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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

リアクション

 女の子がアンネリーゼ達と遊んでいる姿を見ながら、笹野 朔夜(ささの・さくや)は彼女らが帰ってきた時のための準備を進めていた。
「本当にお借りしてもよろしいのですか?」
外で遊ぶ生徒達が汚れて帰ってくることを予想した朔夜は、着替えの洋服を運びこむことを許可してもらおうと、屋敷の主人に相談した。
 だが、屋敷の主人は故人であるデザイナーが作った服と、風呂場を貸し出してくれると言ってくれたのだった。
「ありがとうございます! 後日、再度お伺いした際にきちんと洗濯をしてお返しさせていただきます!」
 深々と頭を下げて感謝を述べる朔夜に屋敷の主人は、娘の相手を頼んでいるのだから気にしなくていいと言っていた。
 屋敷の主人が立ち去った後、朔夜は庭に向かった。
「あ、朔夜様。クッキーの準備ができましたわ」
 庭に出るとセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が日よけ傘の下に並べられた白いテーブルに、作りたてのクッキーを運んでいる所だった。
 その向こうでは女の子とミルディアとアンネリーゼが楽しそうに走り回っている。
「ありがとうございます。それで飲み物の方はどうですか?」
「飲み物でしたら、先ほど友見様とプレシア様が買出しから帰ってこられましたわ」
「わかりました」
 朔夜は胸から懐中時計を取り出して時間を確認した。
「すいません。皆さんが休憩に入りましたら、僕は頼んでおいたケーキを取りに行ってきます。その間、皆さんのお世話を頼んでもよろしいでしょうか?」
「はい。かしこまりましたわ」
 セシルは迷いなくすんなり引き受けてくれた。
 朔夜とセシルがこの後のスケジュールを確認していると五十嵐 理沙(いがらし・りさ)が向かってきた
「あ、君達。ちょっといいかな」
「どうかなさいましたか、理沙様?」
「あぁ、屋敷の主人に聞きたいことがあってね」
「そうですか。この屋敷の主人でしたら、先ほどまで僕とそこ廊下でお話をなさっていましたよ」
「そうか! ありがとう!」
 理沙は感謝を述べて足早に立ち去っていく。
 その背中を見送り、朔夜とセシルは不思議そうに顔を見合わせていた。

「あ、いた。すいませ〜ん」
 廊下を走る理沙はどうにか屋敷の主人に追いついた。
「あ、あの、聞きたいことがあるんですが、向こうの雑木林には何かあるんですか!」
 理沙の抽象的な質問に屋敷の主人はどう答えていいかわからない様子だった。
「えっと、例えば湖とか花畑とか、もっと地味な感じでもいいんですけど……」
 屋敷の主人は唸りを上げて考えていた。それから雑木林で木苺が今ちょうど収穫時なことを思い出し、教えてくれた。
「木苺……ありがとうございます!」
 亡くなったお婆様と女の子が昔よく一緒に摘み行ったという木苺。
 理沙は喜ぶ女の子の顔を想像して、待ち遠しくてたまらなかった。


 交代の時間になり、帰ってきた女の子と生徒達は朔夜とセシルから冷たい飲み物を受け取り、喉を潤した。
 飲み終わったのを見計らって朔夜がアンネリーゼに話しかける。
「アンネリーゼさん。屋敷の主人がお洋服とお風呂場を貸してくださいました。まずは身体を洗ってからゆっくりご休憩なさってくださいね」
 アンネリーゼは朔夜の後ろで、ハンガーにかかった大量の服に目を輝かせた。
「わー、この服かわいいですわ。着ていいのですの?」
「はい。どれでも好きなのを借りていいそ――」
「ねぇ!」
 嬉しそうにするアンネリーゼを見守っていた朔夜の袖を目を輝かせるミルディアが掴んだ。
「お風呂って大きいの!?」
「え、ええ。おそらくは……」
「わぁぁ、やったぁ! 行こう、アンネリーゼさん! 一緒に泳ごうよ!」
「え、あ、か、かしこまりまし――」
 返事を最後まで聞かず、アンネリーゼはミルディアに手を引かれて屋敷の中へと消えていった。
「ちょ、お風呂は泳ぐ所ではありませんよ。あぁ、もう着替えも持っていかないで……」
 朔夜はアンネリーゼとミルディアに似合そうな服を素早く選ぶ。
「すいません。後はお願いします」
「大丈夫ですよ」
 朔夜はセシルに数回頭を下げた後、アンネリーゼとミルディアを追って屋敷の中へ走って行った。

 かくれんぼを終えた生徒達が風呂場に向かう中。女の子はジュースとお菓子でお腹を満たすと、休む間もなくおままごとを始めることにした。
「任せろ。俺がかっこいい父さん役を全力でやりきってみせるぜ!」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は女の子が望む父親を役をやりきろうと熱が入っていた。
 すると、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)が母親をやるべく、意を決して立候補しようとする。
「あ、あの、ではわたくしはお母さ――」
 だが、女の子が母親役にアシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)を選んでしまう。
「私がお母さん役ですか? いいですよ」
 女の子を喜ばすことが目的だからとセレアは大人しく引き下がる。 
「セレアさん、そんな落ち込まないでください。そのうちチャンスがございますよ」
 肩を落とすセレアに紅守 友見(くれす・ともみ)が優しく笑いかけながら慰めた。
 そこへ生徒達にお菓子や飲み物を振る舞っていたセシルから声がかかる。
「友見様、すいませんがこちらを手伝っていただけますか?」
「あ、はい。……セレアさん、本当に元気出してくださいね」
 セシルに急かされて友見は駆け足で去って行った。
「それでどういった話にするんだ? え、なになに……」
 どんなままごとをするのか尋ねると、女の子は演じて欲しい内容があると言って、詳しく説明してくれた。
「はぁ? なんだよ、それ」
 勇刃は内容を聞いて驚きを隠せずにいた。
 女の子の話したシナリオは「最近夫の心が離れ始めたと感じる妻がコスプレをして気を引こうとする」というなんとも怪しげなものだった。
「色んな服を着るの楽しみだわ」
 アシュリーは割と乗り気だった。
 勇刃はそれで女の子が喜ぶのならと、頑張って演じることにした。
 するとアシュリーのパートナー神無月 桔夜(かんなづき・きつや)が、勇刃の肩を掴みドスを聞かせた声で忠告する。
「勇刃さん。あまりに彼女が魅力的だからって、本気で惚れるなよ。ましてや手なんかだしたら……」
「あ、安心しろそんなことならないから」
 勇刃は桔夜の手を振り払い、用意された椅子に腰を下ろす。
 そのまま待っていると、アシュリーが色々なコスチュームに着替えては勇刃の前までやってきてポーズを決めてみせてきた。
 ある時は軍服を模した服装で、のほほんとした普段とは違った印象を感じさせる服を着てきた。
「どうかな?」
「悪くないと思うぜ」
 またある時は駅員の格好をしながら、「お客さん、終点ですよ」とふざけてみせた。
「これは?」
「いい、と思う」
 さらにはピンクのフリルが大量についた可愛らしい衣装で、スカートの中が見えそうな勢いで回ってみせてくれた。
「かわいい〜?」
「うん、まぁ……」
 すると、アシュリーが頬を膨らませて顔を近づけてきた。
「ねぇ、なんだか、面白くなさそうだよ〜。見ててつまんないかなぁ〜?」
「そ、そんなことないけど……」
 確かに勇刃はアシュリーをあまり見ないようにして、適当で曖昧な返事をしていた。
 勇刃はチラリと後ろを振り返る。
「……」
「……」
 少し離れた場所から、桔夜が殺気に満ちた目で、セレアが悲しげな目で勇刃を見つめていた。
「い、いいから、次の着替えてきなよ」
「……うん。わかったよぉ〜。次はとっておきだからぁねぇー」
 眠そうにあくびを上げるアシュリーを着替えに行かせ、勇刃は項垂れた。
「なんだこのいじめは……」
 女の子はそんな勇刃を見て楽しそうに笑っている。
 褒めれば桔夜から恨みをかい、セレアが悲しむ。かといって、貶せばアシュリーが悲しみ、やっぱり桔夜から恨みをかいそうだ。
「どっちもだめじゃんか」
 勇刃が沈み込んでいると、アシュリーが時間をかけてから戻ってきた。
「お待たせ―。どうかなぁ〜。似合ってるぅ〜」
「おっ……」
 顔を上げた勇刃の前に立っていたのは純白のウエディングドレスに身を包んだアシュリーだった。
 思わず見惚れてしまった勇刃は我に返り、慌てて褒める。
「えっとすごく似合――って、おおい!」
 すると、唐突にアシュリーが倒れこみ、間一髪で勇刃は支える。
 アシュリーは目を閉じ、脱力したように勇刃に身体を預けている。
 周りに生徒と女の子が集まってくる。
「寝てるね」
 プレシア・アーグオリス(ぷれしあ・あーぐおりす)に言われ、生徒と女の子は耳を澄ました。微かに寝息が聞こえた。
「どうしますか? お母さん役が寝てしまいましたけど」
 このままではままごとが続けられないと、プレシアは傍にいた女の子にどうするか尋ねてみた。
 すると女の子は腕を組んで考えた後、ひらめいた今後の展開を話した。
「魔女の呪い?」
 プレシアが首を傾げる。
 女の子は、アシュリーは魔女の呪いで眠ってしまい、呪いを解くには愛する者の口づけが必要なのだと説明した。
「キ、キス!? それは俺がするのか!?」
 動揺する勇刃に桔夜とセレアがそれぞれの想いのこもった視線を向けてくる。
「勇刃さん、約束したよな」
「勇刃様……」
「し、しないから!」
 他の案にしようと提案する勇刃だったが、女の子は承諾してくれず、逆に全力でやりきると約束したと責められる。
 悩みに悩んだ勇刃は決断した。
「俺はお父さん、お父さん、お父さん……よし!」
 自己暗示で父親役を演じることに全力を注ぐ勇刃はアシュリーの肩を掴む。
 周囲から上がる悲鳴にも似た声を遮断して、ゆっくりと顔を近づける。
 高鳴る心臓。緊張から流れ出す汗。
 目覚めるなら早くしてくれと願う勇刃。だがその気配はない。
 諦めて、目を閉じようとする勇刃。その時、眼前に光が走った。 
「動けば死ぬぞ」
 桔夜の光剣が勇刃とアシュリーの間の空気を切り裂いていた。
「大人しく手を離せ、今なら悪戯ということで半殺しで許してやる」
 殺気全開で許す気なんてこれっぽちも感じられない桔夜の口ぶり。
「なんだよ。せっかく、人が苦渋の選択をしたのに……」
 勇刃の中で何かが切れた。
「上出来だ。やれるもんならやってみろ!」
 勇刃は後ろ大きく跳躍すると木刀のフロンティアを構えた。
 勇刃と桔夜の間に火花が散る。
「わ、私も入るんですか? ……わかりました。役を演じきってみせます」
 困った様子で見ていたプレシアは女の子に指示をうけ、二人の間に割ってその言葉を口にする。
「お兄ちゃん、やめて! お兄ちゃんには私がいるでしょ。あの二人で肌身を寄せ合った夏の日のことを思い出して!」
 意味不明なプレシアの発言に噴き出す勇刃。
「ちょ、何を……」
「ちぃ、勇刃さん。やはり、あんたはケダモノだった」
「違う。そんなことなかったっての!」
「お兄ちゃん!」
「話をややこしくするなぁぁぁぁ」
 ままごとの舞台は泥沼となった。
「あ、うぅ。勇刃様〜。わたくしはどしたらいいのですか……」
 完全に話に置いて行かれてしまったセレア。
 すると、そこへフードを被った怪しげな人物が話しかけてきた。
「ちょっと、そこのお嬢さん」
「え?」
「いい方法を教えておげましょうか」
 後ずさるセレアに近づく怪しい人物。
 周囲はそれに気づいていなかった。

「成敗してくれる」
「お兄ちゃん、私のために勝って」
「お前ら勝手すぎるぞ!」
 勇刃の言葉を無視して話を進めようとする桔夜とプレシア。
 すでに収集のつけようがなくなってきた。
 すると、甘い熱を帯びた声が聞こえてきた。
「あ、うぅ、んぅ、んあぅ、だ、めぇ……」
 三人は動きを止め声がした方を振り返る。
 そこには身体を縛られ、地面に倒れこむセレアの姿があった。
「ななな、なにやってるんだ、セレア!?」
 服に食い込む縄。勇刃は耳まで真っ赤にして狼狽えた。
「セレア姫様。どしたんですかその恰好!?」
「あ、あの、これ、はぁ、その……」
 プレシアがセレアをきつく縛る縄を解こうと奮闘する。
 すると、二人の前に先ほどフードを被った人物が現れた。そしてフードを外すち現れたのはアマゾンの顔をだった。
「どうですか、皆の注目を一身に浴びて――(バギッギギギイイ!!)
 アマゾンの発言を万願が屋敷の主人から拝借した電流鞭で叩いて制した。
「またか!? 皆、いい加減飽きてるっての!!」
 アマゾンがまたしても万願に説教を受け始めている、友見の声が聞えてきた。
「皆さん、そろそろ休憩にしませんか?」
 その声に女の子は一目散に駆けて行った。
 万願は逃げようとしたアマゾンを捕まえ説教を続ける。
 勇刃はセレアの縄を顔を赤くしたまま解きにかかる。
「おい」
 声かけられ、勇刃が振り返ると、アシュリーをお姫様抱っこした桔夜が立っていた。
「帰るのか?」
「あぁ、もう僕たちの仕事は終わったからな。それと、勇刃さん、今回は勘弁してやるが、次はないから」
「……いいぜ。いつでも相手になってやるよ」
 桔夜は鼻で笑ってその場を後にする。
「ううん……」
 桔夜は自分の手の中で、ウエディングドレスのまま気持ちよさそうに眠るアシュリーを優しく見つめた。
「お休み。僕の花嫁」
 桔夜は誰もいないことを確かめ、アシュリーの額にそっと口づけした。