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お祭りなのだからっ!? 

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お祭りなのだからっ!? 
お祭りなのだからっ!?  お祭りなのだからっ!? 

リアクション



○ ● ○ 『リンリンリン、始りの合図はもう間もなく』 ● ○ ●

 ≪ヴィ・デ・クル≫の正門周辺は砲撃のなどの被害後が一番激しく残っている場所だった。街道を通って訪れた人が最初に目にする場所であり、街の修復を担当していたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)達がもっとも力を入れていた場所だった。
「だいぶ片付いてきたな。これなら間に合いそう――」
 努力の甲斐もあって傷跡が目立たなくなってきた街を見渡すエヴァルト。そこへ住民の一人が修復に使う資材の到着が遅れているとの報告をしてきた。
「おいおい、マジかよ。もう時間がないぞ」
 残された時間は一日のみ。生徒達はラストスパートをかけていく。

 通りに立ち並ぶ多種多様な屋台。その中で、月詠 司(つくよみ・つかさ)はグルフシードの抜け殻を使ったアクセサリーを安く販売することにしていた。色水を入れて可愛らしく加工したペンダントやキーホルダーなどのアクセサリー。
「また一つ出来上がりです、っと。シオンくんこれだけあればいですかね?」
 目の前にずらりと並べられた、一つ一つ手作りで完成したアクセサリー。充分な数だと感じた司は尋ねるが、隣で作業をしていたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)から返事が返ってこない。
「シオンくん? おーい、シオンくんやーい!」
「あぅ!? なっ、なにツカサ?」
 耳元で叫ぶとようやくシオンが反応を示した。
「用意する分はこれくらいでいいですかと、尋ねたんですけど」
「そ、そう? そうね。いいんじゃないかしら?」
 何か変だと感じた司。今日はまともに手伝いをしているだけなのに、シオンの笑みに悪寒を感じてします。
 そんな時、司が名前を呼ばれた。
「え? 何でしょう?」
 地べたに座っていた司が振り返って見上げると、二人組の女の子がこちらを見ていた。司が反応を示すと女の子達は黄色い歓声をあげた。
「え、えっと……」
 しかし、司の方には女の子達との面識がないように思えた。ましてや有名人というわけでもないはずなので、騒がれる理由がわからない。
 困惑しながら彼女達が騒ぐ理由を問いかける。すると、頬を赤らめた彼女達のの口から、予想外の答えが返ったきた。
『あなたの裸見ました』と。
 司の顔も真っ赤になる。
「なっ、なんで!?」
「あっらら、もしかしてこの前のやつじゃない?」
 街が被害にあった戦いに参加していた司は、戦闘後諸々の事情で素っ裸になった。街中で多くの住民に見られ、騒がれ、写真を撮られ、警棒を持った人達に追いかけられた。苦い思い出である。
 女の子達はその場にいて、しっかり顔を覚えられていたのだ。
「や、やめてください!」
 女の子達は嫌がる司を手持ちのカメラで撮影し始めた。
 司は両手で顔を描くして助けを求めた。最初顎に手を当てて傍観していたシオンだったが、突如立ち上がると――
「待ちなさい!」
 腹から出るようなよく通った声で女の子達を制した。じわりと司の瞳に涙が滲む。
 なんだかんだ言ってもやっぱり彼女は私のパートナーなんだ。そんなことを思っていた時、シオンがポケットに手を突っ込むと、数枚の写真を取り出した。
「ここにそんなカメラで撮影したのより、もっとちゃんとした物があるわ! これを持っていきなさい!」

「ぎゃあああああああああああ!!」

 シオンがばら撒いた写真を慌てて回収する司。
「残念! それはコーピー。まだまだあるのよ」
 そう言ってシオンは背後に忍ばせてあった紙袋を持ち出した。中には変身前と後を含めた司の恥ずかしい思い出を、写真やポストカードにした物が大量に入っていた。
 女の子達はそれらを手にとりながら、「きもいきもい」と口にする。
 その声を聞きながら司は諦め、膝を抱えて青い空を見上げた。
「お母さんお父さん聞いてください。私の人生はもうだめかもしれません……」
 若干鬱になりそうだった。

「うん! 看板はこんな感じでいいでありますね! そっちはどうでありますか?」
 たこ焼き屋の看板を作りあげた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の方に視線を向ける。屋台の組み立て準備をしていたイングラハム。その横を通り過ぎる住民は、彼の姿を見るたびにおびえた表情でヒソヒソと何事か呟いていた。
「見ての通りなのだよ」
「やっぱり見た目に『難あり』でありますな」
 イングラハムの異様な容姿が警戒心を抱かせているようだった。数日滞在している街の人達でさえこうなのである。当日訪れた人にはこれ以上に脅えられかねない。
「さてどうしたものでありますか……お?」
 売上に影響が出てしまうと考え込んでいた吹雪は、先ほど目にした祭りのホームページを思い出す。
 急いでパソコンを起動して脳裏によぎった内容を確認した。
「これであります!」
「あっ、おい!?」
 吹雪はイングラハムの腕(触手?)を掴むと駆け出した。忙しく駆け回る人々の間を抜けて涼しげな空気が流れる噴水広場に到着。そして、そこで祭りの準備をしていた初那 蠡(ういな・にな)に声をかけた。
「失礼するであります!」
「は、はい!?」
「これの全身に出来るだけ派手目立つフェイスペイントお願いするであります!」
 目を丸くしてイングラハムを見上げる蠡に、吹雪は満開の笑みで頼み込んだ。
「よろしく頼む」
「しょ、承知しました」
 戸惑いながらも蠡は、どこからが首かわからないイングラハムにフェイスペイント施すことになった。完成したペイントは要求通り派手に、それでいて愛嬌のある感じに仕上がった。
 ホームページにもイングラハムの写真が乗せられ、その面白い姿は話題となった。

「イスとテーブルはこんなものでしょうか。後は……」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は仲間達と共に、祭りに訪れた人達がゆっくり休めるような空間を提供する店を準備していた。
 イスとテーブルを運び終わり、他に何かやっておくはないか確認していると、視界の隅にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と一緒にティータイムを楽しむマリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)の姿が目についた。
 マリナレーゼとエースはお互いに店で出す予定のハーブティーを試飲していた。挨拶として送られた薔薇と同じ赤い花びらが一枚浮かんだハーブティーは、マリナレーゼが入れた物に負けず劣らず心を落ち着かせる良質の物だった。
 時間を忘れてマリナレーゼが堪能していると、フレンディスが傍にやってくる。
「マリナさん、そろそろお手伝いをお願いします?」
「ああ、今行くさね」
 マリナレーゼはカップの中身を空にすると、立ちあがってエースに握手を求めた。
「いい物を味あわせてもらったさね」
「こちらこそ勉強になったよ」
 立ち上がったエースはマリナレーゼの手をしっかりと握りしめる。
「お互い頑張ろう」

「日本式の……祭りのデート……」
 宿屋の一室でレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は、本から夏祭りにおける男女のデートをここ数日研究していた。
「誘っていただいたのに、忘れてるなど……楽しんで頂かないと……」
 レイナは祭りの日に日比谷 皐月(ひびや・さつき)をデートに誘っていた。それは以前、皐月とデート(?)をしたにも関わらずその時の記憶が曖昧な事に対するお詫びの意味も兼ねていた。
 ページを捲りながら静かにレイナが意気込んでいると、部屋の扉がノックされた。ドアに視線を向けて待っていると、数秒間をおいてからリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)が部屋に入ってきた。
「お嬢様失礼します。浴衣を選んでいただいてもよろしいでしょうか?」
 リリはいくつかチョイスした浴衣を部屋に持ち込んできた。レイナは静かに頷くと明日来ていく浴衣を選び始める。
「お嬢様。私は同行しませんがいつも見守っております。頑張ってください」
「……ありがとう」
 微笑むリリの表情は聖母のように柔和で優しいものだった。
 感想を言いつつ何着か合わせて実際に試着し終える。すると、突然街の各所に設置されたスピーカーからミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の声が聞えてきた。
「『アーアーアー、テステス。マイクテスト。こちら≪ヴィ・デ・クル≫夏祭り運営本部より放送中。……はい、レティ。後はよろしくね』」
 マイクの向こうから何やらガサゴソと音が聞こえる。そして――
「『皆さん、盛り上がってますかぁ!?』」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の声が街中に響き渡った。
「『いよいよ明日はお待ちかねの夏祭り! 皆さん、準備はいいですかねぇ?』」
 放送から流れる一言一句ごとに、街を覆う熱気が沸々と上昇していくよう。
「『泣いても笑ってもこれが最後です!』」
 祭り一色に染まる街。この街にいる全ての者が、内から湧き上がる衝動を感じている。
「『全員悔いを残さぬように全力で行きますよ! いいですか!? それじゃあ――』」
 マイク通してレティシアの大きく息を吸う音が聞こえた。

「『祭りは勢いが命! ハイテンションで最後まで突っ走りましょう!!』」

 街中から巻き起こる怒声のような歓声が、大地を揺らし、大気を震撼させた。

 いよいよ始まる祭りの日。今年最後の夏祭りが始まろうとしている。