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伝説のメイド服を探せ!

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伝説のメイド服を探せ!

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ジャタの森でティーパーティ
 ふんわりと漂うチョコの香り。その香りと溶け合うように立ち上る、紅茶の湯気。
「はい、どうぞご主人様。アップルティーでございます」
 休憩と称して始まった森のティーパーティで、全員ひとときの癒しを楽しんでた。
「ことのはさん、お茶の濃さはこれくらいでいいのですか?」
 メイド服を着用しているから、という理由だけでお茶会の手伝い役に任命されたエルシー・フロウ(えるしー・ふろう)だが、ことのはとお喋りをしながら、楽しく役目をこなしていた。
「いいカンジですわ。絶妙の濃さですわよ、エルシーお嬢様」
「やった! ……ねぇことのはさん。ぴなふぉあでメイドさんをやっていて、どんな楽しみがありますか?」
「そうですわね……。わたくしたちメイドは、ご主人様やお嬢様に喜んでいただくことが一番の目標ですの。ですから、ありがとうとおっしゃっていただける時が一番幸せですわ」
「そうなんですね。あ、ちなみに、ぴなふぉあのオススメメニューは?」
「うふふ、それはもちろん文字入れオムライスですわ! わたくしはちょっと苦手ですけど……」
「香苗も、人に喜んでもらえる、ことのはちゃんみたいなメイドさんになりたいな!」
 エルシーと一緒にお茶の手伝いをしていた姫野 香苗(ひめの・かなえ)も話に加わった。
「香苗は、お姉さまたちに好かれるメイドになりたいの! どうしたらいいかな?」
「それでしたら、香苗お嬢様が人にしていただいて嬉しいことを、お姉さまにもして差し上げればいいと思いますわ」
「香苗がしてほしいこと……」
「ええ。一度ぴなふぉあ空京店にお越しになってみてください。きっと勉強になるはずですわ」
 ことのはがにっこりと笑い、香苗の頭をなでなでした。
「えへへへ〜〜。香苗がして欲しいことかぁ。それってこれだな!」
 ぎゅー。
 香苗は、近くにいたエルシーのことをぎゅっと抱きしめた。
「きゃあ! びっくりしました!」
 エルシーはやや戸惑っているが、香苗は気にしない。
「同じメイドを目指す者同士、百合園同士、仲良くしようね!」
「うふふふ、メイドさんを目指すお友達ができましたね」
 ことのはが二人をにっこりと見守っていた。
「ほらほら、ことのはちゃんはこっち座ってや」
 執事として給仕をしていた社が、ことのはに着席をすすめた。
「えー……だけど、わたくしが皆様のお世話をしなくては」
「たまにはええやん。もてなされる側になってみるのもええんちゃうの?」
「そうそう。ほら、ここに座ってよ、ことのはちゃん!」
 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)が背中を押して、ことのはを座らせた。
「今日はお客さんってことで。ね?」
「うふふ。では、お言葉に甘えさせていただきますわ」
 ことのはは珍しく、給仕を受ける側となった。
「ことのはちゃんはギターが好きなのよね?」
「ええ。まだまだ勉強中ですけど」
「あたしも音楽大好きなの! やっぱりロックよね!」
「路々奈お嬢様には、なんだかロックがお似合いですわ」
「ふふ。そんなこと言われたら……歌いたくなっちゃうじゃない!」
 路々奈がすっと立ち上がった。
「蒼空寺路々奈、歌いまーす!」
「はいはーい! ファイも歌いまぁす!」
 路々奈に同調して、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)も立ち上がった。
「君もなかなかノリがいいですね!」
「路々奈ちゃん……ですわよね。お歌、ご一緒させてください!」
 路々奈とファイリアは、声をあわせて歌い始めた!
「まあ、素敵! ファイリアお嬢様もお上手ですわ!」
 全員、盛り上がって手拍子を始めた。
「こんなに暗くて怖い森の中では、お歌で元気を出すのがいいですよね!」
「暗い森……?」
 ファイリアの何気ない言葉に、刀真はふと周りを見た。
「刀真おにいちゃん……なんだか森がさっきと違う……」
 ヴァーナーも気が付き、刀真にくっついている。
 さっきまで木漏れ日が差し、明るかった森は、いつの間にかどんよりと暗く、湿っぽい雰囲気になっている。
「皆さん、気付いてなかった? さっきから暗くて不気味なんですよ」
 ファイリアが、ぶるりと身を震わせて言った。
「だからお歌で、元気を出していただこうと思ったのよ……」
 数人が、異変に気がつき始めていた。
 最も異変を強く感じていたのは、動物だ。
 ティーカップは、震えながら歩のゆるスターの側を離れない。
「ラヴ、シャール! 守ってあげて」
 真希が、使い魔の猫に指示を出す。
 白猫ラヴァンと黒猫シャホールが、ティーカップとゆるスターを抱くように寄り添った。
「ラヴはツンとしてるし、シャールは落ち着きがないけど、やる時はやる子だから、大丈夫」
「ありがとうございます!」
 愛猫ティーカップの安全が確保され、ことのはもほっと胸をなで下ろした。
「ん? あれれぇ? なんか、我に返っちゃったカンジかしら?」
 どこからともなく、声が響いてくる。
 ねっとりとした、大人の女性の声のようだ。
「あーあ、もうちょっとだったのにねぇ……。お茶を飲ませるところまではうまくいってたのに」

ドリアードの甘い罠
「……あそこだ!」
 周囲を常に気にかけていた瓜生 コウ(うりゅう・こう)が、上空を指さして叫んだ!
「精霊だな! オレたちをたぶらかそうったって、そうはいかないぜ!」
 コウが凄むと、上空から高笑いとともに、精霊が姿を現した。
「見つかっちゃった」
「あんた、ドリアードだな」
「ふふふ。よくご存じね。あたし、イケメンだけじゃなく、あなたみたいな綺麗な黒髪の女性も好きよ……」
「黙れ! そもそも、ここでお茶会を開くように提案したのもお前だろう」
「あーあ、バレバレ」
 精霊ドリアード。その妖艶な美貌で旅人を惑わし、森に閉じこめてしまう危険な精霊だ。
 さっき「お茶にしようよ」と提案した声は、実はこのドリアードだったのだ。
 この森に引き留めて、閉じこめるために。
 ふわりと降りてきて、コウに近付く。
「お姉さんと遊ばなぁい?」
「遊ばない!」
 きっぱりと断るコウ。少しでも意志がぐらつくと、ドリアードの虜にされてしまう。
「そこのお姉さん! 俺と愛し合わないかっ!?」
 にやりと笑ってドリアードに寄っていくのは鈴木 周(すずき・しゅう)
「うふふふ、ツンツンさんも好きよぉ」
 妖艶な笑みを浮かべて、今度は周に近付いていくドリアード。妖気が効いて、周を虜にできたと信じて疑わない。
「すまねぇが、今回はメイドさんにしか興味ねーんだよ!」
 どんっ!
 周がドリアードを突き飛ばす!
「な……!」
「ナメてもらっちゃ困るぜ、ドリアードちゃん」
「貴様あっ!」
 キレたドリアードが爪で襲いかかる!
 が、間一髪! 周はシールドで爪をはじき飛ばした!
「へへ、これでもちゃんとセイバーやってるんだぜ?」
 一瞬、ひるむ様子を見せたドリアード。
「お手伝いしますっ!」
 そのスキを逃さず、菅野 葉月(すがの・はづき)がドリアードに体当たりした!
「ことのはちゃんや皆さんのお役に立ちます!」
 どんっ!
「くぅ!」
 吹き飛ばされた勢いで、ドリアードはふたたび空中に浮かび上がった。
 木の陰に隠れ、姿が見えなくなる。
「気をつけてください! どこかに現れます!」
 葉月が周囲に声を張り上げた。
「それじゃ、メイドさんを守らなくちゃね」
「次は仕留めてやるぜ」
「どこに行ったのかしら……」
 コウ、周、葉月の三人で、ことのはの周囲をしっかりとガードした。
「す、すみません……」
「いいから伏せてなよ。結界装置だけは傷つけちゃダメだぜ」
 ことのはは素直に、頭をかかえて地面に伏せた。
「いけない! うしろっ!」
 葉月が声を上げて指を指した。
 ドリアードはいつの間にか本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)の背後に出現していた!
「ああ、あたしやっぱり黒髪に黒い瞳って好きだわぁ」
 涼介の、ややぼさっとした髪の毛を、細長い指でそっとなでるドリアード。
「ねぇ、お姉さんと遊ばな……」
「効かねぇな!」
 『博識』のある涼介は、ドリアードの誘惑を受け付けない。
「見た目お姉ちゃんだからって、手加減はしねぇぜ!」
 素早くロッドを突き出すと、見事ドリアードの肩に命中した!
「痛あっ!」
「クリティカルヒット! こいつはいいことがありそうだ」
 にやりと不敵に笑う涼介。
「ジャタの森のことは少々知っていたからね。こういうお姉ちゃんが出るのもうなずけるぜ」
 ジャタの森で発生する様々な現象に詳しかった涼介は、常に警戒を怠らず、ドリアードの出現にも落ち着いて対応できたのだった。
 再び身構える涼介を見て、誘惑することができないと悟ったドリアードは、再び木陰に姿を隠した。
「ちっ。また消えやがった! 全員、注意しろ!」
 神経を集中し、周辺を見回す涼介。
「どこ行きやがった……。ことのはちゃんと、猫ちゃんに手を出したら許さないぜ」
 そう言いながらことのはのいる方向へ視線を巡らせた瞬間。
「そこだ! やばい!」
 ドリアードが現れたのは、ことのはの真上だ!
 涼介が駆け出すが、やや距離があって間に合いそうもない。
「ことのはちゃん! くそ……誰か頼む!」
 ドリアードが長い爪を光らせ、ことのはを狙っている!
「この小娘がリーダーかい! 覚悟しな!」
 ドリアードが今まさにことのはに襲いかかろうとした、その時。
 ぴーんっ!
「あ、あら……?」
 ドリアードが来ているドレスのような衣の端に、釣り針のようなものが引っかかっている。
 そこから伸びる糸の先には……。
「ひっかかったぁ!」
 にっこりと笑う望月 あかり(もちづき・あかり)がいた。
「ドリアードさんが釣れたよ〜」
「やだもう、お洋服破けちゃうじゃない!」
「本郷が気を引いてくれたおかげで、余裕でのんびりイタズラ仕掛けられたよ!」
 あかりが引っ張る糸のせいで、上空に逃げることはできない。
 仕方なく地上に降り立ったドリアード。ところが!
 ズボッ!
「きゃああぁぁぁ!」
 足元にぽっかりとあいた落とし穴に真っ逆さまに落ちていく。
「トリック・オア・トリックだよ!」
 この落とし穴も、もちろんあかりの仕業。
「今のうちにことのはちゃんをもっと安全なところに連れて行ってねぇ」
 他のメンバーに向かって笑顔で手を振るあかり。
「了解した!」
 素早く反応したのは、ロッソ・ネロ(ろっそ・ねろ)
「ことのはちゃん、少しここから離れよう」
 ことのはの手を引いて、ゆっくりと立ち上がらせる。
「少し走るよ!」
「……はい!」
 そのままことのはの手を引っ張って、安全な方向に走った!
 ちょうどその時。
 まさかこの期に及んでイタズラで追い詰められるとは思っていなかったドリアードは、土と枯れ葉にまみれながら、半泣きではい上がってきた。
「ああんもうっ! 逃がさないからっ!」
 ドリアードの爪先から、鋭い刃先のようなものが飛び出す!
 それは真っ直ぐに、ことのはとロッソの方向に飛んでいった!
「そうはいかないねぇ!」
 カァン!
 植物の蔦のような鞭がひゅんと飛び出し、鋭い刃を弾き落とした。
「女の子はちゃんと守らないとねぇ」
 鞭を飛ばしたのは麻野 樹(まの・いつき)だ。
「何があってもメイドさんに危険がないようにするのが、俺の役目だからねぇ」
 優しい瞳をしているが、その視線はしっかりとドリアードを見据えている。
 次にドリアードがどのような動きをしても、すぐに樹に止められてしまうだろう。
「ロッソくぅん! あの大きな木のあたりまで、ことのはちゃんを連れて行っておいてねぇ!」
「わかった! ありがとう!」
 背後の無事が確保され、ロッソは指示された通り、大きな木の陰にことのはを非難させた。
「ここにいれば安全だから!」
「ありがとうございます、ロッソ様。あと……練習のしすぎには気をつけてくださいませ」
 ことのはは、ロッソの手を握った瞬間、その掌がマメや傷だらけであることに気が付いたのだった。
「……お恥ずかしい」
「いいえ。鍛錬なさるのは素敵なことですわ」
 その頃。為す術無くなったドリアードは、落とし穴の縁にしがみついたまま、目に涙を浮かべていた。
「こうして見ると、この子も女の子なんだけどねぇ」
 微笑みながら言う樹だが、ランスはしっかりとかまえていた。
 もうどうあがいても逃げ切れないことを悟ったドリアードは、がっくりと肩を落とした。
「そんなぁぁ。こんな失敗初めてぇ……」
「……精霊さん、可愛いねぇ。ザンスカールの精霊さんより気品があるし……」
 ドリアードをなだめ始めたのは城定 英希(じょうじょう・えいき)
「可愛い……ホント?」
「あ、いや、まあ……うん」
「ありがと……」
「あーいやー……まぁ気にしないで」
 頬を赤らめるドリアードと、意外な可愛さにちょっと焦り気味の英希。
 このやりとりをしている間に、ドリアードの戦意は完全に失われたようだ。
「ドリアードさん、ちょっと遊んで欲しかっただけだよね!」
 ラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)も、ドリアードに優しく声をかけた。
「寂しかっただけでしょ?」
「うん……。だって、こんなに大勢の人がこの道を通ってくれるのって、すっごく久し振りだったんだもん……」
 下を向いてぽろぽろと泣き出したドリアード。
「泣かないで。ボクはもうお友達だよ」
「……お友達?」
「うん、お友達!」
 ラーフィンがドリアードの頭をよしよしとなでた。
「ふええぇぇん!」
 ラーフィンが優しくすると、ドリアードは堰を切ったように声を上げて泣き始めた。
「まあ、これよかったら使えば」
 英希がハンカチをドリアードに差し出す。
「うう……なんか、ごめんね……」
 素直に受け取って涙を拭う。
 ドリアードは、一方的に襲ったことを反省したようだった。
「ねぇ、そろそろドリアードさんを穴から出してあげようよ」
 ラーフィンが周りに呼びかけた。
「よし、じゃあ引っ張り上げようかねぇ」
「つかまりなよ」
 樹と英希がそれぞれドリアードの手を引っ張り、落とし穴から救い出した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 下を向いて反省しきりのドリアード。
 それを見て、安全を確信したことのはは、木陰から出てきた。
「樹様、英希様、ラーフィン様も、ご無事で何よりですわ」
 ことのはが、戦いを終えたメンバーに一礼する。
「自分も頑張ったよ。イタズラだけど」
「あかり様も、ありがとうございました」
 ことのはは、小柄なあかりの頭をなでて、にっこりと笑った。
 そして泣きやまないドリアードに近付いて言った。
「わたくしたちも、あなたの住む森で騒がしくしてごめんなさい。これからはみんなお友達ってことでいいかしら?」
「うん……」
 ドリアードはこくんとうなずいた。
「わたくしたち、行きたい所があるの。方向を知っていたら教えてくれる?」