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第三章 心温まるプレゼント

 もう一つ、クリスマスと言えばプレゼント同様に腕が振るわれるのが料理だ。甘いケーキからジューシーな七面鳥までレパートリー様々に繰り広げられるお料理戦争が、料理教室でも既に開催されていた。胃袋をそそる香りが充満する料理教室には雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)シェヘラザード・『千夜一夜物語』(しぇへらざーど・せんやいちやものがたり)が何やら話しながら料理をしていた。
「だ、だから別にそういのじゃないってば」
「ですがいきなりお料理を作りたいなんて理由もなしに言われないですよね? 何かあるのではないですか?」
「だってクリスマスだし、ウィラルとかにあげようと思って」
「とか? ということは他の方にもあげるのですね!」
 ギクリとする六花。しかしその動揺が更に事態を悪化させることになってしまう。
「いまビクってなりましたね? もう言い逃れは出来ませんわ! さあどこの殿方にクッキーをあげるので!?」
「そ、そんな大した意味はないってば〜」
「クリスマスにプレゼントをあげるのに意味を込めない女性がどこにいるのですか!」
 完全に墓穴を掘ってしまった六花にずいっと詰め寄るシェヘラザード。焼いているクッキーよりも熱を帯びているかもしれない。
「そんなこと、ないよ? あの、ただ食べて欲しいなって」
「それを! 世間では! 好意があると言うのですわ!」
「でも、パートナーの子と一緒に食べてもらいたいだけだよ?」
「ぐうう、よもやここまでとは思いませんでしたわ……」
 一風変わったガールズトークを繰り広げながら器用にクッキーの調理は進める二人だった。その隣では女の子らしさと対照的な濃厚なローストビーフを作っている火村 加夜(ひむら・かや)ミント・ノアール(みんと・のあーる)がいた。焦がさないよう、丹念にローストビーフを調理する二人。所々先生に教わりながら危なげなく進めていた。
「いい香りですね、ミント。少し味見をしてみましょうか」
「うん!」
「はい、あーん」
「あーん……うん! すっごく美味しいよ!」
「そうですか、それは良かった」
「今度は僕のを食べてね、はいあーん」
「あーん……あら、美味しい。私のより美味しいかもですね」
「そ、そんなことないよ! そっちのほうが絶対美味しいもん!」
 もう少しで完成のローストビーフを少しだけ切り取って味見をさせ合う二人。どちらも十分な出来でここから失敗することはほとんどないだろう。先ほどからはちきれんばかりに振られているミントのしっぽを加夜はきゅっと握る。
「し、しっぽはそんなに触らないでよー」
「あらあら、触って欲しそうに振られていたのでつい手が伸びてしまいました」
「うぅ〜」
「それより少し風に当たりましょうか? ワインの香りに酔っているでしょう」
 顔が赤いミントを見て加夜がそう尋ねる。けれどミントを首を横に振る。
「もうすぐ完成だし、加夜は皆に食べてもらいたいんだよね? だったら出来立てを皆に振舞わなきゃ! でもその後、一緒に外に行こーね」
「……ありがとう。それじゃ最後の仕上げをして、はい完成。早速出来たてをあちらで大作を作っていらっしゃる方々に食べてもらいに行きましょう」
 熱々のローストビーフを持って、何やら賑わいながらケーキを作る四人の元へと行く加夜。そこにいたのはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の四人だった。
「すいません、お腹が空いていらしたらこちらのローストビーフはいかがですか?」
「おっ、手の込んだものを。ありがたく頂くよ、おーい皆。美人さんが手料理を持ってきてくれたぜー!」
「これはこれは、美味しそうなローストビーフですね。見た目も食欲をそそります」
 エースの声に一番に駆けつけたのはエオリアだった。料理人のエオリアから見てもローストビーフの出来は素晴らしく食欲を駆り立てる最高の料理だった。
「なになにー? うわっ!? なにこれすっごーい! お店の料理みたいだー!」
「あら、本当ですね。これはお二人で作られたのですか?」
 遅れてやってきたレキとカムイも驚きの声を上げる。その質問に自信満々にミントが答える。
「先生に教わりながらだけど、すっごく上手に出来たんだ! だから食べてみて!」
「そうだな、頂くとするか。それじゃ皆、二人に感謝していただきまーす!」
「「「いただきます」」」
 一斉にローストビーフ一切れを口の中に運ぶ四人。肉汁があふれ出して、香りが効いているローストビーフは胃を満足させるには十分だった。
「うまい! これは本当にうまいな!」
「教わりながらだとしても初めてでここまで作れるとは、いやはや僕達も負けていられませんね」
「ん〜! ほっぺた落ちちゃいそう! 何なら一切れケーキにデコレーションしたいくらい!」
「それはケーキもビーフも勿体無いのでやめておきましょうね」
 四人の口から出る大絶賛を聞いて安心した加夜とミントは他の人に分けてくるといって立ち去っていった。腹ごしらえもした四人はケーキ作りに戻る。
「よーし、俺達も最高のケーキを作って雅羅達に持っていってやろうぜ!」
「そうですね。オペラケーキとドライフルーツ入りシュートレン、更にお二方の……レキさんのほうの独特なデコレーションケーキもありますしね」
「ダリルとルカルカも驚かしてやろうな!」
「はい」
 そう言ってケーキ作りを進める二人。男性ながらも器用に料理をする二人に少しだけ羨ましい視線を送るレキ。
「いいなぁ、私もあれくらい器用だったらもうちょっと可愛くデコレーションできるのに」
「まあ、確かに少し独特なデコではありますが味は問題ないと思いますよ? 私が保証します」
「というか、この三人と比べられても困るというか。……こうなったら独創的路線で突っ走ってみようかな!」
「あまりやんちゃはだめですよ?」
 何か吹っ切れたレキが更なるデコレーションを施し、それを注意しながら微笑んで見守るカムイだった。その後、四人のケーキは無事に完成し放送室で腹を空かしているであろう雅羅たちの元へとゆっくり向かった。