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伝説のメイド服を探せ!

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みりのベースキャンプ
「ことのはちゃぁん! おつかれさまでしたぁ!」
 ことのは一行が切り開いた道を通って合流してきたのはサポートチームのみり
 両手にいっぱい抱えている荷物は、応急手当の道具や飲み物だ。
 ドリアードが道案内をしたおかげで、最短ルートで遺跡への道を開いたことのは一行は、遺跡の前にある小さな広場で休憩をしていた。
「お待ちしておりましたわ、みりさん!」
「もうじきゆずちゃんきやともちゃんもここに到着いたしますにゅ」
「……それにしてもみりさん、すごい荷物ですわね」
「ここにベースキャンプを設置して、疲れたご主人様にお休みいただくのですにゅ!」
 みりと一緒のサポートチームに名乗り出たメンバーが、既に設営の準備を始めていた。
「みり嬢。テントの位置はここでよろしいか?」
「はい! 何から何までありがとうございます、クレアお嬢様!」
 率先して動いているのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)
 そもそも、ベースキャンプを作ろうという提案も、クレアがみりにアドバイスしたのだった。
 冒険の経験がないみりは、素直にそのアドバイスを受け入れたのだった。
「クレアお嬢様の言うとおり、確かに救護所を決めておくと便利ですねぇ」
「この場所の安全は確保する。応急処置程度ならよいが、大怪我をする者はここに連れてくればいいだろう」
「大怪我……でございますかぁ」
 初めての冒険に出るみりは、まだピクニック感覚が拭えていないようだ。
 大怪我をする者が出るかもしれないということが、うまく想像ができない。
「回復役も数名ずつに分かれるべきだろう。ここに残って温存する者と、遺跡内部に同行する者の2班が必要だ」
「おっしゃる通りですわね。お疲れになってる、ことのはちゃんたちのお世話も必要ですにゅ」
 うんうんと素直にクレアの言うことを聞くみり。冒険者としてはまだまだだが、何とか皆の役に立とうと、彼女なりに必死なのだ。
「それじゃあ、遺跡に突入するのはもちろん、このみりですにゅ!」
 ぶんぶんと腕を振るみり。遺跡に入る気満々のようだ。
「ちょ、ちょっと! それはやめておいた方がいいんじゃ……」
 そんなみりを、護衛のために側にいた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が慌てて制した。
「だって、やっぱり主催者(?)のみり達が率先してがんばらなくちゃですにゅ」
「一生懸命なのはいいけど、一人で突っ走らないでくださいよ」
「うー……」
「ほら、その結界装置のこともあるし……」
 佑也が最も心配しているのは、みりが空京から外に出るために使用している結界装置のことだ。ことのはと同様、みりも契約者ではないため、この道具を使っている。
「ほう、小型結界装置か。機晶石の欠片は少ないから、この装置もあまり目にしないな」
 思わぬ所から珍しい道具が出てきたのを見て、クレアも目を丸くした。
「確かにこれは物理的衝撃に対して丈夫とは言い難いな」
「……ご心配いただくのはとっても嬉しいですけど、やっぱりみりは先頭を行きますっ!」
 拳を突き上げるみり。
「精一杯護衛はするけど、本当に気をつけて」
 もう止めても無駄だと悟った佑也が、ため息混じりにそう言った。
「……ありがとうございます、ご主人様っ!」
「ごっ、ご主人様って……。あ、あの……すいません。他の呼び方でお願いします」
「え? ご主人様は、ご主人様と呼ばれるのがお好きではないのかにゃ?」
「いや、ちょっと、あの……」
 恥ずかしそうに鼻の頭をこする佑也だった。
「みりさん、みりさぁん!」
 ここまでの道のりの疲れを癒すために木陰に座っていたことのはが、みりに声をかけた。
「そろそろテントも出来上がるみたいですし、ここまでわたくしと一緒に来てくださったご主人様達に何かお出しできません? お疲れの方もいますし」
「あ、そだにゃ! それじゃ、すぐに準備しますっ!」
「それならワタシがお手伝いします」
 近くにいたルイ・フリード(るい・ふりーど)が手伝いを申し出た。
「お疲れの皆さんに、甘いものでもお届けしますね」
 ルイは『小人の小鞄』を使い、小人さんを呼び出した。
 ぴょっこん。鞄から出てきた小人さんは、ぴしっと起立してルイの指示を待っている。
「小人ちゃん。この飴玉を疲れている人のところに持って行ってね」
 ぴっ! と一度敬礼をした小人さんは、ルイに言われたとおり飴玉を抱えて、ことのはチームが休む木陰の方に走っていった。
「ことのはちゃん、手当が必要な怪我人はいますか?」
 ルイの問いかけに、ことのははにこっと笑って答えた。
「擦り傷程度のお怪我なんですけど、女の子ですので丁寧に手当をしてあげてくださいませ」
「大変! その子はどこに?」
「こちらですわ」
 ことのはに肩を抱かれて現れたのは……。
「せ、精霊?」
「どうも……ドリアード……です」
 妖気をおさめたドリアードからは妖艶なオーラが消え去り、むしろちょっとかわいらしくもあった。
 だが、その白肌のあちこちには落とし穴に落ちたせいで、打ち身や擦り傷ができていた。
「ワタシも聖職者やってしばらく経つけど、精霊さんの手当をする機会は滅多にないですね……」
「ルイ様、この子をよろしくお願いいたします」
「精霊ちゃんの手当を経験するのも、ワタシのスキル向上に繋がりますね。わかりました、引き受けます」
「ありがとうございます! ほら、ドリアードちゃんもルイ様にお願いをして」
「お手数を……おかけします……」
 ぺこりと頭を下げるドリアード。
「これも聖職者の仕事ですから!」
 ルイはきらーんと白い歯を輝かせ、ルイスマイルでぐっと親指を立てた。
「えっと……他にもお疲れの方が多いですにゃー……」
 みりも、ここまでの道のりで疲れた探索チームのお世話をするために走った。
「みりちゃんさん! お手伝いすることはありますか?」
 待田 イングヒルト(まちだ・いんぐひると)が、みりに手伝いを申し出た。
「あらぁぁ。かわいらしいお嬢様がいまにゅ〜」
 小柄でかわいいイングヒルトをみて、みりの顔がふにゅあ〜んとなっている。
「あっ、ご挨拶しなくちゃ。初めまして、みりちゃんさん!」
「ふにゃ〜ん。かわいいお嬢様ぁ」
 みりは、イングヒルトのツインテールを両手で掴んでふるふる回している。
「あのぉ、みりちゃんさん。お手当しなくちゃならないですよね?」
「にゅ? ああ、そうでした! ……というかお嬢様ぁ。みりちゃん『さん』は必要ないですにゃ〜」
「ふえ? みりちゃんさんは『みりちゃん』までがお名前ではないのですか?」
「みりちゃんのお名前はみりですよぅ」
「うわわ、間違えちゃったどうしよう! ご、ごめんなさいごめんなさい!」
「ふえぇ。慌てるお嬢様もかわいいぃぃ」
 ふるふるふる。イングヒルトのツインテールがさらに振り回される。
「あわわわ。私の髪の毛がひゅんひゅんしてます……」
 イングヒルトの金髪は、みりが猫のようにじゃれるおもちゃとなってしまった。
「みりさま、そちらのかわいいお嬢様も、何か手伝うことはある?」
 みりと、同学校生のイングヒルトが楽しそうにしているのを見かけて、真口 悠希(まぐち・ゆき)が声をかけた。
「みりさま、ボクは何をしたらいい?」
 はっと気が付き、イングヒルトの髪の毛を離すみり。
「ふにゃ〜。ごめんなさい、一瞬忘れちゃってました。悠希様、イングヒルト様。一緒にお疲れの方のお世話をしましょう」
「了解っ!」
「お手伝いします」
 イングヒルト、悠希、そしてみりの三人は、傷のある者に消毒薬を持って行ったり、お茶をいれるなど、協力して働いた。
「ねぇ。みりさま」
 作業の手を止めてふと、悠希がみりに声をかけた。
「みりさまは、好きな人っている?」
「ふにゃ? 恋でございますか? みりは今のところ猫さんがいれば幸せなのですぅ」
「そっか……」
「悠希様……もしかして恋をなさっているのかにゃ?」
 図星。耳まで真っ赤になってしまう悠希。
「恋……。ボク、恋しちゃっていると思う……」
「恋すると、どんなカンジになるのかにゃあ?」
「えっと……思い出すだけで胸がきゅんってなっちゃう。その方のために、何かしてあげたいって思うんだ」
「だったら、その気持ちのままに、何かしてあげたらいいのですっ!」
 胸を張って、みりがそうアドバイスをした。
「だけどその方は……みんなの中心にいる方で……ああ、静香さま……」
 相手を思い、切なくなってしまった悠希。
「そのお相手がどんな方でも、悠希様のお気持ちは変わらないのでしょ? だったら、ちょっとしたことでも、その時できることをしたらいいのです!」
「できること……かぁ」
「相手のためになりそうなことなら、どんなささいなことでも、誰にも気が付かれなくても、思いを持って続けていればいいと思いまにゅ」
 ぽふっと、みりが悠希の肩を叩いた。
「応援してますのにゃ!」
「……ありがとう、みりさま!」
 いれたての紅茶の香り。献身的に手当をする人々と、それに感謝をする人々。遺跡のベースキャンプは、しばしあたたかい雰囲気に包まれていた。

ベースキャンプで歌合戦
「わぁ、なんか盛り上がってるバイ!」
 みりに少し遅れて遺跡入り口に到着したのは、探索担当のゆずき
「ゆずきちゃぁん! 皆様ぁ! いらっしゃいませぇ」
「ようこそですわ」
 みり、ことのはは、ゆずき一行を笑顔で迎えた。
「お茶でも飲んで行かれます?」
「いいえ。ことのはちゃんのおかげで、ここまでの道はとってもラクでした。疲れてないし、このまま行くタイ!」
 元気に言うと、ゆずき一行はさっそく遺跡の中に入っていった。
「またあとでねぇ!」
 ゆずき一行を見送った後、ベースキャンプは野外ティーパーティのような雰囲気になっていた。
「はぁ〜〜。お茶がおいしいなぁ」
 森の中で飲む、香り高い紅茶。
 誰もが皆、恐ろしいほどリラックスしてしまっていた。
「ん〜〜。どこからか、素敵なお歌でも聞こえて来そうですねぇ」
「……ふえ? なんか、ホントにお歌が聞こえるような……」
 〜♪
 最初は耳を澄まさなければ聞こえなかったが、だんだん誰の耳にもハッキリと、歌声が響いてきた。
「なんだか……この歌を聞いていると……」
「何もする気が……なくなりますわ……」

「見えてきた! あれが遺跡ですねっ!」
 ことのはが開いた道を通って元気に歩いてきたのは、戦闘担当のとも
「もうみんな到着してるんだろうなぁ。お茶でも飲んでたりして」
 遺跡のすぐ前にある広場に、テントが見えてきた。ベースキャンプだ。
「おーい、みんなぁ! あれ? おーいってばぁ!」
「ま、待ってともちゃん! みんなの様子がおかしいよ?」
 異変に気が付いたのは、まゆみに『パラミタドキュメンタリー〜伝説を追った4人のメイド〜』というタイトルの映像をプレゼントするためにカメラを回していたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だ。
「どうしたんですか? カレン様」
「今ね、ベースキャンプにズームしてみたら……みんな座り込んでぽけーっとしちゃってるんだけど……」
「……本当ですね。いくら休憩しているとはいえ、こんなことってありえない!」
 カレンのカメラには、誰もがぺたりと座り込み、焦点の合わない目でぼんやりと空を見つめている様子が録画されていた。
「ともちゃん! これは近付かないで様子を見た方がいいんじゃない?」
「だけど……あそこにはことのはやみりがいるはずです! 放ってはおけません!」
 とはいえ、どうしてよいか分からず、戸惑うとも。
 その時。
「うわあぁぁぁ! あれってもしかして妖精さんかなぁ?」
 テントの真上あたりを指さして叫んだのは、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)
 彼が指さした先には、羽を持つ、女性のような姿が見える。
「ズームズーム……。ああ、あれはハーピーだね!」
 カレンが使っているカメラは、ぴなふぉあで普段、メイドさんの動画撮影に使っている、高性能なもの。この冒険のために借りてきたのだ。
 その高性能カメラの光学ズームは、はっきりとハーピーの姿をとらえていた。
「妖精さぁ〜ん! 妖精さんだぁ〜!」
 妖精さん好きのウィルネストは、相手をよく確認もせず、幸せそうな笑顔でハーピーの方に走り出した!
「わ、だめですって! 絶対にあれ敵ですからっ!」
「妖精さあぁん!」
 皆の静止の声は、ウィルネストの耳には全く届かなかった。
「わああぁぁい!」
「ごめんっ! 雷神の術!」
 びりりっ。ずざああぁぁ!
 誰かに弱めの雷術をかけられ、きれいに転んだウィルネスト。
「すまぬが、これもウィルネスト殿と皆のためでござる。ニンニン」
 素早くウィルネストを止めたのは、ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)
「とも殿を守るため、いつでも術を出せるようにしてござったが、まさかこのように同志に向かって使うことになるとは思っていなかったでござる」
「うぅ……シビレた。お見事」
 衝撃で正気に戻ったウィルネストが、ゆるりと立ち上がった。
 ごく弱めで、かする程度の雷術だったため、ダメージはほとんどない。
「むしろ助かったぜ。あのまま突っ込んでいたら、完全にやられてたはずだ」
「とりあえず、あの歌をやめさせねば、皆を救えないでござるな」
 ナーシュは憎々しげに、魔法の歌を歌い続けるハーピーを見つめた。
「それじゃ、私にまかせてよ!」
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が元気に手を挙げた。
「私の使い魔ちゃんでハーピーの気を引くから、その間に誰か援護してね」
「その役目は私がやろう」
 進み出たのは、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)
「遠距離攻撃ができるからのう。任せるがよい」
「お嬢様方、お願いします! ハーピーが歌をやめたら、ともたちが地上から突っ込んでいきますから!」
 ともが、ぐっと拳を握った。
 作戦は定まった。

「ふふふ♪ こんなにもいっぱいエモノさんたちが来るなんてぇ♪」
 気持ちよく歌い続けるハーピー。
 妖精ハーピーの惑わしの歌を聞いたものは、無気力になってしまう。すっかり無気力になった獲物の持ち物や生気を奪うのだ。
「さて♪ そろそろいただいちゃおうかしら……」
 ハーピーが怪しく舌なめずりをした、その時!
 ひゅん!
「な、なに?」
 ハーピーのすぐ横を、風を切って飛ぶ紙ドラゴン。
「ハーピーちゃん! こっちこっち!」
 紙ドラゴンは玲奈の使い魔だ。
「ちょ、ちょっと何よあれ! 人が気持ちよく歌ってるっていうのにぃ!」
 次の瞬間!
「今じゃな! メイドさんのメイドはんによるメイドさんのための、メイド奥義稲妻アローじゃー!」
 ひゅっという鋭い音!
 セシリアが撃ち出した弓は、ハーピーの頬をかすめていった!
「いっ、いったあーーーーーい!」
 ハーピーの顔が、みるみる恐ろしくなっていく。
「あたしの顔……あたしの顔にいぃぃぃ!」
 恐ろしい形相とは、まさにこの顔のことを言うのだろう。怒りで羽も毛も逆立っている。
「まずは腑抜けになっているこいつらから、喉元噛みきってやる!」
 地上に舞い降りてきたハーピーは、まだ歌の効果で動けない、みりとことのはを狙っている!
「ほあたぁ!」
 地上に降りてきたハーピーに拳を突き出して突進していったのは、ともだ!
 ……ところが。
「ほあた、あた、ほーーあたーー!」
 ハーピーにダメージを与えられない!
「ナメてるの?」
「やばい!」
 ともの実力を悟った風祭 隼人(かざまつり・はやと)がともに駆け寄った。
「ともちゃん、下がって!」
「なんか……すみません……」
「女の子を危険から守るのは、男の勤めだぜ!」
 当初隼人は、ともの意思を尊重するため、攻撃の手助けをするつもりだった。
 だが、ともの実力が予想を遙かに下回っていたため、前に出すのは危険だと判断した。
「とりあえず……これだ!」
 隼人はハーピーに向けてハンドガンを放った!
「ちょっと、危ないじゃない!」
 ハーピーが距離をとった。
「今のうちにここから離れるんだ!」
 隼人の指示を受けてともは、とりあえずぺとぺとと走り出した。
「ああ、危なっかしい! みんな、援護だ!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が周りに呼びかけながら、自身も『弾幕援護』を放つ。
「ともっ! 下がれ! とにかく下がるんだ!」
 ケイはともの所まで走り、腕を掴んで引きずった。
「あんた、自分の生命線でもある結界装置を、自らぶっ壊す気か?」
「お手数をおかけしました、ケイ様!」
「もう絶対に前に出るな!」
 ことのは達と同様、ともも小型結界装置で守られている。物理的ダメージを受けてしまったら、身体よりも先に装置の方が壊れてしまうだろう。
「逃がさないよ!」
 弾幕を振り払ったハーピーが、再びともの方に飛んでくる!
「そこで止まって下さい!」
 ともとハーピーの間に割って入ったウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)
「どきなさい!」
 ハーピーが怒鳴るが、ウィングは動じない。
「私としてはあまり手を汚したくはないですけど……」
 ブレードをかまえる。
「挑んでくるというのなら、サビになっていただきます」
 金色の瞳がぎらりと光る。
「ご主人様!」
 ともも、まだ戦意は喪失していないようだ。
 格好だけのようにも見えるが、一応身構える。
「したいようにすればいい。背中は守る」
 ともの後ろに村雨 焔(むらさめ・ほむら)が立つ。
「背中は預けろ」
 焔がそっと、ともの肩を叩いた。
「怪我なんてさせないぜ!」
 ケイは、ともの右隣に立った。
「先ほどの様子、危なっかしくて見ていられません。私もカバーします」
 ともの左隣にはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が立った。
「七つ星拳法がどんなものか、もう分かりましたから」
「違いますわ、お嬢様! まだ、ともは本気を出していませんから!」
 顔を赤くして必死に叫ぶとも。
「うふふ、わかりました」
 セリナは、そんなともをなだめるように、にっこりと笑った。
「これで、とものガードはカンペキだな」
 ケイがにやりと笑った。
「皆様……なんだか申し訳ないです……」
 ともの耳はもともと垂れ耳だが、それがさらにしゅんと垂れ下がったように見えた。
「友を信じ、友の背を守れ。さすれば友が己の背を守ってくれる……」
 焔が、黒い瞳は鋭く前方を見つめたまま、だけど優しい声で言った。
「ご主人様、それはどういうことなのです?」
 ともが不思議そうな顔をする。
「とも、今は素直に守ってもらえ。皆、ともが怪我をしないことを望んでいる。だが、今度もし機会があったら、その時はともがみんなを守ればいい」
 ふっと、焔の口元が緩んだ。
「……かしこまりました。では、今はお世話になります!」
 ともは、ケイ、セリナ、焔に心を許し、守りを託した。
「喉掻き切ってやるんだからーーー!」
 しばらくの間、ウィングとにらみ合っていたハーピーだが、遂にガマンの限界が訪れたようだ。
 羽を広げ、真っ直ぐウィングに向かって突っ込んできた!
「神魔剣レーヴァテイン!」
 ウィングの光条兵器が、ハーピーをとらえる!
「ギャッ!」
 素早く上空に逃げたハーピーだが、はらはらと数枚の羽が落ちた。光条兵器が羽の一部を切りつけたのだ!
「挑んでくるならばサビになると警告したでしょう!」
 上空のハーピーに向かって叫ぶウィング。
「痛い……痛い……」
 ハーピーは、怒りと痛みと悔しさで、顔がゆがんでしまっていた。
「痛いじゃないのーーー!」
 完全に理性を失ったハーピーは、周りに目もくれず、真っ直ぐともに飛びかかった!
「ちっ!」
 焔が、自慢の名刀をすらりと抜いた。
「焔様! できればあの子を殺さないであげて!」
「とも……」
「森を騒がしくしたとも達にも、きっと責任はあるのです!」
「……わかった。なるべく怪我をさせないように片付けてみよう」
 目を閉じ、精神を集中させる焔。
「そこだ!」
 どすっ。まるで高いところから重い砂袋を落としたような、鈍い音がした。
「あぁ…………」
 どさっ。ハーピーは地面に落ちた。
「ああ、妖精さん!」
「いけません!」
 駆け寄ろうとしたともを、セリナが止めた。
「気絶しているフリかもしれません。少し離れていてください」
 ともを制して、セリナ自らが倒れたハーピーに近付いて確認する。
「……どうやら本当に気絶しているようですね」
「やれやれ。何をしたんだ?」
 大きく息を吐きながら、ケイが焔に尋ねた。
「なに、特別なことはしていない。勝手にハーピーが突っ込んできたから、刀の峰を突き出して待っていただけだ」
 ふっと焔が笑った。
「あまりに迫力がありましたから、切りつけてしまうかと思いました」
 意識がないハーピーを抱き起こしながら、セリナが言った。
「神経は使ったぜ。なるべく怪我をさせないようにな」
 かちん。焔は刀を鞘に収めた。

「ごめんね……」
 意識を取り戻したハーピーは、涙をぽろぽろこぼしながら謝った。
 既に傷は手当てされていた。
「遊んで欲しかっただけですぅ……」
「ともたちもごめんね。森で騒いじゃったから」
 ともが、ハーピーの頭をなでた。
「お茶いれるから、飲んでいってね」
「ともも座って休めよ。お茶くらい用意してやるから」
 ケイは動きたがるともを座らせ、素早くお茶の用意をした。
「見事な技術でございます、ケイ様!」
 目を輝かせてケイの様子を見ているとも。
「こんなときくらいはメイドってことも忘れて、ゆっくりしてくれよな、お嬢様!」
 ケイはシフォンケーキをともと、ハーピーの前に置いた。
「……くれるの?」
「うまいぜ」
「……いただきます」
 ひとくちシフォンケーキをほおばったハーピーの顔に、満面の笑顔が浮かんだ。