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関帝誕とお嬢様を守れ!

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第六章 関羽の座

 関帝廟の中は賑わいはあるものの、厳重な警備の上、空気が張り詰めていた。
 やっと見つけた団長と関羽は、関帝廟最奥の特別に作られた高い台座の上で、机上に並んだ豪華な食事を口にしていた。
 赤絨毯……。
 謁見する為には、一体何Mあるのかと思うほどの長い長い赤絨毯の上を歩かなければならない。
 二人が並んで座っている台座の脇には、関羽へのプレゼントであろう山が出来ていた。
 はるなとアンレフィンは、緊張した面持ちで前に出た。
 四方八方からの鋭い視線を感じる。なんて緊張感!
「はるな! 右手と右足が一緒に出てる!」
「えっえっええつ」
 限界に近い。
「関羽様、お誕生日おめでとうございます。花束を持ってまいりました。お納めください」
「おおおおおおめでとうございます!」
 近くの従者が寄って来たので、自然と花束を手渡した。
 奥の方まで持っていくと、数人の従者達が集まりだして何か話しながらそれを触りまくっている。
 け、検品!?
 一人が台座を上り、関羽の元へ花束を持って行った。
「これは……うむ……素晴らしいな。ありがとう、美しい花だ」
 ほわぁ〜っと。
 二人の頬が赤く染まる。
 ぺこりとお辞儀をすると、慌てて後ろに下がった。
「き、緊張した〜」
「でも貰ってくれた、良かったね」
 二人はもう一度笑った。
 その姿を見てから今度は真紀とサイモンが前に出た。
 用意した物は、月餅。
 先程と同じく従者に渡すと、なんと奥でそいつらが食べ始めてしまった。
「うわっ!」
「……た、食べてる? ……もしかして毒見? 毒なんて入れるわけないのにぃ」
 関羽の元に渡ったのは、半分にされた月餅。
 二人の様子に気づいてか、関羽が優しく声をかけてきた。
「すまぬな……貰う物は、検品が必要になるほどの徹底振りだ。命を狙われてもおかしくない身の上なのでな。周りの者が心配してくれるのだ」
 関羽が、少し寂しそうに微笑んだ。
「……うん、旨い! ──礼を言うぞ」
 二人は深くお辞儀をすると、手を取り合って後ろに下がった。
「ほぅ、今度は中国の衣装か」
 関羽が楽しそうに言うのを耳にして、真一郎とサミュエルはごくりと唾を飲んだ。
 まずはサミュエルが。
「あ……あの 関羽……さま、誕生日オメデトウゴザイマス 良かったらつかってクダサイ!」
(うあわわわわわ……ひゃぁー 渡しちゃっタ!!)
 女子中学生がチョコを憧れの先輩にあげるかのような気分でサミュエルは叫んだ。
 自分で手渡すことは出来なかったが、本人の手には確実に渡った。今、目の前で関羽に手渡されている!
 従者が、何か耳打している。
「……私の為に、苦労してくれたようだな。ありがとう」
 サミュエルは、はっとする。
 自分のぼろぼろの手を、気遣ってくれた!
「も、もも勿体無いお言葉でございマス」
 サミュエルは泣きそうになった。
──自分の番だ。
 真一郎が前に出る。
「あの、剣舞を納めたいのですが、よろしければ一緒に舞ってはいただけませんか?」
「……すまぬ。色々あって……そなた達の傍へ行くことは出来ぬ。舞って見せてくれるか?」
 慈愛に満ちた関羽の瞳に感激しつつ、真一郎は大きく頷いた。
「サミュエルも一緒に舞おう」
「え……でも俺 こういうの下手ダシ……!」
「オレがサポートする」
──荒い息をつきながら舞を終えると、関羽が言った。
「そなたの舞……懐かしい女子を思い出した。いや、そなたは男であるから一緒にされてはちと困るやもしれんが……美しい踊りだった。いや戯言よ、感謝する」
「有難いお言葉……痛み入ります。──ありがとう、サミュエル」
「やったネ」
 二人は満面の笑みを浮かべた。
「──ほぉ……酒か」
 グラス二つに注がれた酒を、関羽は嬉しそうに眺めた。
 レオンハルトとシルヴァが駆けずり回って探した中国酒。
 そして夢見が自分で選んだ美味しい日本酒。
 気に入ってくれると良いのだが……
「うん、旨い!」
 舌鼓を打ちながら豪快に笑う。
「ありがとう、心から礼を言うぞ。ちなみにこの酒は──」
「はい、町中を探し回ったのですが中々良い物が見つからず……こちらにいる夢見に教えてもらい、手に入れることが出来ました」
「私は自分で色々吟味して……こちらが良いのではと思いました」
「私のために──すまぬな。……いや、ここは礼を言うべきか。ありがとう」
 三人は小さくガッツポーズをした。
──皇甫とうんちょうは順番に倣って前に出た。
 従者が耳打ちする。
 皆が捧げ物を渡している中、自分達には何も無い。
「……奉仕活動をしてくれたのだな。大変だったろう、ありがとう」
 思いもかけない労いの言葉をもらえて、二人は膝を折った。
「これからもお仕え致します!」
「同じく、このうんちょう タン、命に代えましても──!」
 関羽が微笑んだ。

 鄭は関羽にプレゼントを持ってきたふりをして、ある程度の距離に近づくと、いきなり【シャンバラ教導団団長】金 鋭峰(じん・るいふぉん)に飛び掛っていった。
 が、すぐさま周りにいる何人もの警備兵に取り押えられる。
 その様子を呆然と見ていたパンダ着ぐるみ姿の楊だったが、はっとすると、慌てて団長達の前にひれ伏した。
「みみみ皆さんごめんなさいアル! 鄭は団長に何の恨みもないし、悪意もないアル。ただ団長の腕に興味があっただけアル。目的のために手段を選ばない子なだけあるから、許してほしいアル!」
 何度も頭を下げる楊。
 団長はため息をつくと立ち上がった。
「今日は無粋な真似はしたくないのだが……」
「許してくださいアル〜!!」
「──我が名は鄭紅龍! 覚えておいてもらおう、金鋭峰!!」
 取り押さえられながらも、鄭は叫んだ。
「ぎゃぁ〜〜〜! 嘘アル! ごめんなさいアル! 許してほしいアル〜〜〜!」
 一瞬、団長が微笑んだかのように見えた。だが、すぐにあの人を見下したかのような冷たい視線を鄭に向けると。
「……今のその状態ではな……己自身の力でここまで上ってこい。そうすれば──いつでも打ち合ってやるぞ。まぁ、その気があればの話だがな」
 団長の姿が、とてつもなく大きく感じられる。
「……おもしろい。良い学校に入った」
 鄭は挑戦的な笑みを浮かべると、楊を引き連れて座を後にした。