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リアクション
第三章 ゆるスターとゆかいな仲間たち 3
シャツの上にチェーン付きベスト。
帽子に赤いバンダナ。
そして、それを覆うトレンチコート。
そんな衣装に身を包んだ永夷 零(ながい・ぜろ)がゆるスター小屋の前に現れた。
「なんだかすごいねえ」
葉月が零の服装を見て、そう感心する。
その言葉に、零はふっと笑った。
「せっかくのマカロニウェスタンな展開だしな! 乗らない手はないぜ」
「ま、そういうことでございます〜」
ベビーブルーに煌く銀髪を輝かせ、古き良きアメリカ時代のワンピースを着たルナ・テュリン(るな・てゅりん)がガンマン姿の零の隣に並ぶ。
那由多はルナの頭に付いてるアレがちょっと気になったが、あえてつっこまないことにした。
しかし、違うことが気になり、那由多はそちらは零に聞いてみた。
「あの、ゴブリンが来る日まで、ずっとその恰好で?」
「今日来る」
零はそう言いきった。
「悪徳保安官の訪れる日……それがガンマンには分かるんだ。映画の西部劇だってそうだろう?」
「ま、あれは展開の問題でそうなってるんですけどね」
いきなりルナが零の夢を壊すようなことをつっこむ。
「……そういうこと言うなよ。でもな、俺の予想はあながち間違っちゃいないと思うぜ? みんながから揚げ作ってただろ。あれの匂いを嗅ぎつけて、ゴブリンたちがやってくるんじゃないかと思う」
「から揚げの匂いにつられて、ってなるといいのですが」
空を見ると、日が暮れ始めていた。
そして、彼らの見えないところで、夕日を背負ったゴブリンたちが、進行して来ていたのである。
エメと蒼は、ゆるスター小屋でゆるスターとたっぷり戯れさせてもらった後、みんなで作ったゴブリン用のから揚げを、山盛りにしに行った。
スパイスたっぷりなのはもちろん、ヒメナが作ったゆるスターの匂い付きから揚げも混じっている。
そのから揚げに、零が言ったとおりに導かれるように、ゴブリンがやってきた。
最初にそれを発見したのは、空飛ぶ箒で、空からの警戒を続けていたケイだった。
「あれは……!」
日が沈んで暗くなったら、もうゆるスター小屋のそばに戻って番をしよう、とケイは思っていた。
しかし、その直前でゴブリンたちの一団を見つけた。
ケイはそれを急いで、みんなに連絡した。
その連絡を受けて、美羽はセルフリーネの手を取り、彼女を励ました。
「ゆるスターのそばにいてあげて。大丈夫だよ、私たちが絶対に守るから!」
「美羽さん……」
「あ、セルフィ。美羽さん、は寂しいな」
「うん、分かりました。美羽、守ってくれるのはうれしいですから……ちゃんと帰ってきてくださいね?」
「もちろん!」
明るく元気な笑顔で美羽がベアトリーチェと共に飛び出していく。
ベアトリーチェは眼鏡がずり落ちないように気をつけながら、元気すぎるパートナーを追う。
「大丈夫だよ。セルフリーネさんはここから飛び出したりせずに、きちんと帰りを待つのが仕事だ」
総司が心配そうなセルフリーネをなだめると、真幸も強く頷いた。
「ゴブリンの目的はゆるスターです。だから、ここにいないと」
「そうですよ。ゆるスターを守りたいというセルフリーネさんを守りますから!」
陽奈が励ますと、葉月はセルフリーネにケージを見せて、安心させた。
「何かあったら、ちゃんとこのケージと小型飛空艇で、ゆるスターたちを逃がしますから、大丈夫ですよ!」
「いざとなったら……私たち、がんばりますから」
メイベルは明確に盾となるという言葉は避けた。
もし、盾になって時間稼ぎと言えば、セルフリーネはみんなに逃げて、と言ってしまいそうだからだ。
「うん、うん……みんなありがとう……」
セルフリーネは精いっぱいの礼を言ったのだった。
ゴブリンたちの間に、雷が光った。
ケイが放った『雷術』だ。
空間を切り裂くほどの光を発し、神の裁きかのように、ゴブリンの上に降り注ぐ。
「さあ、次はどいつだ!」
可愛らしい外見に似合わぬ強い口調と、圧倒的な魔力。
仲間が雷に焼かれるのを見たゴブリンは、ケイの姿とあいまって、そこから進むことができなくなった。
そして、ケイが足止めをしている間に、どんどん仲間が集まってきた。
「背後は任せてください」
エメが武器を手にケイの背中を守る。
「ありがてえ、頼んだ!」
どんなに強力な魔法があろうと、魔法使いのケイは近接戦闘には弱い。
ケイは感謝しつつ、次の『雷術』を唱え始めた。
セルフリーネのために戦いに出た美羽は光条兵器を展開させ、夜をも照らす光の剣を出した。
「さあ、こんがり焼いちゃうよ!」
美羽の光の剣から、爆炎波が放たれ、炎がゴブリンを焼く。
「おっと、女の子がいるなら、戦うのはここだな!」
周は美羽の姿を見て足を止め、一緒に光条兵器を振るった。
「む? これは味方と見るべき?」
「その美脚の味方と思ってくれ!」
その周の返事に美羽は小さく笑う。
「了解!」
みんなから少し離れたところで、零は独自の雰囲気で戦闘を繰り広げていた。
そのそばでルナはBGMにウェスタン風の口笛ソングを流したりと忙しい。
「抜けよ」
「イー!」
零の挑発に向かい合ったゴブリンが応え、手斧を振りかざす。
「いい反応だ」
しかし、そこはゴブリン。
1対1などという気はなく、複数で襲いかかってきた。
「それくらいのこと……読めなきゃ、この西部では生き残れないぜ?」
零がスプレーショットを放ち、複数飛びかかってきた敵を攻撃する。
そのまま、アサルトカービンで、近い敵から撃って行く。
ルナがSPを回復し、またスプレーショット。ルナの護衛を受けつつ、零は西部劇な戦闘を繰り広げて行った。
ケイとエメたちの壁をすり抜けたゴブリンたちも、用意されていたから揚げに思わず向かってしまった。
そして、食い付いたとき。
「ていっ!」
『隠れ身』で近づいた壮太がゴブリンを思い切り叩いて奇襲した。
もちろん、彼だけではない。
美しいヴァルキリードレスを翻したアティナが舞い降り、ゴブリンの成敗を始めた。
「愛くるしいゆるスターを食べるなんてこと、二度と思わないようにしてあげますわ」
緑のショートウェーブの髪が美しく揺れ、ゴブリンたちを払いのける。
「そのご意見賛成です。ゴブリンさんが悪戯するならボコっちゃいますわ〜、うふふふふ☆」
お昼寝して体力全開のチェルシーがアティナと肩を並べ、ゴブリンを掃除していく。
こうして、ゆるスターのから揚げは出来ぬまま……じゃなかった。ゆるスターの命は守られたのだった。
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