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魔術書探しと謎の影

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魔術書探しと謎の影

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 さて、騒ぎを起こす不届き者たちがいれば、頼まれてもいないのに本の整理をしようとする奇特な者もいる。
 如月 陽平(きさらぎ・ようへい) もその一人だ。彼は日頃利用させてもらっている感謝の気持ちをこめて、なにかと大変そうな図書委員たちの力になりたいと考え、パートナーのシェスター・ニグラス(しぇすたー・にぐらす)を引き連れて本の整頓に励んでいる。
 方法としては借りた蔵書目録特を元に、図書委員から聞いた特に乱雑になっている箇所を重点的に整理していた。
「それにしても想像以上にぐちゃぐちゃだね、シェスター」
「そうですね。これだけの蔵書です。図書委員や数人程度の司書の方ではとても管理が行き届かないのでしょう」
「そうだ、司書って言えばさ、『最近図書館内で夜な夜な目撃される怪しい影』って多分噂の司書さんだよね。アーデルハイト様にも負けないくらいすごい魔女だっていう」
「うーん、そうですね。可能性はゼロとは言えないと思いますが、それだとどうして司書ともあろう者が図書館でこそこそするのか納得できません。それに、そもそもそんな人物が本当にいるのかどうか……」
「いや、そうだよ。そうに決まってる、うん」
 陽平は謎の影が少し怖かったので、無理矢理そう自分に言い聞かせて本の整頓に精を出す。そんな陽平を見ると、シェスターの顔には自然と微笑みが浮かんだ。
「あ、見て、シェスター。豊穣の神様についての本があるよ」
「本当ですか? 見せてください。……ああ懐かしい、昔を思い出します」
 シェスターには豊穣の神に仕える守護天使だったが、力を失い村人にリストラされたという過去がある。そこに生粋の農民である陽平と出会い、契約したのだ。
「大丈夫、そのうち力も戻るよ。それにいざとなったら二人で農業でもすればいいじゃない。きっと楽しいよ」
 寂しそうな顔をするシェスターを見て、陽平が言う。
「それもいいですね」
「うん、何でもできるよ。僕とシェスターなら。この新たな地で。さあ整頓を続けよう」

 陽平が純粋な気持ちから図書館の整理をしているのに対して、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が同じことをしようと思った動機は不純なものだった。
「さて。図書館にたはいいものの、俺達はどうしましょうか?」
「そうだねえ。ボクたち出る幕ないよね〜」
 大和の問いかけにパートナーのラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が答える。
「うちの学生はみな優秀ですし」
「あ、そうだ! じゃあボクたちお片付けしようよ!」
 ラキシスがポンと手をたたく。
「片付け、ですか。そうですね、善行を積むのも悪くないかもしれません。(ひょっとしたら噂の司書さんに会えるかもしれませんからね。きっと素敵なお姉さまに違いありません)」
「ありゃ、大和ちゃん珍しいね」
「情けは人のためならずと言いますので。ラキ、君が幸せになれるなら、俺は何でもしますよ」
「ありがとう、大和ちゃん(すっごく嘘臭いの……)」
「しかしただ片付けるのも面白くないですね……」
 大和は腕組みをしてなにやら考える。
「うん、どうせなら機能していない目録を使えるようにしちゃいましょう」
「どうやって?」
「ラキの天使の笑顔で、皆さんに『明らかに分類と違う本が本棚に混じっていたら持ってきて欲しい』とお願いして回ってださい。ついでに本も回収してくれると助かりますね。そうしたら俺が目録どおりに本棚に収めていきます」
「了解! 箒に乗って回るよ。それじゃあ目録がいるね。あと地図があると便利かも」
「そうですね。少し待っていてください」 
 大和はそう言ってラキの元を去ると、いくらもしないうちに目録と地図をもって帰ってくる。目録は図書委員から借り、地図はその辺の女子生徒から写させてもらったものだ。刀真やリカインが制作した地図は、今や生徒たちの間に広まり始めていた。
「わ、大和ちゃん早いね!」
「ふふふ、俺(の女性に関することへの執念)を侮ってもらっては困りますね」
「そうだね、大和ちゃんは(女の人が絡むと)天才だもんね」
「ふふふ」
「えへへ」
 二人で不気味に笑い合った後、ラキシスは箒に乗って飛び去っていく。大和の動機がどうあれ、ラキシスの笑顔が図書館の目録整理に大きく貢献したことは言うまでもない。

「うう、モヤモヤします! 誰もが欲する知識を手に入れることができる、それが図書館のはずです。それなのに、地図を作らねばならないほど混沌としているなんて許せません!」
 図書館の乱雑具合に、几帳面なロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は憤慨している。
「全くです。これではどこに何があるか分かりませんわ」
 根っからのメイド、高務 野々(たかつかさ・のの)も同意する。二人は共に百合園女学院に通う仲でもあった。
「せめて入り口付近だけでもしっかりと整理しておきたいですよね、高務さん」
「ええ。何かあったときのために、イルミンスールの蔵書を把握してもおきたいですし。私の行ける範囲の蔵書は整理整頓してみようと思います」
「それでは手分けして早速始めてしまいましょう」
 ロザリンドは本のナンバーを確認して、抜けているものや紛れ込んでいるものがないかチェックする。汚れている本があればできる範囲できれいにし、倒れているものや並びが滅茶苦茶なものは速やかに直していく。
 また、寝転がって読書をしている者がいれば、「すみません、床で本を読むのはご遠慮いただけないでしょうか」とやんわり注意した。
 本を整理していると、時折出会う地図をもった生徒に喜ばれ、ロザリンドはお礼に地図の情報をもらう。さらに彼女は、埃を見つけると掃除までしてしまった。
 一方野々は、まず蔵書目録を参考に棚をひとつずつチェックし、場所が違う本を抜き出していく。次いで本を読んでいる者に対して「自分が戻しておきますので」と申し出て、読み終わったものを回収。そして収納する場所を振り分け、適宜それぞれ正しい本棚に戻していった。
 実に手際よく作業をこなしていく二人を見て、こんな娘が一家に一人欲しいと誰もが思った。
「しばらくここに滞在してきちんとした方がいいような気がしてきました」
 いくら整理しても追いつかない状況に、ロザリンドが言う。
「まだまだやり足りないのは分かりますけど、さすがにそういうわけにはいかないでしょう。もうこんな時間ですし、今から帰っても夜明けまでに学院に着けるかどうか……」
「大丈夫ですよ。きっとエリザベート先生がうまいこと言ってくれます。……今回の件が無事解決すれば」
「無事解決すれば、ですよね。私もまたここにきて整理をしたいのですが、先ほど一般の司書の方に伺ったところ、一存では許可できないと言われまして。とてつもない権力をもつという噂の司書さんがいれば、その方にお話ししたいところです。ですがやはり姿は見えませんね」
「その人が本当にいるかは分かりませんけど、特別司書室というものがあると、先ほどすれ違っこの生徒さんに聞きました。お手紙でも置いていったらどうでしょう?」
「あら、それはいい考えですわね」
 二人は仲良くおしゃべりをする間も、片付けの手を休めないのだった。