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氷雪を融かす人の焔(第3回/全3回)

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氷雪を融かす人の焔(第3回/全3回)

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●凍りついた町を融かす、熱き焔

 カヤノが発生させた冷気によって凍りついた町、イナテミス。
 今回の『氷雪の精霊』事件に巻き込まれた罪なき人々を救い出すため、冒険者が続々とこの地に集結していた。

「……ここからは、今この場に集まってくれた君たちの力が頼りだ。イナテミスの解放のため、私も君たちを導こう」
 熱弁を振るうカイン・ハルティスに、冒険者の視線が注がれる。彼の背後、微かに見えるイナテミスの周囲は、今も無数の魔物が跋扈していた。
「まずは、町の周りの魔物を一掃し、正面、左右二つの側門を抑える。同時に、仕掛けられた魔法陣に魔力を注ぎ込み、町の仕掛けを解く。その間も内外から魔物の抵抗が予想される。作業を行う者を護りながら、術を完成させてくれ。術が完成すれば、魔物は地に還り、町も解放されるだろう。復興の支援など、できることがあるようなら手伝い、一日も早く町を元の活気ある姿に戻そう。……質問はないか?」
 カインが、冒険者を見渡しながら問いかける。いくつかの確認と応答が交わされた後、異議を唱える者がいないことを確認して、カインが口を開く。
「凍りついた町を融かす熱き焔は、君たちの胸の内にある! それを忘れないでくれ」
 カインの言葉に勇気付けられた冒険者が、準備を整えた者から次々とイナテミスへ向かっていく。
(リンネ君、君は君の為すべきことを果たせ。私も私の為すべきことを為そう)
 隣で心配そうに見守るパム・クロッセの頭に手をやりながらカインが、『氷雪の洞穴』に向かったリンネのことを思う――。

「マスター、敵先鋒は横列を形成、私たちを迎え撃つ様子です。さらにその後ろに複数の魔物の集団を確認しました」
 イナテミス開放を掲げて進軍を開始した一行、先鋒を駆ける村雨 焔(むらさめ・ほむら)馬超 孟起(ばちょう・もうき)のところに、上空からの偵察によって得た情報をルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)が伝える。
「よし、分かった。ルナはそのまま上空より俺たちの援護をしてくれ。背後の護りは頼んだぞ」
「はい、了解です、マスター」
 ルナの駆る飛空挺が飛び去り、そして焔の前方に、姿形様々、しかしどれも氷雪で出来た魔物の群れが姿を現す。
「一番槍、果たしてくれよう。……麒麟、馬超、いけるな?」
「もちろんだ。氷雪の魔物など、俺の熱き正義の炎で蹴散らしてくれよう!」
 焔の言葉に、馬超が槍を構えて応え、そして焔の愛馬【麒麟】が一声嘶く。
「よし……行くぞ!」
 焔が鞭を打って速度を上げ、馬超もやはり愛馬【琉影】に一鞭くれて後を追う。魔物の姿がみるみる大きくなり、その内の一体、壁のように大きな身なりの魔物が、焔へ向けて冷気を浴びせる。
「跳べ、麒麟! 黒竜の爪牙……その身で味わえ!」
 焔が麒麟の手綱を操れば、それに応え麒麟が地を蹴って高く飛び上がる。吹き荒ぶ冷気を真下に、そして焔の打刀『残月』が振り抜かれる。刃が煌き、魔物の片腕が宙を舞い地面に突き刺さり、融けて吸い込まれていく。
「この馬孟起の正義の槍が、貴様の魂を貫く!」
 残る片腕で反撃を試みる魔物は、馬超の振るった槍にもう片腕をも吹き飛ばされ、体制を崩して地面に倒れる。
 先制の攻撃で一体を失った魔物だが、その程度で怖気付くことはなく、次いで振るわれた焔と馬超の攻撃を避け切り、駆け抜けようとした後ろ姿へ反撃を見舞おうとする。
「マスターは討たせません」
 羽ばたきで氷の柱を飛ばそうとした魔物が、より上空に位置取りしたルナの銃撃を受けて悲鳴をあげる。遠距離からの攻撃を得意とする魔物がことごとく、ルナの銃撃で攻撃の機会を潰されていく。
 旋回しての突撃からの一撃を繰り出す焔と馬超、その背後からリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が、かつて日本が激動の変化の時代に懸命に生きた者たち、新撰組の衣装をまとい、巨大な両刃剣『アワナズナ・スイートピー』を後ろ手に構えて魔物の群れを目指す。
「よっしゃ、準備運動もバッチリや! 最初からフルスピードでとばしまっせ〜!」
 そのリアトリスすらも追い抜いて、マーガレット・ヴァーンシュタット(まーがれっと・ばーんしゅたっと)が残像すら生み出しかねない速度のまま、細身の槍を振りかざして魔物を攻撃する。一撃の威力は大したほどではないものの、魔物の注意を引くには十分な効果を発揮していた。
「お店の宣伝も兼ねて、いつもより多く舞っちゃうよ!」
 そこに、舞うように滑り込んだリアトリスの、剣の一撃が振るわれる。魔物の片足を切り飛ばして転倒させ、なおも舞い続けるリアトリスの背中には、お馴染みの文字ではなくとある店の店名が刻み込まれていた。
「……で、何で俺らまでこの格好なんだぁ!? なんつーかこう、動きにくいっていうか恥ずかしいっていうか……」
 後方で仲間の回復に努めていたカレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)が、自らの格好を鑑みて声をあげる。その直後、魔物が放った冷気の直撃を受けて、仲間の冒険者が見事までに凍り付いてしまう。
「マーガレット、私が炎で援護します、その隙に接近しての一撃を! カレンデュラは負傷した人の治療を!」
「……おっ、よく見ればなかなかのオトメン!! 待ってろ、今すぐ治療してやる!」
 パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)の指示に、カレンデュラがしかし別の目的を孕みつつ駆け出していく。マーガレットが矛先を変えたのを見遣って、パルマローザが炎を両手に生み出し、それを弓を引くような仕草で練り上げ、魔物に向けて放つ。放たれた矢は途中で無数の小さな矢に分裂し、魔物を次々と炎に包んでいく。
「こいつの一撃、食らいやぁ!」
 炎に苦しむ魔物のすぐ上空へ舞い降りたマーガレットが、両肩に装備されたライフルの零距離射撃を見舞う。肩口から弾丸に縫い付けられるように衝撃を受けた魔物が地面に転ばされると同時、煌々と紋様の浮かび上がった刀身を掲げたリアトリスが、地面すら等分する勢いで剣を振り下ろし、そこから発生した高熱の爆炎にその身の全てを蒸発させられた魔物が、一欠けらも残さずこの場から消え去る。
「こ、これは凄まじい炎ですね。僕も、と言いたいところですが――ゴホッ、ゴホッ!!」
「あんたは無理すんな。どうせ魔法陣についたら大量の火が必要になるんだ、それまで温存しておけ」
 地面に筋を残す程に強力な炎の風に、感銘を受けたカディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)がしかし咳き込み、カノン・コート(かのん・こーと)が介抱しつつ言葉をかける。
「そうよ、あなたにここで倒れてもらっては困るわ――」
 二人の前方で、道を塞ぐ魔物を退けた水神 樹(みなかみ・いつき)が振り返り、声をかける。直後、樹の背後から、獣の姿をした魔物が飛び掛かり、氷の鋭い爪で攻撃を仕掛けんとする。
「樹! 後ろ!」
 カノンの声に反応した樹が、ハルバードをかざして防御する。爪は樹の身体を掠る程度で空を斬り、そして振るった一撃が魔物を吹き飛ばす。すぐに襲ってくる気配の無いのを確認して、樹が再び振り返る。
「樹さん、大丈夫ですか!? すみません、守っていただいて」
 心配するカディスに、樹が平気な様子で応える。
「心配ないわ。あなたは私が守ると決めたもの。だから安心して、魔法陣を目指しましょう」
 言って樹が、長々としたハルバードを手に、襲い来る魔物に立ち向かっていく。
「樹、こいつで張り切って来い!」
 カノンの掌から生み出された加護の力が、樹を取り巻く。
「ええ、あなたもカディスをお願いね!」
 頷いて、樹が魔物に対しハルバードを振りかざし、刃と氷とが接触する音が激しく響き渡る。
「それじゃ行くか。あんたの火の力、期待してるぜ」
「……はい、お任せください! ――ゴホッ、ゴホッ!!」
 樹、そしてカノンの言葉に勇気付けられたカディスが、咳を漏らしつつも多少顔色をよくして、カノンと共に魔物の群れの中を駆け抜けていく。

「……ふむ、道が開けたな。……ユニ、アメリア、行くぞ……道は俺達が広げる!」
 戦線突破を主とした者たちの活躍により、戦線に魔物の極端に少ない部分ができ始める。そして、その機を逃すまいと、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が背後に控えるユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)アメリア・レーヴァンテイン(あめりあ・れーう゛ぁんていん)に呼びかける。
「はい、分かりました、クルードさん! アメリアさんも、一緒に頑張りましょうね!」
「ええ、ユニも頑張りなさい。……パラミタの平和を乱す者は、私が許さないわ!」
 ユニとアメリアが互いに頷き合い、そしてクルードが愛馬【スレイプニル】の腹を蹴って駆け出すのに続いて、ユニが飛空挺で上空に舞い上がり、アメリアが愛馬【グラニ】を疾走させる。
「……我が身に宿りし蒼天の力よ……
 その輝きを示せ!」

 掌に蒼く迸る炎を宿らせたユニが、魔力をこめた一撃を投下する。解き放たれた蒼い火弾が地面で炸裂し、魔物を炎に包んでひるませていく。
「邪魔よ、退きなさい!」
 立ちはだかる魔物に対し、アメリアの騎乗姿勢から振り上げた薙刀の先に、炎が収束していく。球体になったそれを放るように振り下ろせば、前方へ炎の風が奔り抜け、炎に身体を焼かれた魔物がたまらずアメリアを乗せたグラニに道を譲る。
「……冥狼流奥義……その身に刻んでやろう!」
 鞍から腰を浮かせたクルードが、手にした刀を居合いをするような位置に構え、咆哮と共に刀を抜き放つ。全身から湧き上がった闘気が刀に移り、それは狼を彷彿とさせる白銀の炎となって、斜め前方から飛び込んできた魔物を包み込む。地面に倒れ伏す魔物の弔いとばかりに、駆け去ろうとするクルードの背後を襲うべく、魔物が息を大きく吸い、冷気をぶつけんとする。
「クルードさんは、私が護ります!」
「クルードの邪魔はさせないわ!」
 しかしその魔物は、ユニの放った蒼い稲妻に全身を貫かれ、通り過ぎさまアメリアが振り下ろした薙刀に傷を二つつけられ、音を立てて崩壊し、その場に欠片となって消えていった。
「あちらも今のところは順調にいっているようですね。では、こちらも行くとしますか。超雲、俺の後方側面に付いて、脇からの襲撃に備えてください。君はその反対側に位置して、やはり脇からの襲撃を防いでください」
「心得ました。行く手を阻むものは、この槍で貫いてみせましょう」
「分かりましたです。みんな、守ってみせますです!」
 幾名かの、魔法陣へ作業を行う目的を持った者たちを引き連れた橘 恭司(たちばな・きょうじ)の呼びかけに、趙雲 子竜(ちょううん・しりゅう)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がそれぞれの得物を振り上げて応え、所定の位置につく。
「それでは私は趙雲さんの後ろに付きますね。後方の警戒はお任せください」
「わいはヴァーナーの後ろですわ。めいっぱいフォローしますわ」
 クレア・アルバート(くれあ・あるばーと)セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が位置につき、作業を行う者たちを護る五芒星型の陣形が完成する。そのまま敵陣突破を開始した一行に、早速魔物の群れが襲いかかる。単騎で飛び込む冒険者より、集団で動く冒険者の方が狙い易いと踏んだのであろう、一行の倍はいようかという魔物たちが、殺意をむき出しにして飛びかかってくる。
「彼らをやらせはしませんよ。彼らは町を救う、貴重な戦力ですからね。全員揃って門まで送り届けます」
 踏み込んだ恭司の振り抜いた太刀が、飛びかかった魔物の四肢を吹き飛ばす。蹴りで魔物を押し戻した後、その足を地面に着けて回転するようにしながら、手近な魔物へ回転の乗った太刀の一撃を浴びせる。後足を胴体から切断された魔物が、全身を震わせながら地面をのたうつ。
「輝かしい未来を持つ者たちを、むざむざ殺させはしない!」
 上空を飛び交いながら攻撃の機会を窺う魔物を、超雲が厳しい視線で追う。羽ばたいた羽根から生み出された氷の柱を、槍を回転させることで防ぎ切り、急降下しながらの一撃を加えんとする魔物へ、逆に槍の一撃を繰り出す。片方の羽根をもぎ取られた魔物が、ふらふらと制御を失い、やがて地面に落下する。
「これでおわりにするんです。じゃまはさせないです!」
 ヴァーナーの振り抜いた剣が、投げ付けられた氷塊を打ち砕く。発生した破片がヴァーナーを襲うが、防御姿勢を取ったことと氷結への加護を得ていたことにより、抵抗力を殆ど減じられることもなく、次いで放たれた氷塊をまたも剣の一撃で打ち砕く。
 前方、及び側面からの抵抗にあった魔物の一部が、一行を後方から襲うべく回りこむ動きが確認された。
「完全に回りこまれる前に、わいの火術で燃やしてあげますわ!」
 いち早くその動きを察知したセツカが、魔法陣を展開させそこに魔力を注ぎ込む。生成された炎に命じれば、それは地を走る竜の如き炎となって燃え上がり、魔物の進路を塞ぐと同時に燃え上がらせる。
「大事な皆さんには、近付かせませんよ!」
 反対側からもやはり回り込もうとする魔物へ、クレアの構えた刀身から炎が湧き上がる。それを目の前を駆ける魔物へ向けて放てば、炎が音速波の如く飛び荒び、素早い動きで地を駆けていた魔物の身体を頭から胴体、尻尾へかけて寸断し、二つに分かたれた身体をそれぞれ震わせて、魔物が地に伏せる。一行の活躍で一旦は勢いの衰えた魔物だが、すぐにまた勢いを取り戻して一行の前に立ちはだかる。
(そう簡単には行かせてくれませんか。……ですが、こちらにも退く理由はないですね)
 ますます血気盛んな魔物に、恭司が剣を構え直して息をつき、踏み込んで駆け出す。他の者たちもそれに続くように、剣を振り上げ、魔法陣を展開させる。