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2.武術系コミュニティ合同PVプロジェクト




 照明が暗くなると、講堂内の喧噪は静まった。
「お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
 スピーカーから声が響いた。
「これより、新入生歓迎企画・コミュニティPV上映会を開きます。
 僕は、本日のPV鑑賞会の司会を務めさせていただきます、蒼空学園映画研究会の、塚井 走(つかい かける)と申します。
 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。
 今回の上映会が、皆さんにとって実りあるものになってくれればと思います。
 それでは、プログラムNo.1。
 『武術系コミュニティ合同PVプロジェクト』より、イルミンスール武術部・青心蒼空拳・『人体の神秘』の各PVを続けてご覧頂きましょう」

 客席の一隅で、鳥野 島井(とりの・しまい)は最後のコミュニティ名のコールに怪訝な顔をした。
(……人体の神秘……で、武術?)
 同じような疑問を感じたのは、他にもあちこちにいるようだった。
「……『人体の神秘』で武術? なんだそりゃ?」
「まぁ……武術で効果的に相手にダメージ入れるってんなら、人体の構造とかは知っていた方がいいよな?」
「ちょっと待て。俺の記憶が正しければこのコミュニティ、誘惑技術が鍛えられる、って所だって聞いたんだけどさ」
 島井の周囲で、ヒソヒソと不安そうな声が囁かれた。


 映像が始まった。
 早朝。
 道場前の庭、石畳の上で、トレーニングウェア姿で汗みずくになって正拳突きの反復練習をする男の姿があった。
 マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)である。
 その風景に、文字と、マイト自身のナレーションが被さった。
 「イルミンスール武術の最大の目的は魔術の完全封鎖と弱者を護る力の会得。
 魔法が使えぬ者、又は生身の戦闘が苦手だと思われるウィザードの最終手段、
 生身の人間でも魔法に対抗する為に編み出された武術である」
 カメラが動いた。
 庭の隅に置かれていた燃えた油を入れたドラム缶と、分厚い氷壁とがフレームに入った。
 マイトはまずドラム缶の前に立ち、立ち位置と構える腕や拳の位置、姿勢を慎重に決め手から、
「覇ァ!セイヤァーッ!」
という気合いと共に、ドラム缶の炎に向かって立て続けに正拳突き数回振るった。
 燃えさかる炎と煙とが拳圧によってなびく。
 繰り返される拳撃に、炎は吹き消えそうにさえ見えた。
 


 おおおぉぉ――
 客席に微かにどよめき。まばらではあるが、拍手の音も聞こえた。


 次にマイトは、氷壁の前に立った。同じように、慎重に距離や構えを決めてから、
「トゥァーッ!」
と叫びながら正拳を氷壁に叩きつける。轟音と共に氷壁は粉々に砕け散った。
 


 おおおぉぉ――!
 客席から一斉に歓声が上がった。割れんばかりの拍手が鳴った。


 画面内のマイトは、カメラに向き合うように立ち、
「押忍!」
と頭を下げると、ドラム缶に蓋をして、箒とちりとりでバラけた氷の掃除を始めた。
 画面に文字が被さった。
 「武術系コミュニティ合同PVプロジェクト/イルミンスール武術部」


「いいなぁ。やっぱり拳法アクションってカッコいいなぁ」
「いや、俺はちゃんと後片付けをするのに感心した」
「火の始末もバッチリだ」
「ああ、環境に優しいな」
「でもあの火力もったいなくねぇ? せっかくだから網置いてバーベキューでもしようぜ?」
「ひとりでか? ちょっと孤高に生き過ぎじゃないか?」
「理解したぜ。あの武術家って実は山ごもりしてて片眉剃ってて……」
(……君達だんだん感想が違う方向に行ってますよ)
 色々と感想を言い合う周囲の者達に、島井は心中でツッコンだ。


 スクリーンの映像が切り替わった。

 とある山、朝の光の差し込む洞窟の入り口に、ひたすら足技のひとり稽古を行う男のシルエットが映る。
 繰り出される多彩な足技が、朝靄をかき乱し、貫く。朝靄の中に、風森 巽(かぜもり・たつみ)の体から沸き上がる湯気が混じる。
 テロップと、それを読み上げる風森巽のナレーションが被さった。
「青心蒼空拳――
 自身の歩む道を見つけ、それを極める為に技と心を磨く武術。
その為、王道、覇道、人道、魔道と個々人の目指す物により、雰囲気がガラリと変わる。現状では仮面ツァンダーが使う技として知られており、人を護る為の拳法というイメージが強い」
 


(ツァンダーって誰だ?)
 そんな声がささやかれる中、島井は近くの上級生っぽい人に訊ねてみた。
「すみません。ツァンダーってご存じですか?」
「いや、私は知らないな」


「雷気集中……青心蒼空拳!青天霹靂掌!」
 錬った気を、壁に当てた掌から壁の裏へ通す修練。壁の反対側の面に、飛び散る火花。
「青心蒼空拳!飛燕二段蹴り!」
 右回し蹴りをそのまま蹴り抜き、そのまま左後ろ回し蹴りへと繋げる
 洞窟から出てすぐの広場にいるのは、道着姿のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だった。
 ふたりは眼を合わせると互いに一礼して、身構えた。
 しばしの睨み合いの後、風森巽が攻め込んだ。足技主体の攻撃を数手、リカインに仕掛ける。リカインは防御に専念する。
 攻守が変わった。今度はリカインが足技を仕掛け、風森巽がそれを防御。
 攻守を明確にして、一定時間毎に攻守交代して実戦に近い形で行う「約束組み手」というやつだ。
 その訓練の様子を映しながら、画面に文字が被さった。
 「武術系コミュニティ合同PVプロジェクト/青心蒼空拳」/協力:蒼空歌劇団俳優会」


「ありゃ。対戦つーか普通に組み手が始まるかと思ったんだがな?」
「意外にちゃんと部活風景の紹介になってるね」
「まぁ部活で試し割りとかやらされても困るな」
「つーか約束組み手とかって地味だな」
「地味な鍛錬の積み重ねが大切って事だろ? ストイックで俺は好きだな」
「あー、次始まるぞ」


 スクリーンの映像が切り替わった。

 暗転した画面に、真っ白な文字が浮かび上がった。
 「孫子曰く 『彼れを知りて己を知れば、百戦して殆(あや)うからず』」
 「また孫子曰く 『兵とは詭道なり』」
 「武術もまた兵法の一環であれば、如何に相手を欺くかが勝利への道となる」


「イヤな予感しかしない」
「奇遇だな、俺もだ」


 板敷きの道場で向かい合う、道着姿のリカインと、スク水パーカー姿の医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)
 両者一礼した後、カメラが動いてなぜか房内が画面外に消える。
 すると、画面外から聞こえてくる甘ったるい声。
「うっふーん…なのじゃ」
「あっはーん…なのじゃ」
 房内の媚態を目の当たりにしてるであろうリカインは顔をしかめ、「これどうすればいいんですか」といった眼でカメラの方を見た。
 フレームの外から腕が伸びて、リカインにピコピコハンマーが差し出された。
 受け取ったリカインは無言で画面外に歩いて行き、直後、ピコピコという音が十数回鳴り、その度に「あうっ、あうっ」という悲鳴が聞こえて来た。
 テロップ。
「また孫子曰く 『彼れを知らずして己を知れば、一勝一負す。彼れを知らず己を知らざれば、戦う毎[ごと]に必らず殆うし』 」
「策士策におぼれるべからず」
 画面外のやりとりが聞こえてきた。
「……できるのぅ、そなたは……。わらわの技が全く通用せんとは、相当の使い手と見た」
「技の有用性は認めますが、最低限使う相手は選んでください」
 画面に文字が被さった。「武術系コミュニティ合同PVプロジェクト/「人体の神秘」/協力:蒼空歌劇団俳優会」
 


「訊きたい事があるんじゃが?」
 客席の一隅で、スクリーンを観ていた房内が隣の鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)に訊ねた。
「なんでしょう?」
「これの撮影の時、なんでそなたはピコピコハンマーなんて小道具を持ち込んでおったのじゃ?」
「んー……予想できたから、ですかねぇ?
 あの時リカインさんが欲しがってた小道具は本当は別だったみたいでしたけど」
「それは何じゃ?」
「カメラや三脚運ぶ時に使うジュラルミンケース。角で殴られると痛そうだから気付かない振りしましたけれど」
「わらわは助けられたのか。礼を言わねばならんのう?」
「いえいえ。大した事はしていませんよ」

「今回の、武術系コミュニティ合同PVプロジェクトの発起人の、マイト・オーバーウェルムさんにお話を伺います。
 凄い迫力ですね」
「おう。まあ、ざっとこんなもんよ」
「拳圧で炎を吹き飛ばしたり、分厚い氷壁を打ち砕くというのは、これはコミュニティに入れば誰にでもできる、というものなのでしょうか?」
「そうとは限らねぇ。入った後もちゃんと鍛えなきゃまともなパンチも出せやしないし、入らなくてもちゃんと鍛えていれば、誰でもあの程度の事はできるようになるさ。パラミタじゃあ、な」
「なるほど。それでは、武術系コミュニティの存在意義というのは?」
「孤高の鍛錬に意義はあるが、同時に限界も危うさもある。
 技と力を鍛える事だけにとらわれてたら、生まれるのはただの暴れん坊でしかねぇ。そいつを振るう心と知恵も磨いていくには、人とのつながりを保っていなくちゃいけねぇさ。
 イルミンスール武術部、青心蒼空拳、……あと、多分『人体の神秘』は、力と技と、そして知恵と心も鍛える所だ。
 本当の意味で強くなりたいと思うヤツは、いつでも声をかけてくれ。歓迎するぜ」
(一番最後のの前って、間があったよな)
(ああ、間違いない)
(無理してないかな、あの発起人?)