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酪農部の危機を救え

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酪農部の危機を救え

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第四章 部長救出作戦1

 かれん救出部隊が洞窟に向かって進む中、サイクロン・ストラグル(さいくろん・すとらぐる)グランメギド・アクサラム(ぐらんめぎど・あくさらむ)を伴い、ゴブリンのいる洞窟に向かった。
「……なんでしょう、これは」
 【波羅蜜多実業羅苦農部】と書かれた看板を気にしつつ、サイクロンは洞窟の中に入った。
 すると、洞窟の中から、何やら怪しげな声が聞こえてきた。
「あっ……ん……」
 人の声だ、としばらくしてサイクロンは気づいた。
 そして、奥に進むごとに、その声は大きくなっていった。
「だ、ダメ。それ以上は……。あ、でも、ゴブリンさんがいいなら……」
 その声が悲鳴ではなく、甘い声だと気づき、サイクロンは戸惑った。
 しかし、声は全く止まらない。
「やっぱりナマが一番だって、私のカラダで教えてア・ゲ・ル。貴方のドレッシングで私を好きな味に染めて☆」
 しまいには声がノリノリになってしまった。
「ん〜サイコー。クセになっちゃう〜!」
 嬌声といっていい声になり、もう本当に洞窟の奥に入っていいのか、サイクロンは混乱した。
 それでも、かれんを助けなければ、という思いがあり、サイクロンは奥へと入った。
「あ、あの……!」
「なんだ、おまえ」
 洞窟に入ってきたサイクロンを、鮪がじろりと睨む。
 自分が想像していたような事態でないことをホッとしつつ、サイクロンは鮪を説得した。
「これ以上の盗みはやめて、かれんを返して下さい」
「なんで?」
「お互いに大きな被害を出したくない」
「それなら俺たちが勝てばいいだけの話だぜ。ひゃっはー!」
 鮪の威勢のいい声に、ゴブリンたちも元気に応じる。
「そういうことなら……」
 説得に応じないなら強硬手段と決めていたサイクロンは武器を手にした。
「サイクロン」
 グランメギドがサイクロンを守るように傍らに立つ。
 しかし、二人の真剣な空気を壊すように、大きな声が上がった。
「キャー! イヤですわー。そんなすごいことまで!」
 先ほどの声だと気づき、サイクロンがおろおろする。
 しかし、鮪が面倒くさそうに立ち上がって、サイクロンに言い放った。
「あー、おまえ、用が済んだなら、こいつ連れて帰れ」
「え!?」
 突然、30代のおじさんを投げられ、サイクロンは反射的に受け取った。
 それは魔法少女 ひかる(まほうしょうじょ・ひかる)だった。
 ニヤニヤと笑いを浮かべながら、ぐっすりと眠っている。
「洞窟の途中に落ちてたんだよ。着いて疲れて寝ちまったみたいでな。こいつがまたすげーハッキリとした寝言言うからうるさくて叶わねえ。さっさと連れて帰れ」
 ひかるはよほど熟睡してるのか、投げられても起きなかった。
 サイクロンも剣士ではあるが、さすがに体重差が50kgもある180cmの巨漢を抱えて戦闘はできない。
 仕方なく、サイクロンはグランメギドと一緒にひかるを抱えて、洞窟を出ることとなった。


  
 サイクロンとひかるが過ぎ去った頃。
 部長救出隊が訪れて、静かにトラップを作っていた。
「トラップ設置の皆さんは静かにお願いいたします。ここでばれたら元も子もないですからね」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)が、トラップを設置する人たちにお願いして回る。
 洞窟といってもどれくらい深いか分からない。
 もしかすると、すごく浅くて、ゴブリンたちに気づかれてしまうかもしれない。
 トラップ設置の中心人物である島村 幸(しまむら・さち)は陽動班みんなを借り出して、トラップ設置に協力させた。
「はいはい、急いでください。のんびりしてると、せっかくの陽動作戦も突入作戦もダメになっちゃいますよ」
 眼鏡を上げながら、幸は周囲を追い立てる。
 幸にとって酪農部は大事なものなのだ。
 何せいろいろと実験をしているから。
 どういう意味で大事なの科はあえて書かないが。
 幸の指示で網や防水シート、滑車や縄なども運ばれる。
「ああ!! どんな子(罠)を作りましょうか! 考えただけでぞくぞくします……ふふふふ」
 幸が手に持ったシャベルと眼鏡を光らせて、うれしそうにほくそ笑む。
「あーして、こーして、こうなって……くくく……」
 その様子はとても、さらわれた女の子を救いにきた同じ学校の学生には見えない。
 しかし、パートナーのガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が声をかけると、幸の態度がガラッと変わった。
「幸、こっちの滑車はどこに置けば……」
「あ、ガートナ!」
 言葉の後ろにハートマークでも付きそうな勢いで、幸が返事をする。
 そして、ガートナを見つめながら、作業を指示した。
「あっちにお願いしたい。けど、作業中にケガなんてしないでね」
「ハッハッハ、力作業は任せてください。これでも元騎士団ですぞ」
 ガートナが明るく笑い、荷物を運んで行く。
 しばらくその背中を眺め、幸は作業へと戻った。
「なんだかすごく生き生きしてるね!」
 ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が幸をそう評するのを聞き、ガートナは愛しげな眼差しを幸に送った。
「可愛いですな。あんなに夢中になって」
 幸を見守りながら、ガートナは作業をする。

 そして、トラップ作りが終わると、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が進み出てきて、自らのゆるスターを陽動組みに貸した。
「……あなたを育ててくれた、かれんさんがピンチなの。だからがんばってね」
 ゆるスターを受け取った日のことを思い出す。
 この可愛らしいものをくれたかれんを助けるためにがんばらなきゃ、と思い、ミルディアはこの救出に参加したのだ。
 巽はミルディアのゆるスターを傷つけないように優しく受け取り、単身、洞窟の中に入った。
 できるだけ、ゆるスターの匂いが洞窟内に届くように、他の人が扇いだりして、ゆるスターの匂いを撒いている。
 適度なところで匂いを撒くのをやめ、巽が戻ってくる。
「……うまくいくかな」
 みんなが外で待つ。
 ……。
 …………。
 反応がない。
「匂いだけじゃダメなのではございませんの?」
 黄色の前髪ぱっつんロングをしたお嬢様がみんなの前に進み出てきた。
 東重城 亜矢子(ひがしじゅうじょう・あやこ)だ。
「ゆるスター1匹くらいの匂いではそうそう反応しないと思いますわ。ここはもっと分かりやすい手段に出ませんと」
「分かりやすい手段?」
「バルバラ、あれを」
「あれをって……ちょっと、さすがに私が機晶姫でも、これだけの数を制するのは無理ですわ〜」
 バルバラ・ハワード(ばるばら・はわーど)が引っ張ってきたのは、酪農部から借りた凶暴な牛、十匹だった。
 すでに興奮をしていて、今にも走りだしそうな勢いだ。
「これを……どうするんですか?」
 不思議そうに尋ねる巽に、亜矢子はその場を支配するような美しい笑みを見せ、すっと手を動かした。
「こうするの……ですわ!」
 パン、と軽く亜矢子が叩くと、一目散に牛たちが洞窟の中に入っていった。
 効果はてきめん。
 素晴らしい早さで牛が特攻し、洞窟の奥でゴブリンの叫び声が聞こえる。
「ほーっほっほ、わたくしの読みはバッチリですわ〜!」
「バッチリなのはいいですけど……、この後、どうするんですか?」
「……え?」
 巽の質問に亜矢子の動きが止まる。
「部長、無事だといいなあ……」
 奥の様子を見て、姫矢 涼(ひめや・りょう)がそうぼそっと呟く。
 しかし、しばらくして、ドドドドっと音がして、牛たちが返ってきた。
「何か牛に追い立てられたゴブリンたちが走ってくるな」
 牛の前にゴブリンたちが悲鳴を上げながら走ってきている。
「結果オーライってやつですわね!」
 亜矢子が高笑いする中、ゴブリンたちが外に飛び出し、牛も飛び出す。
「あら……?」
 牛は勢いが衰えず、そのままどこかに走って行った。
「どうしましょう? 大丈夫でしょうか?」
 ハラハラするバルバラだったが、そこに声がかかった。
「牛の回収はシマス。後はお任せヲ!」
 牛を貸してくれた副部長・ギルベルトのパートナー・フランシスである。
 ギルベルトに様子を見に行けと言われて、追ってきていたのだ。
「ありがとうございます!」
 亜矢子とバルバラがお礼を言ったとき、真横にゴブリンが来た。
「っ!」
 亜矢子の居合いが閃き、そのゴブリンが倒れる。
「いけませんわ。急ぎすぎる殿方はもてませんわよ?」
 その攻撃を皮切りに、なし崩しに、戦いが開始された。
 まず、戦闘に入ったのは、長身の蒼空学園のセイバーだった。
「……出てきたな……ゴブリン共……さあ、始めようか……ユニ! 銀閃華を!」
「はい!」
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)の言葉にユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が応じ、美しいブルーサファイアの髪が揺れる。
 コバルトブルー色の瞳が閉じられ、長い睫毛が、なめらかな肌に映えて、美しいユニの外見を一層増す。
 そして、純白のドレスが破れ、豊かな胸を揺らしながら、光条兵器・銀閃華がユニの中から現れる。
 銀色の光条兵器は昼でもその周囲を照らし、ゴブリンたちの注目を浴びた。
 クルードは銀閃華を持ち、ツインスラッシュを放った。
 ゴブリン2体から悲鳴が上がる。
 しかし、次の瞬間、ユニからも悲鳴が上がった。
「きゃっ!」
 クルードがそちらの方を見ると、ユニの妖精の羽のような大きなリボンが、ゴブリンにつかまれようとしていた。
「させない」
 静かに銀閃華が動き、クルードの人を魅了する美しい金の瞳が輝いて、敵を倒す。
「……俺は負けない……どんな奴が相手でも……」
 ユニを守るようにクルードが立ち、複数のゴブリンを見据える。
 一方、無口なクルードと対照的に、派手に動きまわったのが神代 正義(かみしろ・まさよし)だ。
「通りすがりの教導団員、神代正義…またの名を、パラミタ刑事シャンバラン!」
 決めポーズまで入れた素晴らしい派手さで、正義はゴブリンたちをひきつけて、正義は叫んだ。
「どこの学校の事だろうが、誰かの命の危機とあらば、救いに向かわなくてはヒーローは務まらない! 救いを求める声に答えねば、それは俺ではない! 俺は常に誰かのために戦うぜ!」
 正義は足を狙ってゴブリンたちを止め、次の攻撃でとどめをさして、動けないようにした。
 赤いマフラーがはためき、焦げ茶のぼさぼさ髪と高い身長があいまって、往年のヒーローらしさを出していた。
 4体目のゴブリンを止めた正義は、ちょっと汗ばんだ手を拭いて、光条兵器はシャンバランブレードを持ちかえ、ゴブリンにつっこんで行った。
「シャンバランダイナミィィィック!!!!悪は滅びろ!!」
「また、これは派手にやってるなあ」
 ゴットーはランスを繰り出して、ゴブリンに応戦している。
「かれん……無事で……」
 そう願い、ゴットーが見つめた洞窟の入口には、涼が立っていた。
「私もこうなる予想はしてましたけどね! コノヤロー」
 話し合い解決を密かに望んでいた涼は悔しい思いを胸に、戦いに臨んだ。
 入口前に立ちふさがって、ゴブリンが戻れないようにしているのだ。
 仲間たちがたくさんいて、涼だけが集中砲火ということはないが、それでも、セレ・ハービデンス(せれ・はーびでんす)は心配でならなかった。
「……涼」
 そばにいるなと言われているが、やはり気になって仕方がない。
 涼は2匹が来ても負けずに、攻撃を受け切った。
 しかし、3匹目が来たとき、セレは我慢できずに飛び出した。
「イーー!」
 セレの美しい長い金髪が輝きた時、ゴブリンの悲鳴が共に上がった。
「……セレ」
「大体が無茶だったろ……誰にも相談しねーで」
 涼の隣に立ち、セレは小さく溜息をつく。
「カッコつけて、他に迷惑が及んだら、それこそ事だ。気をつけろよ」
「ああ、分かった」
 セレと涼は隣に並び、二人で洞窟の入口にゴブリンが入らないように守る。
 もちろん、彼らだけでなく、他にも入口を守る人たちがいた。
 真人とセルファだ。
 セルファにかく乱をしてもらい、真人がゴブリンに雷術で雷を落とす。
「ここに道はありません。ここを立ち去るか、逃げるか、お好きにどうぞ」
 はいかYESで答えなさい、というように真人は微笑むのだった。