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第四章 激闘捕獲部隊! 放送室で歌わせるな!

 その頃雅羅達捕獲部隊は放送室のすぐ手前まで来ていた。あれから何体かのサンタ人形と遭遇して無傷で捕獲はしていたが足止めにもならない数で、すぐさま捕獲が済んでしまっていた。それよりももう一つ、呪いのサンタ人形ではない第三者の妨害の方が厄介だった。
「……! 気をつけて、あそこの足元には落とし穴があるみたいだ!」
「了解、皆飛ぶわよ!」
 北都のスキル『禁猟区』に引っかかった落とし穴を雅羅の掛け声で全員飛び越える、が。
「うぉ、またローションかよ! ちくしょう、大剣で床ごとぶったぎってやろうか!」
 勇平が激昂する。このように明らかに呪いのサンタ人形の罠ではない人為的なトラップが先ほどから数多く雅羅達を邪魔していたのだ。放送室に近づくに連れてそのトラップの密度は上がっていく。落とし穴に気をとらせてローション床を隠蔽する。まるでこの状況を楽しんでいるようなやり口だ。更に呪いのサンタ人形もこのまますんなりと捕獲できるとは考えられない。そう思案する雅羅だったが考える暇もなく、放送室へ辿り着いてしまった。ここから先は何があるのかまったくわからない、だが捕まえるには入らなくてはならない。雅羅は捕獲部隊の皆に声をかける。
「皆、ここに呪いのサンタ人形がいるはずよ。準備は出来てるかしら?」
「勿論さ。もう追いかけっこは終わりだよ」
「だな」
「いよいよこの縄の出番だね!」
「使われないで終わるかもしれないけど、準備はOKだよ」
「毛糸が足りなくなる前に親玉を捕まえようね」
「雅羅ちゃん、心配しないで。私が守るから!」
「何があってもこの大剣と一緒に斬り抜けるぜ!」
 七人とも気合十分、臆してはいないようだった。雅羅も気合をいれなおし、放送室の扉を勢いよく開けた。
 中は暗闇が充満しており、何も見えない状態だった。刹那、教室の光だけではない圧倒的に眩しい光源に照らされる雅羅と捕獲部隊。その正体は呪いのサンタ人形ではなかった。
「ハーッハッハ、ようこそ! 呪いのサンタ人形主役、主催はこのドクター・ハデス(どくたー・はです)のパーティへ! 楽しんでいってくれたまえ!」
「あ、あの。皆さん、口を開けて呆然としていますよ?」
「よく来たな、八人の勇者達よ! さあ共にあの悪の親玉を成敗しよう!」
 そこに痛、ではなくいたのはドクター・ハデス率いるアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)の三人だった。何故ここにいるのかの目的は、ハデスが話し始める。
「君達の力はこのドクター・ハデスの野望のために利用させてもらおう! 私の野望、聞きたいか? うーん?」
 明らかに聞いて欲しそうにこちらを見てくるハデスに少々困惑しながらも雅羅は聞く。
「えーっと、何かしら?」
「聞きたいのなら仕方ない! 是非聞かせてやろうではないか! 耳の穴をかっぽじってよく聞けい! その野望とはズバリ、呪いのサンタ人形を捕獲しこのドクター・ハデスの研究材料として使うことだ! 驚いただろう!」
「ま、まさかそんな恐ろしいことをするのですか? だめですよ! 危ないことはやってはいけないのですよ?」
「アルテミスよ、男にはやらねばならい時もある。ハデスが言いたき本心はそんなことではない。命に代えてもあの呪いのサンタ人形を捕獲するという、勇者の本心が隠されているのだ」
「そ、そうだったのですか!? そうとも知らず私は……私も! 戦います!」
 何やら身内だけで勝手に解釈しあいねじれたまま器用にそれぞれが納得している。見かねた勇平が雅羅にこう言う。
「なあ、あいつらならぶった斬ってもいいんじゃねーか?」
「待って……私達の行く先々に罠を仕掛けたのはあなたなの?」
「私はそんなことはしていなーい! そもそも私達だけでは呪いのサンタ人形は封印できない。研究するためには一度封印してからでないと危険だから、お前たちを待っていたのだ。傷つけず場を膠着させるのは苦労したぞ」
「つまり、あの罠を仕掛けた人物はまだ……」
「むぅ! 彼奴が本格的に動き始めるぞ!」
 ハデスに気を取られていて肝心の呪いのサンタ人形を忘れていた雅羅達の目の前にようやく禍々しいほど寂しいオーラを背負ったサンタらしからぬ人形の姿が現れた。浮いている呪いのサンタ人形の下や前には大小様々なサンタ人形が無数にこちらを睨んでいる。まるでじゃれ合うカップル達を蔑んだ目で見るように。
 そして呪いのサンタ人形の目が不気味に光った瞬間、一斉にサンタ人形軍団が襲い掛かってきたのだ。
「アルテミス! 私を使え! ブレイブエナジー、フルチャージ完了! 勇気の力を示すのだ!」
「はい! ってあれ? 人形なのに勝手に動いてる? 人形が、勝手に、動いてる? ……い、いやあっ! こっち来ないでぇ!」
 急にその場にしゃがんでしまったアルテミス。元々心霊現象が苦手なためひとりでに動く人形達に今更ながら恐怖し始めたのだ。当然、カリバーンのブレイブエナジーも激減。このままではアルテミス達がサンタ人形達に押しつぶされてしまう。すぐに雅羅は指示を飛ばす。
「柚と三月と夢悠と瑠兎子に勇平は二人の援護! 北都とモーベットは私と親玉を狙うわよ!」
 それぞれ返事をして持ち場に走る。
「立つのだアルテミス! 勇気を力に変えるのだ!」
「うう、無理ですよ〜あんな怪奇現象には勝てません……」
 それでもその場から離れることをしないあたり、騎士として意識はあるようだ。あと数センチでサンタ人形の体当たりがアルテミスに当たる。そこへ大剣が割り込む。
「普段はぶった斬る専門だが、守ることにだって使えるんだぜ?」
 勇平が大剣を斜めにして盾のように構える。小さなサンタ人形達は大剣にぶつかり床に転がっていく。後続のサンタ達も柚と三月のスキル『ヒプノシス』により眠らさせられて行動不能。動かないでいる人形たちをすかさず毛糸で縛る夢悠と瑠兎子。五人の連携は完璧だった。
 前で呪いのサンタ人形を迎え撃つ三人にハデスが後ろから声をかける。
「呪いのサンタ人形にはバリアが張られている! 生半可な攻撃では弾き返されるぞ!」
「じゃあどうしろっていうのよ!」
体当たりをしてくる人形たちをかわし、いなしながら雅羅は叫ぶ。
「待て。その口ぶりからすると何か策があるのだろう?」
「無論だ。そいつらはクリスマスに悲しい思いをしていた奴等だ。目には目を、歯には歯をだ」
「つまりクリスマスでの悲しい出来事を聞かせればいいってことだね!」
「けどそんなクリスマスでの悲しい思い出なんてないわよ!? クリスマス過ぎたクリスマスケーキがコンビニで半額で売ってたから喜んで買って一人で美味しく頂いたくらいしか……」

ピキッ

「嘘!? 効いた!? バリアーが薄くなった! というかそんなに悲しくないじゃないのよ!」
「ともかく、今がチャンスかもしれない! モーベット、サンタ人形達がまだ大人しい今のうちにさっきもらってきた封印お札を!」
「承知! これで終いだ!」
 モーベットが勢いよく封印お札を投げる。このお札を貼ることが出来れば呪いのサンタ人形はただの人形に戻るのだ。これで終わると思った雅羅達、だがしかし。お札が四散する。そして声が聞こえてきた。
「ダメダメ、まだまだお祭り騒ぎは終わらせないよ。だってこんな楽しいことをすぐに終わらせちゃったら勿体無いじゃない? 悪いけどサンタ君は封印させられないなぁ」
 のんびりとした口調で闇の中から姿を現したのはサンタ人形ではない人影、永井 託(ながい・たく)だった。だが言っていることはのんびりとした口調とは違いこの騒動を引き伸ばすことを目的としている。雅羅は直感する。この男が落とし穴やローション床で妨害をしてきた人物だと。
「どうしてこんなことをするの! 私達にメリットなんて何もないのよ!?」
「わかってないねぇ、最大級のメリットがあるじゃない。こんな素敵な騒動が起きているんだよ? 君達がそんなに必死になって、慌てふためいて、けれど心のどこかで楽しんでるんじゃないの? 僕と一緒でねぇ。とにかく、まだまだ終わらせはしない。それにね」
「何よ!」
のんびりとした口調にイライラを隠せず雅羅が叫ぶ。サンタ人形達の妨害も密度を増してきている。塵も積もればなんとやらである。
「さっきの君の叫び、なかなか悲しかったけどそれじゃ足りないんだよ。実際僕が何もしなくてもバリアーに弾かれて終わりだったね。そして今の君達に叫ぶ暇なんてないでしょ? 僕と、サンタ人形達の妨害を防ぐので手一杯。その隙に呪いのサンタ人形は歌うのさ。ロンリーロンリークリスマース、ってね」
 確かに託の言う通りだった。全員がサンタ人形や託の仕掛けた罠をどうにかするので手一杯の中ゆっくり叫ぶなんて芸当は到底できなかった。持ってきた封印お札もなくなり最早為す術なし。万事休すかと思われた。そこへ悲しみを背負った救世主達が現れる。