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仁義なき場所取り

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仁義なき場所取り

リアクション



●はじめに●
毎度のことになりますが、本リアクションには同性・異性問わずいちゃいちゃ描写が含まれますのでご留意の上お楽しみ下さい。

一幕【スタートダッシュ・モーニング】

[一場・東門の、朝]


――AM6:50――

 空京の片隅に存在する、「桜の森公園」。
 普段は散歩する人間がちらほら居る程度のそう大きくない公園だが、この時期だけは違う。
 公園中央の高台に根を下ろす桜の大木をシンボルとするこの公園は、絶好のお花見スポットとしてその名を知られている。ので、花見シーズンだけは花見客が大挙して押し寄せる。
 その場所争奪戦のすさまじさ故、公園の精によってルールや開園時間が厳密に定められているのは周知の事実。そしてそれは門の前での待機も禁止、という徹底ぶりだ。

 よって、場所取りをしようとする者達は遠巻きに開園時間になるまで門の周囲をうろついている。
 公園北東に設けられた、通称「東門」も例に漏れず。
 そんな中で。

「あ……やべ、飲み物ないなぁ……」
 シートとお弁当の入ったカバンを抱えて待機していた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が呟いた。
「マティエ……オレが場所取りするから、ごめんだけど買い物行って来てー」
 瑠樹は隣を歩いていたパートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)に告げる。
 マティエが「りゅーきのばかあぁああ!」と文句を言いながら、近所のコンビニへと駆けだしていった。

 そんな呑気な遣り取りがなされているが、その周辺では一転、ピリピリとした雰囲気で入念な打ち合わせをしている人々の姿が目立つ。

「では護さん、北斗さん、場所の確保よろしくおねがいします」
 シャンバラ教導団の一員である一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)もまた、同じ教導団の天海 護(あまみ・まもる)天海 北斗(あまみ・ほくと)と東門付近で待機していた。
「うん、頑張ってくるよ」
「レオンの為にもな!」
 レオンの演習に協力することになっている三人――おっと、アリーセの足元のアタッシュケース型機晶姫、リリ マル(りり・まる)も忘れてはいけない――四人はうん、と顔を見合わせて頷き合う。
「これはほんの援護射撃です。景気づけにどうぞ」
 そう言ってアリーセがリリの中から取りだしたのは、技術化特製の栄養ドリンク。怪しさ満点。
「あ……お、オレは飲めないからな!気持ちだけもらうぜ!」
 機晶姫(男性型)である北斗は、飲食可能な機構がないのをコレ幸いとばかり、アリーセの怪しい差し入れをやんわりと断る。 
 一方断り切れず押しつけられた護は、恐る恐るドリンクの瓶に口を付けた。
 不思議な……形容しがたい……いや、不味くはないが……妙な味のするそれをなんとか飲み込むと、不思議と身体の奥から力が沸いてくる。
「これは……すごい、元気が出てきたよ!」
 その様子にアリーセは満足そうに頷く。
「では、場所取り頑張って下さい」
 にっこりと……ちょっと事務的な……笑顔を浮かべるアリーセに、護と北斗は力強く頷いた。

 さらにその付近では三人の女性たちが、華やかな声で、しかし真剣なまなざしで打ち合わせを進めている。
「いーい? とにかく戦闘は回避して、場所の確保最優先だからねっ!」
 百合園女学院の仲間と、中央の桜の下で花見を計画している、桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の三人だ。
「そろそろ時間だねぇー。じゃあ……」
 言うと、オリヴィアは足につけている彗星のアンクレットの力を解き放つ。すると、ふわりと三人の身体が軽くなる。
「開門、一分前ですわ」
 小夜子の合図で、三人は目線を交わして頷きあうと、一斉に黒檀の砂時計をひっくり返した。

 その瞬間。

 ピィ――――――!

 朝の空気を切り裂くような鋭い笛の音が響き渡った、かと思うと、仕掛けのされた門がギィ、と軋みながら開いていく。
 それを合図に、辺りの人々が一斉に公園内へと殺到する。
 その中から、予め支度をしていた護と北斗、円とオリヴィア、小夜子達が頭一つ抜けだした。
 円たち三人は千里走りの術で中央エリアへの道を一直線に駆け抜けていく。その後を、護と北斗も必死で追う。
 その後に、後続の集団がごっちゃり団子になったまま続く。
 と、後続集団の中からひゅん、と何かがその行く手に飛んでいく。なんだ、と先頭を走っていた人間が足を止めた途端。

 ぼふぅん

 竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)が放った煙幕ファンデーションが炸裂した!
 辺りに白粉の香りが漂いまくり、人々は咳き込み足を止める。その中をハイコドが駆けだそうとした時。

「くぉらぁーーーーーーーーーっ!」

 何処からともなく、少女の声が響き渡る。
 え、とハイコドが周囲を見渡す。すると、桜の木の上から、地祇の少女――さくらが、ピンクのワンピースを翻しながらひゅぅ、と降ってきて、ハイコドの顔面に蹴りを入れた。
「な、何で……植物に影響のある術は使っていませんよ!」
「影響大ありよっ! そーんな香りの強いかがくぶっしつ?っていうの?よくわかんないけど、変なものまき散らされたら桜たちは良い迷惑だわっ!」
 さくらはぷんすか、と立腹した様子でハイコドの前に立ち塞がり、行く手を塞ぐ。
 その横を、ハイコドのパートナーであるソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が駆け抜けていく。
「ハイコド! 先に行って場所取ってるよ!」
 既に煙幕は拡散してしまい、他の人々はハイコドとさくらの横をすり抜けて走り出している。遅れまいとして続くソランは、しかし余裕の笑みを浮かべている。
――その先には昨日私が掘っておいた落とし穴があるのよね。
 さあ填れ、さあ転べ、と思いながらソランは走るが、一向に落とし穴が発動する気配はない。
「あれ……何でみんな転ばないのぉ?」
「あなたですね、落とし穴を堀った下手人は」
 慌てるソランの横から声が掛かる。振り向くと、いつの間にかぴったりと併走していた影がにっこりと笑っている。
 さくらの見回りを手伝っている、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)だ。
「いくら浅いものとはいえ、無遠慮に土を掘り返しては桜の根が傷つくでしょう。落とし穴はちゃんと埋めておきましたから」
「えええぇぇっ?!」
 狐樹廊の言葉にソランは思わず足を止める。
 その横をミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)が走り抜けていくが、その顔にもソランと同じ色の焦りが浮かんでいた。
――何で罠が一つも発動しないの?!
 ミゼもまた、昨夜のうちにいくつかのトラップを仕掛けていたのだが――
「残念だったな、罠は昨日のウチに狐樹廊がみんな片づけてたぜ」
 同じく見回りをしていた天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が、焦るミゼの様子を見て声を掛ける。
「ルール違反者には相応のペナルティを受けて貰わないとね!」
 ヒロユキのパートナー、フィオナ・ベアトリーチェ(ふぃおな・べあとりーちぇ)が反対側から現れて、ミゼを拘束する。
「あっ、ミゼー!」
 ミゼと同じパートナーと契約する竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)が、その姿を見送る。一緒に鍋をしようと約束していたメンバーの場所取り係……ハイコド、ソラン、それにミゼ……が全員ペナルティを喰らってしまっては、自分が頑張る以外無い。真珠は断腸の思いで前を向き、打ち合わせた東エリアを一直線に目指して走り出す。

 開門と同時に走り込んできた勢力が嵐のように過ぎ去った後、漸く解放されたルール違反と認定されペナルティを受けた三人が、差し当たり植物に直接的な被害は無かった為、お目こぼしを受けて追いかけて行く。
「はぁ……これじゃぁ一日思いやられるわ……」
「元気だせよさくらちゃん! オラと一緒にがんばろう?」
 早速ぐったりしているさくらの肩を、幼い吸血鬼、童子 華花(どうじ・はな)がぽんぽん、と叩く。
「そうよ、私たちもお手伝いするから、ね?」
 華花と狐樹廊のパートナーであるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)もさくらの頭をよしよしと撫でる。すると、さくらはぐっと上を向いてこくりと頷いた。