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探し出せ!犯人を!お嬢様を!!

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第五章 戦闘

 ドラゴンアーツを帯びた攻撃が一斉に放たれ、弾け飛ぶゴーレムたちの姿に、イタルは目を見開いた。悠々と詠唱を止めていたクドールも、ぴくりと片眉を跳ねさせる。
「大丈夫ですか!」
 津波の声に合わせ、発動可能な生徒たちが一斉にヒールを放つ。雷撃に傷付いた生徒たちの体が淡い輝きに包まれ、僅かに動かすことが精一杯だった体が緩やかに体力を取り戻していく。
「奥に、ユリアナが……ユリアナを浚ったのはイタルだが、あいつら兄弟は全員、敵だ!」
 苦しげに声を張り上げた一の言葉に、推理合戦を行いながらようやく辿り着いた生徒たちは一斉にゴーレムの向こうの三兄弟へ視線を移した。開き直ったように魔法の準備を再開する兄弟と、その傍らでゴーレムを操るイタル。そしてその奥でがたがたと震える、かわいそうなユリアナ。
「ワトソン。……犯人」
 ホーリーメイスの先端でびしりとイタルを指し、月夜が呟くように告げる。言葉を受けてカルスノウトを握り締めた刀真の両腕を、淡く光が包み込んだ。月夜のパワーブレスを受け、茶化すように応じながら刀真は駆け出す。
「わかりましたよ、ホームズ先生」
 イタルの指示を受けたゴーレムたちの半数以上が、新しく現れた人間たちへと一斉に向きを変える。正面の一匹へと、刀真は勢いよく刃を振り下ろした。ツインスラッシュで生じた剣圧が傍らの一体をも吹き飛ばし、しかし未だ行動不能には陥らない二体を、突如足元から躍り出た炎が舐める。
「行け、由香!」
「ありがと、るーくん!」
 動きを止められたゴーレムへと、由香は振り被ったリターニングダガ―を投げ付けた。猛攻に耐え切れず形を崩したゴーレムを踏み付けるように、次のゴーレムが迫る。
「……来ますよ」
 静かに、しかし確かに呟かれた鳥羽の声に合わせ、一斉に禁猟区が展開される。重なる魔法陣が眩しいばかりの輝きを放ち、クドールとガンチアが同時に放ったファイアストームを受け流す。
「一発でもくらったら終わりじゃぞ!」
 ぴりぴりと身を焼くような危険を察知したアシュレイが声を上げた。クドールとガンチアの魔法はそれぞれ非常に強力だ。直撃を受ければ、少なくとも戦闘不能に陥ることは避けられない。
 そしてそれに気を配る間にも、ゴーレムの集団は迫る。
「お嬢様、お下がりください」
 メアリを背にした凛が、じりじりと後ずさる。いざとなればメアリだけでも逃がそうと、そう心に決めていた。メアリも今ばかりは大人しく頷き、凛の背後に身を隠している。ワンドを握る手が小刻みに震えているのを、宥めるように凛はメアリの肩を撫でた。
「手を貸すぜ」
 物陰から顔を出した蒼也がぺろりと唇を舐め、ゴーレムの一体へと手にした水鉄砲を放った。丁度水に弱い部位だったのだろう、ゴーレムの一部がどろりと溶けるのを目にした寛太が正確にそこを狙って火術を放つ。ゴーレムが苦し紛れに投げ付けた石を大地のリターニングダガ―が弾き落とし、その隙に接近した大和のランスが弱ったゴーレムを貫いた。がらがらと崩れるゴーレムから鮮やかに穂先を抜き放ち、ふと視線を感じた大和はへらりと笑みを浮かべて見せる。
「惚れました?」
「……私は男です」
 困ったように応えて別のゴーレムへ向かう尤の背中を呆然と見送り、大和はがっくりと肩を落とした。
 ぽん、とその背を叩く者がいる。
「……なんかやらしい、でございます」
 さらりと告げて付け耳をひこひこ揺らしながら去っていくルナを愕然と見送り、今度こそ大和はぐったりと地に刺したランスへ寄りかかった。

 強大に見えたダッセ三兄弟だったが、じりじりとゴーレムの数を削られるにつれ、徐々に戦局は逆転しつつあった。禁猟区で魔法を防ぎ、傷を負えばヒールで癒し、協力して一体一体ゴーレムを片付けていく彼らに、イタルは次第に焦り始める。自分だけでもユリアナを連れて逃げてしまおうか。そう考えて振り向いた彼は、次の瞬間ぎょっと双眸を見開くことになった。
「キャッキャウフフをしたいから!」
「よ、よばれて、飛び出て即参上」
 謎の狐面の二人組の口上に、他の兄弟二人も驚いた様子で振り返る。お前が呼んだのか、いや呼んでねえよ、と不毛な口論を交わす兄弟たちを気にも留めず、ゴスロリ狐面の一人、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は不満げに声を上げた。
「はい後は略! ちょっと遅いわよぉ〜、待ってる方の身にもなりなさいよぉ〜!」
「そうですよ! ボク達あんまり高いところは得意じゃないんですから!」
 同調するように頷いたもう一人の狐面、桐生 円(きりゅう・まどか)も同じく不機嫌に言い放つ。呆気に取られた三兄弟の前へつかつか歩み出ると、二人は面の下でにっこりと悪い笑顔を浮かべた。
「じゃ、いくわよ〜」
 のんびりと笑ったオリヴィアは、しかしその様子とは裏腹に、素早く正面に氷の盾を形成した。同時に、円も勢いよくアサルトカービンを構える。
「わかりましたって……あれ?」
 そんな時、同時に空間へと到着した者がいた。パートナーの九重 朱花(ここのえ・しゅか)に引き摺られた、御巫 楓耶(みかなぎ・ふうや)である。諦めたように述べていた言葉を切り、楓耶は疑問気に首を傾げた。推理していた状況と、目の前に広がる状況が大きく異なっていたからだ。
 それは朱花もまた同様だった。目の前の戦場を一瞥し、真っ直ぐ狐面の二人へと目を向ける。
「楓耶。……あの二人を」
「ええ、それが妥当でしょうね」
 一頻り場を見回した楓耶も頷き、朱花からランスを受け取った。最早少数となったゴーレムたちは、消耗した生徒たちでも充分に倒すことが出来るだろう。真っ直ぐ駆け出した二人に、幾つか続く人影があった。
 仁もまたランスを握り、ミラを伴って駆け出していた。あの二人組を放置するのはまずいと、直感が告げている。宗次と鞘子もそれぞれに武器を握り締め、真っ直ぐ狐面の二人目指して駆け出した。機は、今だ。
「来たわねぇ〜」
 向かってくる生徒たちを見て嬉しそうに笑ったオリヴィアの傍ら、円はスプレーショットで弾丸を掃射した。ランスが、鎧が、禁猟区がそれを弾き、怯まずに突っ込む生徒たちの前に、氷の盾が立ち塞がる。
「邪魔だ!」
 口調を乱した宗次ががデリンジャーを押し当て、引き金を引き絞る。同時にランスの穂先が突き刺さり、美しい盾の表面にぴきぴきとヒビが走る。しかし。
「残念だったな」
 にやりと弧の形に唇を歪めた円が、銃口をヒビの中心部へと向ける。銃撃音に続けて氷の割れる澄んだ悲鳴が奏でられた、その直後。盾を形成していた氷が刃へと形を変え、油断した一同へと一斉に襲い掛かった。
「朱花!」
 咄嗟に朱花を庇うように飛び出した楓耶に、数多の刃が襲いかかる。鎧の隙間をぬって突き刺さる鋭い刃に、楓耶は苦しげに表情を歪めた。朱花が目を見開き叫ぶ。
「何故、こんなことを!」
「……君を守るのが、僕の使命ですから」
 満足げに笑う楓耶の言葉を受けて息を詰まらせ、上気する頬の熱を振り払うようにばっと周囲を見回した朱花は、楓耶を引っ張るようにしてその場から立ち去った。
 互いに展開したディフェンスシフトで互いを庇い合った仁とミラは軽傷で済んだ。頬を零れる一筋の血を拭い、仁は精悍な面持ちに怒りを添える。
 控えていた鞘子が展開した禁猟区によって、宗次もまた無事だった。そして彼らの背後からは、ゴーレムを片付けた生徒たちが一斉に迫っている。劣勢を悟った円とオリヴィアは狐面越しに目を合わせ、頷き合う。
「……それではみなさん」
「あでぅー」
 突き出された穂先をかすめる程度に留め、飛び退いた二人は現れた時と同様の唐突さで姿を消した。実際は岩陰に隠れじりじりと移動しているのだが、無数のゴーレムの骸が残るこの場所では、その姿を捉える事は困難だった。

 ゴーレムを失い、魔法を使用するだけの精神力も尽きたダッセ兄弟は、詰め寄る生徒たちからじりじりと後退する。斜めに下がって背中をぶつけ合ったイタルとクドールへ、堪り兼ねた生徒たちが一斉に襲い掛かる。
 その隙に逃げ出そうとこっそり端っこを歩んでいたガンチアの前に、不意に影が落とされた。崩れたゴーレムの上に仁王立ちして、男は高らかに宣言する。
「東に正しき変態いれば親交を深め、西に悪しき変態いればそれを正す。変熊 仮面(へんくま・かめん)、参上!」
 風も無いのにマントをなびかせる彼の姿を直視したガンチアが、凍り付いたように動きを止める。
「……へ、変態……」
「失敬な。このマントの下が全裸だと何故わかる?」
「見えている!」
 苦々しげに視線を逸らしたガンチアが再び方向を変えようとするのを許さず、とうっ、と降り立った変熊は彼の片腕を取った。魔法を使うことも忘れ、赤い羽根の形をした変熊の仮面を呆然と眺めるガンチアにふっと微笑んだ後、変熊は大きく息を吸い込み叫んだ。

お・い・な・り・サンダー!!!

 叫びながら、ぐりっとまるで雑巾にするように、変熊はガンチアの腕を絞り上げた。同時にそっと、変熊は片手の甲をガンチアの股間へ運ぶ。
 声も出せずに口をぱくぱくさせるガンチアへ、変熊は聖母のような優しさでガンチアへ語り掛けた。
「馬鹿者!ズボンに染みを付けるほど抜くやつがあるか。……体に悪いぞ」
 身を案じるように柔らかく言い添えた変熊の言葉は、気絶したガンチアの耳には届いていなかった。