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盗んだのはだ~れ?

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盗んだのはだ~れ?

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>>>>地底湖付近<<<<

「調べてないのはこの先ですね。目的地の地底湖はそこに……」
 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は銃型HC弐式にマッピングしてきた地図を確認しながら慎重に進む。
 リーラテェロの救助チームと別れた生徒達は、内部で出会ったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)一同と合流して洞窟を進んでいた。
 【超感覚】で耳と尻尾を生やしたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、周囲を軽快しながらグラキエスに話しかける。
「グラキエスさんも来ていらしたんですね」
「遺跡探索にね。でも、ゆっくり出来そうにないな」
 グラキエスはとても残念そうにため息を吐く。
 そうこうしている内に生徒達の行く手に光が射しこんでくる。
 視界が徐々に澄み切った澄み切った蒼色に変わっていく中、肺に入りこむ空気も変わっていく。
「これはすごいな」
 目の前に広がった大パノラマは海を想像させるほどの広大さがあった。
 静寂な湖には水底から巨大な支柱が枝分かれして伸び、飛び石のように遥か向こうの岸まで続いていた。
 一歩前に出たセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が周囲を見渡す。
「隠れる場所はないし、この道以外に向こうへ渡る術はなさそうね」
「セレン、あれを見て。最初の足場に跡が残ってるわ。この先に行ったのは間違いないと思うの」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の指さした箇所には、洞窟内で踏んでついたのであろう土が付着していた。
 盗まれた形見を捜索して生徒達は、必然的に犯人を追いかけて湖を渡ることになった。
 だが、皆がぞろぞろと地底湖に近づく中で、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は踏み止まり水中を睨みつけていた。
「ご主人様、気を付けてください。すごく嫌な予感がします」
「それってどういうことですか?」
 振り返ったフレンディスが見たポチの助は、全身の毛を逆立て牙を剥きだしにして低いうなり声をあげていた。
 獣人でありながら犬としての生活を長くしてきたるポチの助は、相手のテリトリーに踏み入ってしまったことを敏感に感じ取っていたのである。
 徐々に肥大化していきく敵意は、周囲を警戒していた生徒達にも伝わってきた。
「――!? 皆さん、一端引いてください!」
 フレンディスが叫んだ瞬間、水中から飛んできた巨大な水の塊が先頭を歩いていた生徒のすぐ横に着弾した。
 風圧で吹き飛ばされる生徒。
 先ほどまで立っていた場所のすぐ横には、地面が抉り取られ巨大な窪みができていた。
「水中からの攻撃か! フレイ、俺が前に出る! 攻撃にあたるなよ!」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は闇氷翼で飛び上がると水中に目を凝らした。
 すると、暗く沈んだ都市と重なるようにして、水中を巨大な水竜の影が移動するのが確認した。
 その影は一瞬停止したかと思うと、竜が身体を捻って再び口から水弾を吐きだしてくる。
「――っ!?」
 二発の圧縮された水がベルクの左右を通り過ぎて天井を直撃し、背中に無数の小石がぶつかった。
「いてて!?」
「マスター!!」
「だ、大丈夫だ、フレイ。にして……威嚇のつもりかよ」
 水中では水竜が優雅に尾を振りながら泳いでいる。
 地表にできた窪みに視線を落とし、ベルクは気を引き締めた。
 そんな中で、緊迫した空気を裂くように霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が叫ぶ。
「ここは私達に任せて、皆は先に行ってくれ!」
 前に出た泰宏は威嚇攻撃を避けると、氷雪比翼から生み出した氷柱を水竜に向けて放った。
 敵意ありと判断した水竜はその攻撃を回避すると、今度は直撃コースで水弾を打ち込んでくる。
「クッ――結構重い」
 後方に押し返されながらも混沌の楯でどうにか受け止めた泰宏。
 ビリビリと痺れの残る腕で盾を構え続ける。
「注意が向いている今のうちに、早く!!」
「……わかった。フレイ、行くぞ」
「はい、マスター」
 ベルクはフレンディスに一声かけて湖を渡り始める。
「ポチ、落ちないように気をつけてくださいね」
「大丈夫です。こうやってビクの助の背中に乗っていれば落ちません!」
 霊獣であるビグの助の背に、ポチの助は大の字になってぴったり貼りついて移動する。
 生徒達が続々地底湖を進んでいく中、飛び石を進んでいた菊花 みのり(きくばな・みのり)は足を止めて水底に目を凝らした。
「何か……いっぱい……」
 水底に無数の人影が見える。それらは幼い時から『見えないものが見える、聞こえないものが聞こえる』そんな特異な体質をしたみのりだから見える影だった。
 その影は時折ぐにゃりと人の形を崩しながら手を伸ばしてきた。見ていると吸い込まれそうな空洞の目と口が何かを語ろうとしている。
 不意に頭上を水弾が駆け抜け、みのりは現実へと引き戻された。
「急げ! 立ち止まるな!」
 仲間に急かされたみのりは再び進みだす。
「……大丈夫……あがってこない、から……」
 みのりは自分に言い聞かせるように口にした。

「だいたい行ったかな」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は小さくなる生徒達の後ろ姿を見ながらつぶやいた。
 囮として残ったのは僅か数名。残りは形見を盗んだ犯人を追跡しに行ってしまった。
「それじゃあ、ここからは本気で行かせて――」
「待ってくれ!」
「んな!?」
 体をほぐして今にも飛び込もうとしていた透乃は、突然呼び止められバランスを崩して飛び石から水面へと落下した。
 むせながら水面から顔を出すと、隣の飛び石に源 鉄心(みなもと・てっしん)が立っていた。
「今からティーが水竜と対話を試みる。こちらは盗まれたものを取り戻したいだけなんだ。話せばきっとわかってくれる」
 鉄心の後方でティー・ティー(てぃー・てぃー)が【インファントプレイヤー】で水竜と意志疎通を試みていた。
「私はドゥルムさんのご両親の形を取り戻しに来ただけなんです。貴方に危害を加えにきたわけではないんです」
 祈りながらティーは伝えたい言葉を思念と共に口にする。
 交信は成功しているようで、水竜は攻撃を止めて様子を窺いながら円を描くように泳いでいた。しかし、水竜からの返答はなかなか返ってこない。
 その様子を見ていた透乃は不満そうにしていた。
「えー、せっかく目の前に竜がいるのに!?」
 戦くてうずうずしている透乃。
 すると、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が近づいて来て、諭すように声をかけた。
「いいじゃないですか。透乃ちゃん、少し様子を見ましょうよ」
 陽子は透乃の耳元で「こちらも準備がありますから」と囁いた。
 ティーが意思疎通を試みている間、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は地底湖に沈んだ都市の調査に向かおうとしていた。
「今のうちに湖の底の方を見てきますわ!」
「頼む。予想が正しければ水竜は何かを守っているだけのはずだ。それが証明できれば皆が戦う理由はなくなるはずだ」
 鉄心に見送られて、イコナは魔石の封印から解き放ったフタバスズキリュウの背に乗って湖の中へと潜りこんだ。
 冷たく静かな水中をポータラカマスクで呼吸しながら進む。
 暗く沈んでいた都市が徐々にその全容を見せてくる。
『これはなん、ですの?』
 水中都市は業火に焼かれたように所々朽ち果てていた。道や建造物には存在を主張するかのように無数の手や足が黒い塗料で描かれ、それらを抑えつけるように古代文字が都市一面に刻まれていた。
『呪いに似ていますわ……』
 知識と照らし合わせながら、イコナは周りの水と体温が同化するような錯覚を覚えた。
『!?』
 突然、眼下に巨大な尾が現れたかと思うと、イコナは勢いよく水面へと吹き飛ばされる。
 水竜の尾が生み出した水の流れに乗って飛ばされたイコナは、鉄心に激突した。
「ぐぅぅ、イコナ……」
「て、鉄心! 今、どらごんの声が聞えましたわ!」
「それなら、俺も聞いたぞ」
 水竜がイコナを吹き飛ばした際、この場にいた生徒達にはその声が届いていた。
『キケン……封ニ触レ、ルナ……』
 水竜は都市に近づこうとしたイコナをなんらかの危険から遠ざけるために吹き飛ばしたのだ。
「都市に近づかなければ大丈夫ということか」
 水竜は水底からイコナに警戒の眼差しを向けていた。
 鉄心は形見を取り返すだけなら問題ないはずだと安心する。
 その時――斜めから水竜の下顎付近の隠れた逆鱗に一撃が叩き込まれた。
「なに!?」
 【ホークアイ】で水竜の様子を探っていた陽子は、注意が逸れた隙を狙って重力操作で威力をあげた一撃を放ったのだ。
 逆鱗を直撃された水竜は瞳孔を細めて陽子を睨むと、耳を劈くばかりの咆哮をあげた。
「ッ――これで戦わざるえませんね」
「ナイスだよ、陽子ちゃん!」
 透乃は陽子に親指を立てると、飛び石の側面を蹴りとばして水竜に向かっていく。
「なんてことをしてくれるんだ!」
 叫ぶ鉄心に泰宏が近づいてくる。
「ほら、こうなったら仕方ない。生きるためにも、食すためにも、もう殺すしかない。そうだろ?」
「……いや、また話し合う術はあるはずだ。そのためにも攻撃はやめてもらう」
 泰宏の言葉にも鉄心は諦めず対話を試みようとする。
 すると、泰宏は肩を落としながらため息を吐いた。
「私も戦わずに済めばそれでいいと思うのだが――」
 魔槍スカーレットディアブロを構えると、泰宏は矛先を鉄心に向ける。
「透乃ちゃんの邪魔をするなら容赦しない」
「退かないなら怪我するぞ」
「その言葉、そのまま返すよ」
「――鉄心!!」
 ティーの言葉に振り返ると、背後から月美 芽美(つきみ・めいみ)が頭部を狙って回し蹴りを放とうとしていた。同時に泰宏が正面から一直線に突きを仕掛けてくる。
 前後を塞がれ、飛び石の上では横への退路はない。
「くっ!?」
 鉄心は袖に隠していた魔銃ケルベロスを取り出すと槍を逸らし、後方をティーが支柱に絡みついていた植物を急成長させて防ぐ。
「甘いわよ!」
 芽美は攻撃を防いだ緑色の障壁に手をかけて機軸にすると、回り込んで鉄心の側頭部に再び蹴りを叩きこもうとした。
 そこで鉄心は腕時計型加速装のスイッチを入れる。
「アクセルギア!」
 瞬間的に身体能力を引き上げた鉄心は、態勢を低くして攻撃をギリギリで回避すると両者に銃口を向け、しかしそれを引かずに肘打ちで隣の飛び石まで吹き飛ばした。
「大人しく引き下がれ!」
 鉄心は脇腹に受けた軽度の火傷を抑えながら銃口を泰宏の方に向け、後方の芽美には影から出現した黒狼で対応する。
 芽美は口元を拭い、鉄心を睨みつける。
「本当に甘いわね。この借りは高くつくわよ」