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突撃! パラミタの晩ごはん

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突撃! パラミタの晩ごはん

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「若鶏、蒸しあがりました!」
 五段重ねの蒸籠を抱えて、親衛隊の一人が駆け込んでくる。
「ありがとうっ」
 ライゼが素早くミトンをはめながら飛んできて、蒸籠の蓋を取る。
 そして、立ち上る湯気の中から鶏の載った皿を取り出して、垂の傍に並べる。
「材料、揃ったよぅ」
「よっしゃ!」
 垂は気合いと共にコンロに火を入れる。
 みらくるレシピ・歴戦の立ち回り・ゴッドスピード・超感覚・博識……と、一気にスキルを発動し、もはや常人の目には残像しか映らない動きである。
 最大火力の猛火が鍋の底を這い、鍋から白い煙が上がるのを見極めると、さっと鍋を火から外し、お玉で油を回し入れる。
「ライゼ!」
「はいっ」
 余った油を戻すのとほぼ同時に、ライゼが材料を投入して行く。
 まさに『中華はスピード』の手本といった勢いで煽る鍋の中で、食材が華麗に舞った。
 薬味、野菜、そして蒸し鶏が踊って、垂のお玉が調味料の方へ伸ばされる。
 その瞬間、すかさずライゼの手が調味料の缶を奪い取った。
「はいぃっ、お塩投入ですぅ」
「お?」
 ちょっと変な顔をしながらも、垂は勢いよく鍋を煽る。
「オイスターソース、行くですぅ」
 じゅっと音を立てて、オイスターソースが投入される。
「とどめは水溶き片栗ですぅ!」

 ……何というか、すごい。
 垂とランゼの見事なコンビネーションに、雅羅はわず足を止めて見とれていた。
 その神憑り的なタイミングが、『垂に味つけをさせない』為に【至れり尽くせり】のスキルまで動員した力技だということには、さすがに気づいてはいないようだ。
「よっしゃー、ランゼ、お皿ぁ」
「はいぃっ」
 水溶き片栗粉のとろみを纏った料理が艶やかに皿に盛り付けられるのを見て、雅羅はようやく我に返る。
 見物している場合ではない。
 仕上がった料理を並べる会場の設営が、まだ完了していない。
 それから、もうひとつ頭の痛い問題がある。
 ……ドラゴンに出す料理って、一体何に盛ったらいいのかしら?
 昔聞いたおとぎ話をぼんやりと思い浮かべる。
 あれは、確か狐がお皿、鶴は壷だった。
 頭の中で、狐と鶴とドラゴンの顔を思い浮かべる。
 どちらに近いのかすらわからない。
「あああ、もう、どうしよう」
 雅羅は呻いて、取り敢えず設営の指示に会場へ向かった。

「これって、もしかして共食い?」
 ダリルの手で飾り切りが施されて行く人参をを覗き込み、ルカルカ・ルーがつぶやいた。
「……作業中に心が折れるようなことを言わんでくれ」
 繊細な作業を止めて、ダリルが零す。
 人参はその細工によって、見事な龍の姿に仕上がっているのだ。
「うーん、ドラゴンと龍じ別物だからオッケーかな。っていうか、人間も人形焼きとか食べるしねぇ」
 ルカルカは一人納得したように言って、空の皿を手に取った。
「じゃ、次の材料持ってくるね!」
 ダリルは黙って軽く手を振り、再び龍の鱗を刻む作業を開始した。

「悪い事、言っちゃったかな?」
 ルカルカはちょっと後悔しながら、厨房に戻ろうと足を速めた。
 ……が。
「……うわぁ」
 ぴたりと足が止まる。
 少し離れたテーブルでは、ほかほかと湯気を上げる焼きたての「ビフテキ」が盛りつけられていた。
 何故か、ドラゴンの形に。
 こんがりした焼き色と切り口の赤味を器用に使って、グラデーションを表現していたりする凝り様である。
 その姿はたいへんに生々しいというか、肉肉しいというか……。
「あれ、アリなんだ」
 ちょっと感銘を受けたようにルカルかはつぶやいた。
 ……あれがアリなら、ダリルももっと派手にやっちゃってもいいわね。後で応援しとかなきゃ!
 弾むような足取りでその場を離れながら、ちらっと疑問が翳める。
 お皿の前に、人参のグラッセで描いてあったあの数字。
 ……何かの暗号かしら?

「ヨ・ロ・シ・ク、っと」
 グラッセを綺麗に並べ終え、エクスは顔を上げて荒神を見上げた。
 常人の数倍のスピードとパワーであっと言う間に担当分の調理を終えてしまったエクスは、先ほどから会場を走り回ってあちこちの手伝いに燃えていた。
 しかし、荒神に頼まれたこの作業は、いまひとつ釈然としなかった。
「これは、本当に必要だったのか?」
 艶やかな赤で描かれた、4649の文字。
「もちろんだ」
 脚立に昇って華麗な肉のアートを作り上げながら、荒神は満面の笑みを浮かべた。
「すごく、パラ実っぽいだろ?」
 エクスはちょっぴり疲労した。