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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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 また、別のところからドラゴン棲息域に踏み込んでいる者たちもいた。ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)と、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)の二人である。ベアは他のドラゴン・スレイヤーたちと同じく、ドラゴンと戦うことを夢見ている。そのため、蒼空学園の生徒でありながらも、この訓練に参加しドラゴン観察に来たのだ。
「この辺りにドラゴンはいないか? とにかく視界が悪くて、観察できないぜ」
 ぶつぶつと文句を言うベアをマナがつつく。
「ベア!お弁当もってきたよ! はい!」
「お、サンキュー…ってこれ、なんだよ」
「マナ特製、ヒヤヒヤカレーよ! さ、これで召し上がれ」
「箸じゃねえか! 食えねえ! つうか、マナの弁当は重箱ですか!」
「ベアがこんなところに連れてくるからよ! もうつまんない!」
「それにしたってこの弁当はないんじゃないか」
「食べないと、お仕置きよ、ベア?」
「はいはい…カレーは飲むしかないか」


 セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)は、ドラゴン棲息域で不審な人物を見かけた。
 彼自身、不穏分子として振る舞いつつ、ドラゴン棲息域までやってきたのだ。
 だが、いまのところ、彼を怪しむ人物も、彼が怪しいと思う人物もいなかった。
 しかし、目の前には汚れた麻布のようなマントを被り、手に何かを抱えた明らかに怪しい人物がぞろぞろとマントを引きずりながら歩いているのと出くわす。
 どうやら一般人らしい。背中が曲がっているため、老人かと推察された。
 しかし警戒を怠らない。セバスチャンのパートナー、グレイシア・ロッテンマイヤー(ぐれいしあ・ろってんまいやー)が老婆のような扮装をし、ローブで顔を隠しながら老婆の声でぶつぶつ言い、『順路此方』と書かれた立て札を手渡すやそそくさと二人のいる場所を徐々に後にした。
 セバスチャンは『順路此方』とドラゴン生息区域を示した札を立てながら何気なく相手から話を引き出そうとする。
「ご老人、あなたはどこからおいでになられましたかな?」
 それに対して不審者は何も答えない。
 そこに、同じく不審者の侵入を警戒し、フラッグを探しているふりをしていた青 野武(せい・やぶ)黒 金烏(こく・きんう)がやってきた。
「これこれ、ここから先はドラゴン棲息区域の筈じゃな。立ち入りは厳禁じゃ」
 青 野武が不審者に声を掛ける。何より、不審者がその手に持っているものが気になっていた。
「ドラゴンを刺激しては訓練が台無しであります。というか、一般人の方が何故、このような場所にいらっしゃるのでしょうか?」
 黒 金烏もそっと老人を包囲する形で背後にまわる。
「ここは、一般人のくるところではありません。ああ、言い難ければ細部は暈して結構。さて、あなたはいずこからおいでになられたのでしょうか。身分証をお持ちかな?ああ、私ですか。シャンバラ教導団の者。…ああ、ところで私の任務ですが、不穏分子を捕まえろと言われてましてな…な、何をする!」
 老人と思われていた人物は、凄まじく早い動きで急にナイフをセバスチャンに突き上げる。
「セバスチャン!」
 驚いたグレイシアが火術を打ち上げると、それに気がついたクレアとハンスも駆けつけてくる。
「どうした!」
 クレアがアサルトカービンを構え、青 野武がデリンジャーを手にし、不審者を取り囲む。
「不穏分子、決定ですね」
 ハンスが一言呟く。
「姿を見せろ!」
 クレアの声に麻のマントの下の顔がにやりと笑ったその瞬間、爆発が起こり、大きな破裂音とともに周囲に硝煙が立ちこめた。
 どうやら、催涙ガスが混ぜられていたらしく、みんな目をやられてしまい、視界が遮られた。
「くそ!」
 全く視界が見えないなか、ハンスが禁猟区を作り上げ他の面々を守り、黒 金烏がヒールで催涙ガスの影響を取り除く。
「やられてしまったのう」
 青 野武ががっかりとして呟くと、黒 金烏がそれに応えた。
「ええ…でも自分は見ました。あのマントの下の人物を!」
「なんだって?」
「一瞬でしたが、確かに。…どうやら女のようであります。そして、腕に何かを抱えていました。包みのようなものでありました」
「それを早速、仲間たちに無線で伝えるんだ!」


 パラミタ情報誌『空京ウォーカー』特派員、エドワード・ショウ(えどわーど・しょう)は単独行動を決め込んでいた。彼は、訓練の取材に訪れた報道陣を装い、教導団の内情と不穏分子の情報を探っているのである。
 すでに葉士官に対しては、取材を申し込んだ際、教導団に申請と身分証明を行い、不穏分子、及びその協力者ではないことを証明し、行動の安全を図っていた。
「私も記者の端くれ。不穏分子の噂は聞こえていました。それにしても教導団の不穏分子、ですか。鏖殺寺院か、他学校の工作員か、はたまた教導団内部の権力争いか…。どちらにしても面白い話ですね」
 独り言を呟きながら、取材対象を探していると、不穏分子の探索をしていた痩身で銀髪をオールバックにしたマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)と出会った。マーゼンは、不穏分子の行動を把握するため、各人の監視に当たっていたのだ。
「君は何者ですかな!? 教導団の生徒ではないですな」
「ああ、私はあやしい者ではありません。パラミタ情報誌『空京ウォーカー』特派員、エドワード・ショウと申します」
と慌てて記者証を出す。
 それを一瞥すると、マーゼンはエドワードをねめつける。
(記者証などを持ってはいるが、それがニセモノではない証拠はない。行動を監視してみるかな)
「で、自分にどのようなご用ですかな」
「いや、用と言えば用はあるのですが…」
 本当のところ、エドワードは口が軽そうな士官候補生にインタビューと称して取材を行い、不穏分子というキーワードの言質を取る為、誘導を試みるつもりだったのだ。
(だがこの人は随分と口が堅そうで、しかも、私は確実に疑われていますね…さて、どうしたものか)
 そのとき、マーゼンの元に、青 野武たちからの無線が届いた。
「何だって…ドラゴンの棲息域に不審者が?」
 その横で、エドワードが聞き耳を立てている。
(荒っぽいやり口…意外と私の勘は外れていないのかもしれませんね…)
「エドワード・ショウ。君にも手伝ってもらいたい」
 無線が切れると、マーゼンーはくるりとエドワードのほうへ向き合う。
「私などを信用してよいのですか?」
「君が不穏分子なら、それも良いだろう。自分がすぐに君を捕獲すれば良い話だからな。自分と同行願えるかな」
「ええ、是非。私もローグ。何かお役に立てるかもしれません」