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紅蓮のコウセキ

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紅蓮のコウセキ

リアクション

「くそっ、隣町を仕切ってる隊に援護を……」
「お待ちなさい」
 路地に駆け込んで逃げようとした恐竜騎士団員の前に立ち塞がったのは――鎧だった。
 仮面や兜でしっかり頭部を覆っており、ちらりとも中身は見えない。
「正義と秩序を守る真の風紀委員(の部下)、仮面の騎士『マスクドランサー』ここに参上!!」
 槍を突出し、ポーズを決めたその鎧から発せられた声は、女性のものだ。
「どけーっ」
「く……っ」
 突進してくる恐竜を、鎧は英雄の盾で受け止める。
「風紀委員とは、皆のために行動すること……っ、他人に迷惑かけてはいけません!」
 突進を耐えた後、鎧――を纏ったロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、恐竜の片方の足を狙って、槍を繰り出していく。
 まずはそうして素早さを、動きを奪い。
「悔い改めるのなら許しましょう。さもなければ……!」
 ロザリンドは従恐竜騎士に向かい、槍を振るう。
「力で取り締まるのが、ここの風紀だ! 俺が勝てば俺が正義!」
 従恐竜騎士も、ロザリンドに槍を繰り出した。
「あなたに勝てば私が正義というわけですね。その考えに従うつもりはありませんが……!」
 繰り出された攻撃を、盾で流し、利き腕に持つ槍でロザリンドは相手の肩を貫いた。
 そして、恐竜から落ちた騎士団員の顔面に武器を突きつける。
「私の信じる風紀に従っていただきます」
「くっ、鎧のクセに、色気もねぇ鉄塊のクセに……!」
 騎士団員は悔しげに暴言を吐きながらも降参した。
「ふふ……」
 ロザリンドはもう少し折檻すべきかとちょっと思った。

「ロザリー、お疲れさま」
 ロザリンドが優しく(?)引き摺って従恐竜騎士を皆の元に連れて行った時には、他の騎士団員も全て始末……もとい、折檻が完了していた。
 パートナーのテレサもまだ変装をしたまま。ロザリンドも鎧姿のままだった。
「とりあえず。……住民には仮装パレードの練習をしていたとでも説明しておくかね」
 その場に残っている面々を見回して、風紀委員の一人である唯斗が言った。
 魔法少女にミイラに鎧に、プロレスラーに……。まさにその場は、仮装大会場と化していた。
 ともあれ。敵対した風紀委員と舎弟(パートナー)の人数が多く、工房へ乗り込んだのも風紀委員本人であることから、上への報告はそう難しくなさそうだ。選定神バージェスはより強い者を好むから。

「遅くなってすみません。意外も意外。あっさりOKでしたよ」
 交渉を終えて戻ってきた東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は、間一髪スーパーパンツマシン1号こと、国頭 武尊(くにがみ・たける)を助け出していた。
「けど、結局楯突いた奴はいたわけだ」
「従恐竜騎士については、関与しないとお話ししましたしね。少なくても私と、私と共に交渉に向かった者達は一切手を出されたり、拘束されたりすることはありませんでしたよ」
「まあ、奴はパラ実の講師だしな。けど予想外だったのは、オレら以外の風紀委員で、ここを防衛しようとした奴がいなかったってことだ。逆に攻めてくるとはな」
「エリュシオンの恐竜騎士団員ではなく、パラ実の風紀委員って考えの方が多いということでしょう。あ、そうそう」
 雄軒は分校を離れる前に盗み聞きした話を、一応武尊に報告しておくことにする。
「分校生から、国頭さんを若葉分校長にって話がでていましたよ」
「オレが……若葉分校の分校長?」
 その話に、武尊は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「オレは……いや、なんでもない、さ」
 ちらりと工房を振り返った後、身を隠しながら武尊と雄軒、そして彼らのパートナー達はキマクの方へと去っていった。
 尚、工房を含むこの辺りは、隊長を倒したアスカが権利を主張し、他の風紀委員達と協力をして治安維持に努めると宣言した。
 風紀委員達やどこぞの女王が回収した盗品は、無事、持ち主の手に戻された。

「こうなることも予測して、材料の手配も済んでますから大丈夫ですよ」
 工房ではルークが店主と共に建物の修繕に努めていた。
 ルークは軍属ではあるが、戦闘を得意としない。
 今回はもめ事には干渉せずに、店主、店員の避難を手伝ったり、工具や依頼品の保護に努めた。
「分かっていて止められなかった自分の無力さも情けないですけれどね……」
 苦笑しつつ、ルークは板を打ち付けて、爆弾で吹き飛ばされた壁の応急処置を行う。
「それと、安心したこともあります」
 横暴なあの恐竜騎士団の小隊が治めていた頃の日々は、多くの人にとって、不幸せな日常だったから。
「日常がより良い形で戻って来たことです」
 工房に集まってくる依頼人や、契約者達の姿を時々微笑ましく眺めながら、ルークは作業を続けていく。

「無茶しすぎだよー。はい、お大事にっ」
 工房の外の庭で、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は怪我人達の治療を行っていた。
 魔法は一般人を優先に。契約者は、立場関係なく治療を施していく。
 それから、集められていく恐竜騎士団員にも。
「あ……っ。な、なんてひどい怪我……。もう少しだけ我慢しててね」
 運び込まれてきたボロ雑巾状態の恐竜騎士団員の無残な姿に、リアトリスは胸を痛めながら道具で精神力を回復させて、歴戦の回復術で癒していく。
 しかし外傷を治した後も、その従恐竜騎士は酷くうなされていた……。
「凄まじい戦いだったんだね。他の皆さんも、こんなに怪我をしていて……。風紀委員同士の戦いって恐ろしいね」
 これが正規の恐竜騎士と契約者の戦いだったのなら、街や一般人にももっと沢山の被害が出ていただろう。
 そんなことを考えて、悲しくなりながらリアトリスは怪我人を励まし、スキルを駆使して癒していく。
「処分しちゃったものもあるのねぇ、ふむふむ〜」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は、捕縛されている従恐竜騎士達に、吸精幻夜を用いて情報を集めていく。
 若葉分校生から奪った物は、既に売り払ってしまったようだ。
 バージェスに渡してさえいない。
「それにしてもぉ、本当に風紀委員同士の戦いだったわねぇ〜。上への報告書、纏めておくわねぇ」
 もうすぐ、一般の若葉分校生が到着するはずだ。
 鉱石が余りそうなら、それも一緒に上納しようとオリヴィアは考える。

「ヒャッハァ〜! どいつもこいつも時代遅れだぜ。今最新は文化だぜ。文化を極めりゃドラゴンもグレーターになるんだぜ」
 倒された恐竜騎士団員の元に、本が降ってきた。
「……なんだこれは?」
「面白いらしいよ〜?」
 にこおっと、イリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)が本を拾い上げて、縛られている団員にまずは表紙を見せる。
 表紙には『波羅蜜多実業空京大分校卑通勝法』と書かれている。著者の名は、南 鮪(みなみ・まぐろ)。本を配って回っている人物だ。
「ゴブリンは楽しんでるらしいよ?」
 イリィの面倒を見る為に付き添っているニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は投げやり気味にそう言う。
 イリィにもしものことがあったら大変なので、近づきすぎないよう後ろから押さえながら話をしていく。
「はあ? ゴブリン?」
「ボクでも読めるかもぉ〜?」
 イリィは本を開いて、従龍騎士に見せていく。
「ん? これは〜。ニニちゃん、あとおねがい〜」
「あ、こら……」
 もう一冊の本、波羅蜜多博愛性書TENTOU本に付属されているものに気付くと、イリィは突然本をニニに任せて、自分は鮪の方へとぱたぱた飛んで行く。
「ええと、これを読まないと若葉分校の書記に負けた扱いされるらしいよ?」
 ニニは開いた本を地面に置いた後、他の恐竜騎士にも本を見せていく。
「若葉分校? しらねぇな……ってああ、なんか今朝そんな分校名を言っている奴らがいたような」
「小さな分校だよ。分校生の力も大したことなかったでしょ? そんな分校の小さい書記に劣る存在ってパラ実生に思われるみたい」
 その書記はパラ実から空京大学に進学をした小物なのだと、弱小生物なのだとニニは説明していく。
 そんなヤツでも空京大学に合格することが出来た、その必勝法が書かれている本だと。
「何でもこれを理解したらパラミタで一番賢くなれるんだって?」
「ん……」
 彼女の言葉に、恐竜騎士団員が本に興味を示していく。
「かわいい〜。かわいー」
「うおっ!?」
 子供がはしゃぐ声と、大人達の微妙な声が耳に入り、恐竜騎士団員が声の方に目を向ける。
「ちょうカッコイイー」
 キャッキャッ喜び、はしゃいでいるのはイリィだ。
「う、うわわわわわわわわ。な、何してんのよ」
 ニニは焦ってイリィを捕縛しにいく。
「な、なんて真似しやがる!」
「くぅ、これは隠してんのに、なんか辱めだ……ッ」
 恐竜騎士団員は赤くなって怒ったり、困惑したり。
「パンツ、かわいいー。パンツりゅう、かわいい〜」
 イリィはニニにつかまってからも大喜び。
 鮪が配布していた本には、フリーサイズのパンツが付属されていた。
 イリィは無邪気に、裸の恐竜さんにパンツをはかせて、何ともいえない姿に仕立て上げたのだった。
「今やは恐竜騎士だけでなく、恐竜も新品のパンツを穿いて読書する時代なんだぜ〜。ヒャッハー!」
 鮪は恐竜達の雄姿に大満足。
「さあ、皆で空京大分校を受けようぜ〜。今はドラゴンも大分校に入り、グレータードラゴンを目指す時代なんだぜ。恐竜も同じくウルトラサウルスとかスーパーサウルスを目指すべきだ。ヒャッハー!」
 そんなことを言いながら、鮪は騎士達の間をスパイクバイクで走り回り勧誘。
 一般人にも本を配布して、勧誘。
「なんかこれ、分校の紹介ばかりで肝心なことがほとんど書いてないような……」
「細けえ事は知るか! 読んで楽しめばワンランク上になれっつてんだぜェ〜」
 質問には全てそう返して、とにかく配って配って配りまくった。
「いやしかし、パラ実の風紀委員としては、ここを仕切るっていうのも立派な仕事だな、うん」
 隊長だった男が突如そんなことを言いだす。
 ニニの挑発の効果か、鮪の説明が良かったのか本が素晴らしかったのかどうかはわからないが……この後、今回の件で敗北したほとんどの恐竜騎士団員が空京大学への留学を希望した。
 ……処罰を恐れて空京に逃げようとしたともいう。