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前後不覚の暴走人

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前後不覚の暴走人

リアクション

 図書館は閑静である、という常識は大多数の人間が固定観念として持っているものであろう。
 しかし、今日この時においてその常識は通用しなかった。
「ユイさん、後ろに回るの頼んだよー」
「了解。取り敢えず、足裏を狙うねえ」」
 呑気な口調で話す月谷 要(つきたに・かなめ)ユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)が図書館傍の通路で戦闘を繰り広げているのだ。
 相手は瓦礫製ゴーレム。それも、
「とはいっても要、後ろって何処だろう」
 前後に二面と四臂を持つ、阿修羅像を簡略化した様な形状をもっていた。ただ体格は巨漢の一言であるが。
 像の持つ四本の太い腕はそれぞれが独立して動いている。
「うーん、分からないなあ。取り敢えず横から行ってみたら」
 月谷に言われたようにユイは身の中心をゴーレムの側面に合わせて剣を片手に突っ込むが、そこには丸太ほどの太さを持つ上下二本の腕が待ち構えており、
「――――ガ――!」
 両方の腕が飛んできた。全くの同時ではなく時間差で、しかも顔と腹に位置をずらして、だ。
 ユイは顔への一撃を剣の腹でガードし、腹部へ来る下拳を身を捻ることで回避。そのまま剣での連撃に入ろうとするも、
「っと!?」
 かわした下腕がそのまま伸びて、ユイの身を掴もうとして来た。
「無許可タッチはセクハラだよう!」
 剣の柄でした腕を叩き伏せたユイはバックステップで距離を取る。その後に来るのは硬直状態。
 お互いに攻めきれず、しかしゴーレムはただ進軍するだけなので、勝負がつかない。
「あー、横も危ないねえ、これ」
 その一幕を見ていた月谷はのんびりと感想を放つが、
「……要」
 彼の隣に立つ無愛想を極めた月谷 柚子姫(つきたに・ゆずき)がぽつりと言葉を漏らす。
「ん? どうしたの柚子姉さん。何か気になることでもあった?」
 月谷の疑問に柚子姫は首を横に振り、
「おやつの時間……、過ぎてるわ」
「ああ、お菓子ね。俺も腹減ってるんだけどねえ、これ倒さなきゃゆっくり飯が食べられない。……そう考えると苛々してくるなあ。空腹も自覚するし」
「なら、早く倒す。私も、出るわ」
 柚子姫はそう締めくくると、バーストダッシュを使ってゴーレムに向かう。床を這う様な加速で辿りつこうとする。
 彼女のやる気を確認した月谷は、
「早く、ね。じゃあちょっと、実験がてら行くかねえ」
 柚子姫と同じくバーストダッシュで速力を高め、走る。力場を用いた加速は空中ですら高速を維持する。
 ゴーレムはまず先行して来た柚子姫に向けて右下腕の拳鎚を叩き込む。それを柚子姫は、
「……避けるの面倒」
 受け止めた。否、下腕の手首を己が肘で打ち払った後、掴んだのだ。石像の片腕を封じた。だが、上の腕が残る。
 石像の上腕が柚子姫の脳天に裏拳を落そうとする。が、
「私を忘れて貰っては困るなあ」
 上腕の横を剣の腹で打撃した。刃を使えば、滑った時柚子姫を切る恐れがあるが腹ならば問題ない。単純な打ちとして作用した力は石像の裏拳をずらす。阿修羅もどきの右腕全てが動作不能になった。その隙を月谷は見逃さない。
 彼は石像の直上に至り、その地点から急降下した。九十度の直角下降。前だけを向くゴーレムが死角で捉えられない位置。
 左腕を引き絞り、突き込むことを目的としたパワーダイブ。狙いはゴーレムの右肩。
「その二本、貰ったあ!」
 が、ゴーレムは動いた。左の二腕を月谷にぶつけたのだ。斜度を付けた上腕を。
「なあっ!?」
 ダイブは確かに威力のある攻撃だ。だがそれも、真っ向から、一点で受ければの話。
 斜めで推進力を反らされ、二本の太い腕で力そのものを分散されては本来の威力には程遠い。
 その受け方をゴーレムは実行した。
 結果として、月谷のダイブは成功。だが成果としては左腕の半分ほどを削るに留まった。
「やっぱり二面あるって事は、それなりに視野があるって事だもんなあ。ってことは、近接攻撃で倒すのはきついかぁ」
 甘く見てたなあ、と自省する月谷。そんな彼らがいる戦場に、新たな影が二つ現れた。
 光条兵器を展開状態で背負った葉月 可憐(はづき・かれん)と彼女の背に隠れるように縮こまるアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が図書館の入り口目指して歩いて来たのだ。
 葉月は表情を笑みに固定したまま、背負ったガドリング銃形の光条兵器を前方、ゴーレムへと向け、
「邪魔ですよ――!」
 五語の警告だけして、引き金に力を入れた。
 うわあ、と射線上の皆が跳躍するなり、走るなりしてその場を逃れる。そうして空いた射線を弾丸の群が走った。
 音速に近い速度がゴーレムへ迫る。無機なる石像は弾丸を脅威を見なしたのか、四本腕全てを前面ガードに回した。
 己が身を腕で庇う。
「私は図書館に行きたいだけなんですよ。だからどいて下さ――い」
 対して葉月は自分の用件を述べて、連射を続行した。その上、
「ほらほら、アリス様も撃って下さい」
 背後のアリスにも射撃を促した。葉月の提案に有りすは驚きを返し、
「ええっ、私も!?」
「勿論ですよ。一人で撃つより、二人で撃った方が効率的でしょう」
 物理的正論を吐かれたアリスはしばしの逡巡を超えて、
「……ううん、そうだね。私も読みたい本があるんだし、頑張らないと駄目だよね」
 よーし、と気合を入れたアリスは鬼払いの弓を構え、葉月と横並びに射撃した。
 連射の手数が更に増えた。
 しかし、それを受けるゴーレムの腕は増える訳ではない。時が重なるにつれて損傷が激しくなる。
「……あと一息ですね。コレも追加しましょう」
 葉月の台詞で更にもう一丁、魔道銃による射撃が加わった。
 三門体制の一斉射撃にゴーレムは歩行する事も身じろぐことも出来ず、押しに押されていつの間にか図書館入り口近くまで押し返されていた。
 加えて、石像の腕はもう限界に達していた。腕としての形は最早無く、弾丸一発分の穴同士が繋がって大きな破壊となり、やがて割砕に繋がる。
「それじゃ、これが止めですね」
 葉月の止め宣言と一緒に放たれた魔道銃の一撃、それにアリスの弓が合成された破壊力抜群の弾丸を、ゴーレムはクロスした四本腕の中心点で受けた。
 そこから二秒の間に起きた現象は三つ。
 ゴーレムの腕全てが砕けた事。
 貫通した威力をもろに胴体に受けて図書館前に吹き飛んだ事。
 最後に図書館の入り口が開き、柔和な顔立ちをした少女、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が出て来た事だ。
 腕を失ったゴーレムは丁度彼女の前で転がりをストップした。
 マビノギオンは生物の習性として、己の前で俊敏な動きをしていた半壊ゴーレムを目で追う。
「………………何ですか、これは……」
 それを視界に入れた瞬間、彼女の表情は変わった。
 柔らかい少女のものから、瞳孔を散大させ、口の端を吊り上げた獰猛かつ異様なものに。
 次の瞬間、マビノギオンは短刀を手に持ち、倒れたゴーレムに突き刺していた。
 突きさしは一度では終わらない。一度突き刺したら、直ぐに抜き、また突き刺す。
「なんでっ、こんなっ、無様がっ、存在しているのですっ!」
 刺して、抜き、突いて、また抜く。逃れようとすれば足を刺し、壊してからまた胴体への刺突に戻る。
 そんな時、図書館の扉がまた開く。出て来たのは芦原 郁乃(あはら・いくの)で、
「マビノギオンー? 何時までも帰ってこないでどうしたのってうわあっ!」
 例えパートナーである彼女が来ても、彼女が驚愕しても、マビノギオンの突き刺しは驚異的な速度で連続する。。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
 細い短剣で、刺突を続けた。やがて、ゴーレムの形状が無くなって、頭部のみになった。
 するとマビノギオンの刺突行為は止み、同時点で怒髪天の表情も柔らかいものに変換された。
「えーっとマビノギオン? 終わったの……かな?」
 パートナーの心配そうな言に、刺突行為を終えた彼女は、
「はい、魔法生命の汚点を壊せたので気は済みました」
「お、汚点?」
「ええ、どうやらこのゴーレム特殊な構造をしているようで。サンプルとして頭だけは残してあるので、図書館内の推理班に渡しましょう」
 とびきりの微笑でゴーレムの頭を鷲掴みにしながら、そう言った。
 
 
 広大な図書館内部の一コーナーに長机が幾つも集まった場がある。
 その中で一つの机を占拠する集団があった。そのグループがいる長机上には多くの本が現在進行形で積まれている最中で、
「こんなもんだね。ゴーレムに関する本は」
 十数冊の本を抱えた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、それをまた机上に積んで置く。
「しっかし、面倒だよなあ。ゴーレムの暴走って事例がこの目で見れるのは良いけど、それを解決しなきゃいけないってのは意外と骨が折れる」
「……それでも、誰かが何とかしなければ事件は終わらない。今回はその役目が俺たちに回って来た。それだけのことさ」
 ジェライザに意見を返す源 鉄心(みなもと・てっしん)は積んである本を抜き取り、開く。その視線は固定されることなく、捲るスピードは速い。けれども、時折彼が注目するものがある。それは机の中心に置かれたゴーレムの頭部。
「実物があると調査の手も進むな。これに情報が入ればもっとやり易いんだが、――そっちはどうだ?」
 彼は机の向こうで携帯電話に耳を傾けているフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)に問うた。
「――ええ、はい。それではまた合流地点で。……メイベル様、つまり私のパートナーのお話では、作成者の少女とは逸れてしまったそうですわ。突然実験室が爆発したとかで」
 彼女は電話を仕舞いながら繋げ、
「聴き込みで分かった事は作成者がディティクト・ノワールという名の気弱そうな少女であること。そしてゴーレムの構成がおかしい事。この二つくらいでしょうか?」
「いや、まだある。さっき耳にしたんだが、構成深く読んで制御乗っ取ろうとしたらゴーレムが自動爆発したらしいよ」
 ジェライザの情報に、源の隣に座って文献調査に精を出すティー・ティー(てぃー・てぃー)を首を傾げた。
「らしいって、それは確定情報なのですか? 暴走状態でありながら、自動だなんてあり得ないと思うのですが」
「いや、“らしい”ってのは紛らわしかったかもしれねえが、これがマジなんだよね。まあ、爆発って言っても危害が及ぶほどのもので無かったみたいだけど」
「ああ、その爆発は作成者と逸れた時にも起きたらしいですわ。ですから、ゴーレム内部の魔法薬が誘爆したものと考えるのが最も納得がいきますわよ」
 ううむ、と皆が首を捻って、文献をめくりながら悩む。その中で一人、本を手にしていない小さな子供イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は椅子に座って足をぶらぶらさせながら、
「鉄心、わたくしお腹が空いたのですけれど」
 源はイコナの食欲アピールを意識の外に追いやり思考に没頭する。
「……ゴーレムは暴走している。だが構造はおかしくもあり、自動爆発が出来る程まともでもある。制御を乗っ取ろうとしたら自爆する」、
 頭の中で情報を抱え込まず、口に出して整理していく。そうすれば、他人の意見もすぐさま取り入れられるからだ。
 即席の討議にティーやジェライザも参加し始め、
「つまり、この暴走を引き起こしているのは、制御を乗っ取った真犯人である可能性が高いです。自然の暴走……というのはおかしな表現かもしれませんが、その線は消去ですね」
「だけど、その真犯人って結構凄い奴じゃないとなれないね。何しろ十台もあるゴーレムの制御を分捕った挙句、自爆可能な精密制御。こんだけの技能持っている奴探すの結構難しいよ」
 次々に出る意見に源は首を振り、
「犯人とやらを探すには証拠も手掛かりも足りない。それにいるかどうかも解らない手探りで見つけ出せるほどこの状況は甘くないだろう」
 じゃあ、どうするんですか、とティーが発した問いの前に源は黙ることしか出来なかった。
「…………何かが足りないんだ。重要な、ピースの真ん中が抜けているような違和感がある。ゴーレムが暴れている。そこまでは見れば解る。だが、そこから暴走したゴーレムに繋がらない。何故この騒動が起きたのか説明する事が出来ない」
「暴走させたのは何であるか、このキーワードがないんだよな」
 討議の意見は出尽くした、とばかりに皆は黙る。源に至っては何がある、答えは何だと自問を始めてしまった。
 その様子が耐えきれなかったのか、はたまた空腹が限界に達したのか、
「あー、面倒ですわね!」
 と、叫んでイコナは椅子の上に立つ。その様子を、周囲の皆は惰性で眺めている。そんな視線に囲まれて彼女は言った。
「だったら、――作成者のディティクトさんが犯人ということで宜しいのでは!? これで万事解決。わたくしはご飯タイムですわ!!」
 己の欲望に任せた論を述べたイコナに源は呆れの視線を返していたが、徐々にそれは身開きに変わっていき、
「――それだ!!」
「――ひゃうっ!?」
 急激な声量の増加にイコナは竦み上がるが、それを気にした様子もなく源は“そうだ”を繰り返し、
「そうだ、それだ。それなら合点が行く。暴走した? 否、その前提が間違っているんだ。暴走なんかしていない。確信的犯行だ、これは!」
「て、鉄心? 興奮している所悪いけど、証拠が……」
 ティーもいきり立つ源を抑えようとするが、
「考えても見てくれ。何故、実験室という狭い場所で、少女一人を見逃す? 何人もの人間が、それも優秀な者たちがいたんだぞ? ただ目が見えなくなった位で弱気で弱っていた少女を見失う筈がない。そも、その爆発が起きたのだってあまりにもタイミング良過ぎる。怪我をしない程度の爆発が、少女を見逃す間だけ発生したんだからな」
「でも、それら全てが偶然ということだって――」
「ああ、その可能性は大いにある。俺の説とは五分五分、いや六対四くらいで偶然説の方が勝るだろう。だが、この場ではこれが最も筋が通った理論なんだ。間違っていたら賠償すればいい。
 ――だから、今はその理論を通していくのが最良だ。皆、関係各所に伝達を頼む。ああ、でも、“あくまで仮定”という言葉を忘れないでくれよ。そうすれば、これが間違えていた場合疑ってくれる人間が出て来るだろうからな」」
 
 
 世界樹内のとある道。
 人通りのないそこには、鼻歌交じりでスキップするゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がいた。
「ふんふ〜ん。楽しいなあ今日は。ハプニングだらけで人の困った顔が面白くて仕様がない」
 彼は目を弓にして、さながら懸賞で二等が当った様な、ほのかな幸せを味わう表情で道を行く。
 彼は軽快なスキップを連続しながら、虚空に顔を向けて、
「でもなあ、やっぱこれだけじゃ不幸が足りねえよなあ。もっともっと困って貰わないと俺様が楽しめねえじゃん」
 独り言は止まず、
「人の不幸は蜜の味。蜜の味ってことは幸せ。昔の人間もこうやって楽しんでたんだろうし、俺様もそれに準じさせて貰おうか。……まずはゴーレムの作成者見つけねえと。
 こういうのは作成者が命令すれば大抵それを実行するだろうから、変な命令出させてやればそれだけで大パニックだろう、とゲドーは予想し、作戦を練る。
「実験棟からいなくなったっていうし、この辺だろうとは思うんだが――」
 彼が呟きつつ周囲を見回すと、道の突き当たりで腰を下ろす少女を確認する事が出来た。
「噂通りの黒髪黒ローブ。ひゃはっ、いきなりビンゴかあ?」
 歯を見せる獰猛な笑みを浮かべてゲドーは少女によっていく。距離を詰めるにつれて
「……っち、図書館に行った七番もやられたか。中々上手くいかないわね」
 と、何やら呟いているようだが、ゲドーはさして気にした素振りを見せずに、
「おーい、そこで座ってる嬢ちゃん。もしかしてお前さんがディティクトちゃんかあ?」
 ゲドーの声掛けに、少女は一瞬鋭い目を向けたものの、直ぐさま目を伏せて隠し、
「は、はい。そうです。あ、あなたは……?」
「あ、俺様? なあに通りがかりのヒーローさ。ディティクトちゃんを助けるためのなあ」
 沸き起こる笑いを隠すような籠った声でゲドーは自己紹介した。
「で、早速だが止める方法を説明するぜえ? とは言っても簡単な事でな、ただ俺の言葉を復唱してくれればいい」
 即座に頷いて応答するディティクトに、ゲドーは最早笑みを隠さない。
「それじゃあ、行くぜ。ゴーレム達よ――」
 ゲドーに言われたとおりディティクトは喋る。
「ゴーレム達よ――」
 ゲドーは笑いをこらえるのに必死になりながら言葉を紡ごうとする。
 思う存分破壊せよ、とディティクトに言わせ拡声器代わりの魔法でゴーレムを操作する。そのつもりだった。
 魔法も用意していた。が、
「思うぞぶっ!?」
 最後まで口が回ることは無かった。
「あががががっ!!」
 ディティクトの掌が、ゲドーの頬を締めたからだ。細腕とは思えないほどの握力がゲドーの頬骨を圧迫していく。
「あらあら、拡声して私の場所を知らしめようだなんて、とても悪い子だわ。残念だけど、流石に今ばらして貰う訳にはいかないのよね」
 彼女は冷徹な声で、冷徹な瞳で締め上げる者を見据え、
「悪事の肩代わりをしてくれるのなら有り難いけれど、今の状況でそんな余裕もないのよ。だから、私の場所を知ってしまった貴方にはちょっと何処かに閉じこもってて貰うわよ?」
 疑問形で言うが、彼女は応答を待たずにゲドーを床に押し伏せて、何処からか取り出した縄で縛り始めた。
 強引な行為であるが、不意打ちと力によって抑えつけられたゲドーには対処する事が出来ない。
 数分の後、片付けを終えたディティクトは、鋭く射るような眼つきに自信を変貌させ、
「……待っていなさいよ、エリザベート。……あなたがやった事、きちんと土下座で謝らせてあげるわ! 創造主として命ずる、全てのゴーレムは校長室を襲撃しなさい!」
 猛り吠えた。
 そして彼女はその場を去った。目的地に行く為に。


 全くの余談ではあるが、ゲドーはこの翌日、亀甲縛りの状態で掃除用具入れから発見されたという。