですね」
 あの時はありがとうございました、と礼を言うヨシュアに、弥十郎は、
「あの時は、君にどっきりさせられたから、今日は僕がどっきりさせたくて」
と言って、買い込んできた食材を見せた。
「クリスマス料理を作りに来たよ」

 基本はロースとビーフだが、バリエーションを豊富にする。
 かいわれとたまねぎのスライスを巻いたローストビーフ巻き、
 ローストビーフと大根おろしのマリネ、
 ローストビーフサンド、
 ローストビーフ用のタレを各種、等々。
「……作りすぎたかなあ」
 厨房の調理台に並ぶそれらを見て弥十郎は我に返ったが、
「さすがですね」
とヨシュアは感心している。
「ボクも手伝いに来ました」
と、パートナーの守護天使、仁科 響(にしな・ひびき)も言ったのだが、にっこり笑って弥十郎は、その腕前を熟知している響を料理に触らせなかった。
 配膳すらやらせて貰えず、文句を言う。
「ボクだって、やればできるんだよ、多分」
 ぶーぶー愚痴を言う響についに負けて、
「じゃあ、こちらの盛り付けをしてもらえるかな」
と言って任された飾り付けが、難ともちぐはぐな出来になってしまい、弥十郎の失笑を買ってむくれた。
「これ、味見してもいいですか?」
とヨシュアが指差したのが、響が盛り付けたもので、
「……別に気を使わなくても」
と、響は決まり悪そうに顔を逸らす。
「でも、折角頑張ってくれたのだから、一番に食べさせて欲しいんですけど。
 皆の為に作ってくれたんですけど……半分くらいは、僕の為かな、と、自惚れていたんですけど、」
 駄目ですか、と言うヨシュアに響は、聞くに耐えず、もうそれ以上言うなと。
「……勝手にしてください」
 ではいただきます、と、小皿に取って、味見する。
「美味しいです」
「……それはそうでしょう。佐々木が作ったんですから」
「そうですね」
 優しく笑うヨシュアに、毒気を抜かれて溜め息をつく。
「ボクにも一口」
「どうぞ」
 料理は絶妙の美味しさで、何だかどうでもよくなって、元気が出てきた。


 オリヴィエ博士の工房は、かつて彼の邸宅があった場所の地下、3階にある。
 ちなみに1階と2階は倉庫だったが、1階は天井が崩れた為に、現在は瓦礫は片付けたものの吹きさらしの状態だ。

 工房から、ブルーズによって引きずり出されたオリヴィエ博士は、集まっている面々に首を傾げた。
「どうしたの、お揃いで」
「クリスマスなので集まってくれたんですよ」
「……ああ」
 ヨシュアの説明に、そういえば、そんな日もあったっけと思い出す。
 そしてそのままふらりと倒れた。
 頭が現実世界に戻ってきたら、体の方にも、三日飲まず食わずでいた影響が一気に襲ってきたのである。
「……まずは粥でも作る。夜迄に戻って来い」
 ブルーズが呆れて言った。

 紅茶を飲んで、ああ人心地ついた、と博士が溜め息を吐く。
 居間には、博士と天音だけだ。
 ハルカやルカルカ達は掃除、胃に優しいハーブを入れた紅茶を置いて行ったブルーズは、ヨシュアや弥十郎らと厨房に居て、天音は博士の見張りを買って出たわけである。
「あまり周りを心配させるのは感心しないね」
 天音が肩を竦めた。
 あまり人のことは言えないけど、と、ブルーズの小言を思い出して苦笑する。
「あの子も、博士のことを好きみたいだし。
 パートナーになりたいと思うくらいには」
 あの子、とは、ハルカのことだ。
 以前ハルカは、オリヴィエ博士とパートナーになりたい、と願ったことがあった。
 博士はそれを断ったのだ。
 自分は、誰とも契約するつもりはないのだと。
「博士にとって、パートナー契約って、どういうもの?」
 彼は、困ったように笑みを浮かべるだけで、答えない。
 かつて彼は、自分は人の命まで背負えない、と、契約者達を見て言った。
 彼にはどんな過去があるのかと、天音は、そんな博士の顔をじっと見つめる。
「……怖がって避けているだけじゃ、何も変わらないと思うけどね」
 変わりたくもないのかな。
 そう呟いた天音に、今度こそオリヴィエ博士は苦笑した。
「……参ったな」
 鋭いところを突いて来るね、と、宙を仰ぐ。
「でも、背負わせられないでしょ」
 あんな小さな子に。
 呟きは、本当に小さくて、聞き逃してしまいそうだった。
 けれども、天音は確かに聞く。
 背負えない、ではなく、背負わせられない、と、そう。


「よう! ハルカに博士にヨシュア! 元気やったか! 久しぶりに顔見に来たで!」
 現れた光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)に、
「メリークリスマスなのです!」
とハルカは喜ぶ。
 他にも見た顔がえっとーおるなあと、翔一朗は、集まった面々を見渡して思った。
 こうして、かつて行動を共にした仲間達の顔を見るのも楽しみにしていたのだ。
 色々あっただろうが、皆元気そうだ。

「風邪などひいていませんか、ハルカ?」
「ハルカ、メリークリスマス」
とパートナーの剣の花嫁、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がハルカを抱きしめる上から、樹月 刀真(きづき・とうま)が訊ねる。
「メリークリスマスなのです。ハルカは元気なのです」
「君が風邪をひくと周りの皆が心配しますから、気をつけるんですよ?」
 そう言って刀真はハルカの頭を撫でた。

「メリークリスマス、ハルカさん! クリスマスカードをありがとうございました」
「メリークリスマス! いい子にしてたか、ハルカ!」
 ハルカからのクリスマスカードは、早くに届いていて、傍らにサンタ姿の白熊を伴いながら、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が礼を言う。
「メリークリスマスなのです、くまさんたさん、そあさん!」
「おお、そうじゃった。俺のところにも届いたわ。どうもな」
と翔一朗もハルカの頭を撫でた。
「そうそう。ハルカ、お守り」
 言うと、ハルカはぱっと笑った。
 自分といえばそれだと、もう解っているのだろう、以前ハルカにあげたお守りに、『禁猟区』を施す。
 それはハルカへの敵襲を警戒するものでは勿論無い。
 ただ、約束のようなものだ。
 ハルカが必要とした時に、いつでも駆けつける、という。

 小さな舞台も付いている、恐らくは食堂だったところで、弥十郎が作ったローストビーフや、ブルーズやダリルが持参した料理で、幾つものテーブルは全て溢れるほどになっている。
 仕方ないなあと笑って、オリヴィエ博士も秘蔵のワインを何本か提供した。
 怒涛の勢いで掃除を済ませたルカルカ・ルーが持参したクリスマスツリーを飾り、内装も飾り付けた。
 ハルカは月夜からプレゼントされたサンタの服装に着替えている。
「メリークリスマス!!」
 艇内の、一番広いキャビンでパーティーが始まった。