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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

リアクション

 レバーを引くことによって現れたたくさんの隠し部屋。
 埃くさい廃墟の中で生徒達は二チームに別れて、一つ一つ部屋を捜索していた。
 その一方のグループに参加していたレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、先ほどから何度も周囲を警戒していた。
「ねぇ、そんなにさっきの音が気になるの?」
「それもあるけどねぇ……」
 ミスティが心配そうにレティシアを見ていた。
 少し前に聞こえてきたガラスの割れる音。それに外が騒がしいのも気になる。
「ロアさん、ちょっとミスティさんのことを頼んでもいいかな?」
「あぁ、いいぜ」
 レティシアの頼みに≪ご奉仕の機晶石≫以外にも何かお宝がないかと部屋を捜索していたロアは、適当に返事をした。
 心配だったが、すぐ戻ってくるつもりだったレティシアは外の様子を見てくることにした。
「じゃあ、ちょっと見てくるねぇ」
「気を付けてね」
「はい」
 レティシアは捜索していた三階の部屋の窓枠に足を駆けると、そこから廃墟の屋根に宮殿用飛行翼を使って飛んだ。
 レティシアは廃墟の屋根から周辺の様子を見て、驚いた。
「これは大変だ……」
 廃墟の四方から怒声が聞こえ、激しい攻防の激音が響いていた。
 木々の陰から時折見える≪首なし兵≫。レティシアは瞬時にこの騒乱がそれらが攻めてきたことが原因だと理解した。
 ――その時、ミスティの叫び声が聞こえてきた。
「ミスティさん!?」
 レティシアは慌てて三階の部屋に戻った。
「ちぃ、こいつらっ!」
 弓を装備したロアは≪首なし兵≫と狭い室内で対峙し、苦戦していた。
 レティシアはすぐさま援護に入る。
「ロアさん大丈夫?」
「おせぇぞ! 危うくミンチになる所だったぜ!」
 ロアは文句を言いながらも安心した様子だった。
 協力して室内の≪首なし兵≫を一掃すると、ミスティがレティシアに問いかける。
「レティシアさん、一体何が起きてるの?」
「う〜ん、どうやら囲まれたみたいですねぇ」
「囲まれたって、囮の奴らは何してやがる!」
「数が多すぎるんですよ」
 自分の手の平に拳を叩きつけて舌打ちするロアに、レティシアは冷静に返した。
「他の奴らが心配だ。合流するぞ」
 ロアが扉に向かって歩き出すと、またしても≪首なし兵≫が部屋に入ってこようとする。
「またか!」
 いい加減にしてほしいと三人が思っていると、≪首なし兵≫の胴体を横から数回、鞭が薙ぎ払う。
「やぁ、無事かい?」
「ルビーさん!」
 ≪首なし兵≫が動かなくなったのを確認してイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)が部屋の前に現れた。
 よく見ると、片方の手に中身の入ったテーカップが握られていた。
「おい、サボってやがったな」
「いいじゃないか。【ティータイム】ぐらい。心の休息は誰にでも必要だよ」
「ったく」
 ロアはイルベルリに文句を言いたかったが、助けられた手前やめておいた。
 四人は他の生徒を探して、思いのほか広い廃墟を声を上げながら走った。
「あいつら、どこに……ゲッ!?」
 だが、隠し部屋の存在でどの辺りにいるのかさっぱりわからない。そのため、彼らは他の生徒を見つけ出すより、≪首なし兵≫と狭い廊下で対峙する方が早かった。
「囲まれたわ!」
 振り返ったミスティは反対側からもやってくる≪首なし兵≫の集団を目撃し、後ずさった。
 彼らは三階の廊下で前も後ろも≪首なし兵≫でふさがれ、両サイドは壁と外へ通じる窓だけ。
 数は圧倒的に不利だ。まともに戦っては勝ち目がない。
「……皆さんは先に脱出してください」
 そう言ったのはレティシアだった。
「君は逃げないのですか?」
「私は残って他の方々を逃がします」
「できますか?」
「ええ。私、これでも忍ですからねぇ。それに一人の方が動きやすいですよ」
 イルベルリの問いかけにレティシアは笑って応えた。
 レティシア以外の三人は顔を見合わせた。暫くしてロアが結論をだす。
「わかった。……無理はするなよ」
「はい」
「じゃあ、いっくぜぇ――!!」
 ロアとイルベルリは小型飛空艇ヘリファルテで、ミスティはレティ・インジェクターで窓から外へと飛び出した。
 三人は地面に無事着地すると、レティシアに手を振り、攻めてくる≪首なし兵≫の迎撃に向かった。
「さて……行きましょうか」
 ジリジリと近づいてくる≪首なし兵≫。
 レティシアは駆け出し、≪首なし兵≫と天井のわずかな隙間を壁伝いに走り抜けた。


 その頃、もう一方の捜索していた生徒達も同じように≪首なし兵≫に襲われていた。
「また、騙しだ……」
 会議室くらいある隠し部屋で貴仁は仕掛けの施された半透明な扉を解除するが、それが元々何も発動しない物だとわかり落胆した。
 そんな仕掛けがされた扉がこれまで数枚続いていた。
 先には同じような扉がいくつもある。どれが本物の罠かわからず、気を抜くことが許されない。
 すると、部屋の出入り口付近で戦うリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が疲労の色を滲ませながら問いかけてくる。
「まだですの!?」
「ちょっと待って、後もう少しだから……」
「そうやって後五分とか、十分とか引き延ばしていく気ではないでしょうね」
「うんうん……」
 リリィの言葉に常闇 夜月(とこやみ・よづき)が同意し、さらに追い打ちをかけてくる。
「その通り、朝はいつも起きるのが面倒だってなかなか出てこないのでございます」
「あんまり人の私生活を暴露しないでくれますか」
 貴仁は次の仕掛けを解除していた手を止め、言い返した。
「そんなことどうでもいいじゃろう。それより、今は手を動かし、一刻も早くこの場から脱出するのが得策じゃろうて」
「同感だね。で、どんな状況なんだよ」
 額の汗を滲ませながら戦う医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の言葉に同意したマリィは貴仁に近づき、進展状況を確認した。
「うん。実は……」
 貴仁は≪ご奉仕の機晶石≫がありそうな宝箱の所までいくつもの仕掛けが施された扉があること。そして、今まで解除したそれら仕掛けは全て偽物で、まだ沢山仕掛けが残っていることを説明した。
 するとマリィがきっぱりと言った。
「なら、残りもダミーだ」
「え? そうとは限らないんじゃ……」
「じゃあ、どうするよ。一個一個解除するのか? そんなことしてたらあいつらにやられてまうっての!?」
 マリィは後方の≪首なし兵≫と戦う生徒達を指さした。
 確かにこのままでは危険だと感じていた貴仁は何も言い返せなかった。
「このっ!」
 マリィは緊張した面持ちで仕掛けが施された扉に手をかけ、開く。
 ――何も起こらなかった。
 そして次から次へと開けていく。そして、あっさり宝箱を取ってきた。
 ポカンとした表情をする貴仁。
「取れた……ほら、やっぱりフェイクだった」
 マリィは緊張の糸が解けてふらつき、リリィが脇から支えた。
「ありがと」
「気にしないでください。それより中身を確かめた方がいいのでは?」
「そうだね」
 マリィは宝箱に仕掛けがされていないことを確認してゆっくりと開いた。
 ――思わず、歓声が漏れた。
「……すごっ」
 中には淡い光を放つ丸く不思議な球が入っていた。ガラスのような半透明な球体の中に、いくつものゼンマイが脈動するように動き続けている。
「そのままで持ち運ぶより箱ごと運んだ方が安全そうだね。私が抱えてもっていくよ」
 鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)が宝箱を持ち、生徒達は隠し部屋を後にした。
 だが予想以上に廃墟に入り込んだ≪首なし兵≫の数は多く、退路を探して逃げ回っているうちに、気づけば壁際まで追い込まれてしまった。
「そっかくここまで来たのに……」
 白羽は苦虫を噛みつぶしたような表情して、宝箱を手放さぬようにしっかりと抱きしめた。
 後ろには窓があり、飛び降りれば逃げられるかもしれない。だが、ここは三階。どの程度まで≪ご奉仕の機晶石≫が衝撃に耐えられるかわからない以上、慎重に行動すべきだ。
 生徒達は≪首なし兵≫に追い詰められながらもギリギリで耐えていた。
 すると、≪首なし兵≫の行列が続く廊下の上をかけてくるレティシアを夜月が発見した。
「あれ……レティシア様!?」
「ここにいたんだねぇ。その宝箱に≪ご奉仕の機晶石≫が入ってるの?」
「そうです。でも、完全に退路を塞がれてしまって……」
 レティシアは周囲の状況を確認する。
「……わかりました。ちょっと待ってて」
 そしてレティシアは今度は窓から外へ飛び出していった。
 颯爽と現れ、瞬く間に消えていったレティシア。
 この状況を切り抜ける手立てのない生徒達はレティシアを信じて耐えるしかなかった。

 少しずつより壁際に追い込まれる生徒達。
「もう、限界だよ!」
「泣き言を言わないでください! きっとレティシアさんがどうにかしてくれますわ!」
 マリィに叱咤激励するリリィ。それは自分への励ましでもあった。
 その時、地響きと共に生徒達の目の前の壁が崩壊し、石の手が現れた。
「な、なにごとじゃ!?」
「乗って!」
 戸惑う生徒達に壁に空いた穴からレティシアが呼びかける。
 壁を突き破った石の手はシュバルツヴァルドのものだった。
 急いでシュバルツヴァルドの手に飛び乗る生徒達。
 襲いかかる≪首なし兵≫を振り切り、生徒は廃墟から外へ。
「た、助かった……」
 貴仁は久しぶりに浴びた陽の光に目を細め、その場に腰を下ろした。
 すると、生徒達の耳にガコンとレバーが落ちる音がした。
 悪寒が引いていき、≪首なしの豪傑騎士≫も≪首なし兵≫も液状に解け出して、復活することはなかった。
 ――任務完了。