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【新入生歓迎】ゴブリン軍団を撃退せよ!

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【新入生歓迎】ゴブリン軍団を撃退せよ!

リアクション

「押さえきれない! 本部に向かって来るぞ!」
 高台から戦場を見下ろしていた四谷 大助(しや・だいすけ)が、本部に向けての通信を送った。
「前方の戦いから逃げ出したんだ。塹壕以前のこっちの防備は薄いから、数分以内に最終防衛ラインを抜けるはずだよ」
「新入生だけに任せておくつもりだったけど……仕方ないわ、突撃!」
 傍らに身を伏せていたグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が剣と盾を構えてかけ出した。
「って、いきなり出てどうするのさ!」
 ぐい、とそのスカートの裾を掴んで、大助がグリムゲーテを引き留める。
「何するのよ! 危険でしょ!」
「今回はあくまで新入生が主役なんだ。こういうのは、ばれないようにこっそりやるんだよ、こっそり」
 そう言って、大助は裾の代わりにグリムゲーテの手を取って走り出した。


 一方、本部はその報告に、目に見えて浮き足立っていた。
「突撃して殲滅の時間を短縮する作戦は、狙いはうまく決まったが、防衛が手薄になったか。逃げ出したゴブリンたちがここまで辿り着く確率は84.5%……」
 小暮 秀幸がぶつぶつと呟いている。それを後ろから眺めていた茅野瀬 衿栖が、その肩をぽんと叩いた。
「実戦ではシミュレーション通りにはいかないものよ。イレギュラーが起こることも考えて作戦を立てること。分かったかな?」
「先輩……つまり?」
「ゴブリンたちはかなり切迫した状況にあるってことですよ。ここを乗り切ることができれば、あとは全軍を反撃に回せるはずですよ」
「しかし、この状況を本部に被害を出さずに乗り切れる確率は33.4%……」
 秀幸が不安げに押さえる眼鏡は、にわかに本部に立ちこめてきた熱気で曇りかけていた。
「作戦参謀、リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)だ。意見してもいいか?」
 二人の会話に、そっと手を上げたリブロが、ぐるっと戦場マップを指さした。
「この範囲にいる全員を本部の防衛に回す。撤退は許しません。逃げようとしたら、私たちが銃を向けて戦うように指導します」
「不退転の覚悟で臨めば、必ずやゴブリンを倒せるでしょう」
 レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が補足するように、告げる。
「あまり、人道的なやり方とは言えませんが」
「驚かせるだけだとも」
 秀幸の呟きに、リブロが目を細めた。
 秀幸は2秒以下考え、前方でナビゲーションに当たる金本 なななに告げた。
「先輩の意見の前半を採用する。金本少尉、該当エリアに居る全員に、本部の防衛指示を」
「了解!」
 じっと戦況の把握に努めていたなななが、砕けた敬礼を返してインカムに告げる。
「こちら本部、こちら本部。ゴブリンの一部が防衛ラインを破って本部に接近中。この通信が聞こえてたら、速やかに本部付近へ移動して対策に当たって!」
 告げた直後、いくつものメッセージが飛び交う。本部がゴブリンに襲撃されるかもしれないという情報はショッキングだったらしく。完全に取り乱した者は居なくても、確認のためや、さらなる作戦の提案などで通信網が一杯に広がった。
「あ、う、えっと……」
 どれからどう答えるか。なななの思考が一瞬、白く染まりかける。
「回線回して!」
 ふと、なななの背後から鋭い声が飛んだ。リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。なななが驚いている間にその横につけ、インカムを装着する。
「リカイン・フェルマータ、本部の危機的状況が回避されるまで通信を補助します!」
 誰かが止める前に、リカインは早口に、だがしっかりと口調が告げる。
「とにかく、まずは指示に従うこと。本部が必死に作戦を考えているから、余計な事は考えないでこっちに戻りなさい!」
 そして、なななにきっと視線を向けた。
「回線の3分の1をこっちに回して!」
「は、はい」
 勢いに飲まれたなななが、思わず指示の通りに頷いた。


 本部後方……
 臨時に張られたキャンプで、兵士となった契約者が休んでいる。
 体力やけがもそうだが、契約者の戦いでは、集中力や魔力といった、精神的な要素がパフォーマンスに大きく影響する。そのため、普通の戦いよりも短気での決着、戦力の波状投入が重視される傾向がある。
 短時間に力を使い果たした後は、速やかに撤退する。特に、今回のように人間でないモノとの戦いでは、そうした部分が強く考慮されがちだ。
 魔力や精神力を使い果たし、今の状況を助けに行きたいと思いつつも、命令違反となるために動くことができない生徒たちも少なくない。
 そこからさらに離れた物陰で、密かな会議が開かれていた。
「これって、まだ『助けが必要無い状態』かな?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が問う。傍らのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、ノートパソコンを確かめ、
「本部が実際に襲撃されたわけじゃない。作戦の詰めの甘さが出たな」
 モニターに表示される情報を分析しながら答えた。
「今回は他校との混成軍だからですかな。教導団の精神が徹底されていないことが悪い方向に働いたのかもしれません」
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)がいくらか不満げな表情を漏らした。
「手助けしている上級生に関しては、すぐに止めます? あまり手を出しすぎると、新入生の訓練の意味が薄れるように思いますけど」
 ルカルカの問いに、マーゼンはゆっくりと首を振る。
「今そうすれば、かえって混乱を招きかねませんな。後に聴取することもできるのだし、本部が安全になってからにいたしましょう」
 と、そこへ本部が使っているのとは違う回線からの連絡。
「こちら、本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)。隠れて状況を見てるけど……さすがに、戦車の相手や歩兵と戦ってる新入生は限界が近いね。傷を受けてるものも少なくないよ」
「こちら、早見 涼子(はやみ・りょうこ)。後方に負傷者が運び込まれているわ。回復に当たっているけど、手が追いついていない状況ね。けど、私が手を出すわけにもいかないし……」
「撤退までが作戦だ。飛鳥、手を貸すなよ。涼子は、必要最低限の協力を許可する。ただし、自分が手を出すより先に救護兵に気合いを入れてやれ」
 ラジャーの返事が2つ続き、通信が途切れた。
「いよいよ、ここからだな」
 ダリルが小さく言った。
「教導団には、回りの邪魔になるような兵士は要らん。我々は、誰が邪魔者かを見分けなければならない」
 マーゼンは目を細め、独り言のように言った。