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東西対抗『逃亡なう』

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東西対抗『逃亡なう』

リアクション

「制限時間も少なくなってきたな……」
 受信したメールを携帯で確認した高円寺 海(こうえんじ・かい)が、ついでにディスプレイに表示されている時間を見て呟いた。
「そうですね、急ぎましょう!」
 海と合流して一緒に行動している杜守 柚(ともり・ゆず)は、ぎゅっと胸の前で握り拳を作って答える。
「あと二つなら、力を合わせればきっと大丈夫です」
 そういう柚に、海はそうだな、と生返事を返す。先ほどから視線がスイッチを探すフリで泳いでいるのは、女生徒と話すのが苦手だからだろう。
「よし、行こう!」
 柚のパートナーの杜守 三月(ともり・みつき)が軽いステップで物影から躍り出る。それに二人も続き、三人は持ち前の健脚を活かして東エリアをくまなく探していく。
 が。
「あっ!」
 三月が、遠くにオニの姿を見付けて声を上げた。
 それに気付いたオニの方も、三人の方へ駆け寄ってくる。慌てて柚たち三人は踵を返して走り出した。桜の木々の間をすり抜け、時に三手に分かれ、また合流し、なんとかオニを攪乱することに成功した。
「はぁ……びっくりしました……」
「時間をロスしちゃったね……早くスイッチ探さないと!」
「……あ……あれ、じゃないか?」
 海が、花壇を指さした。
 そこには確かに、花びらの影に隠れて黄色い物体が見える。
 喜び勇んで駆け寄る三人。だが。

「……!」

 ひょっこり、木の陰からオニが姿を現した。
 咄嗟のことに三人は思わずその場で硬直する。が、真っ先に動いたのは三月だった。
 きっ、と瞳に力を込めてオニを睨み付ける。
 鬼眼の力に圧倒されて、オニがその場に足を止めた。と、同時に海が走る。
 ぴんぽーん、と間抜けな音が鳴ったのを確認し、海はその場を離脱する。三月と柚もまた、咄嗟に海とは反対の方向へ向けて走り出した。

【よっつめのスイッチが押されました。残り一つ】

「あと一つか……」
 メールを受信したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、むぅ、と口元へ手を遣った。残り時間は少ない。
「これだけ探して無い……ってことは、よっぽど解りにくい所に隠しているのかしら」
 セレンフィリティのパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も、自らの携帯電話を開いて悩んでいる。
 試練開始と同時から東エリアを探しているのだが、スイッチらしいものは見ていない。
「……もしかしたら、逆なのかも……」
「逆?」
「そうよ、見付けにくい所に隠すんじゃないか、っていう先入観があるから、逆に単純な隠し場所を見落としてるのかも!」
 自分のひらめきを口に出すことでより一層確信を持ったのか、セレンフィリティはセレアナの手を取ってぶんぶんと振る。
「よし、じゃあ目立つところを探してみましょう」
 本当かしら、とは思いつつも、視点の転換は有効と考えたのか、セレアナも頷く。そして二人は再び走り出した。
 くずかごの中などのいかにも隠しやすそうな場所は、考えてみればあまりチェックしていない。そんな場所を、いくつかアタリを付けて回る。
 そんな二人の背後から、音もなく忍び寄る影があった。
 黒いTシャツにサングラス姿のオニだ。が、スイッチを探すことに熱中している二人は気付かない。
 オニが気配を断って、二人との距離を詰める。そこへ。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 
 突如響いたのは、その様子を目撃した椎名 真(しいな・まこと)の声だ。
 オニと、ついでにセレンフィリティとセレアナ、三人の目がそちらへ向く。すると真は、「こっちだこっち!」とオニに向けて手を振る。
 挑発を受けたオニは、踵を返して真を追い始める。
 真は、露店の隙間を縫うようにして逃げ出す。が、時々足の速度を緩め、オニが真を見失わないように留意する。
 オニを引きつけてくれたのだと理解したセレンフィリティとセレアナは、顔を見合わせると急いでスイッチの捜索に戻る。
 制限時間はあと一分程度だ。二人の顔に焦りが浮かぶ。
 と、その時。
「あった!」
 セレンフィリティが叫ぶ。その視線の先には、露店の射的屋。その景品の一つに、黄色と黒の縞模様がちょん、と鎮座していた。

「……あーあ、押されちゃったー」
 セレンフィリティとセレアナが発見したスイッチをぽち、と押した瞬間。
 その近くに潜んでいたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、自分を閉じ込めている檻を模した入れ物の鉄格子(ただし材質は段ボール)を握りしめてがくり、と肩を落とした。
 あのスイッチが押されなければ、時間と同時に解放されてオニ役を務める予定で、オニの証のサングラスもしっかり装着していたのだが。
「まあ、そんなこともあるよね」
 ちぇー、と残念そうにしながらも、ミルディアはふぁーあ、と大きなあくびをする。そしてそのまま、ぐぅ、と寝息を立て始めた。



【全てのスイッチが押されました。試練1は成功しました。】