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先生、保健室に行っていいですか?

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先生、保健室に行っていいですか?
先生、保健室に行っていいですか? 先生、保健室に行っていいですか?

リアクション

「いやもうホント、可愛くてしょうがないんですよ!もう何ていうか、天使?」
「良かったですね、毎日大好きな恋人といられて」
「今日は風邪をひいて欠席なのでさみしいですが、登校するときにお弁当を渡してくれて……」
「でも中身にその恋人が作ったかぼちゃの煮つけでお腹を壊したんですね」
「はい、煮つけは苦手のくせに作るので……」
「じゃあ、食べなければいいのでは?」
「何を言っているんですか!?そんなことしたらソランを傷つけるだけじゃないですか!!誰も食べなくても、僕ならちゃんと残さず完食します!!」
「失敗している料理を、はっきり指摘しないと上達はしませんよ?その辺はしっかりと、線引きしてくださいね。現に、こうして胃腸薬を飲まなくちゃならないまでになっているんですから」
「それは……ごもっともです」
 昼休み、泪のいる保健室に体調不良のくせになんだか元気な生徒が訪れていた。
 竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)は、泪に彼女自慢と言わんばかりに惚気ている。
 しかし彼は今、肉体的にはかなりきわどい状態だ。
 元気そうにしているが、常に腹部を抑えて何かに耐えているようなのは、その彼女が作った手作り弁当が原因だった。
 彼女が苦手とする煮つけ料理を知っていながらも完食してしまったのだ。
 おかげでお腹の調子は急降下、色々処理した後保健室に辿り着く。
 原因を話していも彼女は悪くないと弁明するばかり。
 泪は余程大切なんだろうなぁと感じる。
 しかしこの話はすでに3回も聞いたので内容はすべて覚えてしまった。
 いい加減区切りをつけなければ半永久的に話し続けるかもしれないと思う。
「それじゃあ横になって下さい。しばらく横になっていれば大丈夫ですから」
「ありがとうございます、それから先生昨日は何と……」
「ごめんなさい、他にも生徒さんが来たから対応しないと。それじゃあ、しっかり休むように」
 ハイコドはベッドに寝転んでもずっと話を継続しようとする。
 そこへ別の生徒が現れたので、泪は切り上げることに成功する。
 さすがに仕事ができたのなら仕方がないな、と感じたのかハイコドは今度こそ黙った。
「お待たせしました、今日はどうしましたか?」
「すみません、寝不足と体調不良でどうにも……ベッドお借りしてもよろしいでしょうか?」
「分かりました、但し今後このようなことがないようにしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
 マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)、見た目は完全に女子と見間違うほどの男子生徒だ。
 寝不足からきた体調不良だと告げる彼女に、泪は一言注意をして許可を出す。
 実際に寝不足だからベッド使わせてほしいという生徒は山ほどいる。
 しかしそれ以外にも必要とする生徒が出てくるかもしれないので、基本そういった生徒は断りを入れている。
 但し、全校生徒一回だけ見逃すという暗黙ルールを泪は設けていた。
 マクスウェルは初めてなので許可は下りたが、次はないということになる。
 横になった見た目少女の男子のベッドを仕切りで閉じる。
 ようやく落ち着いたと思いきや、そこへもう一組の生徒がやってきた。
「こんにちは、どのようなご用件でしょうか?」
「すみません、ベッド借りても良いですか?」
「構いませんが、空きが一つしかないので……」
「大丈夫です、私は健常者ですので問題ありません。こっちの方がベッドをお借りしたいのです」
 今度は男子と女子の組み合わせ。
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)だ。
 二人現れたので、ベッドは一つしか空いていないと泪が話すと、サツキは自分には必要ないと答える。
 それなら問題ないということで、残る最後のベッドを燕馬は借りた。
 サツキに至っては椅子を借りると言って一言、診察用の椅子を一つ燕馬の傍におく。
 看病とは甲斐甲斐しいと感じた泪だが、違うということをすぐに知ることになる。
「燕馬、この際言わせていただきますが夜はきちんと寝るものだと何度も言っていますわよね?」
「そ、それはそうなんだが……」
「深夜アニメだぁ、読みかけの小説が気になるだぁ、サッカーの中継見なければぁなど、睡眠時間を割いてすることではないと思います」
「違うんだって、それは……」
「何が違うんですか!?大体あなたの生活スタイルについては何度も注意をしているではないですか!それをあなたはやれ平気だのやれ問題ないだの、無責任なことばかりをいつもいつも……!!」
 どうやら日頃の鬱憤が限界に達したのか、サツキは燕馬に対する小言マシンガントーク形式で話し始める。
 燕馬に反論の余地はない。
 何しろ全て自分に非があることを分かっているからだ。
 サツキもそれを知っているからこそ、なお腹が立っているらしい。
「大体、人間日中の活動時間の方が長いんですのよ?その時間の中で無意味な時間は山ほどあります、その中で消化できることをあなたはいつもいつも……!!」
「だからそういうことじゃないんだってばサツキ……!」
「そうやっていつもいつもあなたは話をはぐらかして!大体夜更かしする人間は常に無駄に生きていると私は考えているんです。あなたはそのフォワードですよ!!」
 グサリ、サツキの言葉に胸を打たれる者がいた。
 燕馬ではない、傍で寝ているどちらかだ。
「こちらに対しての非が溜まり始めたら無駄に人の良い所を褒めちぎる、正直あれは気に入りませんわ。その場しのぎの点数稼ぎでしかないってどうして気がつきませんの?!」
「いや、だから……」
「まさか女は褒めていれば誤魔化せられるみたいな甘っちょろい考えをしているのでは?個人としての尊重など感じると思ったら大間違いですのよ!!逆に人を傷つけているということにどうして気がつきませんの!?」
 ゴォゥン!!っと大きな錘が誰かの頭に落ちる気がした。
 サツキのエンドレス小言攻撃は燕馬にだけではない。
 横で寝ている二人にも大きな影響を与えていた。
 直接怒られているわけじゃないのに、何だか非常に罪悪感に苛まれている二人は寝付こうにも寝つけずにいた。
 こうなってはどうしようもない、と泪は諦めて見守ることにする。
 まぁでも、これでここにいる三人はそれなりに生活スタイルを改めてくれるきっかけになればとも考えている。
 結局、サツキは1時間以上小言を言い続けた。
 聞き続けた三人は放課後までベッドから出てくることはなかった。