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なし

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フィクショナル・ニューワールド

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フィクショナル・ニューワールド

リアクション


【十 現実】

 ログアウトを終えた全員が一斉に、ソファーから跳ね起きて脳波リーダーを引っぺがし、ブースの外に飛び出してきた。
 すると、山葉校長が驚きと喜びのない交ぜになったような笑顔を浮かべて、歴史体験コーナーに走りこんできた。
「おぉーっ! やったか! 全員、無事か!」
 だが、その時。
 ひとりだけ起き上がってくる様子を見せない美晴の体が、リクライニングソファー上で二度三度、仰け反るような姿勢で跳ねた。
 次いで、その形の良い桜色の唇が見る見るうちに紫へと変色し、ひとすじの鮮血が溢れ出てきた。
 更によく見ると、右腕が肩先から妙な具合にねじれており、その指先に至っては、まるで鬱血しているかの如く黒っぽい色へと変色しつつあった。
「み、美晴さん!」
 誰かが悲鳴をあげた。美晴の肉体に異常が生じているのは明らかだった。
 恐らくは、電脳過去世界の中で受けた彼女のダメージが、そのまま現実の肉体にも反映されてしまっているのだろう。予断を許さぬ状況であるのは、ほぼ間違いない。
 しかしだからといって、ここで美晴を目覚めさせる訳にはいかない。
 もし本人の意思によらずに無理矢理ログアウトさせてしまうと、脳内の精神波がフィクショナルの築造した構成界内に取り残され、二度と意識を取り戻さずに植物人間と化してしまう可能性が極めて強いからだ。
 今すぐに出来ることといえば、早急に専属の医療チームを編成し、このブース内で常時、美晴の肉体に対するケアを実施する他は無いのである。

 不意に、山葉校長の携帯から着信音が鳴り響いた。慌てて通話に出た山葉校長の表情を見ていると、ほとんど一瞬にして険しい色へと変じた。
「全員、今すぐにここから退去だ」
 喉の奥から、怒りを押し殺したような声を辛うじて絞り出した山葉校長に、誰もが驚きを隠せなかった。
 何故、退去なのか。
 美晴をこのまま見捨てていけというのだろうか。
「ちょっと! そりゃいくらなんでも、あんまりなんじゃないの!?」
 理沙が詰め寄るのも無理は無い。
 だが、山葉校長は努めて感情を消した表情で、しかしその声はどこか憤激の念を込めたかのような震えを伴って、更に続ける。
「今後この部屋は、マーヴェラス・デベロップメント社による解析が完了するまでは、誰であろうとも一切、立ち入り禁止だ」
 耳を疑うような宣言であった。校長たる彼自身が、生徒のひとりである美晴の安全を放棄して、全ての調査権限を、今回の件の元凶たるマーヴェラス・デベロップメント社に委譲しようというのだろうか。
「待ってくれ、それは納得出来ない」
 孝明が食ってかかると、
「右に同じだ。美晴殿をあのまま放っておくのは人道に反する」
 武尊も同調して、山葉校長に再考を促そうとした。
 だが。
「うるせぇ! とにかくこれは、校長命令だ! 四の五のいわず、さっさと出て行け!」
 その指示に対し、ほとんど全員が反感を抱いたといって良い。
 ところが、加夜とルカルカだけは違った。ふたりは山葉校長の口元から、無念の意をあらわす歯軋りの音が微かに漏れ出るのを聞き逃さなかった。
「涼司くん……」
「だいぶん、無理してるね」
 ふたりには、誰よりも山葉校長自身が、己の出している命令に従いたくないという強い思いを抱いているのが即座に分かった。
 しかし、山葉校長は蒼空学園の長である。蒼空財管からの要望を無碍に断ることは出来ないのだろう。もし彼がこの要望を蹴散らせば、恐らくは、今回この件に関わった全ての蒼空生達に無用の類が及ぶ。
 そう判断した上での指示であるに違いない。だからこそ彼は、心を鬼にしてでも、全員に退去を命じたと考えるのが、最も理にかなっている。
 山葉校長の苦渋の決断と彼の悔しさを必死に抑える心を、無駄にしてはいけない。加夜とルカルカは咄嗟にそう考えた。
「皆さん……ここは一旦、指示に従いましょう。涼司くんにはきっと、何か考えがあると思いますから」
「だね。第一、全員ここでこれ以上、何も出来ないでしょ? だったらまず、校長先生の指示に従おうね」
 ふたりが全員をなだめて室外に退去させてからしばらくすると、後方で誰かが室内ベンチを蹴り上げる音が響いた。
 学園の長でありながら、生徒の危機に際して何も出来ない。そんな山葉校長のやり場の無い怒りが、そういう形で現れたのだろう。

『フィクショナル・ニューワールド』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。
 このたびは、たくさんの素敵なアクションをお送り頂きまして、まことにありがとうございました。

 凄まじく中途半端な終わり方をしておりますが、一応ストーリーとしてはここで一旦完結しております。PCの皆様も無事にログアウトし、電脳過去世界からの脱出を果たしましたので、どうぞご安心くださいませ。
 また、例のあの神様に関するアクションをかけてくださった皆様方には大変申し訳ないのですが、商標権の問題上、リアクションで直接あの名前を表記することが出来ず、ほぼ総ボツ状態となってしまいました。
 ガイドにて、下名の情報の出し方が拙過ぎましたことをお詫び致します。

 それでは皆様、ごきげんよう。