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盗んだのはだ~れ?

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盗んだのはだ~れ?

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「ここに犯人がいるのか……」
 地底湖を渡り切ったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は周囲を見渡す。
 水辺から真っ直ぐ伸びた道の両脇は森に囲まれ、道を進んだ先にある四方を支柱で囲まれた神殿へと目が向くように作られていた。
 グラキエスは道を逸れて、周囲を囲う木の一本に触れる。
「こいつは作り物だな……面白い」
 神殿は当然のことながら森も全てが真っ白な石灰岩で作られた偽物だった。
 グラキエスは楽しそうに石灰岩の採取や道に書かれた古代文字をメモしていた。
 その様子を嬉しそうに見守っていたゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は優しく声をかける。
「グラキエス、楽しむのはいいが程ほどにな。今は犯人を捜す方が先だろう」
「わかってる、わかってるからもう少しだけ……」
 熱心なグラキエスは水辺からなかなか進めない。
 再三の催促でようやく先へ行く仲間を追いかけようとしたその時、森の中に人影を見つける。
「誰だ!」
 グラキエスの声に驚き、人影は背を向けて逃げていく。
「どうしたでありますか!?」
「吹雪、向こうの方に誰かいた。全身黒っぽい服装、帽子を被った子供だったと思う。顔までは確認できなかった」
「了解であります。そちらは自分が追いかけるであります」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)と数名の生徒がすぐさまグラキエスが指さした方角へと駆け出していった。
 そして、残されたグラキエスにゴルガイスが声をかける。
「ではグラキエス、我々は神殿の方を調べておくとしよう」
「お、賛成だ!」
 グラキエスは軽快な足取りで神殿へと向かった。

「向こうは遊び感覚でありますな」
 吹雪は足に絡みついた縄を切り外しながらぼやく。
「……こども……です、から……」
 菊花 みのり(きくばな・みのり)が身を隠した木の幹に、パチンコで打ち出した弾が直撃して赤く染め上げる。
 少し離れたから攻撃を仕掛けてくる形見を盗んだ思われる犯人。
 周囲には至る所に落とし穴などの足止め用の罠が仕掛けられ、そこへ誘導するように犯人は移動しているようだった。
「思いのほか頭がいいであります」
「……策、必要……?」
「そうでありますな」
 吹雪は歴戦のダンボールを取り出すと、その中にすっぽりと入りこむ。
「自分は回り込んで接近するであります。この場をお願いするであります」
 言うや否や、吹雪は素早く後退していった。
「……わかりました……二人、とも……」
 みのりの呼び声に、アルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)グレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)が頭上にやってくる。
「呼んだ、みのり?」
「何かいい案でも考えたか?」
「……うん……左右から……挟み込み、ます……」
 みのりは細い指で二人を指さして別れて行動するように指示を出す。
「わかったわ。合図はどうするの?」
「……怪我……しない、程度……」
「了解よ」
 アルマーとグレンが別方向へ飛んでいく。
 【ダークビジョン】で罠の位置確認しながら、みのりは注意をひくために近くの木々の間を移動して手を拱いているように見せた。
「……はやく……」
 だが、硬直状態に飽きてしまった犯人は誘うように、森の奥へと逃げようとする。
「……逃げ……ない、で……」
 仕方なく、みのりは飛び出すと逆さずりの罠に足を引っかかてみせた。
 そして、犯人の弾が当たるより早く、魔銃オルトロスで枝ごと罠を解除する。
「……おわり……」
 みのりは空中で態勢を立て直すと、慌てる犯人との距離を詰める。
 犯人が左右に逃げようとすると、傍の地面に魔法の塊が直撃する。
「こちらは――」「通行止めだ!」
 両サイドから森を抜けてくるアルマーとグレンに、犯人の退路は後方のみとなった。
 しかし、そこには不自然にも段ボールが一つ。
「捕えたであります!」
 段ボールから飛び出した吹雪は、犯人の鳩尾に頭突きをかますように飛びついた。
 ジタバタ暴れるのを抑えつけて顔を隠していた帽子をとる。
 すると、そこには――
「この子は……ドゥルム?」
 帽子の下にあった顔はドゥルムだった。否、正確には地面が透けるほどに薄い影のような存在だった。
 それは観念したように笑うと、地面に溶けるように消えてしまう。
 吹雪は目を瞬かせて地面と手に残った帽子を交互に見つめた。
「おい、あれは何だ?」
 グレンが吹雪の背後を指差す。
 振り返ると、先ほどまでなかった木造の神社がいつの間にか立っている。
「こいつは……随分ボロボロだな」
 追いついてきたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は周囲を見渡しながら口にする。
 守護者である狛犬は無残にも砕け、八幡造りの社は焼け跡を残して半壊していた。
「マスター、ここに首飾りが!」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は石段の上に置かれた蓋の壊された賽銭箱の中から盗まれた首飾りを取り出した。
 拳ほどの緑色の宝石を金細工で飾ったドゥルムの両親の形見である首飾り。
 ベルクはそれを受け取ってかざすと、内から淡い光を放つ宝石を覗きこんだ。
「こいつはすごい……」
「高く売れそうでありますな」
「吹雪」
「あ、冗談であります。続けるであります」
 ベルクは吹雪の言葉に呆れながらも、自分の持つ【秘宝の知識】と照らし合わせて考えてみた。
「そういえば、シボラの方に強大な魔を封印するのに、こんな感じの秘宝を使った部族があるって聞いたような……」
 独特の装飾が施された金細工を注意深く調べてみるが、なにぶん情報が少なすぎた。
 すると、足元で忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が急に吠え出した。
「ワンワン! ご主人様、この下に何かあります!」
「あん? どこだ?」
「エロ吸血鬼はお呼じゃないです! あっちへ行ってください!」
 靴をポチの助に後ろ足で蹴られ、ベルクはムッとしながらも場所をフレンディスに譲った。
「どこですか、ポチ?」
「賽銭箱の下です」
 フレンディスはしゃがみ込んで賽銭箱の下を探ると、捲れた床板の下から冊子を発見した。
「古い物のようですね。中身は……虫食いだらけです」
 古代文字で書かれた冊子は解読できたとしても、ほとんど内容がわからないほど虫食いにあっていた。
 そこでフレンディスは【サイコメトリ】による情報収集を試みた。
「いっぱいの人の笑い声。それから……黒い空……」
 フレンディスが額に脂汗を滲ませ、その表情が険しくなる。
 見えたのは人々の笑顔が、恐怖から狂気に変化していく様子だった。
 何が起きたのか、何が原因だったのか、それはわからない。
「この冊子に書かれていることが少しでもわかれば……」
 フレンディスは無残な神社の中に目を凝らす。
 床には大量の足跡が残され、床や壁は至る所が破壊されている。内部にはご神体を含め何一つ残されていなかった。
 フレンディスは唯一見つかったボロボロの冊子を抱きしめる。
 そんな時、地底湖の方から轟音が聞こえてきた。
「フレイ戻ろう! 泰宏達が心配だ!」
「はい!」
 フレンディスは、グラキエス達と合流して地底湖に戻ることにした。