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先生、保健室に行っていいですか?

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先生、保健室に行っていいですか?
先生、保健室に行っていいですか? 先生、保健室に行っていいですか?

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 そしてエヴァルトのようにパートナーの存在が時に自分を苦しめることになったりもする。
 そんな時に泪は、迷わず答える。
「確かに、あなたみたいな悩みを持つ人は実は大勢いたりするでしょう。契約というのは、一度した基本的に解除は出来ませんからね」
「そうなんです、だからこそ……!」
「ですが、あなたはミュリエルさんとならよい絆を築けると思ったからこそ、契約を交わしたのではないですか?」
「!……」
「人からの評価に流されすぎはよくありません、気にすることは誰だってあります。でも流されすぎると、いつか自分の本当に大切なものを見失ってしまいますよ?」
「大切な、もの……」
「ええ。あなたは彼女でなければならなかった理由があったのでしょう?彼女でしかいけない理由があったに違いありません。契約は軽い気持ちで出来ることではありません、そうですよね?」
「はい……!ミュリエル……?」
「うわっ!?ご、ごめんなさいです、一緒に帰ろうと思って探してたら声が聞こえたので……」
 泪のまっすぐな言葉にエヴァルトは耳を傾ける。
 彼女の優しい言葉が彼の中に響き渡る。
 ふと、立ち上がって扉まで行って開けた先に、話の主題であるミュリエルが立っていた。
「大事なのはお互いの気持ちですよ、違いますか?」
「気持ち、か……」
「ミュリエルさん?エヴァルトくんのことどう思っていますか?」
「……私にとってかけがえのないパートナーです」
「……ミュリエル」
「ほら、彼女の方があなたより素直ではありませんか」
 ミュリエルが泪の問いかけにしっかりと答える。
 その姿勢はエヴァルトの何かを打ち、心に響かせる。
 立ち上がってミュリエルに近づくエヴァルト。
 小さなパートナーに手を差し伸べ、大きな掌にその柔らかく細い手を重ねる。
 仲良く手を繋いで帰るその姿は、パートナーと言うより兄妹という印象だった。
 パートナーとは確かに違う種族、だが契約を交わせば意識下で繋がることになる。
 それは同時に家族になることでは、と泪が考えていたことだった。
 彼ら二人にも届いただろうか、と考えながら夕日に伸びる二つの大小の影を眺めていた。

 次の日、午前中に保健室へと来た生徒が二人いた。
 匿名 某(とくな・なにがし)結崎 綾耶(ゆうざき・あや)のペアだ。
 綾耶が突然倒れたということで、泪は迷わずベッドを開ける。
 実際、着いた時に何かに耐えるように硬い表情を浮かべていた綾耶が見て、何かあると直感で悟る。
 某を見れば心配の表情はもちろん、何処か思いつめたような顔つきも見えたことが泪は気がかりだった。
 昨日までとは違う、確かにこのペアには何かあった。
 とりあえず、話を聞いてみようと思い、気を失っている綾耶ではなく某から尋ねていた。
「何か、あるのかしら?」
「……本人が、話そうとしないんです。だから俺の口から直接何かを言えるっていうことはないですね」
 某の言葉は重く、泪にはそれ以上聞くことは出来なかった。
 分け隔てある壁がある、だがこのまま放っておくことは出来なかった。
 しかし泪は某ではなく、綾耶に聞いた方が早いと思い、意識を取り戻しつつある彼女と二人で話したいからと彼に席を外してもらう。
「おはようございます、体調はいかがですか?」
「先生……?はい、問題ありません。えっと彼は?」
「今少し席を外してもらっています。大丈夫、近くにはいません」
 泪もまた今回ばかりは真剣な表情を浮かべて綾耶の瞳をじっと見ている。
 その瞳の色で綾耶は一瞬たじろぐが、すぐに愛想笑いを浮かべた。
「どうしたんですか、先生?そんな怖い顔して、らしくないですよ……」
「一言言っておきますが、あなたの事ならある程度は把握済みです」
「……え?」
「別に驚くことではありませんよ、これでも生徒を導くものです。全校生徒の大まかな情報くらい頭の中に入れておかなければやっていられませんからね」
 泪の言葉に綾耶は言葉を失ってしまう。
 生徒数も、シャンバラ教導団には遠く及ばないが2500人近くの生徒が在籍している。
 その中のいち一人の情報を把握しているということに驚きを隠せないでいた。
「あなたがパートナーに対して隠し事をするのは構いません。心配させたくないと、そんな気持ちから隠し事をするのは誰にでもあります」
「先生、私は……」
「でも。あなたのその秘密が、パートナーを苦しめる、実際あなた達が今そうでしょうね」
「お願いします、これ以上は……!」
「おそらくではありますが、彼は気づいていますよ?」
「……!!」
「……余計な口出しだとは思います、でもこのまま続けていればきっとごまかしが効くのは時間の問題です。その時になっても、あなたはまだ隠し通そうとするのでしょうが」
 泪の言葉の一つ一つが重かった。
 しかし、某が気付きはじめているという仮説は彼女に衝撃を与える。
 そんなことはない、と考えるがもしそうなら今まで彼を苦しめていたことになる。
 綾耶は信じたくなかった、でも泪の言葉は確かに彼女の胸に突き刺さった。
「責めているわけではありません、ですがこのままではあなた達の信頼関係が崩れてしまいそうな、そんな気がしたのでお節介を焼きました」
「……先生」
「なんですか?」
 綾耶は泪の問いかけに答えることなく、彼女の胸の中に顔をうずくめる。
 そっと抱きしめた中で、綾耶の体が静かに震えだした。
 そんな様子を保健室の前でじっと待つ某。
 問いただす事も出来る、でもそれは綾耶の苦労を無駄にすることだ。
 だから待つしかない、そして信じているということを伝え続けなければならない。
 某に取って綾耶はかけがえのない存在。
 男は一つ、また大切な人を守るために強くなろうと決意するのであった。